ヒキニート、高校生になる   作:ナカイユウ

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ヒキニート、10年ぶりに遊ぶ

 「なぁ、着いたはいいけど今からどうする?」

 「自分から言っておいて決めてなかったんかい」

 「いやさ、こういうのって案外ノープランで“成り行きに任せる”ほうがいいってもんっしょ?」

 「“優秀生徒”とは思えないバカ同然の発言だな・・・」

 

 2度目の高校生活2日目の放課後、7時限目の授業が終わった俺は城野たちと一緒に“東口”へ寄り道をしていた。東口(ここ)に足を踏み入れるのは、大学時代のバイト先以来だ。

 

 「けど海崎くんが来れなかったのは残念だったね」

 「あ~ね~、結局海崎くんは何で来れなかったの?」

 「オレ新太に声かけたけど、なんか外せない用事みたいなのがあるってさ」

 「外せない用事って?」

 「そんなん知らんがな」

 「ていうかタカは何か聞いてる?その、“何とかカントカくん”のこと?」

 「ううん、俺は何も。あと海崎くんの名前覚える気ないでしょ宇島くん・・・(ドンマイ、海崎さん)」

 

 ちなみに海崎さんは適当な理由をつけて城野からの誘いを断った。ついでに肝心の小テストは、本人曰く“ギリギリ平均点”らしい。ギリギリで行ったのか行かなかったのかは、聞かなかったけれど。

 

 「(普段から観察するくらいなら海崎さんも城野たちと来ればもっと楽に仕事できそうなのに・・・)」

 

 ただ誘いを断ったといえど、池袋の人混みに紛れて俺のことをずっと見ているのは“被験者”として容易に想像ができる。いや、“ひとりぼっち”で観察するぐらいだったら俺たちと一緒に遊べばいいじゃん・・・と、だからといって無理やり“担当者”を連れ回すのもそれはそれで業務妨害になりそうだから結局は海崎さんの好きなようにさせているのだけれど、俺的には何だか海崎さんが少し不憫に思えてくる。

 

 「てか真太郎、直接聞いたんならせめて理由聞いとけよその転校生に」

 「えぇ~、だっていきなり根掘り葉掘りを無理に聞いたら新太が可哀想じゃね?」

 「ほんと真太郎(おまえ)は変なところで“いい子ちゃん”だよな」

 「こう見えて“優秀生徒”ですから~、残念っ」

 「褒めてねぇしネタも古いわ」

 「ていうか城くん、あの“紋章”外したんだ?」

 

 と、ここで桜咲高校の“トリビア”をひとつ。優秀生徒の証でもある桜咲高校の紋章(エンブレム)は・・・・・・“磁石式のバッジ”になっているため制服から簡単に取り外すことができる。俺個人の意見としてはシルバーピンならともかく、あのエンブレムを毎日胸ポケットのところにつけて登校するのはぶっちゃけ自慢してるみたいで少し恥ずかしい。

 

 「あぁ“紋章(あれ)”な。始業式んときにあれを付けてたのはあくまで自己紹介のためってだけ。さすがにあんなの毎日付けてたら自慢してるみたいで嫌っしょ?」

 

 そして意外なことに、一発芸のように“優秀生徒”のアピールをする城野もどうやらそのクチだったみたいだ。

 

 「そうなんだ・・・“優秀生徒”って普段から言ってるからシンプルに付けるのを忘れてきたのかと思った」

 「忘れるって貴臣、いっとくけどオレはそこまでバカじゃないぜ?」

 「へぇー、なぜならそれは?」

 「“優秀生徒”だから☆」

 

 恐らく“優秀生徒”のことだから素で忘れるようなことはないだろうなんてどうしようもない推理を片隅に置いて城野を乗らせてみたら、左斜め後ろを歩く俺に視線と呼吸を合わせてノリノリで決めてきた。

 

 「ハハハッ、やっぱサイコーだわ貴臣!」

 

 得意の“お家芸”が決まったと言わんばかりに、城野は絵に描いたような満面の笑みで左斜め後ろの俺の肩に軽くグーパンをして大袈裟に褒める。

 

