「では改めて、彼女はリライフ研究所の薬剤課に勤務している日代千鶴さん」
「リライフ研究所・薬剤課の日代千鶴です。よろしくお願いします」
「あぁ、どうも」
午後から夕方に変わろうかという時間帯。俺は“ワケ”あって担当の海崎さんと、たまたま海崎さんと一緒にいたリライフ研究所の“薬剤課”で働いているという同僚の日代千鶴さんという女性の3人を住処のアパートに招き入れ、テーブル越しに2(※海崎さん・日代さん)対1(※俺)の構図になって駅近くのコーヒーショップでそれぞれがテイクアウトしたコーヒーをテーブルの上に置いて、少しばかり気まずい空気の中で互いに正座をして自己紹介をしていた。
“『・・・海崎さん?』”
どうしてこうなったのかを簡潔に話すと、海崎さんに外出することを連絡し忘れたことなどつゆ知らずのまま掛け時計を買いに駅前の商店街へと足を運んでいた俺は、目当ての物を買うついでに駅周辺をプラプラと歩いて偶然目に留まった本屋に入り・・・そこでたまたま同じ店の中にいた“オフ”の海崎さんと日代さんにバッタリ会ってしまったというわけだ。
“『あの・・・隣の女性の方は?』”
ちなみに海崎さん曰く、日代さんとは“ただの同僚”の関係で互いに個々で買い物をしに商店街に来ていて“バッタリ”と会っただけだという。最初はもしかしたら“彼女さん”ではないかと思ったが、それはそれで出来過ぎているとも思いそういう邪な勘は捨てた。
“『とりあえず、一旦家に戻りましょうか?あまり外で色々と話すのは我々的に好ましくないので』”
でもって外で話そうにも薬の効果で若返った高校生とその薬を開発している会社の人間2人という状況は“何か”があったらマズいということもあり、道中にあったコーヒーショップでテイクアウトを頼んで、半ば“逃げ込む”に近い形で俺の部屋に3人で入り、今に至る。
ついでに言っておくと“粗茶”的なものぐらいは出そうと思っていたが、“いきなり押しかけるような形でお茶を出してもらうのも申し訳ない”という理由でこうなった。
「・・・えー、先ずは何の連絡もせず勝手に外出してしまいすみませんでした」
ひとまず日代さんとの自己紹介を終えた俺は、カーペットの上に置いたテーブル越しに目の前で正座する“研究所の2人”に頭を下げて改めて謝る。このような“カオス”な事態になったのは、元を辿れば連絡を怠った俺の責任だ。
「まぁ、ひとまずは “何も起きなくて”何よりじゃないですか。貴臣さん?」
「はい・・・ほんとすいません」
恐らくリライフ側からすれば“万一”のことも考えてしまうくらいの一大事のはずだが、俺より社会人としての経験が豊富な海崎さんは別に“大したことはない”と言わんばかりに飄々とした営業スマイルを見せる。もちろん内心では相当焦っていただろうっていうのは想像できるから、言い訳をする余地もない。
「完全に油断していたんだと思います。何だかんだで“いまの身体”での生活に、もう違和感を感じないくらいには慣れてきているので・・・」
と心の中で思いながらも、結局俺は“言い訳っぽい”本音で反省を態度で示す。言い訳のように聞こえてしまっても“言い訳になってしまうんじゃないか”と黙り込んで、結果的に不必要な罪まで引き受けて自分が悪人になってしまう世渡り下手な人がいるのはよくある話だ。
“『悪ぃ。バイトあるから俺パス』”
まぁ、“最悪”なのは言い訳ばかりをして嘘を吐いて平然を装い続ける“世渡り上手”なフリをした“世渡り下手”なのだけれど。
「でも・・・“いまの身体”に慣れてきているというなら、それはきっと良いことではないかと私は思います」
自らを戒めリライフを始めてから何度目かの“ネガティブ”になりかけていた意識に、海崎さんの隣に座る日代さんの優し気な声が届く。
“『海崎さん、ここは私が』”
“『いやいや、それは日代さんに悪いよ』”
“『ここは3人の中で一番の“年長者”の私が払うべきでは?』”
“『言っても1つ違いだし、ここは一応“先輩”でもある僕が3人分を支払うからさ』”
テイクアウトをする前、どっちが3人分の注文を払うかを話し合っていたときに海崎さんの1コ上だということが分かった日代さん。パッと見た感じは確かに大人っぽいけど、正直言って初見のときは海崎さんのほうが雰囲気的な意味で少しだけ年上に感じた。ただ実際には
