ここ、桜咲高校は俺が通っていた青葉と同様、5教科の定期テストとは別で始業式や学期始めの日に国語・数学・英語で生徒一人一人の学力を測る3教科の小テストがある。俺にとっては全くの無縁だったが、
ということはともかく、よくこんな青葉と環境がそっくりな高校が同じ都内に存在したなとつくづく俺は思う。始業式の後に小テストがあるのは青葉ぐらいだとずっと思っていたから、海崎さんから渡された資料を読んでそれを見つけたときは普通に驚いたし、何なら少しだけ感心すらも覚えた。
“・・・さすがにテスト前の最後の復習の邪魔をするのは悪いな・・・”
ふと魔がさしかけた俺は休み時間の10分の間でさり気なく海崎さんを呼んで一席分のスペースのことやこの学校のことを聞こうとしたけれど、いざ振り向いてみたら結構本気の形相で教科書と睨めっこしていた海崎さんがいたから、冷静になって聞くのは昼休みまで待つことにした。ここまで思い返せば海崎さんは少なくとも天才肌なタイプではなさそうだから、らしいっちゃらしいと思える。ちなみに桜咲は同じく都内にある“名門”の明星学園には流石に負けるものの、共に進学校で知られている青葉とは偏差値も互角な
“それに・・・”
“『ちなみに僕も同じ桜咲高校の生徒として貴臣さんの学校に編入します』”
海崎さんはあくまで“仕事”として俺と同じく薬を飲んで若返った状態でこのクラスに編入しているから、迂闊に話しかけるようなことをすれば揃って怪しまれるかもしれないということも考慮しなければならない・・・色々考えたら意外と面倒な部分も多いなリライフ。ただリアルを言ってしまえば、中身が大人の編入生がクラスに2人いる時点で相当“めんどくさい”ことになっているのだけれど。
キーンコーンカーンコーン_
「では、机の上の物は全部しまって筆記用具だけにするように」
小テスト前の10分休は周りの生徒と同じように教科書を開いて“気持ち程度”にテスト前最後の復習をしていたらあっという間に3時限目の予鈴と共に終わり、予鈴を合図に筆箱と一緒にシャーペンと消しゴムを机の上に置く。元々これだけは忘れないようにと意識していたからこうして普通に持ってこれたものの、小テストの
“結果次第で成績が決まってしまうテストで筆記用具を忘れるのは致命傷だし・・・”
テスト当日の独特な緊張感に包まれた教室の中で、先生から配られたテスト用紙を自分の分だけ取って後ろの席へと回す。こういう何気ない学校生活の当たり前のことですら、いちいち懐かしく思えてくる。そうやって教室の中で“いつか”を懐かしむ俺と同い年の人たちがスーツや仕事着を着こなして“責任”と戦いながら働いている一方で、その人たちと同い年の俺は制服を着て“自己責任”のテストを受けている・・・そんな現状を考えれば考えるほど、本当に今の俺は“いいご身分”だなと思えてくる。
“冗談じゃない・・・俺だって “
後ろ向きになり始めていた気持ちを、再び前へと向けさせる。どうやら一度は完全に壊れてしまったはずのこの心は、思いのほか容易く気持ちを切り替えられるくらいにはもう回復しているみたいだ。
“とにかく今は、テストに集中しよう”
キーンコーンカーンコーン_
「始め」
笹原先生からの点呼と本鈴を合図に、国語のテストが始まる。一応テストのために軽く復習はしてきたことが幸いしてか、序盤から快調に解答欄が埋まっていく。問題のレベルはやはり予想通りと言うべきか、青葉と大体同じくらいだ。ただあくまで“前学期までの復習”と“学習の定着”が目的の小テストだから、参考になってしまうが・・・
“やべぇ、思ってたより楽勝だわこれ”
正直、思っていたより簡単だ。まだ序盤だから何とも言えないが、最初の準2級レベルの漢字の
ってオイオイ、この調子じゃいきなり編入生の分際が100点なんて取っちゃうかもしれないぞ・・・・・・なんて浮かれたりはせず、漢検準1級持ちの俺は淡々と次の問題に取り掛かる。
“・・・にしてもさっきから隣の“一匹狼”は何も書いてないっぽいけど大丈夫か?”
