- 春。それは新たなる面倒事の始まり -
By 小鳥遊六花 『中二病でも恋したい』
「入学式は1時間後に始まる。遅れるなよ」
それだけ言い残すと、担任の茶柱先生は出て行きました。たったいま受けた、この学校に関する様々な説明。お父様からお聞きしていたものとは、かなり違います。例えるなら、Amazonの商品写真みたいなものでしょうか。(直球)あまりにおかしなところだらけでしたので、その場での質問は差し控えました。現在、頭の中で今後の行動を素早くシミュレート中です・・・
ふむ、結論が出ました。どうやら少し忙しくなりそうですね。先ずはクラスを掌握しなければなりません。では、行動開始・・・
はい?ええ、そうですね。路線バスの中からクラス分けまで、ごっそり内容をスキップさせて頂きました。だって、どうせ皆さんご存知の展開ばかりでしょうから。(手抜き)
ひとつだけ申し上げておきますと、私がお父様に5年越しでお願いしたのは『高度育成高等学校に綾小路君と同じクラスで入学したい』ということでした。
元々は、お父様から伺った学校の内容に興味を持ったのが志望動機でしたが、綾小路君がホワイトルームを脱走してあの学校に入ると聞き及び、お願いの内容が増えたというわけです。あ、でももちろん、ちゃんと入試は受けましたからね!
コホン!さてと、本編に戻りましょう。
「皆さん、少しお時間を頂いても宜しいでしょうか」
茶柱先生の姿が廊下へ消えたのを確認すると、私は優雅な動作で立ち上がり、周りの機先を制しました。こうした動きやタイミングの図り方は、一朝一夕で身に付くものではありません。小中学校での生徒会活動を通じて培った、いわゆる経験値がものを言う分野です。
それゆえこうした場面では、残念ながらあのお部屋しか知らない綾小路君には、あまり期待できません。まぁそのぶん、彼にはそれ以外のところで活躍して頂く予定ですが・・・
「わたくしたちはこれから3年間、同じクラスで共に過ごすことになります。ですからいまのうちに、お互い自己紹介しておきませんか?」
「うん、そうだね。僕もそう思うよ」
私の提案を受けて真っ先に反応したのは、いかにも善人風な爽やかイケメン、平田洋介君。このクラスの男子は、彼が纏めてゆくことになりそうですね。
「賛成〜!」
「あたしたち、まだお互い名前も知らないし」
軽井沢恵さんや佐藤麻耶さん、篠原さつきさんなども賛同の声を上げました。ていうか、まだ名前も知らないとは、皆さんさっきからどこを見ていらっしゃるのでしょう?そこにネームプレートが有るじゃろ?
「では、わたくしからやらせて頂きますね。はじめまして。坂柳有栖と申します。かの征夷大将軍、坂上田村麻呂の『坂』に、柳の下に二匹目のドジョウはいないの『柳』と書いて坂柳です。勉学、運動ともある程度はこなせます。あと、実は父親が本校の理事長を務めているのですが、裏口入学ではありませんのでどうぞ宜しくお願いしますね」
後々、面倒事の原因になりそうな要素は真っ先に排除しておくべき。お父様の件は、予めバラしておいた方が得策です。
「ははは・・・こちらこそ宜しく、坂柳さん。ユニークな自己紹介を有り難う。これでみんなも、緊張しないで話せるね」
平田君の完璧なフォローで、周囲の反応も上々です。私は別に、受けを狙ったわけではないのですが。ふふふ・・・彼は、オモテの任務ならば使えそうです。
「わぁ~お父さんが理事長かぁ~凄いね!」
バスでの一件で良い人を演じていたエセ天使、櫛田桔梗さんが明るい声を上げました。あ、言い忘れておりましたが、彼女を含めた例の3人は、あろうことか全員このDクラス。理解不能、意味不明です。
さて、あれだけの容姿にフレンドリーな性格。櫛田さんはご本人の狙い通り、クラスのヒロイン枠確定でしょう。ですが残念でしたね。私の目は節穴ではありません。あまりにも完璧すぎるキャラ作りは、却って他人に不信感を抱かせます。その猿芝居ならぬ人芝居、私には通用致しませんよ。なんならこの場でその仮面、剥がして差し上げましょうか?
