キーンコーンカーンコーン_
「ヘイ1組の“3人衆”!早くスタジオ行こうぜ!」
「そんなデカい声で呼ばなくてもすぐ出るから、あとうるさい」
「悪い悪い。テストが終わってテンションが爆発してるからさ今」
「ほんとテストが終わった後のタクって相変わらずテンションがバグってるよね。いつものことだけど」
「“いつも”は余計だわ、とにかくテスト期間中は練習禁止どころか楽器すら持ち込めないから毎回カタルシスが半端じゃねぇんだよ。みんなも分かるだろこの気持ち?」
「分かるけどそこは別に仕方なくね?少しは大人になれよ拓巳」
「
「これでも“優秀生徒”ですから☆」
「あぁそうだ、コイツ成績だけだったらホントに真面目ちゃんだったわ」
「・・・大神」
「・・・赤間くん?」
今日の日程が全て終わり、リュックに教科書と筆箱を入れて帰り支度をしていると、今日のテストでシャーペンと消しゴムを貸した赤間がボソッとしたトーンで俺の名前を呼んできた。本人には悪気が一切ないのだろうけど、こういうテンションでいきなり呼ばれると何もしていなくても自分が何か“悪いことをした”ような気分になってしまう。
「今日のテスト、大神のおかげで助かった・・・ありがとな」
もちろん席に座る俺の隣でぶっきらぼうながらも馬鹿正直に“ありがとう”と言ってきた当の本人は何も悪くないから、言いたくとも言えない。
「うん。俺も赤間くんがちゃんとテストを乗り切れて良かったって思ってるよ」
「そうか・・・転校初日から色々と悪いことしたな」
「ううん、最初から俺は悪いことだなんて思ってないし、全然気にしなくていいって。困ったときは“お互い様”じゃん?」
「おまけに城野のやつも邪魔してきたせいで数学の復習も全然出来なかったし、
「いやいや赤間くんも城野くんも何も悪くないって・・・それに数学は元から得意なほうだし、復習はきっちりやってきたから全然影響なかったよ(正直全部あってる自信あるし・・・)」
「得意科目なら尚更じゃねぇか・・・万一大神が赤点になったら城野と一緒に俺が責任を取る」
「だから本当にこれっぽっちも気にしてないし赤点の心配はないって!あと、城野くんを巻き込むのはさすがに可哀想なのでは・・・(というか“赤点”とはまた極端な・・・)」
頭の中にある辞書に“融通”という言葉自体がないんじゃないかと思えるほど愚直な一匹狼から向けられる真っ直ぐすぎる感情に、思わず俺はタジタジになる。最初は自己紹介と同じくあからさまに“話しかけんなオーラ”全開でいきなり初対面の俺を“金髪”呼ばわりして話しかけてくるわで“こいつとは仲良くなれないな”と思っていたけれど、いざ話せば話すほど赤間という子は良い意味で“仲良くしたい”なと思えてくる。
「・・・本当に大丈夫なんだな?」
「うん、本当に俺は大丈夫だから(ほんっと融通利かないなぁこの子は・・・)」
「そうか・・・なら良かった」
例えるとしたら、“手のかかる弟が一人増えた”・・・みたいな感覚に近いかもしれない。きっとそれは、単純に俺が赤間より年上なだけだしそう思っているのも俺くらいだと思うが。
“『消しゴムありがと、大神くん』”
そういえば、こんなふうに俺のことを全く知らない人間から素直に“ありがとう”と言われるのは・・・いつぶりだろうか・・・
「・・・ははっ」
久しぶりに“知らない”人から向けられた素直な“ありがとう”の気持ちを真正面から受け止めた俺は、何だかそれが妙に嬉しくて笑ってしまった。
「・・・いきなり何笑ってんだよ、大神?」
「えっ?あぁごめん」
「気色悪いぞ」
「言うにしても少しは言葉を選んでくれないかな赤間くん・・・」