ただ1つだけ気掛かりなことがあるとするなら、隣の席から筆を進める音が一切聞こえてこないことだ。多分、名前すら書いていない。
“大丈夫・・・なわけないよな”
俺の場合は隣の席に座っている人のことなど気にしないで普通に集中しようと思えば全然できるけど、こういうのは人によってはかなり気が散るやつだ・・・ていうかもうテストが始まってから3分も経ったというのに、もしかして・・・
“・・・あぁ・・・なるほど・・・”
周囲からカンニングしたと思われないように一瞬だけ目線を左に向けると、隣の席に座る赤間は万策が尽きて逆に“悟りを開いた”ような顔を浮かべながら、片手で頭を抱えていた。ポーカーフェイスの表情と身体の姿勢が正反対なのは置いといて、筆記用具も何も置いていない机が目に留まった瞬間に、とりあえず問題が全く分からなくて筆が進まないわけじゃないことと、筆記用具を忘れたけど初日から笑い者にされたくないのか分からないけれど“一匹狼のプライド”的な何かがあって周りに言うことが出来ず、そのままテストが始まってしまい“万事休す”の状態なのは分かった。何となく自己紹介の感じからして、人に頼るのが極端に苦手そうな子だっていう予感はしていた。
正直なところ、人に頼れなかったせいで“ヒキニート”になってしまった俺に人のことを言う資格なんてないだろうけど。
“けど・・・”
それでも学生生活と社会人を経験した大人として1つだけ言いたい。“せめて筆記用具ぐらいは忘れたら周りに貸してもらえ”と・・・幾ら同じく人に頼るのが苦手な俺ですら、同じ立場になったら恥じらいなんか捨ててそれぐらいのことはする・・・それ以前に忘れないけど。あとついでに言うなら、“逆に誰か自分の筆記用具を貸すとかしないのかよ”とも言いたい。だって代わりのシャーペンや鉛筆なんて何本もあるだろうし、消しゴムだって2個は持っているから1個を貸したところで困らない・・・
“『ごめん大神くん、ミホに消しゴム貸しちゃったせいで今あたし解答ミスったら死ぬパターンだから今日のテスト終わるまで消しゴム貸してくれない?』”
“『おう、別にいいけど何で?』”
“『だって大神くんって消しゴム2コ持ちじゃん』”
“『まぁそうだけど』”
“『じゃあそーいうことで今日1日よろしく』”
“『・・・ていうかさ、
“『え?うん・・・だって2コあってもかさばるし』”
“『普段から1個持ちなら何で貸したし』”
“『それはー・・・きっと大神くんなら貸してくれるって思ったからさ・・・』”
いや、みんながみんな消しゴムを2個持って学校に来るとも限らないか・・・・・・って、何でこんな下らないことで“あいつ”のことを思い出してんだ、俺。
“テスト中だから最悪バレたら早速怒られるかもだけど・・・仕方ない・・・”
学校のテストは“自己責任”とはいえ、さすがに筆記用具を忘れただけで成績が決まってしまうのはあまりに非情なことだ。それに、何より困っている人が隣にいても手すら差し伸べずに平然とほったらかせるほど、俺の心は自分本位には出来ていない。
「(赤間くん。良かったらこれ使って・・・)」
俺は机の上に置いていた筆箱の中からもう一本のシャーペンと予備の消しゴムをなるべく音を立てないように取り出して、笹原先生が目を離した瞬間を突いてそっと左隣に座る赤間に差し出す。当然テスト中は私語なんてもっての外だから、無言でアイコンタクトを送ることしか俺にはできない。
“・・・頼むから早く取ってくれよ“一匹狼”の赤間くん・・・こんなことで登校初日から怒られたくねぇんだよ俺だって・・・”
「・・・?」
すると俺の心の声が通じたのかどうかは分からないが、助け船を差し出す俺に気付いた赤間は一瞬だけ驚いたような表情をして、軽く会釈をしながらすぐに左手に持ったシャーペンと消しゴムを受け取った。幸いにも、ここまでの一部始終は笹原先生に見られることはなく、視線をテスト用紙に向けると同時に今日一番の解放感が全身を伝う。
