お読み頂き、有り難うございます。本作品に登場する名言・格言は、すべてフィクションです。どうか、話半分でご覧下さい。(全8話予定)
- あなたの判断で行動すればいい。未来における自分の責任は、現在の自分が負うべき。それがあなたとDクラスの未来 -
By 長門有希『涼宮ハルヒの憂鬱』
「知ってる天井です・・・」
ゆっくり目を開けると、そこは一面に広がる真っ白な世界。見慣れた病室の壁に、一瞬
「目が覚めたんだね、有栖」
頭だけ動かしてそちらを見れば・・・
「お父、様・・・」
「本当によく頑張ったね。そして、おめでとう」
その言葉で、ようやく全てを理解しました。そう、私は今日ついに、先天性疾患を克服したのです。これでやっと、スタートラインに立てました。待っていて下さいね、あやのk・・・
「気分はどう?有栖ちゃん」
不意にかけられた声に、私の思考は中断を余儀なくされました。お父様の後ろから顔を覗かせた、綺麗な女の人。女優の米倉涼子さん似の、すらりとした美人さんです。私の主治医にして、命の恩人。ちなみに彼女をはじめ、私を治療して下さったメディカルチームの皆さんは全員、お父様が理事長を務める高度育成高等学校の出身者です。
「はい。とても快適です、先生」
「そう、良かったわ」
これならいますぐにでも、彼のところへ会いに行けそうです。
「何とお礼を申し上げればいいか・・・お陰様で娘は・・・」
涙ぐむお父様に、先生は真顔で応じました。
「私、失敗しないので」
入院中、何度も聞いたセリフに頬が緩んだところで、大事なことを思い出しました。
「えっと・・・お父様。あの件についてなのですが・・・」
おずおず切り出すと、
「ああ、なんでも言いなさい。そういう約束だったからね」
その約束とは『私の疾患が完治した暁には、お父様がひとつだけ、私のお願いを叶えて下さる』というものでした。
「はい、有り難うございます。では、あと5年ほどしたらお話しますね」
「ん?どういうことだい?有栖」
「ふふふっ・・・その時まで秘密です」
首を傾げるお父様に、私はそっと微笑み返すのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで坂柳先生、お話とは?」
「もう
苦笑いと共に答えるのは、坂柳理事長。その目の前に佇む若き天才女性外科医にとって、彼は高校時代の担任教師であった。
「さて、この喜ばしい日に、少し世間話でもしましょうか・・・」
その割にはどこか浮かない顔で、坂柳理事長は切り出した。
「君が卒業してから何年になるでしょう・・・いま、あの学校はおかしな方向に進んでいます。言葉遊びで新入生を騙したり、過去問の丸暗記で定期試験をクリアさせたりと、公に出来ない所業を繰り返しているのです。創設当時の理想はとっくに潰え、いまや互いに蹴落とし、足を引っ張り合い、いかに退学しないで済むかに悪知恵を絞るだけの有様です。当初は本校の特色だった特別試験も、最近では生徒たちの裏をかくような設定のものばかりになりました」
一度言葉を切り、ため息をつく現理事長。対する教え子は、両手を白衣のポケットに入れ、黙って立ち尽くすばかりだ。
「来年度からは、新たに国有地の無人島を舞台にしたサバイバル試験が始まる予定なのですが、都会育ちの生徒たちには危険すぎる内容と言わざるを得ません。さらに今年からは、入学時に配布されるプライベートポイントの額も、ひとり10万円に引き上げられました」
静かに耳を傾ける彼女は、当然の感想を口にした。
「非常識なまでの大判振る舞いですね。私の頃とは桁違い・・・いきなり新入生に渡す金額ではない、と思いますが」
「ええ、そのとおりです。しかもそれに伴い、ポイント支給額も毎月変動することが決まりました。場合によってはゼロポイントもあり得るほどに・・・」
「えっ?!まさか・・・それだと日常生活にも支障が出てしまうのではありませんか?坂柳先生」
驚いて聞き返す彼女の言葉遣いは、いつの間にか高校生だった頃のものに戻っている。
「それについては、賞味期限切れ間近の食材を無料で配布し、救済措置とするそうです。フードロス対策にもなる、というのが文科省の建前だそうですよ」
「・・・先生・・・いえ、理事長は、その措置に反対なさらなかったのですか?」
卒業生のひとりとして、彼女の口調が暗に咎めるようなものになるのは仕方あるまい・・・
「もちろん意見書は出しましたが、結局上からの指示には逆らえないのですよ。もはや、君たちが在学していた頃とは、何もかも変わってしまったのです。これでは君のような逸材など、育つはずもありません」
自嘲気味に話す恩師の姿に、今度は教え子の方がため息をついた。
「はぁ・・・私、フリーランスで良かった・・・それで、先生はどうなさるおつもりなのでしょう?」
その問いには答えず、彼は別の言葉を口にした。
「実は最近、娘があの学校に行きたがるようになりましてね」
「有栖ちゃんが・・・ま、まさか?!」
「ええ、たぶん君の予想通りです。先ほどのお願い、というのも、おそらくは。しかし・・・」
坂柳理事長は、話題の深刻さに反して、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「この短い会話だけで分かってしまうとは、さすが元Aクラスリーダーにして、生徒会長を務めただけのことはありますね」
教え子の慧眼に思わず目を細めると、再び表情を改めて話を続ける理事長。
「おそらく有栖が受験する頃には、もっと酷いことになっているでしょう。情けない話ですが、私の力ではどうしようもありません。ですが、全力を出せるようになった有栖ならば、或いは・・・」
「真の実力至上主義、というわけですか・・・」
「そう言うことです。無論、有栖自身が入学試験を突破できることが大前提ですがね。ところで、ここからが今日の本題なのですが、やはり本校の教師になるつもりはありま・・・」
「いたしません」
ぴしゃりとはねつけられ、ふたりの会話は終わるのであった。そして・・・
「最後にひとつだけお聞きしても宜しいですか?