案の定、真面目に話していた赤間からは馬鹿正直に怪訝がられた。そりゃあ、いきなり前触れなく話し相手が笑い出したら誰だって“どうした?”ってなるし、自分でも何でこれぐらいのことで笑っているのかも分からない。
「でも何ていうか・・・・・・こうやって家族以外の人から本気で“ありがとう”って言われるのが、本当に久々でさ・・・シンプルに嬉しいわ・・・」
でも、久しぶりに家族以外の人から“陰口”でも“建前”でもない“本音”で感謝の言葉を向けられたことが、理由もなく嬉しかった。
「・・・俺、この後自主練あるからもういくわ。じゃあな」
「うん。じゃあね、また明日」
「・・・おう」
こうして同じように本気で“感謝”を向けられた赤間は、少しだけしどろもどろなリアクションをしながらムスッとした不機嫌顔で平静を装うように、そのまま教室から出て行った。悪い意味で捉えられていないところは表情からも伝わっていたけど、何となく悪いことをしてしまった気分だ。
“・・・ほんと、俺ってやつは何をまた人に“余計な貸しを作る”ような真似を・・・”
「(・・・帰ろ)」
ちょっとしたハプニングや気になることはあったものの、どうにか“波乱”なく登校初日が終わり一安心した俺は、座り心地が良いとは言えない椅子で僅かばかりに痛めた腰を庇いながら立ち上がる。社会人にヒキニートと、すっかり腰に優しいデスクチェアの座り心地に慣れ切ってしまった身体には、学校の椅子は少々身体に堪えるものがある。良くもまあ、高校生だった頃の俺はほぼ毎日こんな椅子に座っていても全く腰を痛めなかったもんだ・・・と、油断しているとついつい“おっさん”みたいな考え事をしてしまう。
まぁ、所詮はガワだけ高校生になった25歳の大人なわけだから半分そうなんだけど。ついでに言うとおっさんじゃなくてまだ“おにいさん”だけど。
「大神君、海崎君」
席を立ち教室から出ようと扉のほうへと向かおうとしたら、笹原先生が俺と海崎さんを呼び止める。
「はい、何ですか?」
笹原先生から呼び止められた瞬間、もしかしてテスト中に赤間にシャーペンと消しゴムを貸したことで呼び出しを食らったかと思い心の中で焦ったが、海崎さんのことも呼んでいたことに気付いて100%違うことは考えるまでもなく分かってすぐにそれは安堵に変わった。
「ちょっと2人に話したいことがあるから、進路指導室まで来てほしいんだけどいいかな?時間はあまりとらないから」
「はい。了解です」 「分かりました」
そして呼び止められた俺と海崎さんは、笹原先生に連れられる形で進路指導室へと向かった。
「失礼します・・・」
笹原先生に連れられて1階にある進路指導室に入ってみると、別のクラスの生徒の男女2人組が担任と思われる先生と面談のようなものを受けていた。
「(・・・お疲れ様です)」
「(・・・どうも)」
と、実際に心の中で言っていたまでは分からないが、無意識に社会人だったときにすっかり染み付いてしまった挨拶の癖で通り過ぎ様に軽く会釈をしたら、2人のうち男子生徒のほうから通り過ぎざまに“どうも”と言わんばかりの会釈を返された。パッと見だと明らかにどこにでもいる男子高校生という感じだったけど、どことなく所作に高校生とは思えないくらいの“余裕と落ち着き”を感じた。
“・・・あの人ってひょっとしたら・・・いやまさかな・・・”
「何か忘れ物でもしたか?大神君?」
「え?あぁ、何でもないです」
面談のようなものを受けている2人をボーっと見ていたら笹原先生が声をかけられ、慌てて視線を前に戻して簡易的な仕切りの奥にあるスペースの席に座る。俺と海崎さんと同じく普段から着ている感じが全くしない真新しい制服の2人に“ひょっとしたら”ということが頭に浮かんだが、さすがにそれは考えすぎだと頭の中を冷静にする。これは間違いなく俺が“薬で高校生に若返っている”という特殊過ぎる環境にいるせいで感覚が過敏になっているだけだ。