“いやなに油断してんだ俺、まだテストは始まったばかりだ”
そしてすぐさま我に返る。危ない危ない、今は思いっきりテストの真っ只中だ。これで油断をして筆記用具を借りた隣の赤間がちゃっかり満点をとって、筆記用具を貸した俺が赤点なんて取ろうものなら、笑い者もいいところだ。もちろん、青葉ではシルバーピンの座を取られたことが一度もなかった俺にとって赤点を取ることは満点を取ること以上に“難題”な話だ。
“2分のロスか・・・うん、どうにかなるか”
こうして最初のテストは思わぬタイムロスこそあったものの、最後に誤字脱字やケアレスミスがないかを見直せるくらいの余裕を持って終わらせることができた。
キーンコーンカーンコーン_
「・・・金髪・・・オイ金髪」
「・・・・・・ひょっとして俺のこと?(確かに俺って金髪だけど呼び方)」
最初のテストが終わり用紙を回収し終えた休憩時間、筆記用具を貸した赤間が隣の席に座ったまま俺のことを呼んだ。ただ、赤間は俺のことを名前ではなくいきなり“外見の特徴”で呼んできたものだから思わず反応が遅れた。
「じゃなかったら誰になるんだよ?」
「いや、そんなこと急に聞かれても」
「いま俺の近くにいる“金髪”はお前しかいないだろ」
「なっ・・・まぁそうだけどさ・・・」
反応が遅れた俺に、赤間はシャーペンと消しゴムを貸してもらった有難さなど1ミリもないかのような無愛想な表情で“分かれよ”と言わんばかりの言葉を返してきた。
“なんだこの上から目線の偉そうなガキは・・・言っとくけど俺がいなかったら今ごろクラスの笑い者になって追試へまっしぐらだったぞ・・・”
「言っとくけどいきなり“金髪”って言われてもぶっちゃけ分かんないよ・・・俺にも親がつけたちゃんとした名前ってのがあるからさ(これ、貸す相手思いっきり間違えたわ俺・・・)」
心の内を露にしたら間違いなく面倒なことになりそうだから、俺は作り笑いで初対面の人を“金髪呼ばわり”したことをサラっと注意する。しかし、外見上は同学年とはいえ年下の子から偉そうな態度で言葉を返されるとこうも“イラッ”と来るものなのか・・・とにかくもう、これからは何があっても
「・・・悪い・・・名前が出てこなかった」
「・・・なんだそういうことか。だったら最初からそう言えば良かったじゃん(かといっていきなり“金髪”呼ばわりはどうかと思うけど)」
「どう聞けばいいか分からなかった」
「あぁ・・・確かに俺って編入生で今日来たばかりだから、何て声かけたらいいか分からなくなるよね?(だから普通に聞けば良くね?っていうか、思ってたより素直だなこいつ)」
なんて大人げないことを思いながら軽く注意してみたら、意外にも赤間は素直に謝ってきてくれた。いやでも、名前が分からないなら最初からそう言えばいいのに“金髪”呼ばわりて・・・
「じゃあ改めてになっちゃうけど、俺は大神貴臣。とりあえず俺のことは“大神”、または“タカ”って覚えとけばいいよ」
「分かった・・・俺は赤間衛士。呼び名は自由でいい」
「うん、分かった。じゃあ赤間くんで(なんか英語の教科書にある例文みたいな会話だなこれ)」
「おう・・・」
とりあえずこっちとしてもどう会話を繋げて良いのか分からず、俺の名前が出てこなかったということで一旦自己紹介を挟む。こういう良くも悪くも“一匹狼”のような子は確かにクラスに1人は必ずいたけど、学校ではどっちかというとお喋りな連中とばかりつるんでいた俺にとってこういうタイプの子を相手にするのは滅多になかったから、海崎さん以外のみんなを知らないこの状況が拍車をかけて何をどう話せば良いのか分からなくなる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
“・・・で?”
