4月8日
きのう受けた小テストが早速返ってきた。
およそ8年ぶりの学力テストだったもののいきなり
全教科で100点を取り、青葉高校で一度もクラス委員長の座を
譲らなかった地頭の良さを見せつけクラス中から注目を集めた。
まだ登校2日目で完全に馴染んだとは言えない状況からか
トラウマの影響が所々で見られ異変を察した城野真太郎に
フォローされる部分もあったが、放課後のボウリングでは
城野真太郎を始めとした周囲のみんなを“友達”として受け入れる
一面を見せるなど、昨日に続き「やり直せるチャンス」というものに
自らの意思で真剣に向き合う姿勢も強く感じられた。
トラウマの克服による回復を願いつつ、
引き続き経過を見守りたいと思う。
「それでは、大神貴臣くんの全教科100点満点を祝して」
夜の7時半。城野たちと解散してアパートに戻った俺は、海崎さんと一緒に飲み物とつまみのスナック菓子が置かれた部屋のテーブルを囲んでテスト終了を祝う“飲み会”をしていた。
「あの、乾杯の前に確認なんですけど何でわざわざ俺の部屋でやるんですか?」
「だってこんな姿じゃ外で飲めないどころかお酒すらも買えませんからね」
「本気で買うつもりだったんですか?」
言っておくが俺と海崎さんはあくまで“薬で若返っている”だけであって実年齢は大人であることには変わりないので、外に出て嗜むなんて馬鹿な真似さえしなければお酒やタバコも“合法”だ(※海崎さんから事前に説明済み)。
「もちろん貴臣さんが飲みたくなったらいつでも研究所からこちらの部屋にお届けしますよ。もちろん経費ですので実質“タダ酒”です」
「タダ酒て・・・ヒキニートだった俺が言うのも難だけど海崎さんの言ってることまあまあクズっすよ?」
それに海崎さん曰く、こういう飲み物や食べ物といったものは頼めば研究所の職員がその都度経費で用意してくれるため、光熱費も含めてこの1年間の食費は実質タダ・・・というのを有効活用しているのかは知らないが、海崎さんは頼んでもいないのに飲み物を余分にストックしてくれた。
「では改めて・・・・・・乾杯!」
「・・・乾杯」
こうしてカーテンの閉まった1DKの部屋の中で、17歳に若返った大人2人の“飲み会”は静かに始まった。
「いや~、例えサイダーでも人んちで一緒に飲むのは美味いですよね~」
「・・・まぁ、1人で飲むよりは美味いかもしれないですね」
ちなみに俺と海崎さんがいま飲んでいるのはお酒ではなく、缶の“サイダー”だ。
「本当はお酒を飲みたかったりしないんですか貴臣さん?」
「それはないですよ、リライフをする1年間は禁酒するって決めてるので。ていうかこの前海崎さんに話したはずですが?」
「知っていますよ。でも貴臣さんはお酒がダメというわけじゃないので、普通に頼んでもいいと思うんですけどねー、何せ中身は大人のままなので周りにバレることさえ気を付ける限り飲むこと自体には何の問題もないのですが」
「いや、例えば城野くんみたいに同じクラスの誰かがこの部屋に上がるってなったときにお酒とかタバコがあったらマズいでしょ?」
「押し入れにでも隠せばいいのでは?」
「ちょっと目を離した隙に押入れを物色されたら終わりですよ。それぐらい海崎さんも分かりますよね?」
「ええ、当たり前ですよ。リライフをナメないでください」
「ナメれるわけないでしょこんな秘密結社相手に・・・そうだ、まさかとは思いますけど海崎さんって高校生のときにそういう“経験”があったんですか?(なんか一瞬目が泳いだし)」
「あははっ、なわけないじゃないですか~(アル意味アタッテル・・・)」
「はぁ、そうですか・・・」
もちろんお酒ではなくサイダーなのにはちゃんとした理由があるし、事前に海崎さんには話しているのだが、この人と来たら俺が戒めとして“禁酒”していることを知っているうえでわざと缶サイダーを片手に揺さぶりをかけてきた。
「逆に海崎さんが俺と同じ被験者の立場だったらどうするんですか?」
「普通に酒とタバコは頼みますね、だって経費で落とせることを知っているので☆」
「会社勤めの社会人がドヤ顔で言う事じゃないっすよそれ・・・」