 「やっぱ大神ってさ、結構ノリいいよな?」

 「そうかな?」

 「抜群のコンビネーションだったよ大神くん」

 「いやいや大げさだって黒崎さん」

 「いっそシンとタカでコンビでも組めば?ちょうど1位と2位が揃ってるし」

 「コンビて」

 「オレと貴臣かー、案外マジでイケんじゃね?」

 「それ本気で言ってんの城くん?」

 「だったら1位,2位のノリで行くなら3位の凉も入れる?」

 「普通に私はパス・・・あと、大神くんも嫌だったら嫌って言っていいから」

 「うん、了解(あれ?なんかちょっとだけ“慣れてきた”?)」

 「あ、やっと凉が大神くんとまともに目を合わせて話した」

 「///・・・・・・もう一生愛火に勉強教えない

 「ほんとゴメンて凉~!」

 「あはは、まあまあ」

 

 こうして気が付いたら、周りに5人もいる“現役”の高校生を差し置いて薬で若返っただけの高校生が会話の中心になるという中々に複雑な状況になった。もしかしなくてもこれは、楽しそうに会話を弾ませるみんなを見て無意識に“充実”してた頃の血が騒いでしまった俺がつい馴れ馴れしく乗っかってしまったってことだ。まぁでも、人見知りな行橋がやっと初対面の俺の目をはっきりと見れるようになったから悪いことなんて何もないし、そもそも俺は“思うがまま”にこのリライフをすると決めている。

 

 「つーかマジでどこに行くか決めようぜ時間もねぇし」

 「いやさっきからずっと俺ら“真太郎(おまえ)待ち”してんだけど?」

 

 だけれど・・・肝心の“思うがまま”の加減は分からないし、こうやって高校生に混じって放課後に遊ぶということ自体にも、何だか“背徳感”みたいなものがある。

 

 「そうだ、貴臣はどうしたい?」

 

 

 

 

 

 

 “『いいですね(^-^) イケメン高学歴はなんの苦労もせずに人生うまくいって』”

 

 

 

 

 

 

 クソ・・・・・・“また”かよ。

 

 「貴臣?

 「?・・・ごめん、なんか言った?」

 

 何の前触れもなく度々襲い掛かってくる“フラッシュバック”にやられかけていた意識が、城野の声でハッと現実に戻る。こんなときにも“過去(むかし)”のことをネチネチと掘り返すとは・・・本当に俺って奴はみっともない。

 

 「貴臣が決めていいぜ。残りの約1時間をどうするか?」

 「あー・・・ごめん。俺まだ池袋のこと全然詳しくないからみんなに任せるよ」

 

 どこで時間を潰すかを決めずに東口まで来た城野から場所を決めていいと言われたけれど、如何せん“池袋(こっち)”に来たばかりの編入生の俺は殆ど何も分からないから、結局みんなに意見を仰いだ。

 

 「おう、そっか。まー確かに桜咲(こっち)に編入したばっかだから無理はねぇわな」

 

 というのは建前で、本当のことはここにいるみんなには言えるわけがないけれど、俺は大学時代のバイト先だったレストランが池袋の東口にあったこともあってこの辺の“土地勘”は何となくだけどまだちゃんと残っているから、どのあたりにどういう店があるのかは大雑把ながらいまでも把握している。ただし、4,5年前のことだからほとんど参考にならないだろうけど。

 

 「じゃ、とりあえず“ラウワン”でボウリングでもすっか」

 「結局“ラウワン”か~、ってそれだったらゲーセンとかダーツでよくね?あんま時間ねぇし」

 「1時間ありゃ1ゲームくらいなら行けるっしょ。んでスコアがビリのやつはプリクラ奢り」

 「うわドサマギで俺と海音が“負け確”のゲーム始めようとしてるぞコイツ」

 「ごめん、おれ急に頭ん中にイイ感じの曲が浮かんだから帰ってデモ録るわ」

 「オイ逃げるにしてももっとマシな嘘つけや海音(てめぇ)

 「というわけなんだけど大神くんもラウワンでいい?」

 「いいよ。どこ行くかは最初から任せてるし」

 「ちょっと待って真太郎、これって大神くんもビリになったら奢ることになるの?」

 「心配すんな凉、貴臣だけは駆け引きナシの“ノーカン”ってことでフツーに楽しんでもらうから」

 

 そんなこんなでサンシャインの方へと歩いていく道中で“奢りプリクラ”をかけた1ゲーム対決(※俺はノーカン)が始まったのはともかく、俺たちは城野の成り行きでこの先にあるという“ラウワン”に行くことになった。

 

 「でも池袋にラウワンがあったなんて知らなかったよ俺」

 「そうなんだ。あたしたちが高1のときにできたんだけどね」

 「へぇ~(どおりで俺が知らないわけだ・・・)」

 

 もう一度言うけど、俺が東口のバイト先で働いていたのはもう4,5年も前の話だから、当然“サンシャイン60通り”にラウワンがあったことは知らない。

 

 

 

 「赤間くんにも声かけてみる?