きっと2人は俺と海崎さんと同じで今日ここに編入してきたばかりの生徒で、同じように面談か何かで担任の先生から呼び出されていたんだろう・・・厳密に言うと俺と海崎さんはあくまで“リライフ”のために編入したから、事情は全然違うけれど。
“まぁでも、もう一人は別に違和感はなかったし・・・”
ちなみに一緒にいた眼鏡を掛けていた女子生徒は会釈した俺とほんの一瞬だけ一瞥したらどこか恥ずかしそうに視線を逸らした。1秒たりとも面識すらなかった人から会釈されたら社会人ならともかく、まだ社会に出たことのない高校生だったらそういう気まずいリアクションになるのは何も不思議なことじゃないから、隣にいた女の子のほうは“多分”違う・・・
「笹原先生、あそこにいる2人ってもしかして“編入生”ですか?」
「ん?そうだけど・・・良く気づいたね」
「あぁいや、気づいたとかじゃないんですけど、何となく着ていた制服が俺と同じでやけに真新しく見えたんで、もしかしたらそうなのかな~と思っただけです」
「気づくのは勝手だけどあんまり人のことを“覗き見”するのは良くないぞ、大神君?(あんな一瞬でよく気付けたな。探偵かこの子は?)
「いえ、全然そんなつもりはなかったんですが・・・以後気を付けます(“覗き見”て・・・)」
なんて余計なことを頭の片隅で考えたまま笹原先生に聞いてみたら、誤解だとはいえもっともな正論を返されて今度こそ俺は我に返る。
「(プッ、優等生の頭の良さと洞察力の高さが裏目に出ましたねw)」
と心の中で思っているのかは分からないけれど、隣に座る海崎さんは必死に笑いをこらえていた。もちろんこれは俺の自業自得だ。昼休みに海崎さんから“普段の冷静さを失っている”と指摘された通り、今日の俺は慣れない環境に置かれているせいか明らかにいつもより調子が悪い。
“・・・ていうか、さっきから何やってんだ俺・・・”
「まぁそのつもりがなかったのならいいや。そもそもこの学校は桜咲大学の附属で入ればそのまま大学に進学できるから、毎年春に編入生が入って来ることは珍しくないんだよ」
「なるほど」
「もちろん内部進学でもちゃんと入試は受けてもらうことになるけどね」
「はい、それは理解しています」
ひとまず覗き見したつもりは全くないことはある程度理解してくれたらしく、笹原先生はそのことには言及せずに俺たちや海崎さんに向けて面談を始めた。
「2人は一日を終えてどうだった?この学校?」
「そうですねー、まだ今日転校してきたばかりなので何とも言えないですけど、雰囲気は良いですよね」
「特に大神君なんかは初日からいきなり城野たちと仲良くしていた感じだし」
「いやぁあれは成り行きでそうなっただけというか」
「赤間にも筆記用具を貸してくれたしね」
「さすがにほっとけなかったので(やっぱりバレてた・・・)」
「ただ次から筆記用具を貸すのは休み時間の間にするように。せっかく助け舟を渡してくれたところ悪いけど、忘れるのは基本的に生徒の“自己責任”だからね?」
「あはは、すいません」
話の流れでテスト中に赤間にシャーペンと消しゴムを貸していたことが普通にバレていたことが分かったついでで軽く注意を受けたものの、面談自体は例えるとしたら入社して1か月ほど続いた研修期間を終えたときに受けた個人面談に近い雰囲気で、クラスや学校自体の雰囲気はどうだとか、2人とも1人暮らしで大変そうだけど大丈夫か?みたいな、大方予想していた通りのことをいくつか聞かれるようにしてスムーズに進んでいった。多分、さっきの2人の編入生もこんな感じで似たようなことを面談で受けているのだろう。