一体何のためかは分からないが、ひとまず俺は海崎さんを逆に揺さぶってみることにした。
「もし同じクラスで仲良くなった人が部屋に入ってきたら?」
「ちょっと部屋を片付けると言って押し入れにでも隠します(そういや、日代さんに押し入れの中を見られたときはマジで焦ったなぁ・・・)」
「物色されそうになったら?」
「ひとまず“人んちを勝手に漁っちゃダメだ”って軽く注意します。ま、こういうのは押し入れに見つかったらマズいものが入っていようがいまいが変わりませんけどね」
“ん?何でやったことないはずの
仮に自分が被験者、もとい高校生だったとしていまの俺と全く同じような状況になったらどうするかという、真っ当に生きてきたなら一瞬では出てこないであろうことを海崎さんはまるで漫画で自らの手の内をご丁寧に明かして主人公に呆気なく倒される悪役のように、ペラペラと喋り出した。
「そうですか・・・」
少なくとも海崎さんは嘘があまり得意じゃないことは分かっているから、全く泳いでいない自信気な視線を見て俺はもう少し攻め込んでみた。
「じゃあ・・・もしも自分の部屋に上げられるほど仲良くなったその人がもの凄く好奇心が旺盛で、海崎さんのことを知ろうとするあまり海崎さんが目を逸らした隙に押し入れの中を物色してそこに隠したお酒とタバコを見つけてしまったなんてことが起きたら・・・海崎さんはどうやって誤魔化しますか?」
“『・・・やっぱり・・・吸ってるんですか?タバコ?』”
「!?ゴホッゴホッ!」
当然ながら、いま俺が言った
「大丈夫ですか?」
「あ、ハイ、サイダーが変なとこ、入っただけなんで、だいじょぶ、です、エホッ」
「大丈夫どころか死にかけてるじゃないですか?」
「(誰のせいで死にかけてると思ってんだ大神兄ゴルァ・・・!)」
ただ、タイミングがあまりにも丁度良過ぎたのも相まって、何だか図星を突いたような形になってしまった。
「・・・まぁあれです。そのときは親が泊まりにきたときに置き忘れていったってことに僕ならしますね(マジで心臓止まりかけたわ・・・)」
こうして咳が収まりだしたところで、海崎さんは何もなかったかのような顔をして続きを話し始めた。多分だけれど、仮にリライフを受けている被験者が俺だけじゃないとしたら海崎さんが前に担当していた被験者、あるいは同じ職場の人の被験者の話を参考にしているとも取れる。最終面接で伝えたいエピソードのように予めに準備さえしておけば、こういう話題は幾らでも作れるからだ。これもまた、理不尽で世知辛い現代社会を生きていくための術・・・なのかもしれない。
「なるほど・・・とりあえずリライフが終わるまではお酒を飲む予定はありませんが参考にします」
「そうですか、ではどうしてもお酒が飲みたくなったときは是非(もうなんか色々と怖いわこの長男・・・)」
「だからなんで俺が酒を飲む前提なんすか」
ともかくむせた海崎さんを見て冷静になった俺は、これ以上聞いてもあんまり良いことはないし人としても良くないと感じて追及するのをやめた。
「・・・それにしても、何だか今日は随分と“思うがまま”に満喫してましたね?貴臣さん?」
「?・・・あー、ボウリングのことですか?」
ふた呼吸ほどの沈黙を挟んで、“飲み会”の話題は今日の放課後に移る。
「楽しかったですか?」
母さんが出て行ってどん底に落ちた家族を支えているうちにすっかり忘れてしまっていた、授業終わりや仕事終わりの“ひととき”の安らぎ。
「・・・はい。それはもう母親が家を出て行った日が最後でしたからね・・・・・・ああやって友達や彼女と一緒に放課後だとか休みの日に街に出て何かするみたいなことは・・・楽しいに決まってますよ」
言ってしまえば、放課後の1時間と少しの短い時間を使って同じクラスの友達(※1名は隣のクラス)と一緒にサンシャインの近くにある“ラウワン”でボウリングを1ゲームやって、一番低いスコアを叩き出した鞍手の奢りで下の階のゲーセンで6人揃ってプリクラを撮って、他愛もない話で盛り上がりながら駅に戻って解散するという、何が起こるわけでもない普通の放課後だった。
