- 敵を減らし、敵にとっての敵を増やすこと。全ては相対性の問題である。最終的にクラスポイントで相手を上回ること。特に情報の質と量に注意せよ -
By ヤン・ウェンリー提督『銀河英雄伝説』
退屈な入学式を終え、教室へ戻って来た私たち。このあとは流れ解散なのですが、皆さんすでに、心は娯楽施設へ飛んでいるようで・・・
「ゲーセン行こうぜ!」
「ラノベが拙者を呼んでいるでござる!」
「うそ?もう夏物出てるよ!早く見に行かない?」
「カラオケ行こうよ、平田く〜ん」
さっきの警告に、果たしてどれほどの効果があったのでしょうか。せめて無駄に散財しないことを願うばかりです。(合掌)
「うぉー!やっとバスケが出来るぜ!」
そしてニワトリ頭の須藤君は、私との約束などすっかり忘れているみたいですね。好都合です。このまま無かった事に致しましょう。(確信犯)
結局、あっと言う間に教室は空っぽになってしまいました。さて、おバカさんたちは捨て置いて、次は敵情視察です。いまから行けば、十分間に合うでしょう。
「では、参りましょうか」
「なんでオレが同行する前提なんだ?」
「ダメ・・・ですか?」
必殺の上目遣いで押し切ろうとしましたが、なかなか彼は動きません。往生際が悪いですね。
「まさか、このあと何かご予定が?どうせおひとりなのでしょう?」
「それはお前も同じだろう?」
「いえ、わたくしはひとりを楽しんでいるのです。ぼっちのあなたとは違いますよ、綾小路君」
ここは、譲れません。
「それ、完全に孤独と孤高を履き違えてるだろ」
仕方ありませんね。とっておきを出しましょう。
「一緒にいらして下さらないのなら、此処にぺたんと女の子座りして・・・泣きます」
「・・・なぜだ?絵面的にとてもしっくりくる・・・」
「ふふふ・・・この場で葬って差し上げましょうか?」
不意に、彼の纏う空気が一変しました。
「お前にオレが葬れるのか?」
ひゃん♥こ、こんなところでいきなり本気を出さないで下さい。その目、その声・・・うぅ・・・こちらも色々と出てしまいそうじゃないですか・・・(快感)
「・・・?」
ふぅ・・・どうやら何も気付かれてはいないようですね。あなたにはまだ早いです。
「ささっ!はやく参りましょう」
私に急かされ、渋々ながらといった様子で歩き出す綾小路君。ふふふっ・・・素直な方は好きですよ。
「どうして、堀北や須藤を助けた?不安要素は早めに取り除いておく選択肢もあっただろう?」
廊下へ出ると、彼が話しかけてきました。ほぅ・・・なかなかどうして、何ごとにも興味が無さそうなふりをして、実はしっかり見ているではありませんか。それでこそ、最高傑作というものです。
「ふふふ・・・以前のわたくしなら、或いはそうしていたかも知れません。強硬策で臨んで独裁体制を敷けば、クラスを掌握するのは容易だからです。しかし・・・」
私は胸元に手をやり、深呼吸をしてから続けました。
「そのやり方では、長期的な安定を得るのは不可能です。必ずや不満分子が現れ、遠からずクラスは崩壊することになるでしょう。だからこそ、いまのうちにメンバー個々の力を底上げし、団結力を高める必要があると判断しました。その点、このDクラスは特定の分野に秀でた方が多くいらっしゃるようです。それをわざわざ、自ら切り捨てるようなことは致しません」
「信念あっての行動、というわけか・・・」
私の長いセリフにも眉ひとつ動かさず、合いの手を入れる綾小路君。意外に聞き上手ですね。
「はい。わたくしはかつて、多くの方々に支えられ、先天性疾患を克服することが出来ました。そしてその経験から、ひとは互いに協力することで、より大きな困難に打ち勝つことができる、という事実を学んだのです」
「なら、お前が率いている限り、Dクラスは安泰なんだろうな」
第三者的な視点の発言で、彼は会話を終わらせました。まぁ、あなたにはすぐ当事者になって頂きますけれど。ふふふ・・・
「俺は葛城康平という者だが、何の用だ?」
Aクラスから出て来たのは、かなり大柄な男子生徒でした。実力はいかほどでしょうか・・・あら?!このひと、頭が・・・否応なく視線がそこに吸い寄せられてしまいます。まぁ、いわゆる
「お前・・・いま何か、とてつもなく失礼なことを考えていなかったか?」
ふふふっ・・・私としたことが、最後の方は声に出てしまっていたようです。あと葛城君、それは主役級の女子キャラだけに許されたセリフ回しですよ?