元生徒から医師の顔に戻ると、彼女は問いかけた。
「あなたは・・・わざと仕向けましたね?有栖さんが高育へ興味を持つように」
言い逃れは許さない、とばかりに大きな瞳を更に見開く一匹狼の女性ドクター。その視線に耐えかねたのか、坂柳理事長は肩をすくめて応じた。
「その質問には、父親と理事長、どちらの立場で答えるべきでしょうか?」
「あなたという方は・・・」
絶句する、かつての教え子。
「私に幻滅しましたか?」
「・・・」
そして、かつての恩師は静かに言うのであった。
「あの子には力があります。そして、それを使わないのは愚か者のすることです」
坂柳有栖、10歳の秋のことであった。
数年後・・・
ようやくこの日が来ました。待ちに待った瞬間です。
あれからの数年間、私はひたすら心身の鍛錬と学力の充実に努めました。おかげで柔道、合気道、截拳道などは免許皆伝、学業でも高校の履修内容はほぼ習得済みです。我ながら、生まれながらの天才は半端ないですね。ふふふ・・・尤も、まだまだこの程度では、彼には追い付けませんが。
本当は、あのお部屋に途中入会したかったのですが、お父様に全力で止められてしまいました。解せません。
さて、真新しい臙脂色の制服に身を包んだ私は、入学式へと向かうバスに乗り込みました。車内はすでに、同じような新入生で混み合っていますが・・・
私はすぐに、迷うことなく見つけました・・・何を?ですって?ふふふ・・・もう逃がしませんよ。
予想通り、後ろの方の座席で窓の外を眺めている男子生徒がひとり。おそらく一般の方々の目には、少し気だるげで無表情な茶髪イケメンに映ることでしょう。でも、その実力は・・・少なくとも、生徒の中でそれを知っているのは私だけのはずです。
「お隣、宜しいでしょうか」
ですが、期待と不安を抱えつつ、何度も練習したひとことを口にしようとしたその時、
「は?」
思わず低い声が漏れてしまいました。なぜなら、高育の制服を着た見知らぬ黒髪ロングさんが、彼の隣に座っていたからです。朝から泥棒猫とは大した勇気ですね。ましてや、私と彼の再会劇を邪魔立てするとは・・・
「ごめんください。坂柳有栖と申します。そこはわたくしの席なのですが」
彼の手前、最低限の礼節を保って話かけました。しかし・・・
「いきなり失礼ね。私が座っているのが見えないのかしら」
手元の文庫本に目を落としたまま、不愉快そうに答える黒髪。(呼び捨て)
ほぼ無視ですか。ふふふっ・・・おめでとうございます。栄えある『嫌いな人リスト高校Ver.』登録第1号ですよ、貴女。
「ご冗談を。そこは10年前からわたくしがキープしていた座席です」
どんなウソも、一度言葉にしてしまえば真実となります。それが許されるウソならば。(持論)
「は?貴女大丈夫かしら?あいにく私も冗談は嫌いなの。そんなに座りたければ、他の席に行けば良いでしょう?」
きつい表情で睨んでくる黒髪美少女。わかりました。そちらがそのつもりなら、こちらも出し惜しみは致しません。では、いざ・・・
しかし、私の口撃隊は思わぬ横槍に遮られてしまいました。
「あの、私からもお願い。彼女、あまり丈夫そうには見えないから席を譲って貰えないかな?社会貢献にもなると思うし」
文字通り、小さな親切大きなおっぱ・・・ケホケホ!
口を挟んできたのは、やはり私と同じ制服を着た、天使のような美少女でした。同性の私ですら見惚れてしまう、大変立派なものをお持ちです。あれ?なぜでしょう。急に腹が立ってきました。
「ふざけないで。社会貢献なんかに興味はないわ。それにそっちの貴女、確かに小柄ではあるけれど、そんなに弱くはないでしょ?それどころか、何か武道をやっているわね?好戦的な空気が滲み出ているわよ」
なにやら確信めいた視線を向けてくる黒髪。ほぅ・・・どうやら、単なるツンデレではないようです。
「え?そ、そうなの?」
驚いたように尋ねてくる天使さん。ていうか、満員のバス内でその質問にどう答えろと?
