「おはようございます、海崎さん」
電車を乗り継いで約30分(※乗り換え時間を含む)と、その最寄り駅から徒歩で約10分のところにある引っ越し先のアパート・・・へ向かう前に、俺は海崎さんの住んでいるアパートを訪ねていた。
「約束していた時間の15分前・・・さすが“デキる男”は違いますね?」
「いえ、思ってた以上に海崎さんが住んでいるアパートが実家から近くて早く着いてしまっただけです(デキる男って・・・)」
部屋のインターホンを押して扉が開き切ったタイミングで挨拶をすると、私服の格好をした海崎さんから開口一番に軽く揶揄われる。警戒心を解くつもりかどうかまでは分からないけれど、海崎さんは俺が契約すると分かってからというものより一層“友達”のような振る舞いをするようになった。
とは言いつつ、要所要所で“良い人オーラ”を隠しきれてないところがあるから何だかんだで憎めないし、却ってそれが信用に繋がっている。
「ていうか・・・結構近くに住んでたんですね海崎さん?」
「これも何かの“運命的”なやつでしょうかね?」
「ある意味・・・そうかもしれないですね(本当になりふり構わなくなってきたなこの人・・・)」
ちなみに海崎さんの住んでいるアパートは実家から歩いて僅か10分ほどのところにあった。まず海崎さんがご近所というほどではないにしろこんなに近くに住んでいたこと自体驚きだけど、ここまで来ると良いか悪いかどうかは別として海崎さんの言う通りある種の“運命”めいたものを感じざるを得ない。
さすがにあり得ないとは思うけれど・・・・・・いや、絶対ないな。あるとしても俺はお断りだ。
「先に言っておきますけど僕には“そういう趣味”は全くないのでご安心を」
「ご安心も何も最初から心配なんて1ミリもしてませんけどね」
正直に言うと、事情があるとはいえ男の部屋に入るとなって“1ナノ”くらいはそういう心配をしていたけれど、ひとまず杞憂だったみたいだ。それが分かったのと同時に、1ミリくらいの恥ずかしさが込み上げる。
「でも、本当に今回はありがとうございます。引っ越しに関して色々と手伝ってくれて」
そもそもなぜ引っ越し先に行く前に海崎さんの部屋にお邪魔することになったのかというと、契約上だと引っ越し先の部屋に入居する俺の年齢が17歳となっているため、部屋の引き渡しまでには俺が17歳に“若返っている”必要があるからだ。考えてもみれば“17歳の高校生と聞いて引き渡しに来てみたら25歳のニートでした”っていう状況は、明らかに矛盾の大渋滞で間違いなくカオスな事態になる。
というか、この後に薬を飲んで17歳に若返るという時点で、十分すぎるぐらいのカオスな話だ。
「いえいえ、被験者のリライフをサポートするのが我々の役目なので、これぐらい当然です」
今回の引っ越し先は海崎さんにも協力してもらいつつ、3日間という急ピッチで決めた。時期的に引っ越し業者が繁忙期なのにも関わらず、生活基盤を立てつつ高校への編入に向けた準備もしなければならないことで早急に引っ越し先を決めなければならなかったが、何とか間に合った。
明日から高校への編入に向けた準備をするという実感だけは、現時点では全然感じられないけれど。
「ただ1つだけ海崎さんに聞きたいことがあるんですけど?」
「はい、何でしょう?」
「・・・本当に“親戚”の設定って通用するもんなんですか?」
「まあどうにかなるでしょう」
「どうにかって・・・・・・まず面影が1ミリたりともないじゃないですか俺たち?他人だから当たり前だけど」
ついでに言うと俺は、海崎さんの“
「大丈夫ですよ。親戚っぽく振る舞っていれば大抵の人は案外ダマせますので」
「爽やかな顔でよくそんな外道なこと言えますよね海崎さん?」