「ビックリしましたよ。今のゲーセンって全然タバコ臭くなくて治安もいいんですよね。俺が中学に通ってた頃はまだゲーセンでタバコを吹かしながら屯してる不良とかがたまにいましたから」
「この10年くらいで世の中はガラッと変わりましたからね。ゲームセンターじゃないですけど、例えば僕が高校に通っていた頃は学校ではケータイなんて基本的には持ち込み禁止で、見つかったら“1ヶ月間没収”でしたから」
「ははっ、1ヶ月はキツいですね」
「貴臣さんが通っていた頃の青葉はどうでした?」
「ケータイ自体は俺が通ってた頃から全然持ち込みOKでしたよ。まぁ、さすがに授業中にいじってるのがバレるとその日の授業が終わるまで没収&反省文でしたけど」
「うわいいな〜、さすがは自由な校風の青葉高校・・・(羨ましいぞマジで)」
「自由っていうか、あれが普通だったんで羨むほどじゃないですよ」
「僕も実家が都会だったらなー」
「いや多分、ケータイ事情は都会も田舎もあんまり変わんなかったと思います」
ストライクが出たらみんなでハイタッチをしたりしながら和気藹々とスコアを競い合い、10年分のプリクラの進化を人知れず実感したり、帰り道に
「しかし、貴臣さんの“あの言葉”には僕も観察していて痺れてしまいましたよ」
「?何か印象に残るようなこと言ってましたっけ俺?(うん、なんかすっげー思い当たる節がある・・・)」
「何でしたっけ・・・?あぁ思い出した、“友達との約束は”~?」
「・・・“絶対”、っていうか最初から知ってたでしょ海崎さん?」
「いや~、イケメンが言うとホントにカッコイイから羨ましいわー」
「はぁ・・・“オッサン”に盗聴さえされてなかったらな」
「“オニーサン”でお願いします(人のこと“オッサン”呼ばわりしてるけど3つしか違わねぇからな?)」
それはきっとあんなふうに友達と一緒に過ごすこと自体が久しぶりだということ以上に、いまの俺にとって“友達”と呼べる存在が“海崎さんだけ”じゃなくなったことが大きいのかもしれない。ただこれが本当の意味なのかどうかを知る勇気は、まだ病み上がりで完全には開いていない自分の心の頑張り次第になってしまうのだけれど、そういうことなんだろうと思う。
「・・・てか、観察してるくらいなら海崎さんも俺みたいに城野くんと一緒に行けば良かったと思うんですが?」
「どうしてですか?」
「どうしてって、それは同じグループで一緒に行動したほうが観察もしやすいだろうし」
「そうしたいのも山々なんですが、あくまでこっちは友達作りではなく仕事でやっていますので。とはいえ今日は貴臣さんの現在の状態を把握するために敢えて距離を置いて観察させていただきましたので、被験者の貴臣さんからはともかく城野くんあたりから誘われたら変に断るようなことはしませんよ」
「そうですか・・・決して自ら進んでぼっちになるとかそういうわけじゃないんですね?」
「あははっとんでもない、これはアレです。観察をする上でクラスの中で目立つわけでも空気になるわけでもない“絶妙に目立たないベストなライン”を保つためです(じゃないほうで覚えられてるのは納得いかねぇけど・・・)」
「・・・じゃあ、観察ってことは普通にボウリングのレーンの近くにいたってことですか?」
「おぉ~さすがは勘の鋭いことで。その通り、みなさんにバレないようにちょっと離れたところで観察しつつ、何もしないとお店に迷惑が掛かるので1人で1ゲーム決めてました」
「制服をスーツに替えたらいよいよ仕事終わりのサラリーマンですよそれ」
「ハイ。実のところを言うとちょっとだけ寂しかったです」
「あの、辛くなったらみんなを頼っても良いんですよ海崎さん?独りよがりに突っ走って“こうなる”まえに」
「それなっ☆でも俺はタカとは違って仕事でやってるから心配しなくていいぜ☆」
「マジで即刻つまみ出して出禁にするぞアンタ(慰めるんじゃなかった・・・)」
それにしても海崎さんは普通に放課後をみんなで満喫していた俺のことを見て、“羨ましい”とか思ったりはしないのだろうか?何だかんだで“じゃないほう”のキャラになりきっているのを見る限りはきっと物事をある程度は割り切れるタイプの人間ではあるのだけれど、それでも心のどこかでは思うところがあるんじゃないか・・・なんて、上機嫌に年下を揶揄うように笑いながらサイダーを飲む海崎さんを見ていると、余計なことがふと頭に浮かんでくる。