「良いこと・・・ていうかどうして日代さんも俺のこと?」
「はい。薬剤課の人間として貴臣さんの担当でもある海崎から大まかな事情は聞いていますので」
「そうですか・・・ “薬剤課”ということは、日代さんが俺の薬を?」
「いえ、私はあくまで主任が調合した薬をお渡ししただけです。まだ入って間もないもので」
「・・・なるほど」
ともかくこの日代さんという人が勤務している“薬剤課”こそ、“ニートを高校生に若返らせる”薬を開発している部署なのはほぼ確実だろう。
「先に言っておきますが、貴臣さんが飲まれた薬の件についてはこちらの事情もありますので詳しくはお答えできませんのでご了承を」
「聞きませんので安心してください。だって聞いたら聞いたで後が怖そうなので」
色々と根掘り葉掘り聞いてくると思ったのだろうか、海崎さんが微笑みながら俺の言葉を制止する。もちろんただでさえ“怪しすぎる薬”の機密事項なんて俺が海崎さんの立場であっても教えられるはずはないし、教えられたところで逆にこっちが怖いから端から薬のことを聞くつもりは毛頭ない。
「・・・やっぱり善悪の判断がしっかりとできるあたり、貴臣さんはしっかりしてますね?」
そんな俺を日代さんはやや大袈裟気味に評して優しく微笑む。
「いえいえ、俺なんか“ヒキニート”を経験しちゃってる時点で全然ダメな人間ですよ」
「えっと、一旦そこは置いておきましょう」
「あ、はい(露骨にこまらせたか俺・・・?)」
その大袈裟な評価に、2年半ほど“ヒキニート”をしていた俺は自虐を込めて謙遜してみせたら、思いっきり日代さんを困らせてしまった。入って間もないのもあるのか、はたまたサポート課の人間ではないからか、いまいち対応し切れていない節が垣間見える。もちろんこれも、“笑えないジョーク”を調子こいて飛ばした俺が悪い。
「あははっ、でも中身が大人のままでもお酒をきっぱりと止める姿勢は本当に素晴らしいと思いますよ?」
「それは、普段もしょっちゅう飲んでたわけではないんで普通ですよ」
「でも被験者が急に高校生になってここまで意識を変えるってことは、中々難しいことなんですよ?中には身体の中身だけは“大人”だっていう薬の特性を良いことに、帰ったら平気でお酒とタバコを吸ってるような少々不真面目な被験者の方もいましたし。まぁ、合法なので家で嗜む分には問題はないんですけどね?」
「なんか似たような話をこの間もしてましたよね海崎さん?」
「はい。貴臣さんの満点祝いのときに僕が話してた例え話の被験者の話です」
「やっぱりモデルがいたんですね。あまりに具体的すぎてぶっちゃけ海崎さんの実話なんじゃないかと少しだけ思ってましたよ俺」
「あはははっ、なわけないじゃないですか~(なわけあるんだよなぁこれが)」
「(やっぱり海崎さんの言っていた通り勘が鋭い・・・)」
センスが終わっているジョークのせいで変になり始めた空気を、海崎さんが機転を利かせて話で繋げる。普段は“同級生の友達”みたいなノリで被験者に平然と接してくる飄々とした癖強めなオッサンっぽい人だけど、こうやって困っている同じ会社の後輩をさり気なくかつ一切傷つけることもなくフォローできる気配り上手な一面を見ると、何だかんだでこの人は“こういう仕事”が本当に向いている人だなと思える。
「ということはさておき・・・これからは外出の際は絶対に連絡を忘れないように心掛けてくださいね。今回はたまたま学生証を親切な方に拾ってもらえたおかげで事なきを得ることが出来ましたが、危うくリライフが終わりかけるところでしたので」
そうしてどこか気まずかった部屋の空気がかなり平和になってきたところで、海崎さんは和やかな表情のまま改めて連絡し忘れた俺のことを注意する。
「はい。もちろん以後は徹底して気を付けます」
空気が凍らない程度に優しく真面目に注意する海崎さんに、俺も空気を凍らさないぐらいの塩梅で真面目に反省の意思を示す。こういうところもまた、海崎さんは俺とは違って本当にちゃんとしている。
「・・・そうだ、さっき日代さんが言っていた“良いこと”ってどういうことですか?」
そんなこんなでテイクアウトのコーヒーを片手に部屋の中で“曰く付き”な3人で話を進めていたところで、俺はつい忘れかけていた話の続きを日代さんに問いかける。