・・・いけません。思考が良からぬ方向に逸れてしまいました。こちらもまだ、キャラ作りの最中でしたね。テヘペロ。
「こちらこそ、有り難うございます。ところで、皆さんの自己紹介が終わったあと、改めてお時間を頂きたいのですが・・・」
本題はこれなのです。
「もちろん構わないけれど・・・大事な話なのかい?」
「ええ、とても。おそらくは、このクラスの命運を左右するかと」
これだけ思わせぶりに話しておけば、仕込みは大丈夫でしょう。
・・・と思った私が浅はかでした。
「ふはははははっ!大事な話とやらがあるなら、いますぐ聞かせて貰いたいものだねぇ、リトルガール。それがムリなら、これで失礼させて頂こう。あいにく私はこのあと、予定がぎっしり詰まっているのだよ」
そう言いながら、教室を出ようとする高円寺六助君。はぁ・・・バスでの言動から、ひと筋縄ではいかない変人さんだとは思っていましたが・・・まだ入学式も始まっていないというのに、お花摘み・・・ゲホゲホ!男子は雉撃ちでしたね・・・お手洗い以外に何の予定があるというのでしょうか。
やはりこのままでは、彼はクラス運営における不安要素になりそうです・・・仕方ありません。ここで沈めて手駒にしましょう。
「どうやら話は無いようだね。では諸君、アディオス」
「お待ち下さい」
呼び止める私の声が、僅かに低くなったことに気付いた方はいらしたでしょうか。
「なにかな?未来の日本を背負って立つ予定の私は、女性諸君から引く手あまたでね。リトルガールのままごとに付き合っている暇は無いのだ・・・よぉっ?!」
私は得意のハイキックを、振り向いた彼の顔から数ミリの位置で寸止めしました。身長差があるのでかなり無理な体勢になってはいますが、安心して下さい。スカートはしっかり捌いていますから。
「あなたもクラスの一員である以上、お話は聞いて頂きます。あとわたくしは、幼女ではありません」
右足を大きく振り上げたままで、私は彼に殺気を飛ばしました。あんまり締まらない格好ですが。
「ほぅ・・・なかやかやるねぇ。これで下着が色気のないくまさんパンツじゃなければ最高d・・・ひでぶっ!?!」
「「「「なっ?!」」」」
私に蹴り飛ばされ、教室の後ろにあるロッカーへめり込む高円寺君と、若干1名を除いて息を飲むクラスメートたち。ふふ、やはりこれくらいでは、彼を驚かせるのは無理なようです・・・
「あら、ごめんあそばせ。足元が狂ってしまいました。ふふふ・・・」
礼儀知らずのナルシスト相手に、つい淑女の嗜みを忘れて本気になってしまいました。さて、監視カメラにはばっちり録られてしまったでしょうし、事後処理はどう致しましょうか。いちばん効果的なのは、取り敢えず泣きまね作戦ですが、ハイキックのあとでは些か説得力に欠けますし・・・
「ぼ、暴力はいけないよ、坂柳さん!それに高円寺君も言葉を慎むべきだ!」
狼狽えながらも声を上げる平田君。彼は、すでにしっかりクラスメートの名前を把握しているみたいです。
「そうよ!なにアイツ、デリカシー無さすぎじゃない?」
「へ、変態だわっ!」
「キモい・・・」
ふぅ・・・どうやら泣きまねの必要は無さそうですね。女子を味方につければ、もはや勝ったも同然です。(経験則)
「てか、坂柳さん、すご〜い!」
「なにか習ってるの?!」
「ツヨカワクイーン?!」
「銀髪妹系ファイター!あとは露出度の高いコスチュームさえあれば、完璧でござるっ!!」
あらら?なんだかおかしな方に評価が傾いているようです。私が目指すのは総合格闘家ではなくて、クールにクラスを操る影の参謀ポジションなのですが。(初動で失敗)それといきなりで恐縮ですけれど『強カワクイーン』って書くと、強力な女王様って誤読してしまいません?(唐突)
かなり手加減したせいか、高円寺君は直ぐに起き上がって来ました。取り敢えず、その筋肉は伊達ではないようです。金髪頭には、でっかいホコリが付いていましたが。(笑www)
「ふ・・・ふは、ふはははははっ!実に素晴らしいハイキックだったよ。いいだろう、君を私の友人と認めようじゃないか、つるぺたロリg・・・あべしっ!?」
ふぅ・・・わたくしとしたことが、またつまらぬものを蹴ってしまいました・・・
「ふふふ・・・このお話が、日間ランキング(加点・透明)21位、ルーキー日間(加点)29位になったそうですね」
「ふははははっ!その程度のことで狼狽えるとは、実にみっともないねぇ、リトルガール」
次回第3話『初めての学級会』
このお話は、オフレコで・・・