 「それはオレも一瞬思ったけど、衛士(あいつ)いま支部大会に向けて絶賛調整中だから多分無理

 「そっか・・・確かに陸上部とかって大会が近そうだからこの時期は忙しいよね?

 「何せ今年はインターハイ目指せる最後のチャンスだからな・・・ああ見えていつも以上に気合い入ってんだよ、あいつ

 「あの“オオカミくん”ってそんな強いの?

 「強いも何も陸上部のエースだよ。ていうか宇島くん知らなかったの?

 「シンプルに興味ない

 「酷いなオイ・・・

 「ま、大会があってもなくてもあの“陸上バカ”は自主練が最優先だけどな?

 「あははっ、ほんとにそれ・・・けど、“そういうところ”が衛士らしいっちゃらしいけどね

 

 

 

 ちなみに赤間は陸上の“支部大会”が迫っているというわけでそもそも無理だった。去年の関東大会であと一歩のところでインターハイ出場を逃したことを黒崎から聞いているから、これは普通に“最初で最後のインターハイ出場”を最優先にするのが正解だ。

 

 「つーか貴臣ってボウリングはいつぶり?」

 「いつぶり・・・高校入ってからはやってないから2年以上はやってないかな?(実は10年ぶりだなんて言えるわけがねぇ・・・)」

 「ほぉ~なるほどな」

 「みんなは?」

 「大丈夫、オレらも何やかんや1年くらいはやってないからほぼイーブンってとこよ。なあ?」

 「まずボウリングなんて“打ち上げ”のノリでやるかやらないかってところだし」

 

 こうして東口に出てからだいたい5分くらいで、俺はラウワンに着いた。

 

 「イーブン・・・か(ほぼ10倍だけど・・・)」

 「ん?何か言ったか貴臣?」

 「えっ?いいや何でも?」

 

 思えば“こういうところ”に行くこと自体が本当にほぼ10年ぶりだから、何だか懐かしいような残酷なようなよく分からない気持ちになる。そういえば、高1の夏が終わってからはこういう放課後の遊びの誘いとかも全部断ってバイトに明け暮れてたよな俺・・・・・・そりゃあ感傷に浸るのも無理はないか・・・

 

 

 

 

 

 

 “『ねぇ貴臣、今度の新人戦終わったらまたどっか行かない?』”

 

 

 

 

 

 

 「ァハハッ!ヤベェオレ今日調子いいわマジで!

 

 さて、放課後の“1時間ちょい”という空き時間を使って“とりあえずプリクラの奢りを賭けてボウリングを1ゲームやるか”という流れで1ゲーム対決をやることになった俺は、ブレザーを脱いで“本気モード”になった城野が15ポンド(最重量)のボールを力任せに投げてゲーム開始早々にいきなり2連続ストライクを決める様をまじまじと見届けていた。

 

 「もー、少しは手加減とかしたら?」

 「やなこった。だってオレの辞書には“手加減”って言葉はねぇからな」

 「おー、カッコイイ」

 「大神くん、こう見えて城野くん(この人)はテストで大神くんに負けたことが悔しすぎてムキになってるだけだから悪く思わないでね?」

 「えっ、そうなの?」

 「おい聞こえてんぞ愛火

 

 “1ゲーム対決”のレーンの組み合わせはじゃんけんの末に“俺・黒崎・城野”の勝ち組、“宇島・鞍手・行橋”の負け組になった。

 

 「それに、せっかく貴臣も“ノってくれた”ってのに手を抜くのは逆に失礼って話」

 「どうせ大神くんが乗っても乗らなくても“手加減”しないでしょ城野くんは」

 「それなっ」

 「ははっ、城くんはホントに負けず嫌いなことで・・・」

 

 ちなみに俺は“ノーカン”の扱いでなにも考えないでボウリングをする手筈だったが、やっぱり俺だけ“年下の子たち”を差し置いて駆け引きナシっていうのはなんだか不平等で“大人”としてズルいと思い、結局俺も対決に参加することにした。まぁ、どっちみち遊びで使うお金は限度を超えない範囲内では研究所の経費になるから“ズルい”のは変わらないし、いまの俺は大人ではなく周りのみんなと同じ“高校生”なのだけど。