「あぁ、あれは貴臣さんが“つい油断してしまう”くらいリライフを満喫していられることが、これまでのことを考えると本当に“良いこと”だなと思ったからです」
「・・・“良いこと”」
「とはいえ、学生証を落としたのに気づかなかったときは私も“ヒヤリ”としましたが」
「その節は本当にすみませんでした」
言いかけていた言葉を問いかけると、日代さんはその理由を“注意”を交えつつ優しく微笑みながら答えてくれた。思い返すと今日の俺は色々と酷かった。午前中の家事を終えてベッドに座って小休憩しがてら別室の千鳥のことを考えていたら寝落ちてしまい、掛け時計を買いに外出したはいいが海崎さんに連絡するのを忘れて、そんなことなど知らないままプラプラと歩いたついでで立ち寄った本屋で学生証を落として、見知らぬ女の子に拾われる・・・とにかく色々とやらかした今日の夜は、久しぶりに1人で反省会をすることになりそうだ。
「しかし、
「あの、本当に心から気を付けますんでもう勘弁してください(これ、さっきから俺遊ばれてね・・・?)」
リライフ研究所の2人から笑顔で“やらかし”を突かれつつも、それだけ油断してしまえるほど“今”が充実していると言われた俺は、不覚にも心の中で少しだけ嬉しさを噛みしめていた。
「あははっ、そんなに謝らなくても最初から我々は悪気のない貴臣さんに対して怒ってなどいないので大丈夫ですよ。先ほども言いましたが結果的に今日は何も“起きてません”ので」
「そうですか・・・なら、良かったです(うん、日代さんはともかく海崎さんはきっと“クロ”だな)」
一応言っておくが、断じて“M”に目覚めたとかそういうのじゃない。
「・・・しかし、貴臣さんはリライフとしてこれ以上ないくらいの好スタートを切れていると思いますよ」
「好スタートは言い過ぎっすよ・・・けど、俺なんかと仲良くしてくれるクラスの友達のおかげで思っていた以上に楽しめてます」
「“俺なんか”って謙遜している割には、テスト終わりの放課後にその友達のグループでボウリングをしたりと大いに学生生活を楽しんでいますけどね?」
「ひょっとして馬鹿にしてます海崎さん?」
「いえいえまさか」
とにかく海崎さんの言う通り、裏を返せば“いまの俺”はそれだけ幸せだってことだ。学校に行けば、勉強とか音楽とか果ては本当にどうでもいい下らない話とかを同じクラスの友達と一緒に共有して盛り上がれるという、なんてことはない“
“『でも良かったですね。“忘れ物”をすぐに拾って貰えて』”
「・・・あの」
今日のことを振り返り、俺はずっと頭の片隅に残っている学生証を拾ってくれた女の子のことを2人に聞こうとした。本屋を出ていく後ろ姿で一瞬だけパッと浮かんだあまりにも“出来過ぎた”偶然が、また浮かんだ。
「・・・今日は・・・色々とありがとうございました」
聞こうとしたけれど、結局俺は2人に“それ”を聞くのをやめて誤魔化した。そもそも当事者の俺ですら信じ切れていない話をしたって、2人をまた困らせてしまうのは目に見えているからだ。
ただ・・・・・・この胸の奥に“つっかえる”ような違和感は何だ?
「いえいえ、困ったときはお互い様です。共にこの“リライフ”を頑張っていきましょう」
「・・・はい」
それから海崎さんと日代さんは互いにこの後に予定があったのかテイクアウトした自分の分のコーヒーを飲み終えると、すぐに2人揃って俺の部屋を後にした。
“・・・掃除しといてよかった”
玄関のドアが閉まり1人になった瞬間、午前中に何気なく部屋中を掃除したことをふと思い出して、俺は部屋の中で寂しく安堵した。
「・・・今日は本当にごめんね日代さん。色々とゴタゴタしちゃって」
「いえいえ。久しぶりの尾行もしたり、カズ君のお兄さんと実際に会って話すことも出来ましたのでゴタゴタはしましたけど有意義な休日でした」
「あはは・・・有意義だったらよかったよ(この後色々と夜明さんに事情を説明しないとだけど・・・)」
夕方の5時。タカのアパートを後にした俺は日代さんと食器を買うためにさっきまでいた商店街へと戻るように帰り道を歩いていた。
「・・・やっぱり人って、実際に会って話してみないとその人がどういう人なのか分からないものですね」
歩き始めてほんの少しの沈黙があった後、日代さんが唐突にこう呟いた。
「・・・日代さん?(ん?急にどうした?)」