そして生まれる何とも言えない気まずい沈黙。うん、何となくこうなりそうな予感はしていた。もちろんこれは一緒に沈黙してしまった俺にも非はあるけれど、マジで何を話せば良いのか分からない状態だから、もうどうしようもない。
「・・・なぁ、大神」
「ん?なに?(おぉやっと喋った)」
こうして互いに何をどう接すればいいか分からないまま10秒以上の沈黙が続いたところで、無口な一匹狼は沈黙を破る。
「・・・ペンと消しゴム、ありがとな・・・・・・おかげで助かった」
“なんだ・・・・・・言葉遣いがぶっきらぼうで口下手なだけで、普通に“ありがとう”って言えるじゃん・・・”
表情も言葉もぶっきらぼうなのは変わらないけれど、赤間が本当に心から“ありがとう”と言っていることは筆記用具を貸した俺の目を真っ直ぐに見る視線で察することができた。
「うん。どういたしまして」
気まずい沈黙を挟んで、俺は段々と赤間のことが分かり始めた。この子は近寄りがたい“一匹狼”というよりかは感情表現がぶっきらぼうかつ不器用なせいで誤解されやすいだけのシャイなコミュニケーション音痴・・・いや、“人見知り”で融通か利かないところはありそうだけれど、自分の非をしっかりと認めることができてちゃんと他人のことを思い考えられる“心優しい”人だ。
“『貴臣さんは電話ぐらい誰にだって出来ることだと思っているのかもしれませんが・・・』”
全く、ついこの間まで海崎さんと電話したぐらいで一喜一憂していた俺が、良くもまぁ偉そうに上から目線な心配を・・・
「良かったら今日一日ずっと使っていいよ、それ」
「・・・本当に良いのか?」
「大丈夫だよ。消しゴムならもう一個持ってるし」
「そうか・・・・・・色々と悪いな。この“借り”はそう遠くないうちに必ず返す」
「別に“借り”なんて貸したつもりは全くないから大丈夫だよ。まず、赤間くんもわざと忘れたわけじゃないだろうしさ」
「わざとじゃねぇけど・・・貰った恩は同じように形で返すのが筋だろ」
「いやいや本当に大丈夫だって!・・・まぁ、言ってることは一理あるっちゃあるけど(やっぱ融通が利かねぇわこの子・・・)」
話してみたら色々と癖が強いところはあるけれど、俺が最初に抱いていた悪い意味での“一匹狼”の印象はすっかり消し飛んだ。本当、人っていうのは“見た目だけで判断するな”とか“偏見で人を決めつけるな”と口では幾らでも言えるけど、いざ直面したら無意識に最初の第一印象で“仲良くなれそう”とか“仲良くなれないな”と決めつけてしまいがちだ。
そんなことを分かり切っているはずの俺でさえ、“ありがとう”を言われるまで赤間のことを思い切り偏見の眼で見ていた。これじゃあまるで・・・
“『ほんと良いよな~お前みたいな苦労知らずのイケメン高学歴は付き合いが悪くても営業成績トップになれるんだからよ・・・言っとくけど
いや多分、俺の心を壊したあいつらに比べたら、今の俺はまだマシだ。そう信じたい。
「今日は編入生に“感謝カンゲキ雨嵐”だな、衛士?」
こうして貸し借りのことを話していた俺と赤間のところに、恐らくトイレから戻ってきたであろう城野が宇島と一緒に俺たちの席へ歩み寄って話しかけてきた。
「・・・わざと忘れたわけじゃねぇ」
俺たちの席のところに向かうや否や“ムードメーカー”は早速“一匹狼”にちょっかいを出して、そのちょっいかいに一匹狼はムスッとしたぶっきらぼうな態度で応戦する。
「あとネタが古ぃんだよ」
「いやツッコむとこそこかい」
「それよりこっちはお前なんかと無駄話してる暇はねぇからさっさと席戻れ」
「オイオイ冷てぇなあお前ってやつは、今日ぐらいは“穏便”に行こうぜ~編入生がいるわけだし」
「っるせぇなこの“銀髪ピアス”が」