「悲しい話、これぐらいのことをしないと我々は仕事にならないので(こう見えて罪悪感は一応感じてるからね俺・・・)」
「なるほど、同情はできないけど心中は察します・・・」
不安を隠しきれない俺に、海崎さんは爽やかスマイルを浮かべながら爽やかにどす黒いことを言い放った。もうここまで来たら詐欺も同然だが、海崎さんからベッドやテーブル、冷蔵庫といった普通に生活する上で困らない必要最低限のものを事前に用意させている手前、不本意な部分は拭えないけれどもどうにかしてやり切るしかない。
「とりあえず玄関で立ち話をするのも難なので、どうぞ中へ」
「はい。じゃあ、お邪魔します」
ひとまず俺が被験者として実験に参加することを決めてからいよいよなりふり構わなくなった海崎さんの行動と言動に振り回されつつ、俺は海崎さんに案内される恰好で実家から引っ提げてきたスーツケースとバッグと共に部屋の中へと入った。
「_というわけでここまでが、4月から貴臣さんが通うことになる高校の説明になります。何かご質問は?」
「いえ、質問は特にないです」
「まあ何か困ったことがあったらいつでも僕に連絡してください。日中はちょっと出られませんが」
「はい・・・分かりました」
テーブルを囲み、海崎さんが持ってきたであろう資料に目を通しながら、俺は海崎さんからのリライフに関する説明を聞きつつ来月から通うことになる高校のパンフレットに目を通していた。
「どうされました?貴臣さん?」
そのパンフレットに書かれていた高校の名前に思わず見入っていた意識に、海崎さんの声が届いて我に返る。
その学校の校名には、明らかな見覚えがあった。
「いや・・・実はこの学校、高校受験のときに青葉にするかここにするかで悩んだ
「・・・そうでしたか」
「今回は我々のほうで、貴臣さんが実際に通っていた青葉高校に環境が最も近い学校を選定致しましたので、恐らくあまり違和感なく高校生活は送れると思います」
「はぁ・・・なるほど(いや俺が高校生になって通学する時点で違和感ありまくりだと思うんだけど・・・)」
海崎さんから言われた説明の通り、青葉と桜咲は細かな違いこそあるものの偏差値や校則、年間スケジュールなども含めて校風が非常によく似ているから、受験のときはどっちの高校に進学するか本当に悩んだ。そして悩んだ末に青葉のほうが家から近かったことや、“シルバーピン”という与えられたら学食がタダで食えて交通費も支給されて学費免除というチートすぎる校則に惹かれ、俺は青葉に進学した・・・
“『あたしは青葉にしようと思ってるんだけど、大神くんは?』”
「こちらが契約書兼注意書きですが、内容は先日家に上がらせて頂いた際にお話しした通りです」
「俺からしてみればほとんど取り立て屋に遭遇したようなもんでしたけどね・・・」
不意に“思い出したくない過去”が頭に浮かんできた俺は、パンフレットを閉じて無理やり意識を海崎さんの言葉へと移す。
「まぁまぁ、ノックは一応しましたから問題はないと思いますが?」
「百歩譲ってそれはもういいですけど・・・事前にカズを介して部屋に来てもちゃんと話は聞くつもりでしたから」
「本当ですかぁ?」
「本当ですから余計なこと言わず早く説明の続きをしてください。あと、そのニヤケ顔もやられると割とマジでムカつくんでやめてもらっていいですか?」
「ヒドイな~タカ、だって俺たち“マブダチ”だろ?」
「せっかく取れた契約白紙にされたいのかアンタ?」
謎にSっ気をさらけ出した海崎さんの茶番に付き合いつつ、実験に関する話は続く。めちゃくちゃ低姿勢で気を遣われるのは逆に胡散臭くて嫌だからある意味では話しやすいけれど、本気で友達感覚のまま揶揄ってくるところだけは、ほんの少しだけいけ好かない。