 

 「行けっ・・・・・・よっ、うっわマジかよ倒れなかった!」

 「ドンマイドンマイ」

 

 こうして始まった1ゲーム対決は、5フレームを終えた時点でストライクとスペアを2つずつ出している城野が1位。

 

 「ナイス凉っち!」

 「うん、でも決まったのはいいけどイマイチ感覚が掴めないから手ごたえがないのよねボウリングって」

 「凉~、ストライクおめっとさん」

 「ありがと真太郎」

 

 それに続いてスペア2つとストライク1つを出しながらもあまり感情を表に出さず、みんなとクールにハイタッチを済ませる行橋が2位。

 

 「えっこれいいんじゃない!?・・・・・・やったストライク!」

 「ナイスボール!」

 「ねぇ凉見て、ストライク!」

 「えっ?おぉすごいじゃん愛火」

 「ねぇ大神くんも見た!?」

 「うん。もちろん投げるところから見てたよ」

 

 5フレーム目でマグレながらストライクを出して元気いっぱいにみんなにハイタッチをして周る黒崎がちょっと離れて3位。

 

 「なぁ、大丈夫か貴臣?このペースのままだと“海音と拓巳(こいつら)”とドベ争いになるぜ?」

 「分かってる」

 「そろそろスペアくらいは取らないとマズいんじゃない大神くん?」

 「だろうね」

 「タカ、タクが特別に次のフレーム両方ガターにしてくれるってさ」

 「別に構わねぇけどその代わり海音(おまえ)も次捨てろよ?」

 「さすがに八百長は良くないと思うよ(なんだろう、やたらみんなからの圧がすごいな)」

 「大神くん。ファイト」

 「サンキュー行橋さん(この流れである意味で一番のプレッシャー・・・)」

 

 そして俺は、宇島と2組の鞍手の3人で仲良くストライクやスペアの代わりにガターの数を競うような“泥試合”をしながら、6フレーム目に入っていた。

 

 「あ、すっぽ抜けた」

 

 みんなからの応援?のようなものに背中を押された6フレーム目は、ガターからの4本。みんなの応援も虚しく、状況は全く好転せず。

 

 「大丈夫大丈夫、まだ4回チャンスがあるから絶対あの2人に勝とう」

 「そうだね。こっから切り替えてくよ黒崎さん」

 

 ある意味一番リアクションに困る微妙なスコアだけを出して戻ってきた俺を、黒崎が慰める。

 

 「じゃ、こっから“全スト”取ってぶっちぎりますか・・・つーわけで貴臣、1位と“優秀生徒”の座はそう簡単には渡さねぇぞ?」

 「・・・おう(ボウリングに関しては全く勝負になってないけど・・・)」

 

 慰められる俺を横目に、城野は強気な言葉で“宣戦布告”をしながら俺に向けてウインクをして、6フレーム目を投げる。

 

 「Fooo!!どうだ貴臣恐れ入ったか!?」

 

 強気の“全スト”発言を有言実行するかの如く、城野が空気を読まず本日3度目のストライクを叩き出す。袖を捲った黒のスクールシャツから覗く前腕からして、というか15ポンドのボールを力任せに投げれている時点で運動神経が抜群なのは明らかだ。勉強も出来て運動神経も高くてさり気ない気遣いも出来る・・・全く、城野(こいつ)には欠点というものがないのだろうか。

 

 「“城野様”・・・参りました」

 「いや諦めんなよwまだ試合は終わってねぇんだぞ!」

 

 それに、俺に向けられた“宣戦布告”がガチじゃなくて城野なりの“ノリ”だってことは、放課後を心から楽しんでいる目を見たらすぐにわかった。

 

 「しょうがないなぁ、じゃああたしがここでもっかいストライクを出して大神くんに繋げてあげるよ」

 

 絶好調な城野に続いて、5フレームでストライクを出した黒崎が負けじと強気な言葉を残して9ポンドのボールを持ってレーンへと向かう。

 

 「さてと貴臣君、2年以上ぶりのボウリングはお気に召しましたか?