しかしこの状況、もはや下手な言い逃れはききませんね。他クラスへご挨拶に来たはずが、いつの間にか喧嘩を売りに来たことに・・・素朴な疑問なのですが、私はいま、窮地なのでしょうか?
「坂柳、といったか?俺を愚弄するつもりなら、こちらにも考えがあるぞ」
あ!またしても声に出てしまいました。やはり窮地ですね、私。(他人事)
と、その時。
「誤解を与えたようなら悪かったな。あんたは頭が良さそうだ、と言いたかったんだ。しかし初対面で批評めいたことを口にするのは失礼だと思い、違う言葉を探していた。それだけだ」
私は半ば呆然と、綾小路君の長いセリフを聞いていました。彼がこんなに饒舌なこと自体、大変稀有なケースですが、まさかこれ程当意即妙な受け答えが出来るとは・・・いえ、彼の能力には全幅の信頼を置いていますが、殊、ひとの心の機微といったものには疎い、と思っておりましたので・・・
「坂柳、お前はオレをいったい何だと思っているんだ?これぐらい、誰でもフォロー出来るだろ」
「もちろん大切なおもちゃ・・・ケホケホ!お友達だと思っておりますよ。あと、そこでフォローと言ってしまった時点で失格です」
「そうか・・・今後、善処する」
そんな私たちの遣り取りを見ていた葛城君が、ふっと表情を緩めました。
「なるほど・・・第一印象が全て、というわけでもなさそうだな。では、そういうことにしておこう。ところでせっかくの縁だ。連絡先を交換しておかないか、綾小路」
「え?!い、いいのか?」
一転して、嬉しさのあまり狼狽える(?)最高傑作。はぁ・・・チョロすぎです、清隆君。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あれで良かったのか?」
「ええ、十分です。Aクラスは優秀ですがそれだけです。放って置いて大丈夫でしょう。次はBクラスですね」
「まだやるのか・・・」
彼の呟きは聞こえなかったことにして、私はBクラスの入り口に立ちました。
「ごめんください。わたくし、Dクラスの坂柳有栖と申します」
「あ、こんにちは!」
明るく応じてきたのは、正統派美少女を体現したような女子生徒。ひと目で分かりました。彼女は本物の天使だと。それに比べると、うちの
「私、一之瀬帆波って言います。宜しくね!坂柳さんに、えっと・・・」
すかさず、私はフォローしました。
「彼は、わたくしたちDクラスの秘密兵器です。学校中を見渡しても、右に出る者はいないでしょう」
「・・・坂柳、もう少しまともな冗談は言えないのか」
「あら、全て真実なのですが何か問題でも?」
小さくため息をつくと、彼は一之瀬さんへ向き直り、簡潔に自己紹介しました。
「綾小路清隆だ」
いや、いくらなんでも簡潔すぎません?
「・・・よ、宜しくね、綾小路君!」
するとにわかに顔を赤らめ、ぎこちなく挨拶を返す一之瀬さん。いまの微妙な間は何なのでしょう・・・ここへ来て予想外の展開です。敵情視察のはずが、まるで私が綾小路君と一之瀬さんを引き合わせたような形に・・・あとは若い人同士で。これではまるで、私が世話好きな親戚のおばちゃんみたいではありませんか。プンスカ!
