「凉~一緒に昼食べに行くついでに英語のテス勉手伝って~」
「えぇ~何でよ?」
「風邪で寝込んでたせいであんまり対策出来なかった」
「それはご愁傷様」
「も~病み上がりの人間に対して冷たくない?」
「これを機に愛火はいい加減私から自立しなさい」
「・・・あたしだって風邪ひいたくてひいたわけじゃないのに」
「・・・その代わり後で“絶対出る”ところだけ教えてあげるから」
「・・・凉ほんとに優しい・・・心から好き」
「言っとくけど今回限りだからね?」
「・・・“海崎くん”」
「・・・?(おや?この流れはまさか・・・)」
「急で悪いけど今日は編入生同士、仲良く学食でも食べるのはどうかな?」
「いいけど、何で?(デスヨネー)」
「せっかく編入生が2人いるなら、一緒に色々と周るほうが
「・・・分かった。いいよ(だって俺も夜明さんに似たようなことやってたし)」
午前中の国語と数学のテストを“順調”に終わらせた俺は、同じく
「なるほど、“貴臣くん”は
「まぁ・・・うどんは安くてうまいから」
ひとまずそれぞれの学食を頼んだ俺と海崎さんは、桜咲の生徒でごった返すカフェテリアの席の一角に座って、何食わぬ顔で昼飯を食べる。ちなみに今日頼んだものは俺がうどんで、海崎さんがラーメンだ。
「まるでどっかの“
「“誰かさん”が誰なのか一瞬で分かったことが何か悔しいわ」
青葉に通っていた頃によく食べていたメニューと同じものをチョイスした俺を、正面に座りラーメンをすする海崎さんが“やっぱり兄弟ですね”と言いたげに微笑ましく例える。もちろん、ここで色々と言い返したところで“ハイ、それがリライフなんで☆”と爽やかスマイルで返されるのは考えなくても分かるから、何も言わない。
「なぁ?ここのうどんって美味い?」
「うーん・・・好みの問題だと思うけど俺は青葉で食ってたうどんのほうが好きかな」
「へぇ~、青葉のうどんってそんなに美味しかったんだ?」
「これもこれで普通に美味しいんだけどね・・・・・・けどやっぱ“うどん”は青葉のほうが美味かった気がする」
「それって貴臣くんの味覚が単純に“大人”になったってことじゃね?」
「海崎くんが言うと説得力が凄いな」
「もうじき貴臣くんも分かると思うよ。っていうかやっぱり“タカ”って呼んでいい?」
「“貴臣”で大丈夫です(あぁもう、“
互いに高校生の欠片もない“学食トーク”をしながら、互いが淡々と学食を食べる。まだうどんしか食べてないから判断は出来ない上にもう何年も前の話になるけれど、少なくとも“うどん”に関しては青葉の学食で出していたうどんのほうが1ランク上だ。別に使っているダシとか麺や具材はどっちも特別に手の込んだものは使っていないのは口に入れれば分かるが、青葉で食べてたうどんは味の濃さや麺の食感が全部絶妙だったのを覚えている。もちろん
“って駄目だ・・・やっぱ“落ち着かない”わこの感じ・・・”
にしても、同級生に若返った海崎さんから普通に“友達感覚”で話しかけられるこの感じは・・・“元の姿”を知っているだけあってどうしても頭の中がこんがらがってしまう。
「あの・・・やっぱりタメ口だと違和感があるんで今だけ敬語で“海崎さん”に話してもいいですか?」
「ん?何で?」
「いや何か、まだちょっと海崎さんをクラスメイトとして見ることに慣れてないから、調子が狂う・・・みたいな?」
「みたいな?」
「はい。みたいな」
学食で頼んだうどんを半分ほど食べたところで、“高校生になった海崎さん”からクラスメイトのように話しかけられるという当事者にとってはカオス以外の何物でもない状況にとうとう耐えかねた俺は、海崎さんに“ギブアップ”を申し出た。
「別に構いませんよ。タメ口も敬語も最初から強制はしてないですし、これだけ周りが騒がしければ誰も気になんて留めないでしょうから」
「じゃあ最初から敬語で話しかけてきても良かったじゃないですか?」
「それは“お互い様”なのでは?」
「まぁ・・・確かに」
「やっぱり慣れないことをすると冷静沈着な貴臣さんをもってしても普段の冷静さを失うものですね?(きっとこんな感じだったんだろうな~“あの時”の俺も)」
「だから“その顔”やめてくださいムカつくから(しかも若返ったせいで“クソガキ”感が増してるし・・・)」