もちろん俺が外に出られたのはそんな被験者ではなく友達のように接してくれる海崎さんのおかげでもあるから本当に感謝しているし、こんなふうに家族以外の人間と気を遣わず本音をぶつけ合っている“いま”は、この間まで暗い部屋に閉じこもっていた俺にとっては幸せ以外の何物でもない。
「じゃあ気を取り直して・・・貴臣さんには我々の実験サンプルとして_」
気を取り直して、俺は海崎さんから実験に関するより掘り下げた注意事項の説明を受けた。
まず俺は実験サンプル、すなわち被験者として17歳の高校3年生になって1年間高校へ通学し、それを海崎さんが観察・記録して“実験報告書”という形で研究所の上層部へと報告する。観察の都合上、俺が生活する部屋や制服、私服に盗聴器を付けなければならないが、その代わりとして生活費の援助や実験終了後の就職先の斡旋などを行う。もちろん、盗聴された会話が外部に漏れることは一切ないためプライバシーは保障される。ただし担当となる海崎さんには筒抜けになってしまう上に、外出する際は“観察する”関係で必ずそのことを連絡しなければいけないなど制約は多いが、ここまで包み隠さずこと細かく説明してくれたら逆に信用は出来る。
「ちなみに僕も同じ桜咲高校の生徒として貴臣さんの学校に編入します」
「マジですか?じゃあ海崎さんも薬を飲むってことですか?」
「もちろんです。このまま制服着て登校したら間違いなく通報されますから」
「でしょうね」
「校内では全然タメ口で話してくれて大丈夫ですので」
「・・・確かに同学年で敬語は違和感がありますからね」
「でも最初は初対面っていう設定で行くから言動には気を付けろよな、タカ」
「うん、とりあえず今は“海崎くん”のほうが心配だよ」
「はいはいなるほど・・・・・・まあこの調子だったら大丈夫そうですね」
「いやどこが?」
ちなみに俺の担当となる海崎さんも薬を飲んで高校生になり、俺と同じ桜咲高校の生徒として編入するという。これも全て被験者の観察と記録のためなのだろうが、如何せん俺と海崎さんが4月から高校生になるという実感がまるでない。
「あとは貴臣さんにはお話ししていない、“記憶”についてのことですね」
「記憶、ですか?」
「先に言っておきますが今から話すことは“かなり重要”なことですので、よく頭に入れておいてください・・・」
「はい・・・分かりました」
そして海崎さんはいきなりスイッチが入ったかのように真面目な顔をして、俺に注意深く今から言うことを頭に入れるように忠告した。
「1年のリライフ期間が終了した後_」
真剣な表情を浮かべた海崎さんから言われたことは、1年の実験期間が終わった後、クラスメイトや教師、俺に関わった全ての人から、俺に関する“記憶”が消えるということ。その理由はただ1つ、そもそも“17歳の大神貴臣”という人間は本来であればこの時代に存在しないため、その矛盾をなくすために全てを“なかったこと”にする必要があるからだという。
「記憶って・・・本当に消せるんですね?」
「ハイ、それがリライフなんで☆」
「何回も言ってますけど、爽やかに言えば通用すると思ってたら大間違いですよ」
海崎さんのおかげで良くも悪くも感覚が麻痺していたけれど、どこにでも売っているようなカプセルに物理的に若返る効果と記憶を消せる効果があるなんて言うのは、普通に考えれば聞けば聞くほど現実味が薄れていくSFの世界のような話だ。だけど実際のところ薬にそんな効果があるのかはともかく、俺がいま置かれている状況はそんな普通なことを四の五の言っている場合じゃないから、もう“なるようになれ”だ。
でも待てよ・・・
「・・・あの、さすがに俺の記憶までは消えませんよね?」
