キーンコーンカーンコーン_
“・・・さてと、昼はどうするか・・・”
4限目の授業が終わって、昼休みの時間になった。昨日はどうしても“気になった”ことがあったばかりについつい同じく“大人”の海崎さんを呼んでしまって本末転倒なことになってしまったが、だからといって1人でお昼を食べるというのもそれはそれで寂しすぎる。
“赤間は・・・っていねぇ・・・”
ひとまず昨日のテストで筆記用具を貸した赤間を誘おうとしたが、あの一匹狼ときたらチャイムがなった直後にはいつの間にか何処かへといなくなっていた。カフェテリアに行ったのかは知らないけど、そんなに1人になりたいのかあの子は・・・
“・・・まぁ、俺もあんまり人のこと言えないけど・・・”
「貴臣、昼食おうぜ♪」
テスト返しの後に起きたちょっとした出来事を思い出しながら教科書を机の中にしまう俺に、数学でたった1問だけ“凡ミス”をしたことでクラス1位を逃した城野が上機嫌に話してきた。
「うん、いいよ」
「ついでに隣のクラスにいるヤツも一緒になるけど行ける?」
「隣・・・もちろんOKだよ。せっかくの機会だし」
「おっしこれで貴臣は決まりっつーことで海音はどうする?」
「おれ?・・・いくわー」
城野の言っている“隣のクラスにいる奴”が誰なのかは気になるところだけど、ひとまずはこれで海崎さんと昼を食べる次にやってはいけない選択肢の1人飯を回避できた俺は、城野と宇島の2人と一緒に食堂へと向かった。
「あれ?さっきまで新太もいたよな?」
「・・・あらた?・・・あー、もしかして“じゃないほう”の編入生?」
「“じゃないほう”とか言うなよ海音、かわいそうだろ?」
「ごめん。でも相変わらず“シン”は変なところで優等生キャラが出てくるよね?」
「一応これでも“優秀生徒”だからな。あぁそうだ、貴臣は新太のこと知らない?」
「うーん、ごめん見てなかった(多分ちょっと離れたところから観察しているんだろうけど・・・)」
ちなみに“じゃないほう”・・・もとい海崎さんは赤間と同じくいつの間にかどこかに行ってしまった。もちろん彼の場合はサポート課の仕事があるためやむを得ずだろうけど。
「よっす拓巳」
「!?」
城野と宇島という個性派の面子でカフェテリアに向かうと、入り口のあたりにあるメニュー表をじーっと見ている“
「うわビクった~何だお前らかー・・・ってアレ?何か1人多くね?」
というか昨日のクラス分けで隣の3年2組になっている彼のことは、何だか初めましてじゃない気がして明らかに見覚えがあった。
“『待って拓巳だけクラス違くね?』”
“『嘘だろ?』”
「そりゃそうだろ初めましてだからよ?」
「(初めましてだけど実は知ってるんだよなぁ俺・・・)うん、確かに」
思い出した。彼は昨日のクラス替えで悲しくも“4人組”の中でたった1人だけ違うクラスに割り当てられてしまった可哀想な“いじられキャラ”・・・なんて感じで覚えていたことを本人に言ってしまうのはそれこそ本当に可哀想だから、あくまで完全に初対面の設定で俺はいく。
「大神貴臣です。つい昨日編入してきたばっかだからこの学校のことはまだよく分かってないけど、よろしく(昨日と今日で何回言ったんだこれ・・・)」
もう何度目かになる自己紹介。相手が上司やお偉いさんじゃなくて年下の高校生だからというのもあるのか、良い意味で緊張感がなくて気楽だ。
「大神・・・・・・もしかして“100点”?」
「100点?」
「ほら、今日のテストで全部100点だった1組の編入生ってお前だろ?」
こんな感じでこの2日間でやり慣れた“高校生っぽい”自己紹介を今までと同じようにすると、隣のクラスの彼は驚いた様子で俺に向けて指をさした。
「あぁうん、そうだけど何で知ってんの?」
もちろん、当事者の俺には“100点”の意味は一瞬で分かった。
「
「すげぇなマジか!城野をいきなり超えるなんてさ!?」
桜咲に編入してから最初のテストになる始業式後の小テストで、俺は国数英の3教科全てで100点をとった。当然いきなり全教科で満点をとった編入生のことをみんながノーリアクションでやり過ごすことはなく、編入2日目にして早速俺はクラス中から注目の的になった。