「ところで今日のテストの出来はどうだった?と言っても、先生の前じゃ言いづらいか」
「そうですね、ぶっちゃけ言いづらいかもですね(とりあえず今日のテストは余裕かな)」
「一応復習はちゃんとしてきたので、平均は行きたいですね(担当者という立場上、テストで赤点だけは何としても回避しなければ・・・)」
「でも始業式の日にテストがあるのは珍しいですよね?(俺にとっては普通だけど)」
「言われてみればそうだよね。確かこの辺だと青葉ぐらいじゃなかったかな始業式と小テストを同じ日に行う学校って」
「へぇ~、そうなんですね(うん、知ってるけど)」
「めんどくさいでしょ?正直なところ?」
「いえいえ全然(まぁ、青葉以外にもあったんだってちょっとだけ驚いたけど)」
「海崎君は?」
「事前に知っていればどうってことないです(こんなところで去年の経験が生きてくるとは・・・)」
しかしこの笹原という先生は、本当に生徒の1人1人を大事にしているというのが雰囲気や言動から伝わってくる。もちろん生徒や部下を大事にするというのは何でもかんでも甘やかして優しくするわけではなくて、叱るべきところはきちんと叱る厳しさも兼ね備えた“本当の優しさ”を持って寄り添いながら見守っていくということ・・・だと、俺は思っている。
“『チッ、邪魔なんだよ』”
少なくとも目の前にいる笹原先生や隣に座る海崎さんと同年代ぐらいの同僚に比べたら、
なんて・・・立ち止まって考える余裕すらもなかったからここまで来てしまったのだけど。
「それで今から話すことで最後になるんだけれど・・・・・・」
そうこうしているうちに、15分ほど続いた笹原先生との面談は終わろうとしていた。
「まず最初にこういう話を編入初日からしなければいけないことは、先生として本当に申し訳なく思う・・・でも、これから言うことはどうか理解して欲しい」
するとそれまで和やかに話していた笹原先生が、まるでリライフの記憶に関する説明をしていたときの海崎さんのように真剣な表情を浮かべて俺と海崎さんを真っ直ぐに見つめ始めた。
「・・・はい」「・・・・・・」
何が何だか分からないが、本当に申し訳ないと思っていることのが伝わった俺はただ“はい”と相槌を返すことしか出来なかった。隣に座る海崎さんは事情を既に知っているのか、無言で頷いていた。
「・・・もう3年生の生徒はみんな知っていることなのだけれど、実は君たちと同じ3年生で1人だけ事情があって別室登校という形で授業を受けている子がいて_」
「海崎くんは知ってた?さっきの話?」
笹原先生との面談を終えて、昇降口の玄関へ向かう途中の廊下で俺は斜め後ろを歩く海崎さんに面談で聞かされた話のことを聞く。
「そりゃ当然でしょ、だって」
「そのくだりはもういいっつってるでしょ」
「ったく冷たいな~タカは」
「気安くタカって呼ぶなよ。言っとくけどまだ転校初日なんだからな俺たち?」
ちなみに学校の中でクラスメイト同士が敬語なのは万が一誰かに見られていたら怪しまれる可能性もあるため、俺は校内では海崎さんに対しては極力“タメ口”で話すことにした。食堂で話したときは“違和感”のせいで調子が狂ったけれど、いざ自分の中で海崎さんをクラスメイトとして“割り切って”みたら意外にも容易く薬で若返った
「“昔のタカ”はもっと愛想が良くて明るかったはずなんだけどな~、それこそ城野くんみたいにさ?」
母さんが家を出て行く前までの俺と、母さんが出て行った後の家族を守ろうと必死になってムードーメーカーを演じていた俺のことを知っているであろう海崎さんは、時折こうして悪魔のように容赦なく俺の
「・・・そんなことないっつの」