さすがにそんな本末転倒なことはしないだろうと思いつつ、何となく一抹の不安を感じた俺はダメ元で海崎さんに聞いてみた。
「ご心配なく、貴臣さんはそのままですよ。被験者の記憶まで消してしまったら、リライフをした意味がなくなってしまいますので(やっぱ飲み込み早くて助かるわオーガ兄)」
「ですよねー、もしこれで海崎さんから俺の記憶が消えるって言われたら本当に“契約破棄”するところでしたよ」
「あははっ、それは冗談でも笑えないです」
「いや思いっきり笑ってるじゃないですか」
ダメ元で一抹の不安を聞いてきた俺を見て、海崎さんは穏やかで優し気な表情で俺の
「ただし・・・」
と思った次の瞬間、海崎さんは再び真面目な顔を浮かべて“記憶”に関する注意事項の続きを話し始めた。
「このリライフのことを他言した場合は、貴臣さんの記憶も消させて頂きます」
「・・・・・・それは“機密漏洩”にあたるから、という意味ですよね?」
「端的に言えばそうですね(何だろう、嫌な予感がする・・・)」
「つまり_」
自分が本当は25歳であること、薬のこと、リライフ研究所のこと、リライフに関連する他言は一切許されず、機密漏洩が発覚した時点で実験は即終了。俺の身体は本来あるべき姿に戻され、また別の薬によって海崎さんと会ったことも含めてリライフに関する記憶は全て消され、文字通り全てなかったことにされる。
「_そして俺は身に覚えも何もないまま26歳になって、“あれ?俺はこの数か月間で一体何をしていたんだ?”っていう冗談抜きで笑えない事態になる・・・・・・という感じで大体合ってますか?」
「まぁ、大体のことは注意事項に記載されてますからね(クソッ!一番の見せ場を全部代わりに言われた!)」
「(よし勝った)あぁすいません、もしかして海崎さんが言おうとしてたこと全部潰してしまいましたか俺?」
「いえいえ、ご理解頂けたのなら後はもう契約書にサインして薬を飲んでもらうだけですので。むしろ貴臣さんが冷静で飲み込みの早い方で助かってます(ハメやがったなこの引きこもりが・・・!)」
「そうですか。ありがとうございます(意外とチョロいな海崎さん)」
揶揄い倒されたことへのちょっとした“仕返し”として記憶にまつわる注意事項を説明しようとしていた海崎さんに代わり俺が全部確認のために言ってみたら、案の定海崎さんはバツの悪そうなやや引き攣った笑みを浮かべて契約書にサインをするように促した。
いかにも“言う気満々だった”というのが顔に出ているところを見る限り、やっぱり海崎さんは“お人好し”なところを隠し切れていなくて好感が持てる。そのくせ急にウザい友達のように馴れ馴れしく揶揄ってくるところを除けばだけれど。
「他に何かご質問はありますか?」
「いえ、もう特にはないです」
そうして馬鹿みたいな心理戦もどきの茶番を終えた俺は、目の前に提示された契約書にサインと判子を押す。
「はい・・・これで貴臣さんの同意が正式に頂けましたので、早速薬を飲んでもらいます」
「・・・いよいよですか」
「
海崎さんと海を見に行ったときにはリライフをする決意は固めていたから、契約書にサインと判子を押すことに抵抗は全くなかった。
「ちなみにこの薬は副作用として飲んだ直後に眠気がきますので、眠くなったら無理せず僕の使っているベッドを使うなりして横になってください。副作用自体は1時間ほどで切れてその間に身体の変化も完了します。痛みなどは一切ありませんのでご安心ください」
「・・・ということは寝て起きたら俺は高校生になっていると?」
「そういうことです」
初めて海崎さんが俺の部屋を尋ねてきたとき以来に見る、魔法のカプセル。この何の変哲もなさそうなカプセルのどこに、人の身体を文字通り若返らせる“アブラカダブラ”な力があるというのか。いざ飲んでみようとなると、やっぱり疑問は拭えない。