「良かったら次の中間よかったら俺に教えてくれない?ぶっちゃけ自信ないんだわ」
「やめなよ、そんなこと言われても大神くんが困るでしょ?」
挙句には俺に次の中間テストのときに手伝ってほしいと言ってきたやつもいた。悪気がないのはノリの感じで何となくは分かったが、人から自分の成果を注目されるのが久しぶり過ぎて、気が付くと俺の頭と心の中は次第に恐怖で埋められ始めていた。
「いや・・・言ってもマグレだし、まだ3教科だけだからね」
当然ながらこの間までヒキニートだったとはいえ“大人”な俺はそんな心情を微塵も出さずにバイトと社会人で培った“営業スマイル”でやり過ごした。
「だとしてもすげぇじゃん。てか勉強とかどうやってんの?」
というか100点をとった俺を取り巻くクラスメイトに悪気はなくて単純に褒めているだけだったから、そもそも怒りようがなかった。別にテストで良い点をとった人のことを褒め称えるのは当たり前のことだし、覚えてないけどそういうのはきっと俺だってやってきていると思う。
「・・・・・・」
ちなみに一匹狼の赤間だけは俺が100点を取ろうが無関心を貫くように自分の席で大人しく窓の外を眺めていた。
「なぁ~貴臣ばっかに構ってないでオレのことも褒めてくれよ~、オレだって数学のケアレスミスがなかったら同率で1位だぜ?」
無関心な一匹狼に視線と意識を移していると、城野が半ば無理やり話の中に割って入って主導権を横取りしてきた。
「別に城野はいつものことだからいいだろ?」
「ひでぇなオイ、何ならこの“優秀生徒”様が貴臣の代わりに手取り足取り教えてやろうって言ってんのによ?」
「お前の教え方は“感覚派”すぎてわけわかんねぇんだよ」
「ハハハッ、それな~!」
「自覚あんのかい」
「だって凉からすっげぇ言われるし」
それが無意識に委縮した“俺のこと”を気遣っての行動だということは、俺へと向けられたほんの一瞬のアイコンタクトで察した。本当に城野が底抜けに良い奴だっていうのが分かるから、素直になろうとしても肝心なときに過去のトラウマが邪魔をして卑屈になる自分が余計に情けなく思えてくる。
“『何なん大神のやつ?1年目の分際で俺らより良い営業成績出しやがって』”
“『そのくせ俺たち同僚の先輩との付き合いは最悪だし。何あれ?イケメンだったら何でも許される的な?』”
“『はぁぁー、マジで人生イージーモードで羨ましい限りだわアイツ・・・』”
「ちょっとトイレ行ってくる」
「おう、チャイムなるまでには戻れよ?」
「大丈夫、さすがに戻るよ」
結局久しぶりに注目されるという状況に動揺して居たたまれなくなった俺は、またしても越えなければいけないトラウマから目を背けて逃げるように休み時間の残りをトイレで潰した。
「・・・やばいな、有名人じゃん俺」
人の噂は風のように流れていくのは学校も社会も同じだけど、高校のような“閉鎖的”な空間だとそれがより一層素早く人伝に伝わっていく。これもまた、“学校あるある”だ。
「ていうか、名前は?」
「おう悪ぃ悪ぃ、俺は2組の
「ちなみにこいつはリードギターね」
「へぇ~、そうなんだ」
それで肝心の隣のクラスの彼は、鞍手拓巳。自己紹介の通り宇島のバンドでギターをやっているという。ついでに言っておくと他の3人に比べると、何だか特徴がなくて雰囲気がパッとしない。絶対に本人には口になんかしないけれど。
「んなことより早く中入ろうぜ?こんなとこでずっと突っ立てるわけにもいかねぇし」
「確かに」
ひとまず“隣のクラスのやつ”のフルネームが分かったところで、俺は鞍手の何気ない一言でネガティブになりかけた気持ちを瞬時に切り替えて“いつもの面子”に混じって食堂の中に入った。
「しゃあ、これで貴臣のLIMEゲットっと」
「タカの名前ってこう読むんだ」
「そうだ、ついでに衛士のLIMEも貴臣のトークに送っとくわ」
「サンキュー城野くん」
「つーかオレのことは真太郎とか適当なあだ名で呼んでいいぜ貴臣?」
「そう?あだ名かー・・・・・・じゃあ、“
「“城くん”・・・生まれてこの方初めてだわそのあだ名付けられたの」
「ごめん、嫌だったらやっぱ普通に城野くんに戻すけど」
「全然どころか“ありよりのあり”」