その拍子で海崎さんから“ニヤケ顔”と一緒にもっともな正論をさり気なくぶつけられたが、どうにかこれで聞きたいことは聞けそうだ。
「・・・とりあえず今回は冷静さを失った俺の落ち度ということでいいんで、海崎さんに聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「はい。何でしょう?」
“出来れば被験者への過干渉は上から色々と言われるから避けたいとこだけど・・・・・・ただでさえ転校初日に加えて、身体はちゃんと若返ってるけど所詮中身は“年齢を誤魔化している大人”に過ぎない・・・単純に期間限定で高校生になるってだけで“自分の高校時代”に戻るわけじゃない・・・だから“大人”になった自分が今さら高校生になっても周りと自分が違い過ぎて高校生活を楽しもうと考える余裕はなくて、気持ちは戸惑ってばかり・・・・・・そりゃあ誰だって不安になるし、本当は良くないと分かっていても“身内”にも頼りたくなる・・・”
“『そもそもどうせみんなの記憶から消える存在なんだろ?俺?』”
“・・・リライフを始めたばかりだった1年前の俺も似たような感じだったから、タカの気持ちはすごくよく分かる・・・”
「俺たちが編入した1組って・・・・・・本当にあれで“全員”なんですか?」
「・・・えっ?」
“『海崎さんなら大丈夫だと信じていますが、万が一僕でもフォロー出来ないレベルのヘマをされたらサポート課の仕事や信用にも影響が出てしまうので今回ばかりは事前にお伝えします・・・・・・』”
「・・・あれで“全員”なんじゃないですか?ほら、笹原先生も何も言ってこなかったわけだし」
自己紹介のときから感じていたちょうど
「じゃあ・・・行橋さんの席の後ろが不自然に空いていたのは?」
「教室自体のレイアウトの都合じゃないですか?ちょうどあの辺ってドアも近いでしょ?」
“あぁ・・・やっぱり・・・”
「・・・すいません。やっぱり引き篭もりが祟って偏った俺の脳みそが少し変な方向に暴走していただけみたいです。何でも疑ってかかるのは良くなかったですね・・・」
一瞬の視線の動きを見て海崎さんが“知っている”ことを見抜いた俺は、敢えて話を終わらせた。たったそれだけで何かが分かったわけじゃないけれど、少なくとも“あれ”は海崎さんに聞いたところで何も解決しないことだけは理解した。
「いいんですか?本当に?」
「もう大丈夫です。完全に俺の馬鹿みたいな“早とちり”でした」
それに・・・
「それに・・・よくよく考えてみれば俺がこうやって海崎さんに頼ってしまっているこの状況って・・・・・・“高校生”をやってる意味がまるでないなって思ったんで・・・」
海崎さんに色々と頼ってしまうのは、もはやリライフとは呼べない。それこそ“何のためにお前は薬を飲んで若返ったんだ?”って話だ。ガワだけ高校生の大人2人がうどんとラーメンをすすりながらつるむなんて、同じ部署で働く同僚とオフィスや営業先の近くにある店で昼飯を食べているのと何ら変わらない。
まぁ、社会人だった頃の俺はそれすらも“節約”していたけれど。
「・・・確かにこれじゃあ、“何のために貴臣さんは
「仰る通りです」
案の定、俺は海崎さんから苦笑いされながら反論の余地もない正論を叩きつけられた。言われなくても分かっているつもりだった。明らかに聞くべき相手は海崎さんなんかじゃないということぐらい。
“『ぶっちゃけ5教科のテストで風邪ひいてても90以上は絶対取れるくらいには頭良いっしょ?』”
「例えば城野くんあたりに試しに聞いてみるっていうのはどうです?ああ見えて彼、結構まともそうなんで案外ちゃんと答えてくれるかもしれないですよ?(資料見たとき俺もビックリしたわあの“銀髪ピアス”・・・)」
「城野くんのことは一瞬だけ考えましたけど、毎年クラス替えがあるような学校なんで逆に知らなかったらどうしようって可能性もあったんで・・・“消去法”でこうなりました」
「・・・なるほど、つまり貴臣さんは頼れる相手が僕ぐらいしかいなかったから“消去法”で頼ったと(“消去法”で俺はヒドくないか?)」
「“人選を間違えた”ことぐらい自分でも分かってますよ海崎さん」
「“人選”て・・・(俺ってそんなに頼りないかなぁオーガ兄?)