「そ、それでふたりは何の用なのかな?」
まだ動揺しながらも、用件を尋ねてくる一之瀬さん。彼女が動くたびに強調される一部分は、もうセクハラ、いえパワハラです。絶対、私に当て付けているに違いありません。(被害妄想)
「どうした?一之瀬」
「なにかあったの?帆波ちゃん」
すると、背の高いイケメンや、体育系の爽やか君、それに女子の面々も次々に集まって来ました。まだ知り合ったばかりでしょうに、ずいぶんと仲がお宜しいことで。間違いなく、一之瀬さんはBクラスのリーダーなのでしょう。
そうだ、ちょうど良い機会です。目には目を、歯には歯を、セクハラにはセクハラを!えい♥(脳内劇場開始)
「にゃん?ち、ちょっと・・・あ、あ〜れ〜坂柳様、どうかお許しを〜」
「ぬはははは!良いではないか、帆波姫〜!」
・・・はっ?!ふぅ、危ないところでした。
「坂柳さん、いま何か失礼な場面を想像してなかった?」
「ひょ?い、いえまさか・・・それでは失礼致しますね」
「あ!待って!せっかくだし連絡先交換しておかない?」
「え?!い、いいのか?」
だから綾小路君、あなたというひとは・・・
「結局、何の用だったんだろう・・・?」
嵐のように去って行ったDクラスからの訪問者を見送りながら、ただただ、首を傾げるばかりのBクラスリーダー、一之瀬帆波なのであった。
「綾小路清隆君かぁ・・・ちょっと気になるな・・・」ポッ(帆波)
「綾小路清隆ぁ・・・ぜ、絶対に許さない・・・」ボソッ(白波千尋)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なぁ、いまので用件は果たせたのか」
「ええ、もちろん。Bクラスは和気藹々、団結力に優れているようですが、そこが弱点です」
「勝負に徹することが出来ない、か・・・」
「さすがです、綾小路君。さすあや」
「なんだそれは・・・?」
そんな会話を交わしているうちに、私たちはDクラスまで戻って来ました。あ、Cクラスは何やら不穏な空気を感じましたので、素通りです。それにしても・・・
もぬけの殻になったDクラスの教室を眺めながら、私はある可能性に思い当たっていました。
優秀そうな生徒が多く見受けられたAクラスに、仲の良さそうなBクラス。Cクラスの全容は不明ですが、あまり『よい子』は居ない感じでしたので、A、Bには劣るでしょう。そして癖者、問題児だらけのDクラス。現にいまも、他のクラスはまだ教室に残っていたのに、我がクラスだけはこの有様です。
この学校のクラス分けには、何らかの意味合いがあるのではないか?私の中で、その疑念はどんどん大きくなってゆきました。もしかすると・・・
いいえ、結論を出すにはまだ判断材料が少なすぎます。取り敢えず、成果はありました。ここは一度、学生寮のお部屋を確かめておきましょうか・・・
そう考えて踵を返そうとした時、後ろから名前を呼ばれました。
「坂柳ぃ!もう逃がさねえぞ!」
振り向くと・・・鼻息荒く迫って来たのは、バスケ大好き須藤君です。すっかり忘れてました。テヘ♪ていうか、高円寺君だけでも手一杯なのに、まさかあなたまで変態さん枠だったんですか?!(驚愕)
「ふははははっ!この二次小説が日間ランキング(加点・透明)6位、ルーキー日間(加点)19位になったそうじゃないか。なかなかやるねぇ・・・そうは思わないか、リトルガール」
「おや?その程度のことで殿方が狼狽える姿は、実にみっともないですねぇ、六助ボーイ」
次回第5話『ドラゴンボーイと愉快な会長さん』
入学早々ご苦労様でした、ドラゴンボーイ・・・