「そっか、よく分かんないけど気に入ってくれたみたいで良かった(“ありよりのあり”はよく分かんないけど・・・)」
そして各々で頼んだ昼食を食べがてら、俺は行橋以外の“メンバー3人”とついでに城野から勝手に送られる形で赤間の連絡先を交換した。すっかり使い慣れたからもうどうってことはないとはいえ、メールの手段がガラケーのメールからスマホのLIMEに切り替わったことで世の中は大分便利になったな・・・と、ガラケー全盛の時代を生きていた大人の俺は思う。
「てか大神って意外とラフだよね?」
「ラフって?」
「だって俺、テストで全教科100点とったって聞いてすっげぇ融通利かないクソ真面目な優等生を想像したからさ?」
「あーははっ、まぁ気持ちは分かるよ(分からなくはないけど偏見がすげぇなオイ)」
「そういう偏見はマジでよくねぇぞ拓巳?」
「あぁそうだ、この“銀髪ピアス”も優等生だった」
「そもそもシンを普段から見てるタクがそんな時代遅れでステレオタイプな発想に陥ることがおれには不思議だよ」
「
俺のことを勝手にガリ勉の優等生だと思い込んでいた2組の鞍手を、城野と宇島が容赦なく弄り倒す。この会話だけでも、鞍手は“いじられキャラ”のポジションなのがよくわかる。もちろんこれは決して悪い意味なんかじゃない。
「つーか今日の放課後どーする?」
「いきなりだなオイ?そりゃ普通に自主練かオフでしょ。だって
「えっ?宇島くん以外のみんなってバイトしてんの?」
「おう。
「ガチでバンドやってると機材やらスタジオ代やらレコーディングやらでライブだけじゃ回せないしな」
「そうなんだ・・・他人事になっちゃうけどすごく大変だね」
「大変だけどオレたちは音楽を“好き”でやってるから、だから楽しいよ」
「そっか・・・でも逆に宇島くんはバイトしないんだ?」
「おれは曲書いててそんな暇ないから」
「曲?・・・あぁそういえば自己紹介のときに言ってたねそれ(微妙に理由になってない気がするけど・・・)」
「
「へぇ~(まぁ、そんな感じは何となくするけど・・・)」
「だけど吹奏楽とか“学校指定の部活”以外は文化祭とか有事じゃないと校内に楽器を持ち込めないって謎の校則のせいで全然オレたち説得力ねぇけどな」
「あれなー、ほんと
「マジでそれ」
「何だろ、城くんのおかげで説得力がすごいな・・・」
口を開けば、社会人とヒキニートを経てすっかり忘れかけていた学生らしさの溢れる本当に自然な会話のノリが、テーブルを囲んで進んでいく。自分たちで曲を作ってライブをしたりしている“音楽ガチ勢”な3人も学校にいるときはちゃんと“高校生”をしていて、何だかそれが妙に微笑ましく思える。
“・・・ほんと・・・たかがテストでいきなり満点を取ってちょっとみんなから注目されただけでトイレに逃げ込んだ俺が、余計に情けない・・・”
「あれ?大神くんが“
こんな具合で自分たちのバンドの話で盛り上がる3人を見て無意識にまたネガティブな気分になりかけていたところに、昼を食べ終えたであろう黒崎が行橋と一緒に俺たちの座っているテーブルのところにやってきた。
「“ペンギンパーク”?・・・何それ?」
のだが、黒崎の口から開口一番に“ペンギンパーク”という聞いたことのない単語が出てきたものだから、俺は思わず聞き返した。
「宇島くんのバンドの名前だよ」
「ペンギンパーク、っていうんだ?」
「ちなみにバンド名は英語表記で、命名したのはおれじゃなくて“はっすー”だけどね?」
「“はっすー”?」
「凉のことだよ」
「(はっすー・・・確かに言われみれば)・・・そうなの行橋さん?」
「・・・うん」
そういや宇島たちのバンドの名前を聞いていなかったけれど、黒崎曰く名前は英語表記で“
「って言っても、バンド名を決めるときに適当なノリで名前を言い合ってた流れで思いついた名前だから、深い意味とかはなんにもないし・・・ぶっちゃけ変でしょ?この名前?」
ちなみにこのバンド名を決めたのは“はっすー”こと行橋で、当の本人はノリで決めたバンド名の由来をやや自信なさげなテンションで俺に教えてくれた。
「ううん、俺は
命名した行橋は適当に思いついただけと謙遜しているが、俺的には“飛べない鳥”を由来にしたこのバンド名には普通に行橋のセンスが溢れていると直感で感じた。
