ヒキニート、高校生になる   作:ナカイユウ

31 / 47
ヒキニート、聞く

 「貴臣く~ん。この後って時間許せる感じ?」

 

 帰りの挨拶が終わり、今日も今日とて課題をリュックに入れて帰ろうとしたところで、俺は海崎さんの後ろの席に座っている黒崎さんに呼び止められた。

 

 「うん。普通に許せるっちゃ許せるけど?」

 

 この間の“ラウワン組”は黒崎を除いてバンド練習でスタジオに行ってしまったことで見事にこの後の予定が何にもない“ヒキニート”に断る理由はないから、俺は首を縦に振った。ただその気になれば適当な理由をつけるか海崎さんみたいに聞かれる前に“どろん”するという手口も無きにしも非ずだけど、何となくそれは個人的に気が進まない。

 

 「じゃあ今から貴臣くんにちょっとだけ手伝ってほしいことがあるから中庭に行って欲しいんだけど、いいかな?」

 「中庭?いや何で」

 「まー早い話が“モデルさん”になってもらう。みたいな?」

 「・・・モデル・・・だから何で俺?」

 「優しい貴臣くんだったら大抵のことは引き受けてくれそうだったから」

 「俺でも時と場合と程度によるけどね?

 

 と、このまま直帰するのも退屈っちゃ退屈だよなと軽い気持ちで黒崎の話に乗ってみたら、思いの外“めんどくさそう”なことに巻き込まれてしまったみたいだ。

 

 「10分・・・いいや5分で終わるから、お願い!」

 

 一瞬だけやっぱり理由を付けて断ろうかと考えたが、頭の中で理由(アイデア)が思い浮かぶ前に黒崎は頭を下げるような仕草をしながら両手を合わせて本気の“お願い”をしてきた。恐らく“モデルさん”ということは、俺が被写体になった写真でも撮るってところだろう。目的としては多分、“漫研”絡みだ。

 

 “・・・だとしたら断るに断れないか・・・”

 

 「・・・分かったよ。5分だけね」

 

 5秒ほど考えて黒崎の企みの目星をつけた俺は、黒崎の“お願い”に乗ることにした。

 

 「ほんとにいいの?」

 「いいよ。だって黒崎さん、このあと“漫研”の活動あるんでしょ?だったら早めにやっとかないとじゃん」

 「・・・やっぱり貴臣くん優しい」

 「それはどうも」

 

 そんな俺に、やや“ドS”気味の黒崎は分かりやすく上機嫌になって笑いかける。ちなみに黒崎(こいつ)からは城野たちとラウワンに行った次の日から下の名前で呼ばれるようになった。だからどうしたって話だけれど。

 

 「じゃあ早速行こっか。ついてきて」

 「はいはい」

 「ていうか体力テストで派手にコケてたけど大丈夫?」

 「あぁ大丈夫。保健の古賀先生から傷絆も貰ってるし、全然大したことないよ」

 「そっか。ひとまず“顔”に傷がつかなくてほんとに良かったね」

 「まぁね」

 

 こうして俺は放課後、いきなり呼び出してきた黒崎から連れられる形でこの学校の中庭へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 「じゃ、撮るよー」

 

 そして俺はいま、黒崎からスマホを向けられながら桜咲高校の中庭にある一番大きな木の下に座り込んで本を読むポーズをとっている。

 

 カシャッ_

 

 「・・・いい・・・やっぱり元の素材が超絶整ってるからめっちゃ絵になる・・・」

 

 スマホのシャッターが鳴り、自分が撮影した写真を見て黒崎は目を輝かせる。

 

 「ねえ、どういう遺伝子が組み合わさったら貴臣くんみたいなイケメンが生まれてくるのかな?」

 「そんなの俺に聞かれても分かんないよ。あと別に俺イケメンってほどイケメンじゃないし」

 「強いていればもうちょっとだけ全体的に髪を短くしてビシッと整えたら“ジュノン”も余裕でイケると思う」

 「いやいや“ジュノン”は言い過ぎじゃ」

 「でも今のこの無造作に伸びてる感じも独特な儚さがあってカッコイイから捨てがたい・・・

 「あの、話聞いてます黒崎さん?完全に自分の世界に入ってんなこいつ・・・)」

 

 自分の撮った写真を確認するや否や、黒崎は我を忘れる勢いで写真に写る俺の姿をこれでもかと絶賛する。さすがに黒崎の言ってることは大袈裟だけれど、嫌味のない “イケメン呼び”はもう言われ慣れているから特にこれといった感情も湧かないから、俺にとってはどうでもいい。