もちろんこれは海崎さんなりの荒療治みたいなもので、悪いのはそんな
「けど良かったじゃん。タカの“予想”、見事に当たったし」
「うん・・・良くはないのだろうけど」
脳内での自分語りを終わらせて、海崎さんからの揶揄い半分の一言に乗っかり話を戻す。
「・・・とにかくこれは、俺が何かしたところでどうにかできるレベルの話じゃないと思う・・・・・・ただでさえ俺は編入生なのに・・・」
教室の後ろ側の扉に一番近いところにポツンと空いていた
“『この先どうなるかは“本人”の気持ち次第になってしまう以上やれることは限られるけれど・・・・・・2人にも“同じクラスの生徒”として“
笹原先生が明かしてくれたその女子生徒の名前は、
“・・・本当・・・大変だろうな・・・”
生徒だって1人1人が人間で、勉強やスポーツがもの凄く出来る子がいれば、どっちかに偏った子もどっちも苦手な子もいて、性格も生い立ちもみんながみんな違う。みんながみんな違うから時にはそれがきっかけで喧嘩や諍いが起こって、一つの諍いや喧嘩が発端になっていじめや取り返しのつかない事態に発展することだってある。
教師はそういうリスクを抱えている何十人もの繊細な子たちの前に立って、時には厳しいことや煩いことを言って“嫌われ役”を買って出なければいけないことだってある。そのくせ年頃の“子”には
“・・・口だけで何も出来ないくせに、同情なんかするなよ・・・”
実際に高校生だった頃の俺もそうだった。あの頃の俺は、家庭の事情を知って手を差し伸べようとしてきた
あれから約8年、社会人になって心が完全にぶっ壊れたのを経た今なら教師の仕事がどれだけ過酷なのか、そんな過酷な仕事を毎日こなしながら先生として常に前を向いて生徒と向き合い続けていることの偉大さがよく分かる。まぁ、教師の全員がそうだとは限らないのが現実なのだろうけど。
“『とにかく大神君も海崎君も、ただでさえ受験で勉強が忙しくなる3学年のタイミングの編入で色々と大変な思いをさせてしまう形になってしまったけど、
最後に笹原先生が気丈に振る舞いながら俺と海崎さんに向けて言った“クラスのみんな”の中には、“千鳥”も含まれていた。
「・・・言っておきますが、僕が相談に乗れる範囲には限界がありますのでその辺はご了承を」
玄関へ向かって歩きながら呟いた独り言に、海崎さんは控えめな笑みを浮かべ一瞥して“担当者”として忠告をする。
「もちろん分かってますよ。今のは全部“独り言”なんで」
「そうですか。独り言にしては随分とボリュームが大きかったのでまた相談しに来たのかと」
「本当に相談するなら事前に言いますよ」
“リライフ”をしている意味など言われなくても分かっている俺は、迷いなく海崎さんに“大丈夫”と伝える。詳しい理由はどうであれ、クラスメイトが1人だけ別室登校になっている現状は良いわけがない。でもだからといって当の本人が今の現状を望んでいるのなら、下手に周りが色々と動いて余計な刺激はしない方がいい。そもそも俺は、千鳥のことを名前以外は何も知らない編入生だから、尚更だ。
「だけど・・・何だかもどかしいですね。このままじゃ駄目なのは目に見えているはずなのに、かと言って周りが色々と世話を焼いたところでそれが本人の為になるとは限らない・・・」
結局このことを知ったところで、俺に何かが出来るわけではない。先生や近しい関係の友達は相談や話し相手になって心のケアをすることは出来るけれど、そこから自分がどうするのかは最終的に本人次第になってしまう。そんな状況で何も知らない俺がアクションを起こしても、余計なお節介で終わるのは目に見えている。
“『リライフ・・・してみませんか?』”