 

 するとレーンに向かい歩く黒崎と入れ替わるように隣に座った城野が、ソフトドリンクのコーラを飲みながら海崎さんみたいなわざとらしい畏まった口調で俺に聞いてきた。

 

 

 

 “・・・本当はボウリングなんて、10年前の中学校の卒業式が終わった後に“最後の思い出作り”で仲の良かったクラスのやつ全員と行ったのが最後なんだけどな・・・

 

 

 

 「うん・・・最高に楽しいよ

 

 城野からの問いかけに、気が付くと頭で考えるよりも先に自然と言葉が口から出ていた。

 

 「そっか、そいつは本当によかった」

 

 どんな顔で俺がそんなことを言ったのかは覚えていないけど、それを見た城野は俺の肩に手を置いて “本当に良かった”と言ってニッと笑った。

 

 「もし逃げたくなるようなことがあったら、そん時はいつでも“オレたち”を頼れよ。“友達”として

 

 そしてレーンでボールを投げる黒崎に視線を向けたまま、俺にしか聞こえないくらいの大きさの声で呟いた。

 

 “やっぱり・・・城野は俺が“逃げた”ことに気付いているよな・・・

 

 「逃げる?」

 「いや、“もしも”って話。“ダ●ンプ”的な?」

 「・・・あぁ、なるほど(“ダ●ンプ”って名前久々に聞いたな・・・)」

 

 何となく城野の言いたいことは分かったが、俺が敢えて“気付いていないフリ”をして誤魔化すと、城野も同じように誤魔化した。どうしてわざわざ俺が中学生ぐらいのときに流行っていたアーティストを比喩表現に使ったのかは謎だが・・・あぁそうか、“もしも”ってそういう意味か。今どきの高校生でも意外と知ってる人っているもんなんだな・・・って、また俺は“おっさん”みたいな考えを・・・

 

 「じゃあまた“もしも”が起きたら、今度こそは頼らせてもらいますよ

 

 なんてことは、今この瞬間はどうだっていい。

 

 「おう、任せろ

 

 肩に置かれた城野の手が俺から離れる。

 

 「うっわ最悪フツーに投げる向きミスったんですけど」

 「ハハッ、ドンマイドンマイ」

 「ほんとは“ざまぁ”とか思ってるくせに」

 

 肩から手を離した城野が、5本とガタ―に終わった黒崎を“ドンマイ”と分かりやすく励ます。

 

 「スペアきた!ここでスペアはでかい!」

 「うわまじか」

 「悪ぃ海音、俺このまま勝つわ。今日の奢りよろ」

 「そうやってすぐ油断するからタクは負けるんだよ。だよねはっすー?」

 「いや暫定最下位の人に言われても

 

 隣のレーンではスペアを取って喜ぶ鞍手といよいよドベが見え始めた宇島の“泥試合”を、行橋がどこか温かい目で達観している。

 

 「おっ、つぎ貴臣だ」

 「鞍手くんがスペア出しちゃったからそろそろ決めないとヤバいよ大神くん?」

 「うん・・・ていうかすげぇピンチじゃん俺」

 

 目の前に広がるのは、“放課後に友達と遊ぶ”という別にどうってことのないそこそこ程度に楽しくて幸せなありふれた放課後。

 

 「止めときゃ良かったって思ってる?」

 

 そんなありふれた放課後がこんなにも心地良いなんて、10年前の俺は全く気付かなかった。いや・・・そういうどこにでもある幸せに気付けないくらい、あの頃の俺は本当に幸せだったのかもしれない。

 

 「・・・いいや

 

 

 

 “『何でも気兼ねなく話せるのが“友達”だということは僕も知ってます』”

 

 

 

 “・・・“友達”か・・・

 

 

 

 「なわけないでしょ。“友達”との約束は絶対だから

 

 ほんの少し前まで友達はおろか家族にすら心を閉ざしていたヒキニートが、何を無駄に誇らしげに綺麗ごとみたいな言葉を緩んだ表情で言っているのか。自分で考えてみてもちっとも分からないし、考えるほどに“何やってんだろうな、俺?”って状態になって更に分からなくなっていく。

 

 「・・・待っていまの大神くんすごくイケメンでカッコ良い」

 「えっ?」

 「いまのセリフもっかい言って?動画撮るから」

 「とりあえずそれは恥ずかしいから嫌だよ黒崎さん」

 「貴臣・・・お前マジで“心の友”だわ」

 「唐突にどっかで聞いたことある台詞出てきたなジ●イアン?)」

 

 ていうか本当に何をやってんだろうな、俺は。同年代の人たちが汗水流して社会に出て働いている傍ら薬で若返って高校生になって、8つ年下のクラスメイトと一緒に奢りをかけたボウリングをやっている。こんな俺のことをかつてクラスメイトだった連中が知ったりなんかしたら、どんな顔をしてどんなことを言われるのか。正直想像すらしたくない。

 

 「そろそろテストんときみてぇに、ストライクの1本でもガツンと決めたらどうだ?貴臣?