 

 

 

 “『_いいですね(^-^) イケメン高学歴はなんの苦労もせずに人生うまくいって_』”

 

 

 

 まぁ・・・俺が他人(ひと)から“イケメン”と言われて良い気分になるのは、もう死ぬまであり得ないだろうけど。

 

 「じゃあ次は本を抱えて木に寄りかかるポーズで・・・・・・そうそう、それで視線は_」

 

 ちなみに何で俺がこうやって黒崎から写真を撮られているのかというと、漫研の活動で新入部員にやらせる“写真模写”の被写体に俺が選ばれたからだ。言ってしまえば俺の予想はドンピシャで当たったわけで、もちろん黒崎が俺を被写体(モデル)として選んだ理由は、“見ての通り”だ。

 

 「OK~、ほんとありがと貴臣くん」

 

 ともあれ半ば無理にお願いされて引き受けた写真撮影は、ほぼ約束通りの5分ほどで終わった。

 

 「そうだ、せっかく被写体(モデル)で協力してくれたお礼に新入部員の絵の中で“一番良いやつ”を貴臣くんにあげるよ」

 「えっ?それって俺なんかにあげちゃっていいの?」

 「いいよいいよ。むしろ無理やり貴臣くんを部長(あたし)のワガママに付き合わせちゃったところもあるし」

 「無理を言った自覚はあったんだ・・・自覚があるうえでやるのが何となく黒崎らしいけど・・・)」

 

 最初は“面倒なことを引き受けたな”と無礼ながらに思ったけれど、本当に楽しそうに被写体の俺を写真に収める黒崎のことを見ていたら、気が付いたらこっちも何だか楽しくなっていた。

 

 「案外楽しいでしょ?自分がモデルになるのって。何だか自分が主人公になったみたいな“優越感”とか感じない?」

 

 そんな心情を言い当てるかのように、黒崎は“撮影用”で渡された本を返す俺に笑いかける。別に自分が被写体になること自体に優越感はほとんど感じないし、それが好きだとも思わなかった。けど、こうやって一度しかない時間を自分のために思いっきり使って楽しんでいるクラスメイトと一緒にいるこの瞬間が、上手く説明は出来ないけれど無性に楽しく感じる。

 

 「優越感は感じないけど・・・意外と楽しいかも」

 

 やっぱり3年1組のみんなにはこんなふうに自分自身を、みんなと一緒にいる“青春”という時間を羨ましく思えるくらいに大切にして欲しいと俺は思う。

 

 「そっか・・・それはお気に召してくれたみたいで何より」

 

 

 

 たった一度きりしかない時間を無駄にして自分のやりたいことやなりたい夢を捨てて、心を壊してしまったここにいる“誰かさん”と同じ苦しみを味わうのは、俺1人で十分だ。

 

 

 

 「そういえば漫研ってどれくらい新入部員入ったの?なんかクラスで自己紹介してたのときも部員募集みたいなことやってた気がするけど?」

 「おや?それを部長のあたしに聞いちゃうってことはもしかして貴臣くん」

 「申し訳ないですが丁重にお断りします

 「あははっ、冗談だよ冗談」

 「(くそ、大人を揶揄いやがって)

 

 写真模写用の撮影を終えたところで漫研のことがふと気になって聞いてみたら、またタチの悪い冗談で黒崎から揶揄われた。言っておくが俺は無論、漫研に入る気は全くないし興味もない。

 

 「真面目に言うと1年生が4人と、2年生の編入生が1人ってところだね」

 「へぇ~、編入生入ったんだ」

 「ついでに言うと全員女子ね」

 

 どうやら黒崎によると今年の新入部員は2年の編入生も含めて5人で、全員女子らしい。興味がある訳じゃないしただの偏見だけれど、こういう系統の部活動の宿命と言うべきか男女比はかなり偏っているのはこの時点でも想像はつく。

 

 「これだけ女子が多いと逆に男子とか集まらなそうじゃない?」

 「それねー、でもいるにはいて2年生で2人だけであとは全員女子・・・あれ、やっぱり貴臣くんって漫研に入り」

 「ません

 「ですよねー」

 

 やっぱり偏見ながらも俺の予想通り、この学校の漫研も例に漏れず偏っているみたいだ。だからと言って興味はないけれど。

 