ヒキニートだったこの俺をこうして外へと連れ出したお人好しな海崎さんだったら、きっと何も迷うことなく千鳥に会いに行って話をして仲良くなっていくのだろう。けれど、俺は海崎さんのように見知らぬ人とすぐ打ち解けられるような人柄もなければ、勇気もない。
「・・・いっそのこと俺には関係ないって“割り切れる”ことができたら、どれだけラクなことか」
昇降口に着いて上履きからスニーカーに履き替えざまに、俺は半分海崎さんに愚痴る形で独り言を呟く。当然こんな言葉を吐いたところで現実は何も変わるはずはない。
「逆に貴臣さんが“割り切れない”でいるのはどうしてなのでしょうかね?」
「・・・・・・」
そんな俺に、真ん前で同じく上履きからスニーカーに履き替えた海崎さんは優しく笑いながら躊躇なく問われた独り言の本質を逆に問う。
「・・・そんなの、俺だって分からないですよ」
どうして俺は心の根底の中で“人が傷ついているところはもう見たくない”と思っていながら、割り切れないでいるのだろうか。自分なんて関係ないと割り切って、深いことなんて何も考えず、千鳥が1組に復帰したらクラスメイトの1人としてただ受け入れて、特に話しかけるでもなくただの同じクラスの人として無難に接していくほうが圧倒的にラクなはずなのに、そうすれば誰も傷つかないで済むかもしれないのに・・・
「・・・ただ・・・そうやって何でもかんでも器用にこなして生きられる人間だったら、“こう”はなってないってことだけは分かります」
「うん、それは俺もよーく分かるぞ☆」
「とりあえずそのニヤケ顔を1発ぶっ飛ばしていいすか?(若返ると余計ムカつくなこのニヤケ顔)」
「あははは、暴力行為は普通に犯罪だからねタカ?」
「ったく、人が真剣に悩んでるときにアンタって人は・・・」
1つだけ確かなことは、俺は自分本位で生きていけるような“器用”な人間なんかじゃないということ。
「・・・まぁでも、今日は担当者として貴臣さんのことがまたひとつ分かって、僕は安心しましたよ」
「・・・何がですか?」
それ以外のことなんて、目の前のことで精一杯な俺には分からない。
「それは自分でじっくりと考えてください」
「ハイハイ。そうでしたね」
そして目の前のことで精一杯な俺は、またしても無意識に“答え”に甘えて、海崎さんから“不正解”を告げられる。
「・・・とりあえず今日一日で、リライフを通じて治していかないといけない自分の欠点は分かりました」
ほんと、ちょっとだけ視点を変えればすぐに分かることにどうして気付けなかったのか。人の心配をする暇があるなら、先ずは自分の心配をしろっていう簡単な話だ。自分が何をしたいのか明白でもないのに会ったことのない人のことであーだこーだ悩んでいては、自分のための時間が無駄になる・・・と、理解したところですぐに割り切れる器用さは、残念ながら俺にはない。
「だから・・・先ずは
そんな俺にいま出来ることは、
“・・・周りのみんなは自分と8つも違う本物の高校生だから不安で仕方がないはずなのに、初日からそうやってクラスのみんなと仲良くなりたいって堂々と言えるタカは、本当に偉いよ・・・・・・だからもっと、そう思える自分に自信を持っていいのに・・・”
「そうですか・・・では貴臣さんなりの“答え”は見つかったということで、ぼちぼちと帰り」
「ついでと言っては難ですが、帰る前にどうしても海崎さんに聞いておきたいことがあります」
ひとまず話が一段落して家路につこうと出口へ歩き出した海崎さんを、俺は呼び止める。
「・・・はい。何ですか?」
もちろん呼び止めたのは、笹原先生から聞かされた一件とは別でどうしても気になっていたことがあったからだ。
「この学校って・・・俺以外にも“被験者”として通っている生徒がいたりするんですか?」