 

 俺は10年もの間、本当に“こういうこと”を一度もしてこなかった。そんな余裕すらもなかった。だから、せめてこの“1年間”だけは俺の好きにさせてくれ・・・・・・なんて贅沢な言葉は、迷惑をかけた家族のことを考えたら口になんて出来ない。それでもいまの俺にとっては・・・“この瞬間”が本当に幸せで仕方がない。

 

 「言われなくとも。次こそ決める

 

 城野から発破をかけられる形になった俺は、仕返しで軽い“宣戦布告”をして12ポンドのボールを持ちレーンへと歩く。ふと見上げたスコアを映すスクリーンに記された、6フレームまでを終えてストライクもスペアもない代わりに3つのG(ガタ―)がある自分のスコア。何だかそれが、これまでの人生のように見えた。

 

 “・・・我ながらロクな人生じゃないよな、これ・・・”

 

 ボウリングで例えるとしたら、真っ直ぐストライクを投げたつもりが斜めに逸れて、スペアを取れる絶好のチャンスで盛大に外してガタ―になって、決まらないことに嫌気がさしてついにはピンに当てることすら諦めて試合を放棄する・・・そんな感じなんだろうか。

 

 “これでストライクを取って流れが変わったら、どんなに“ラク”なことか・・・”

 

 いや、人の人生はゲームみたいにシロとクロの勝ち負けで決められるほどシンプルじゃないことは、“色んなこと”があって分からされてきた。ストライクを取って流れが変わるくらいだったら俺も家族もこんな苦労はしないし、“ヒキニート”になんてならなかったはずだ・・・

 

 

 

 

 

 

 “『《b》・・・せいぜい嫌われて苦しめよ・・・・・・苦労知らずの優等生・・・』”《/b》

 

 

 

 

 

 

 “って、ボウリング如きに人生を見つめ返されてたまるかってんだ・・・!

 

 心の奥で残り続けている俺の心を完全に壊した言葉(トラウマ)を振り切るようにヒキニートなりの体力で力任せに投げたボールは、投げた俺自身もビックリするほど真っ直ぐ吸い込まれるようにど真ん中のピンへと一直線に進み、城野には及ばないけれど勢いよく10本のピンをなぎ倒していった。

 

 「・・・・・・」

 「うぉい!やるじゃん貴臣!」

 「・・・きた・・・」

 「ってあれ?ストライク取った割に反応薄くない大神くん?」

 「いや・・・なんかもう嬉しすぎてリアクションできない」

 

 過去の記憶(トラウマ)を振り切って投げた、10年ぶりのストライク。これぐらいのことで自分の人生が変わるなんてあり得ないことだけど、“あの日”からずっと負け続けていた日々に久しぶりの“勝ち星”がついたような気がして、リアクションが出来なくなるくらい嬉しかった。

 

 「ぷっ、ボウリング如きで喜びすぎでしょ大神くん」

 「そういう黒崎さんもまあまあ喜んでたよね?」

 「おいおいここでストライク出されたらいよいよヤバいって俺たち?だよな海音?」

 「そうだね。やっぱりあそこで力ずくでも帰るべきだったよ」

 「海音は逃げてもどうせ真太郎にすぐ捕まるでしょ?」

 「言っとくけど海音だったらぶっちゃけ秒で追いつく自信あっからなオレ」

 

 こうして1ゲーム対決はストライクが決め手になったかは分からないけれど何やかんやで俺は黒崎と3点差の4位まで盛り返し、最後の最後で宇島が1点差で鞍手を逆転して無事に決着し、俺はみんなと一緒に鞍手の“奢り”で下の階にあるゲーセンでプリクラを撮って他愛もない話をしながら駅までまた歩いて解散するという、ありきたりな放課後を存分に楽しんだ。




※“ラウワン”という単語が登場しましたが、実在する施設とは一切関係ございません。

ちなみに本編では触れられていませんが、この作品の時代設定は2014年(※原作の時代設定が2013年のため)です。

それにしても、部活動以外の放課後の過ごし方って何が正解なんでしょうかね?
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