だけど俺と話しているときのぎこちなさとは打って変わって分かりやすく警戒心が薄れた“一匹狼”と、その“一匹狼”を容赦なく揶揄う“ムードメーカー”の間から感じる尖っているけどちっとも殺伐とした感じがしない言い合いの雰囲気からして、何だかんだこの2人の仲は普通に良いことは見ただけで分かる。思い起こしてみれば自己紹介のときに2人とも前は1組だったって言っていたから、どおりで城野は赤間に対して特に馴れ馴れしいわけだ。
「てことで貴臣、今日は衛士がいきなり迷惑かけてマジでごめんな」
「ううん、全然。赤間くんもわざと忘れたわけじゃないから大丈夫だし、俺はちっとも気にしてないから(さすがはムードメーカー、いきなり呼び捨て・・・)」
「
「うん、分かった」
「いいから
「ったくお前はすぐそうやって一匹狼を気取りやがって、それが筆箱忘れて人のテストを邪魔した奴の態度か?あぁん?」
「わざとじゃねぇし邪魔もしてねぇつってんだろが“クソノッポ”」
「まあまあ2人とも(やっぱり
「あっそうだ貴臣、ちなみに
「えっ、マジ?」
「・・・おいそれは言うんじゃねぇよぶっ殺すぞマジで・・・」
「(あぁ・・・否定しないんだ)」
「ハハハッ、おもしれぇだろ衛士って?」
ついでに城野の口から筆記用具を忘れたのは今日が初めてじゃないことを打ち明けられた赤間は、バツが悪そうに“殺害予告”をして机に突っ伏してうなだれるように撃沈した。何となくどんなに強がろうとしても結局自分に嘘をつけないところが、まだほんの少ししか分かっていないけど“赤間らしい”と思える。
「じゃあおれは予鈴鳴るまで仮眠するから席戻ってるわー」
一方で元3組の寝不足気味の宇島は赤間が恥ずかしいことを暴露されて撃沈する様を無言で眺めると、編入生の俺の存在も全く気に留めることなく“仮眠するから”と空気も読まずそそくさと席に戻って本当に寝始めてしまった。
「あのさ・・・宇島くん普通に寝始めたけど起こさなくて大丈夫?」
ていうか、寝不足だとはいえテストの休み時間にすら居眠りをするとか、どんだけ肝が据わっているんだって話だ。一応俺もその気になればテストの休み時間を居眠りに費やしても90点は余裕で越せる自信はあるけれど、本気でそれをやろうだなんて思ったことなんか一度もないし、まずそんな度胸もない。
「あぁ海音のこと?アイツなら平気だよ。授業も普段からあんな感じで居眠りばっかしてるし勉強なんて全くしないけど、あんなんでも普通に成績はクラスの中じゃ常に5番目以内に入るくらいには頭いいから」
「へぇ~、そうなんだ(確かに勉強は全くしなさそう・・・)」
だけど宇島の自由奔放っぷりは城野にとっては日常茶飯事らしく、ちっとも心配する素振りも見せずに居眠りする本人に代わって見た目に反した軽い口調で俺に“他己紹介”をする。にしても普段からこんな感じで普通に勉強ができているっていうのは、素直に羨ましい。
「マジでチートだよ、アイツは」
“チート”。確かに話を聞く限りだと宇島にはこの3文字が似合いそうだ。まだ一回も話していないからまたしてもただの偏見になってしまうけど。
「・・・人のこと“チート”呼ばわりしてるけど、この“銀髪ピアス”も1年のときからずっと学年2位以内をキープし続けてる怪物だからな」
「それなんだよなぁ〜、海音と違って曲は書けないけど」
「誰も
そんな宇島の話を始めた俺と城野の会話に、いつの間にか“生き返った”赤間が数学の教科書とノートに目を通しながら参加してきた。
「ぶっちゃけ見えないっしょ?よく言われるんだオレ」
「・・・うん。確かに見た目は(まだ何も言ってない・・・)」
自分の見た目と印象を棚に挙げるようにわざとらしくおどけながらリアクションを求めるように俺に笑いかけるけど、残念ながら城野がこの学年で最も“優秀な生徒”だということはもう知っているから、驚きはほとんどない。
「ってあれ?全然驚かねぇじゃん貴臣?どした?」
「どうしたも何も、城野くんが制服に付けてるその“紋章”だよ」