「・・・まあ、“百聞は一見に如かず”ってことでよろしくお願いします」
「ありがとうございます」
もし海崎さんの“お人好し”な人柄が全部演技だとしたら余裕で俳優になっても成功している稀代の詐欺師だろうけど、先輩のお墓を前にした少しの動揺やさっきの“揺さぶり”に対する打たれ弱さを見れば、海崎さんは人を騙して陥れようとする人なんかじゃないことは一目瞭然だ。
それに・・・これを飲まなければどっちにしろ俺の人生はまた“あの部屋”に逆戻りだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて寝床を使わせていただきます」
「はい、ではまた一時間後に」
迷いや疑念を一気に捨て、俺はカプセルを海崎さんが買ってきてくれたミネラルウォーターで流し込み、スマートフォンのアラームを1時間後に設定して海崎さんが普段使っているベッドの上に寝転がる。にしてもまさかこんな形で他人のベッド、しかも海崎さんが普段使ってるやつで眠ることになるとは夢にも思わなかった。
「これ・・・俺の部屋にあったやつと全く同じやつですね?」
寝転がった瞬間、このベッドが俺の部屋にあるやつの色違いだということに気付いた。
「正確に言えば貴臣さんの部屋にあるものとは色違いですけどね」
「確かに・・・俺の部屋にあるものは掛け布団が黒ですからね」
掛け布団の色が青かったり、他人の使っているベッドだから匂いだとか細かなところは違うけれど、クッション性だとかサイズ感だとかは本当にそのままだ。
「・・・そういえば貴臣さんって目覚めは割と良いほうでしたよね?」
「そう・・・ですけど?」
あれ・・・頭が回らない・・・
「でしたらアラームだけでも起きれそうですね?」
「・・・・・・まさか・・・それも調査済みってことですか?」
「はい、サポート課ですから」
使い慣れたベッドと同じものに寝転がっているからか、あるいは薬の副作用なのか、横になって10秒もしないうちに頭が回らなくなり始め、一気に眠気が襲ってきた。海崎さんに言い返したいけれど、そんな気力すら湧いてこない。
「・・・ははは・・・」
にしても、これで目が覚めたら17歳の身体になってるって・・・・・・どう考えてもおかしな話だよなぁ・・・
「・・・さすが・・・・・・サポート課のすることは・・・」
『こういうことを何回も言うのは本当に悪いんだけどさ・・・・・・最近全然遊んでないじゃんウチら?』
『・・・だな』
『あぁいや、別に貴臣のことを怒ってるわけじゃないんだけど・・・ただ、夏休みのデートのときに急用で貴臣が帰っちゃってからずっとそういうのしてないな~、なんて思ってるだけで』
『・・・あ~確かに言われてみたら全然行ってねぇな・・・何かごめんな色々と』
『ううん全然全然・・・逆にあたしのほうこそごめんなさいって話だよ、こんなふうに何回も遊びに誘うようなことしちゃって。やっぱりあんまりやられると貴臣でも迷惑だよね?』
『俺がルカのことを迷惑だなんて思ったことは一度もないよ』
『そっか・・・それはよかった。じゃあさっそく、今度の日曜にどっか行かない?』
『悪い、日曜は予定が埋まってて無理だわ』
『えっ・・・でも待って、確かバド部って日曜は大会が近いとき以外は基本的にオフじゃなかった?』
『実はさ・・・辞めたんだ。バドミントン』
『・・・え・・・?思いっきり初耳なんだけどあたし』
『それで今はバイト始めて・・・・・・あんまり詳しくは話せないんだけど、いまちょっと家族のことでドタバタしててさ・・・俺なりに相当悩んだけど、ちょっと部活とかやってるどころじゃないなって・・・』
『・・・へぇ~・・・そんなに大変なの?』