社会で生きるためには本音と建前を上手く使いこなさないと生きていけないということは・・・・・・“それ”を使いこなせなくて心を壊してしまった俺には痛いほどよく分かるから。
「・・・海崎さんはどう思いますか?」
スナック菓子をつまみにサイダーを飲んで1日を振り返ってしばらくしたところで、俺はふと頭に浮かんだ疑問を海崎さんにぶつけた。
「・・・何でしょう?」
俺から発せられた声のトーンで“真面目な話”だと察したのか、ついさっきまでただの“友達”になって揶揄っていた和やかな表情はそのままに、俺を見る海崎さんの眼に真剣さが宿る。
「ついこの間まで自分の部屋に引き籠って好き勝手やってた人間が、色々と日々の仕事に追われている自分を差し置いて、思うがままに友達と放課後に笑い合って遊んでいる姿を見て・・・・・・“海崎さん自身”はどう思っていますか?」
“『・・・なんか・・・みんな大変だな』”
“『そうですね・・・ただ、一番大変なのは今後の人生が掛かっている“当事者”なんですけどね』”
「・・・あはははっ・・・急に真剣な顔して何を話すかと思ったら、そんなことですか」
本気のトーンで良かれと思って伝えたら、海崎さんは静かに笑い出した。
「もちろん嬉しいに決まってますよ。この間まで家族にすらも心を閉ざして部屋の中でもがき苦しんでいた貴臣さんが、外の世界に出て新しい友達を作って笑顔も見せられるようになった・・・・・・“友達”としてこれ以上嬉しいことはないです」
まるでこれっぽっちも気になんて留めていないとでも言いたげに、海崎さんはただの“友達”として自分の思いを打ち明けた。
「・・・そうでしたね。それが海崎さんにとってのお仕事ですからね」
「ハイ、それがリライフなんで☆」
「あ、言われた」
答えを打ち明ける顔を見た瞬間、俺は海崎さんがリライフ研究所のサポート課という仕事に対して本気でやりがいを感じながら向き合っていることを察した。家計を安定させることを最優先にやりたいことは二の次で給料の良い大手商社を選んだ俺とは違って、きっと海崎さんにとっての本当に“やりたい
「・・・特殊な仕事をしているので勝手に心配してしまいましたが、また余計なことを聞いたみたいですね、俺」
「いえいえ、余計なことだなんてとんでもないですよ・・・本来はあくまで担当者の立場で何も気にする必要なんてないような僕のことまでこうして気に掛けてくれるなんて、本当に貴臣さんは心の底まで“イケメン”な優しい人だと僕は思います」
「・・・・・・」
それを感じた瞬間、俺は頭に浮かんだ疑問を聞いたことを後悔し、反省した。心配すべきなのは仕事でリライフをしている海崎さんではなくて、リライフでこの先の人生がどうなるかが掛かっている俺自身だということ。
「その元来の“優しさ”を是非、これからもリライフで“思う存分”に発揮してみればどうですか?」
優しさを履き違え心配を優先する順番を間違えたから、俺は家族や“あいつ”を傷つけて自分で蒔いた種で周囲を敵に回して・・・身勝手に心を壊した。外の世界に出て、友達を作れたところで
「・・・貴臣さん?」
何気ない会話がきっかけで、またトラウマが頭を駆け巡る。“いい加減にしろ”と振り払おうとしても、その度に俺へと向けられた言葉の刃はゾンビのように容赦なく襲い掛かる。目障りだった俺は“お望みどおり”に社会からドロップアウトしたのに、アイツらは2年以上が経った今でも俺のことを許してなんてくれない。
“『はぁぁー、マジで人生イージーモードで羨ましい限りだわアイツ・・・』”
無理はない。何故なら俺は、お金がない家族を支えるために必死に働いていることを理由に飲みや娯楽の誘いを片っ端から断り続けたドライで独りよがりな人間だったからだ。だからといって本当にそうでもしないと一日三食を満足に食べれなくなるぐらいには家計は厳しかったし、何より“お金がない”という理由でカズが大学への進学をあきらめる・・・なんて自分の人生を犠牲にするような選択をカズにはして欲しくなかったから、そうせざるを得なかった。