わざとらしく俺の耳元でそう呟いた城野は悪気があってあんなことをしたんじゃなくて、あくまで“クラスメイト”として編入生の俺が
25年と7か月生きてきて色んな人と会ってきたなかで、目の前にいる人が“優しい人”なのか“
「結局俺は・・・また肝心なところで自分に甘えてしまいました・・・」
それでも俺の病み上がりの心は、まだどこかで周囲の優しさに触れることを恐れて“孤独”へと逃げようとする。戻らないと決めていた“あの部屋”のことを、無意識に考えようとしてしまう。その度に後ろを向いた自分の心に“それじゃダメだろ?”と鞭を入れて言い聞かせては、後ろを振り返った心をどうにか前を向かせる繰り返し。
“『ごめん・・・・・・もう別れよう・・・俺たち』”
俺は知っている。自分のことを本当に想ってくれていた
“『・・・・・・ふざけんなよ』”
“『1年のリライフ期間が終了した後・・・クラスメイトや教師、貴臣さんに関わった全ての人から、貴臣さんに関する記憶はこちらで消させていただきます』”
どうせ今ここにいる俺は、1年後には3年1組のクラスメイト達から忘れ去られる。仮に3年1組の誰かと仲良くなって思い出を作れたとしても・・・俺の存在が消えることでその誰かが失う必要のない思い出を失って悲しむようなことになるかもしれない・・・そんなことになったら俺は・・・
“『・・・兄ちゃん・・・ごめん・・・本当にごめん・・・』”
もうこれ以上・・・・・・人を傷つけたくない・・・・・・人が傷ついて泣いているところは見たくない・・・
「・・・でも“自分に甘えてる”と言っている割には、筆記用具を忘れた赤間くんにシャーペンと消しゴムを渡したり、押しの強い城野くんとも自然な感じで話したりと積極的ですよね?」
心の奥底に眠る
「・・・あれは、その・・・“成り行き”でそうなっただけなんで・・・」
“全く、自分の弟1人すらロクに幸せに出来ていない分際が何を偉そうなことを言っているのか・・・”
なんて言われたら、もう何も言い返せなくなってしまうくらいには人を傷つけてきた。全ては“自分だけが抱えているモノ”を誰にも背負って欲しくない、背負うのは自分だけで十分だと身勝手な優しさを振りかざしては勝手に周りの手を遠ざけて、勝手に突っ走って勝手に転んでやり場のない感情を“引き篭もる”という形で当たり散らした俺の撒いた種だ。
「それに積極的も何も・・・困った人がいたら手を差し出すのは当たり前のことですよ」
ただこんなどうしようもない俺でも、満員の電車にお年寄りがいたら進んで席を譲るように、筆箱を忘れたクラスメイトがいたらシャーペンと消しゴムぐらいだったら普通に貸す。そんな当たり前のことをしたぐらいで神様が俺を許してくれるなんて全く思わない。かといって俺が何もしなかったことで相手に嫌な思いはして欲しくないという、どうしようもない“良心”という名前の首の皮一枚ほどのプライドが、どうにか前に進もうと俺を動かしている。
「その当たり前を普段からちゃんと出来ている人って・・・・・・実を言うと結構少ないんですよ?」
もちろん目の前にいる海崎さんは、どうして俺が“ヒキニート”にまで落ちぶれてしまったのか、その理由を知っている。