当の本人は至って真面目なのはよく分かっているつもりだけど、あまりにも突然に意味深そうなことを言ってきたものだから、俺はつい心配げに聞いてしまう。もちろん、こういうちょっと“ほっとけない”ようなところも、“クラスメイト”だったときから好きだ。
「私・・・カズ君のお兄さんのことは海崎さんの口からでしか聞いていなかったので、勝手に“何でも出来る完璧な人”だと思っていました」
“・・・あぁ、そっか・・・”
「でも尾行して様子を見てみたら、海崎さんに連絡しないで外出しちゃったり、学生証を落としたことに気付かないで“奈桜さん”に拾われたり・・・意外と抜けてる一面もあってやっぱり“兄弟”だなって私は思いました」
どうやら、というよりやっぱり日代さんが呟いたのはタカのことだ。別に今日は休日だし日代さんは直接的な関係はないから今になって考えると尾行するのは俺だけで良かったのかもしれないが、せっかく買い物に付き合ってくれた日代さんをほったらかしするのも心苦しく、一緒に尾行することにした。
「担当者の俺からすればこれ以上ないくらい“ヒヤヒヤもの”だったけどね・・・(何かあったら確実に夜明さんや上層部に色々言われるのは確実だし・・・)」
「そうでしたね。本当にお疲れ様です」
そしていざ尾行してみれば、学生証を落としたことに気付かなかったりと観察していて“ヒヤヒヤ”の連続だった。もちろんこうなったのは、元を辿れば完全にタカの担当である俺の“監督不届き”だ。
“『(マズい!学生証が・・・!)』”
“『海崎さん!すぐそこに千鳥さんが・・・』”
極めつけだったのが、その落とした学生証をよりにもよって千鳥奈桜が拾ったときだ。ちょうどその直前に俺は本棚の死角から飛び出して代わりに拾おうとつい条件反射で飛び出そうとして、いち早く彼女がすぐ近くにいることに気付いた日代さんに止められた。元々千鳥奈桜がどのような人間なのかといった情報はサポート課の俺にも知らされているから、タカの学生証を彼女が拾ってくれたことは“こっち側”としては不幸中の幸いだった。ただこれですっかり油断した俺は、彼女が
「改めて本当にありがとね日代さん。あそこで俺が飛び出してたらきっと事態はもっとややこしくなってたし」
ということがあって、俺は咄嗟に“たまたま近くで買い物をしていたら同じ職場の同僚に偶然会った”という設定を作ってタカに日代さんを紹介せざるを得なくなった。ちなみにどうして日代さんを同期ではなく“後輩”にしたのかは、日代さんの立場を考えてなるべく辻褄を合わせるためだった。しかしこれもまた不幸中の幸いか、怖いくらいに勘が働くタカは日代さんのことを変に疑うことはなく、学生証を拾ったのがあの“千鳥奈桜”だということにも全く気が付いていない様子だった。
「いいえ。私もたまたま千鳥さんが至近距離にいるのが見えたというだけですので・・・もし海崎さんが拾いに行こうとしたのが1秒遅かったら、私が拾いに行っていました」
「そう、なんだ」
俺の失敗をひとまず最小限に防いでくれたことへの感謝をする俺に、日代さんは“何も気にしないでください”と言うように優しく静かに笑みを浮かべながら気遣う。本当に今日は、日代さんが隣にいてくれて助かったとしか言えない。
「でも・・・今日は日代さんが隣にいてくれて本当に助かった」
そんな日代さんへの申し訳なさか、はたまた自分への不甲斐なさかは分からないが、気が付くと俺は隣を歩く日代さんへ無意識に本音を溢していた。
「・・・海崎さん?」
案の定、さっきの俺みたいに日代さんは唐突に本音を溢した俺を不思議そうに横目で見つめる。被験者だったときもそうだったけれど、本当に自分のしてきたことや思ったことは、面白いようにブーメランとなって返って来る。
“この有り様じゃ・・・みちる先輩にまた怒られるだろうな・・・”
「・・・こういうとき、どう言葉を返したら正しいのかは分かりませんが・・・それは私も同じです」
弱気になり始めた心を、日代さんの声がサッと上書きする。
「きっとお兄さんも海崎さんが近くにいるからリライフを楽しめていると思います・・・・・・それをこの目で確かめることが出来ただけで、私は嬉しいです」
“・・・それはさすがに俺を大袈裟に褒めすぎだよ、日代さん・・・”
「もちろんこれは“お節介”なんかじゃないです。海崎さん」