 「でもほんとのこと言うと、1日だけ編入生の男の子が仮入部に来たんだよね」

 「編入生2人って・・・すごい確率だなそれ」

 「でしょ!?・・・でも仮入部期間のときに来てくれたけどそれっきりなんだよねー」

 

 だけど偶然なことに、俺や海崎さんとは別の編入生が2人とも漫研に顔を出すという割とすごいミラクルも起きていたらしい。興味はないけど。

 

 「しかもその編入生の男の子も何気に顔立ちが良くてさぁ・・・最近流行りの “塩顔系”みたいな感じ?いやぁ部長としては漫研の“二枚目イケメン枠”として入って欲しかったなーほんと」

 「と俺に言われても困るし入ってくれた男子2人が可哀想な気が・・・ひょっとして黒崎って“面食い”?)」

 

 にしても、俺と海崎さん以外にも編入生ってちゃんといるんだな・・・まぁ言われてみればこの学校は青葉と同じくエスカレーター式で桜咲大学に進学もできるからそういうのも珍しくないとは笹原先生も言っていたけど・・・

 

 “・・・編入生?

 

 「でも良かったじゃん。編入生のうちの1人はちゃんと入ってくれて」

 「うん。言っとくけどめちゃくちゃ絵が上手いよ」

 

 思い出した。俺が海崎さんと一緒に進路指導室に行ったときにたまたまそこにいた2人の編入生。移動教室とかでも一度も見たことすらなかったから、もしかしたらあのときの2人かもしれない。

 

 「そうなんだ」

 「多分、新入部員の中で貴臣くんのことを一番カッコよく描けると思う」

 「・・・へぇー」

 

 

 

 “『そんなに気になるなら直接聞けばいいんじゃないですか?』”

 

 

 

 「(いや、それをやったらリライフが終わるっての)

 「貴臣くーん?意識あるー?」

 「ん?あぁごめん、考え事してた」

 

 海崎さんから言われた言葉が頭の中に浮かんだせいでうわの空になっていた意識を、黒崎が呼び戻す。俺としたことが何を考えているのか。別に編入生が俺と海崎さん以外に2人いること自体は何ら不思議じゃないし、“他者にバレたら終わり”の実験をしている以上は詮索なんて出来るわけがないから、こんなことは考えるだけ無駄なことだ。

 

 「考え事ってどういうの?」

 「いや・・・黒崎さんが撮った写真がどんな絵になって俺のところに返ってくるかってさ・・・ただそれだけ」

 

 

 

 “『千鳥奈桜という生徒のことなんだけど_』”

 

 

 

 カシャッ_

 

 「・・・なんで撮ってんの?」

 「そういえば横顔撮ってなかったなーって思って」

 

 頭の中で全然違うことを考えながら言い訳をしていたら、いつの間にか目の前から真横にいた黒崎から不意打ちで横顔の写真を撮られた。

 

 「撮るなら言えば良かったのに」

 「1枚くらいは自然な表情もあったほうがいいし。見てこれ、結構良い感じでしょ?」

 

 その流れのままに黒崎のスマホの画面に写る自分の横顔を見てみる。

 

 「・・・うん。いいんじゃない?」

 

 特にこれといった感想はないから普通と言おうとしたけど、久しぶりに見た鏡越しじゃない本当の自分の顔が思ったより良い顔をしていたから、表にこそ出さないが俺はつい満更でもないようなリアクションをした。

 

 「あれ?意外と反応薄い」

 「だって自分の顔だし」

 「もしかして貴臣くんってあんまりカメラ映りとか気にしないほう?」

 「どっちかというとそうかもね」

 

 その理由は俺が一番よく分かっている。薬を飲んで17歳に若返った日にサンプル用として海崎さんから撮られた写真に写っていた俺は、真顔と微笑みの中間ぐらいのどっちつかずな表情を浮かべて、生気のない眼つきで海崎さんの構えるスマホのレンズを見ていた。

 

 「まぁ貴臣くんは元が“イケメン”だから映りとか気にしなくても十二分にカッコイイけどね」

 「褒められてる気がしないのはどうしてだろう?別にどうでもいいけど・・・)」

 

 そして17歳に若返った身体と2度目の高校生活に慣れてきたいまの俺は、自分が思っている以上に生き生きとした表情をしていた。たった1ヶ月ほどしか経っていないのに、黒崎のスマホの画面に映る俺は、海崎さんが撮った1ヶ月前の自分とはまるで別人のようだった。

 