「・・・まぁ僕からはこれ以上のことは言いません。同じ轍は踏みたくないからなるべく無難に過ごすっていうのも、それはそれで人生ですから。とにかく、貴臣さんの“思うがまま”にリライフを送るのが一番なんじゃないですか?」
「“思うがまま”って何ですか?」
「それを考えるのが“リライフ”ですよ、貴臣さん」
「・・・はい」
俺のことを知っているが故に、また無意識に頼るようなことを言ってしまった俺を海崎さんは優しく諭す。自分がどのようにリライフを送りたいのか、それは自分で考えて行動していかないと1年後の未来なんて何も変わらない。言われなくても分かっている、“このままじゃ駄目”ということぐらい。
「・・・じゃあ、俺はもう食べ終えたんで教室戻ります。今日は話を聞いてくれてありがとうございました」
最後の一口を食べ終えて、そそくさと俺は食堂の席を立つ。とにかく今は、教室に戻ってぐちゃぐちゃになりかけた気分を落ち着かせたくて仕方がない。
「・・・・・・タカ」
するとうどんの載ったトレイを持ってさっさと教室に戻ろうと立ち上がった俺に、海崎さんはいきなり“あだ名”で話しかけてきた。
「焦んなよ」
“焦んなよ”・・・そう言って俺に笑いかけた海崎さんの表情が、担当者としてではなく“本当の友達”として俺のことを励ましているように見えた。
「・・・急に“友達”みたいな空気出してくるのはやめてください。調子が狂うので」
「冷たいこと言うなよ今日からクラスメイトになるんだからさ~、な?タカ?」
「まぁ・・・そうだけど人それぞれペースってのがあるでしょ?」
それが“見えた”とかじゃなくて本当に俺のことを“友達”として接してくれていることは、“担当者”として接しているときの笑みと比べたときのごく僅かな表情の誤差で分かった。海崎さんの協力を得た上で2年半ぶりに外へ出たときからずっと思っているけれど、本当にこの人はこのような“詐欺まがい”なことをしている謎の
“でも逆を言えば、そんな海崎さんみたいな人だからこそ・・・こういう“仕事”が勤まるのかもしれないな・・・”
「・・・海崎くんもラーメンの残り、早く食べたほうがいいんじゃない?まだ英語のテストも残ってるし」
「おぉ、確かに」
嘘偽りのない優しさで幾分か気持ちに整理がついた俺は、海崎さんへ担当者ではなく1人の“クラスメイト”として言葉を返して、教室へと戻った。
「No.005のリライフは順調ですか?海崎さん?」
貴臣が席を立って教室へと戻っていった直後、新太のちょうど真後ろのテーブルの席に座っていた同じ桜咲の制服を着た“青年”が、新太に声をかける。
「順調にいくような人はそもそも“リライフ”なんて必要ないっての」
「ははっ、さすが“経験者”なだけあって言葉の重みが違いますねぇ“新太先輩”?」
「“後輩”をからかう暇あるなら自分の仕事に戻ったらどうなんですか“ドS先輩”?」
「お言葉ですが“自分の仕事”に戻ったほうがいいのは寧ろ海崎さんのほうなのでは?」
「えっ・・・・・・あ、ヤバッ!」
そして青年からのさり気ない忠告で被験者の観察を忘れかけていたことに気付いた新太は、急いでラーメンの残りを食べ終えて一目散に貴臣が向かった3年1組の教室へと戻っていった。
絵がついたら一瞬で誰なのか分かってしまうスタイル