『・・・まぁ、な・・・』
“言えない”
『そう・・・なんだ・・・・・・そっかそっか・・・』
“言えるわけがない”
『だから・・・これまでみたいにどっちも部活が休みの度にデートとかするのはちょっと厳しくなるかもしれないけど、別にルカのことを避けてるとかそういうことは絶対にないし・・・好きなことは変わらないから・・・・・・悪くは思わないでほしい・・・』
『・・・も~、しょうがないなあ~・・・貴臣がそこまで言うなら、あたしも分かったとしか言えないじゃん・・・』
“たとえ相手がルカだろうと・・・“それ”だけは言えない“
『でも・・・・・・それだったらもっと早くあたしに言って欲しかったし・・・辞めるにしても一言ぐらいは言って欲しかったかな・・・』
『・・・ごめん・・・・・・言うタイミングがなかった・・・』
“ルカ・・・・・・本当にごめん”
『・・・・・・ねぇ貴臣?』
『・・・?』
『あたしに相談しないで勝手に部活辞めてバイト始めてたことは許すからさ・・・だから最悪、貴臣の行けるタイミングでいいから・・・・・・またどっかで夏休みのデートの続きしようよ・・・絶対・・・』
ピッピッピッピッ_ピッピッピッピッ_ピッ
「・・・・・・ん~・・・」
どこからともなく突然とスマートフォンのアラームが聴こえ、鉛のように重くなった瞼をゆっくりと開けて、枕元に置いたスマートフォンのアラームを止める。どうやら俺は本当に眠ってしまっていたようだ。
「よく眠れましたか?貴臣さん?」
「・・・はい。おかげさまで」
副作用による1時間の睡眠から目覚めた俺に、海崎さんが優しく話しかける。それにしても、随分と懐かしい夢を見ていたような気がしたけれど、海崎さんに話しかけられた瞬間に夢の中身はごっそりと忘れてしまった。でも何で俺は急に眠って・・・
「・・・・・・ってそうだ、俺」
眠りから覚めて頭の回転もある程度まで戻ったところで、俺は海崎さんから渡された薬を飲んだことを思い出した。てことはあの尋常じゃないくらいの眠気は・・・間違いなくカプセルの副作用だ。
「・・・自分で確かめてみますか?」
どこか余裕そうに笑う海崎さんに半ば促されるように、俺は海崎さんの部屋の洗面台にある鏡へと向かう。起き上がって歩き出した感じだと、特に身体ごと若返ったという実感はほとんど感じられない。
“まさか得体の知れないカプセルまで飲まされておいて全部嘘でしたってことはないよな・・・”
そう心の中で半信半疑になりつつ、俺は洗面台にある鏡の前に立って自分の顔をじっと見つめてみる。
“・・・えっ・・・”
鏡に映る自分の顔を見た瞬間、確かな違和感を俺は覚えた。そんなに極端な違いこそないけれど、明らかに俺の顔は全体的に少しだけ幼くなっていた。
“・・・ヒゲが・・・ない・・・”
試しに口元の周りと顎のあたりを手で触ってみると、髭がなくなっていた。元から髭はかなり薄いほうだったから見た目だけだとそこまで変化はないのだけれど、触ってみたらごくわずかにザラザラする感触は全くなくて、強いて言うならほんの少しだけ産毛がある程度だった。
「・・・・・・若っ」
その流れで目の下まで無造作に伸びていた前髪を上げてもう一度自分の顔を確かめた瞬間、カズと同じくらい見た目が若返っていた自分の顔面に驚いて思わず声が漏れた。
「どうですか貴臣さん・・・・・・17歳になった気分は?」
そして確信した。紛れもなく、正真正銘、俺はリライフ研究所の開発した薬によって本当に17歳の高校生に若返ったということを・・・
ていうか・・・・・・
「17歳の俺って、めちゃくちゃカズとそっくりですね?」
「何でこの状況でそんなに冷静でいられるんだよオイ(いよいよ酒の勢いで薬を飲んじまった俺の立場が・・・)」
作中に登場する