 「でもあんまり貴臣くんを持ちあげちゃうと、海崎くんも可哀想だよね?」

 「うーん、けど“海崎くん”はそういうのあんまり気にしないタイプだとは思うよ。俺もよく分かんないけど(実際どうなんだろう海崎さん・・・)」

 

 

 

 まぁ、だからと言って自分が変わったとか、そんな大それた心境には残念ながらなれないけれど。

 

 

 

 「あ、ごめん。5分どころか10分ぐらい付き合わせちゃったね」

 「あぁいや、謝んなくても気にしてないから大丈夫だよ黒崎さん」

 「そっか・・・って、あたしもあたしで早く漫研行かないと」

 

 黒崎と適当に話していたら約束していた5分はとっくに過ぎて、撮影に付き合わせた部長の黒崎が漫研のことを思い出して我に返る。もう説明するまでもないけれど、金曜日の今日は“週3日”ある漫研の活動日だ。

 

 「じゃあ新入部員のイラスト楽しみにしててね!」

 「うん。黒崎さんも部活動頑張って」

 

 元気よく手を振りながら駆け足で漫研の活動をしている教室へと向かう黒崎に、俺も手を振る。こういう何のドラマもないさり気ない日常の一コマですらキラキラしていて楽しく見えてしまうところが青春の良さで、“今”しか糧に出来ない罪なところだ・・・と、青春を棒に振って挙句の果てに崖の下まで落ちて只今絶賛這い上がり中の俺は勝手に思う。

 

 

 

 “『人っていうのは案外容易く変われるものですよ』”

 

 

 

 あのとき、海崎さんがこれからリライフを始める俺にそう言ったことは、1ヶ月が経った今でもハッキリと脳裏に残っている。その言葉通り・・・なんて言ったら思い上がりかもしれないけれど、現に俺は多少のジェネレーションギャップを感じる場面こそあれど、海崎さんと初めて会ったときの想像よりもかなり充実したリライフを送れている。1ヶ月前は家から外に出ることすら出来ていなかった俺が、今では普通に電車を使って学校に行って、普通に同じクラスにいる気の合う友達と和気藹々と学校生活を楽しんでいる。

 

 “こんなんでも俺は、変われているのだろうか・・・

 

 でも、そうやって何食わぬ顔で2度目の高校生活を楽しみながら、俺は大切にしないといけないクラスメイトに何も出来ないでいる。実際に千鳥のことを聞けるタイミングはないことはなかったけれど、俺が余計なことをして再びみんなの関係に“亀裂”が入ってしまうようなことになったら・・・そう考えると恐くて行動に移せなかった。要はずっと俺は辛い現実から目を背けて逃げていたということだ。

 

 “何が変わったんだよ。結局、ヒキニートのときから何にも成長してねぇじゃん・・・(おまえ)

 

 心の中では千鳥のことを毎日のように気に掛けていたけど、“”という瞬間を全力で生きているみんなを見るたびに、俺は大人げなく“それっぽい理由”をつけて無意識にそれに甘えていた。甘えているうちに、俺のリライフにとって大切な意味(もの)を忘れかけていた。

 

 

 

 “そうだよな・・・困ってる他人(ひと)に手を差し伸べることすら出来ない奴が・・・・・・家族を幸せにすることなんて出来るわけないよな・・・

 

 

 

 「黒崎さん!

 

 久しぶりに心の底にいるもう一人の自分に鼓舞された俺は中庭から教室へと駆けていく黒崎を呼び止め、擦りむいた右膝を庇いながら走って追いついた。

 

 「被写体で協力した代わりってわけじゃないけど、黒崎さんにどうしても聞いておきたいことがあるんだけど・・・いいかな?」 

 「・・・それってさ、今じゃなきゃ“ダメ”な感じ?

 

 いま自分がどんな表情をして相手に聞いているのかは分からないけれど、追いついた俺に振り返った黒崎は静かに笑いながら“何かを察した”ような意味深な口ぶりで答えた。この瞬間、俺は黒崎が千鳥のことを“よく知っている”と確信した。

 

 「うん・・・だから言ってる

 

 まだ桜咲に入って2週間程度の編入生だけど、同じクラスにいるクラスメイトとして“腹を決めた”俺は亀裂を恐れて聞けていなかったことを黒崎に聞いた。

 

 「本当だったら3年1組にいるはずの千鳥奈桜っていう生徒(ひと)について、黒崎さんが知ってることがあったら教えて欲しい・・・・・・俺はクラスメイトとして、千鳥さんを知りたいから

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。