“『・・・兄ちゃん・・・ごめん・・・本当にごめん・・・』”
結局はその理屈でどうにかなるほど自分は強い人間なんかじゃないことに気付けなかったから俺は壊れてしまって、カズに同じ苦しみを背負わせてしまうことになるのだけど。
“海崎さんは強いですね・・・・・・俺とは違っ”
「タカ?どうした?」
“『タカ・・・・・・焦んなよ』”
「・・・あぁ・・・なんか、ちょっと“酔って”きました」
“言ってはいけない負の言葉”が心の中から口へとこぼれそうになったが、俺のことを“あだ名”で呼びかける海崎さんの声でどうにか抑えることができた。本当に俺ってやつは、相変わらず過去のトラウマに翻弄されっぱなしで情けない。
「酔う?あれ?貴臣さんが飲まないって聞いてたからサイダーだけ買ってきたはずなんですけど?」
「その場の雰囲気だけで酔うみたいなことって偶にあるじゃないですか?多分ソレです」
「あっはは、何だそういうことですか。てっきり何かの手違いでお酒が紛れ込んでいたのかと思いましたよ」
「アルコールが入ってたら飲んだ瞬間に気付いてますよ」
それでも前みたいに心の声が溢れてしまう前にトラウマを振り切れたってことは、ゆっくりだけど俺の心は強くなっている、ということになるのだろうか。
「海崎さん・・・また俺のことをさり気なく“友達”として名前を呼びましたね?」
「一応これもまた“仕事”ですので」
「ほんと、海崎さんは相変わらず切り替えが上手いことで」
なんて後ろ向きに考えてしまいがちなこの思考回路を、先ずはどうにか変えて行かなければ・・・と、下手に友達面をしては偶にウザったくなることもあるけれど、それ以上にお人好しで友達思いな元来の性格が滲み出ていて憎めない海崎さんを見ていると、尚更に俺は思う。
「でも貴臣さんのこれから次第では、もしかしたら1年後の今日は担当者と被験者じゃなくて、ただの“友達”になって居酒屋のテーブルでお酒を飲んでいる・・・・・・なんてこともあるかもしれませんね?」
登校2日目で見慣れ始めた同い年の友達面はそのままに、今年で実年齢が29歳になる大人として言葉を送る海崎さん。この人が薬を飲んで17歳に若返った日に俺へと向けた“『人っていうのは案外容易く変われるものですよ』”という人生の先輩としてのアドバイスは、まだ実感なんて全く感じられないどころか、リライフが終わった頃の自分がどうなっているかなんて想像すらつかない。
「・・・いいんですか担当者がこんな希望論みたいなことをペラペラと喋って?“過干渉”だって怒られても知りませんよ俺?」
「おっと危ない。いやぁどうやら僕のほうも酔いが回ってきたみたいですね(イチイチ弟に似てるんだよなぁこの長男は・・・)」
「とりあえずリライフが終わるまでお互い晩酌はしないほうが良さそうですね。俺はともかくこの調子だと海崎さん絶対ボロ出るし」
「あははっ、でしょうね」
「そこは素直に認めるんですね」
それでも、“新しい友達”が出来て楽しいと思える瞬間を友達と“共有”することができた俺は本当にごく僅かだけど変わり始めていて、そんな“小さな積み重ね”が自分を強くする糧になると俺は信じたい。例えそれが単なる楽観的な希望論のままで終わるとしても・・・・・・“いま”だけはそれを信じて明日に進みたい。
「城野くんからLIMEに送られてきたプリクラの写真、海崎さんも要りますか?」
「おっ、いいんですか?ではお言葉に甘えて」
「・・・待ってください。すっごい今さらですけど写真みたいにデータで残るものに俺が写っても大丈夫なんですか?」
「もちろん写真は写っても何も問題ありませんよ。最終的にこちらで他のみんなは残しつつ、上手い具合に処理しますので」
「ぁははっ、さすがは秘密結社」
「ハイ、それが」
「言わせねぇよ?」
こうして結果的にリライフを始めた自分自身を振り返る有意義な機会になった海崎さんとの宅飲み形式の“飲み会”は、何だかんだで2時間ほど続いた。
やはり報告書がうまく再現できん。