ただ強いて言えばそんなことを微塵も思わせないチャラついた外見には初見で少しだけ驚いたが、正直どうでもいい。
「確か桜咲高校では卒業式と同じ日に小テストを含めた学業の成績と内申点を含めた総合の評価を元に各学年ごとに男女で1人ずつ“優秀生徒”を決める表彰式があって、表彰された生徒は“優秀生徒の証”として桜咲の校章がデザインされた“紋章”が授与される・・・って感じのことがこの学校のパンフレットとかホームページに載ってたから、自己紹介のときから城野くんがそういう人だっていうのは何となく分かってたよ」
編入生らしいリアクションを求めてきたであろう城野に、俺は海崎さんから貰った資料に書いてあった“受け売り”を馬鹿正直に伝えた。本当は月並み程度の嘘でも驚いたフリをしておこうかなと一瞬だけ思ったものの、自己紹介のときの笹原先生とのやり取りの時点で “勘も鋭そうだな”という予感を何となく感じていたから、普通に誤魔化すのは諦めた。
きっと
「・・・貴臣ってさ・・・」
なんて青葉高校の3年間でずっとシルバーピンを取り続けてクラス委員長の座に就き続けていたヒキニートなりのどうしようもない推理が的中したのか、城野は見るからに意味あり気な感じでクールに笑いかけると俺の右肩に手を掛けて顔を近づけ、
「ぶっちゃけ5教科のテストで風邪ひいてても90以上は絶対取れるくらいには頭良いっしょ?」
と、俺の耳元で囁いた。
キーンコーンカーンコーン_
「うっわもう予鈴鳴りやがった!数学なんもしてねぇのにオレ」
「
「それなっ」
「ていうか編入生の勉強の邪魔してんじゃねぇよ。お前のせいで大神もほとんど出来てねぇからな」
「マジか!?ゴメン貴臣!」
「まあまあ、俺は別にそんな」
「つーか衛士も衛士だぞ、テストで筆箱忘れた挙句に今日ここに来たばっかの貴臣からいきなりシャーペンと消しゴム借りるとか今日一日でどんだけ人様に迷惑かけるつもりだマジで?」
「だからわざとじゃねぇっつってんだろ何度も言わせんな」
「わざとじゃなかったらどうして3回も筆箱を忘れるんですかねぇ~衛士きゅん☆」
「殺すついでに七代祟るぞ“銀髪クソノッポピアス”が」
「はいみんなテスト配るから静かにー」
シーン_
そして俺を挟んで赤間と喧嘩のようなそうでもないような騒がしいやり取りをして、笹原先生の鶴の一声で教室はシーンと静まり返る。他の学校を馬鹿にするつもりはないけれど、こういう“ちゃんとするところはちゃんとする”あたりが何とも進学校らしいし、クラスの“こういう雰囲気”までもがどことなく青葉とそっくりだ。さてと・・・無駄話に付き合ったおかげで数学のおさらいが全く出来なかったわけだけど・・・まぁ80取れれば今回は良しとしよう。別にこの学校で俺は“優秀生徒”に選ばれたいわけでもないし、極論を言えば最終的に俺がヒキニートからどこかの正社員になれさえすれば家族もろとも幸せに・・・
“・・・本当は怖いだけなんだろ?ごちゃごちゃ言い訳すんなよ、
「始め」
突然と心が後ろ向きになった俺を鼓舞し始めたせいで変なスイッチが入った俺は、80点ぐらいで妥協しようとした数学のテストを大人げなく本気で解いてしまった。もちろんこうなった要因には、思い切り心当たりがあった。
【人物紹介】
・赤間衛士(あかまえいじ)
10月15日生まれ A型 17歳(第14話時点)
身長:175cm 髪色:青紫 一人称:俺
イメージCV:鈴木崚汰
・宇島海音(うのしまかいと)
2月7日生まれ AB型 17歳(第14話時点)
身長:165cm 髪色:桜色 一人称:おれ
イメージCV:河西健吾
・城野真太郎(じょうのしんたろう)
5月2日生まれ O型 17歳(第14話時点)
身長:186cm 髪色:銀髪 一人称:オレ
イメージCV:阿座上洋平
登場人物の髪色が軒並み主張強めなのはお約束