一瞬だけ浮かんだ本心を見透かしたかのように、同じ歩幅で隣を歩く日代さんの声が続けて俺の心を上書きしていく。今日を振り返ってみると、俺はせっかくの休日を満喫するはずの日代さんに迷惑をかけてばかりだ。
“『ごめん。もうちょっとあいつらから離れるまで走って』”
クラスメイトだったときは俺が日代さんの腕を引っ張っていたのが、いざこうして大人になってみたらまるで逆だ。お付き合いして、ゆくゆくは結婚して家庭を築くことになったら絶対に守り抜くと決めているはずが、気が付くと日代さんからは逆に教えられることばかりで頭が上がらない。
“『日代さんが思っている以上に・・・・・・日代さんは被験者の力になれてるよ』”
「日代さんのその言葉が“お節介”だなんてちっとも思ってないよ・・・」
いや・・・俺がそんな弱気でどうするんだ。
「だって、“成功”させたいって思いは俺も同じだし」
日代さんの素直な気持ちで心が立ち直った俺は、前を向いて素直な気持ちを返す。人に前向きな言葉をかけている自分が後ろ向きになっていたら、伝えたい言葉も気持ちも伝わらない。
「狩生さんと玉来さん、それにカズ君を救った海崎さんなら、きっと大丈夫ですよ・・・・・・ただ、私の“保証”じゃ少し頼りないかもしれませんけど」
それに心に深い傷を負っているタカのことを救いたいのは日代さんも同じで、薬剤課として被験者のために天ヶ瀬さんと一緒に薬の研究に日々励んでいる。そんな彼女の頑張りを、俺はちゃんと受け止めないといけない。
「そんなことないよ・・・・・・俺にとっては日代さんが一番の“頼り”だから」
リライフは甘くない。ここから先、タカは3年1組での学生生活を通じて千鳥奈桜の
「・・・そこは“了”じゃないんですね?」
「おぉ、なかなか痛いとこ突いてきたね日代さん・・・」
自虐気味に“大丈夫”と言ってくれた日代さんに気を取り直して“頼りにしている”と言葉をかけたら、思いっきり痛いところを突かれた。確かに日代さんの言う通り、サポート課として頼りにするなら夜明さんと答えるほうが自然っちゃ自然だ。
「そりゃ夜明さんは上司として本当に信頼してるし仕事ぶりも尊敬もしてるよ・・・・・・でも日代さんは・・・」
“・・・“特別”・・・”
「・・・日代さんへの“頼り”にしてるっていうのは・・・・・・夜明さんのとはちょっと違うものだから」
日代さんへ向ける言葉が頭の中に浮かんだのと同時に何とも言えない恥ずかしさが込み上げて、俺は思わず言葉を濁した。
「(って、なに恥ずかしがってんだ俺!?)」
そして言い終えた直後に、中途半端に誤魔化したことへの後悔が恥ずかしさになって襲ってきた。
「・・・そうですか」
ほら見ろ。日代さんがまた困ってんじゃねぇか。ったく、何で俺は言葉を濁したんだ?もうお付き合いもしてるし、何ならタカと接触を図った日の夜にそのタカからの電話で“キャンセル”になったけど日代さんとは“イチャコラ”する一歩手前まで行きかけてたし*1、何にも“特別だ”と言って恥ずかしいことなんてないのに、何をチキっているんだ俺って奴は・・・
「こういう事には“疎い”のでよく分かりませんが・・・・・・海崎さんからそう言われると何だか嬉しいです」
なんて具合に肝心なときに臆病になる自分を心の中で蔑む俺に、日代さんは“笑顔”で言葉を返す。
「・・・そっか」
そうだ。やっぱり俺は、日代さんの“笑顔”があるから頑張れる。この表情に込められた思い出を知っているから、俺はまた一つ日代さんのことを“好き”になっていく・・・
「俺も日代さんからそう言ってもらえると嬉しいよ」
“・・・その笑顔のおかげで頑張れてるって胸を張って言えるように・・・俺ももっと頑張らないと・・・”
「・・・そうだ、食器買うのまだだったけどどうする?」
「そうですね・・・もう遅くなってしまったので明日にしましょう」
「明日だと部屋の引き払いがあるからまたバタバタしそうだけど大丈夫?」
「はい。手続きも含めて遅くとも昼には終わる予定なので問題ないです」
「何か色々とごめんね」
「いいえ。むしろ旅行に行く前日みたいに気分はワクワクしています」
「旅行の前日て・・・(あ~もういちいち可愛いんだよなぁ日代さんは・・・)」
気が付くと、つい1時間前までいた商店街のアーケードが交差点の向こうに見えていた。
既に成立しているカップリングほど書いていて難しいものはない