「だってよ凉、良かったじゃん」
「いや・・・大袈裟だって」
「あ、分かりやすく凉が照れてる」
「照れてないってば愛火」
自らが名付けたバンド名を俺から褒められた行橋は、城野からの言葉に分かりやすくクールさで装いながら恥ずかしがる。本当にこの“黒髪美人”は一緒にいればいるほど面白い一面が出てきそうで、赤間とは違う意味で微笑ましい。人見知りなところがありそうな本人からすればちょっとだけ迷惑かは分からないけど、こういう“ギャップ”にみんなから一目置かれ好かれる理由が凝縮されている・・・と俺は勝手に思う。
「(・・・やっぱ可愛いわこの子)」
これを要約すると、行橋は“可愛い”ということだ。もちろんそこに恋愛的な感情はない。1年後には消える存在が間違ってそんなことをしたらそれこそたった一度しかない彼女や周りのみんなの思い出や青春を“台無し”にしてしまうから、思うがままにリライフをするにしても恋愛だけは絶対にしないと俺は決めている。それでも行橋が可愛いのは事実だけれど。
「・・・ていうか、大神くんも大神くんだよ」
「えっ、俺?」
「その、嬉しいっちゃ嬉しいんだけどいきなりそんなふうに言われても困るっていうかさ・・・」
そんな行橋から俺は、泳ぐ目と控えめなトーンで理不尽に注意される。ただ、結局は彼女のそんなところが一番可愛いから困る。
「あぁ、ごめん・・・でも、本当に“良い名前”だな~って思ったからさ」
「///・・・だから、そういうのが困るんだっての」
「あれ?凉っちひょっとして」
「それはないから鞍手は黙って」
「まだなんにも言ってないんですけど俺?(いつになったら凉っちは俺のことを下の名前で呼んでくれるんだろう・・・)」
「(何故だろう?何だか俺まで巻き添えを食らった気分・・・)」
なんてことはともかく、こうして仲の良い連中が一同に揃ってそこまで中身が詰まってなさそうな話ひとつでみんなが笑い合って盛り上がるみたいなこんなありきたりでちょっとだけ幸せな日常が、いまの俺にとってはシンプルに心地よく思えてくる。
「あっ、そうだ。凉は今日の放課後どうする?」
「どうするって今日は普通に海音以外はバイトじゃなかった?」
「そーだけどバイトが
「今日が6限終わりだったらスタジオ行って普通に練習できるんだけどね?」
「それなー」
「・・・なぁ、オレからの提案だけどいっそ今日は“テスト終了記念”っつうことでオフにしてこの面子で適当になんか遊ばね?」
「あ~なるほど、いいじゃんそれ!最近こういうのやってないし、なんだかんだで無事にみんな赤点ナシでテストも乗り越えたことだし」
「赤点ナシっていうけど“マナティ以外”は余裕で安全圏だからねおれたち?」
「わかっとるわ」
「というかマナティって“漫研”なかったっけ?」
「漫研は火曜休みだから
「ていうかさっきからストイックな音楽バカの“あの海音”が珍しく乗り気だな?」
「曲を作るっていうのはただギターとか鍵盤に触れるだけの繰り返しじゃ限界があるからね。それに比べて外の世界には譜面じゃ伝えきれないインスピレーションが転がってるから、“遊ぶ”っていうのもおれにとっては重要な作業なんだよ」
「すまん平常運転だったわ」
“『おいタカ、今日カラオケ行かね?』”
“『ごめん、バイトあるから俺はパスで』”
ついこの間までの俺はそういう日常から目を背けて自分勝手に突っ走っていたから、余計に心にしみるものがある。
「貴臣って今日の放課後はヒマ?」
「俺?・・・全然暇だけど?」
「だったら授業終わったらオレらと一緒に適当にその辺ぶらっと行こうぜ?時間はあんまないけど100点とったご褒美的な感じでさ?」
なんて勝手にかつての学生時代と今を比べて思い耽けながらみんなの話を聞いていたら、俺は城野から放課後にみんなと“遊び”に行かないかと誘われた。
「じゃあ・・・お言葉に甘えて」
もちろん、放課後の予定が何もない“帰宅部”の俺に断る理由はなかった。
【人物紹介】
・鞍手拓巳(くらてたくみ)
9月13日生まれ B型 17歳(第22話時点)
身長:174cm 髪色:緑がかった黒 一人称:俺
イメージCV:山下誠一郎