「ふははははっ」
と、不意に響く高笑い。周りのお客さんたちも、かなりドン引きしています。いまの声、まさか貴女たちじゃありませんよね?
「黒髪ロングツンデレガールにつるぺたロリガール、そしてボインガールか。朝からこんな素晴らしい3Pを見られるとは、今日の私は運がいいようだ」
見れば、時代錯誤のセクハラ発言を放ったのは、優先席に陣取る金髪男子のようです。その蛮勇に免じて、あとで派手に屠ってあげるとしましょう。
「オレが立つから座ってくれ」
すると・・・なんということでしょう!彼が席を・・・レディーファーストを体現するその振る舞い、さすがです・・・はっ!?いやいやいや、あり得ません。じゃあ、ツンデレ黒髪さんと仲良く隣同士でご着席?ご冗談を。それではこの席に拘る意味が無くなってしまいます。
「そ、それはダメです!」
理論が破綻しているのは承知の上で、敢えて待ったをかけます。
「なぜかしら?貴女、ここに座りたいのではなくて?」
そう言いながら、黒髪ロングまで席を立ってしまいました。このままだと私は、他人から席を奪った単なるわがまま少女です。
「いえ、わたくしは綾小路君の隣がいいのです」
「え?」
固まる御三方。あ、やってしまいました。(汗)つい、彼の名前を・・・これは面倒なことになりそうです。
ところが。
「そう・・・あなた達、知り合いだったのね」
「あはは・・・なんか余計なおせっかいしちゃったね。ごめんなさい」
勝手に自己完結した黒髪とエセ天使は捨て置き、私はやっとお目当ての席に座ることができました。横には当然、僅かな困惑の色を見せる彼が・・・隣に座るだけなのに、どうしてこんなに時間がかかるのでしょう?とにかく、さっきの3人とはこれ以上関わりたくないものです。まぁ、4つもクラスがあるそうですから、心配ないでしょう。(フラグ)
では、いざ感動の再会と行きましょうか。
「改めまして、坂柳有栖と申します。お久しぶりですね、綾小路君」
正確には10年プラス5日と14時間ぶり、でしょうか。
「済まないが、人違いじゃないのか?」
表面上は至って平静に問いかけてくる、綾小路君。ここは手数をかけずに行きましょう。
「ホワイトルーム」ボソッ
そのひとことで、彼の警戒レベルが瞬時に跳ね上がるのを感じました。私の身体を射抜く、凄まじい威圧感。殺気と言い換えてもよいほどのプレッシャーに、思わずゾクゾクしてしまいました。最近覚えた夜の日課などとは比べ物にならない、甘く痺れるような快感です。(暴露)
全身から危険な負のオーラを放つ、ホワイトルームの最高傑作。事情を知る身としては些か複雑な心境ですが、出来れば彼には後顧の憂いなく、高校生活を楽しんで頂きたいのです。そうすればきっと、あのお部屋では学べなかった『感情』というものを、知ることが出来るはず。そしてそんな彼の青春の1ページに、もし宜しければ私も・・・
っと、これはさすがに、口にするのは恥ずかしいですね。
「わたくしはあなたの敵ではありません。むしろ、お友達になりたいと思っているのです」
「友、達・・・?」
彼からのプレッシャーが消えました。どうやら『当たり』だったようです。
「はい。それにお忘れになっているのも当然です。お会いしてから、すでに10年経っていますから」
「そうか・・・」
再び人畜無害なイケメンに戻った彼は、なにやら思考を巡らせているようでした。ここは一気に畳み掛けるべきでしょう。
「わたくしは見学のためにあの施設を訪れ、幼い日のあなたとお会いしているのです。同年代の女の子と、チェスをした覚えはありませんか」
期待をこめて問いかけましたが・・・
「・・・記憶にない。ルーティンをこなすだけの日々だったからな」
・・・それでも良いのです。私の心の中には、いまでもあの日の思い出がはっきりと刻まれているのですから。はい?試合結果ですか?むろん私の完敗でしたが何か?
「なあ、ひとつ聞いてもいいか?」
するとまさかの言葉が。あの最高傑作が私に聞きたいこととは、一体・・・
「どうぞなんなりと。趣味特技、好きな食べもの、男性のタイプ、今日の下着の色にスリーサイズ等々、なんでもお答え致します」
「いや、そういうのは必要ないんだが・・・」
そこはウソでも動揺して下さい。
「ふふふ・・・笑えない冗談ですね。では用件を」
相変わらず無表情のまま、彼は言いました。
「なんでお前だけ、ベレー帽を被ってるんだ?」
訂正です。やはりそういうところは不良品ですよ、清隆君・・・
次回第2話『ハイキックでこんにちは』
では、ご挨拶代わりにハイキックを・・・