ヒキニート、高校生になる   作:ナカイユウ

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2024/2/3追記:今後の展開を考え一部ストーリーを変えました。


ヒキニート、図書館へ行く

 “・・・ここが黒崎の言ってた図書館か・・・”

 

 授業を終えた放課後、俺は帰り道とは反対の方向へ3分ほど歩いたところにある図書館の前へと来ていた。どうして帰宅部で“暇”なはずの俺がこんなところにいるのかは、授業が終わり帰りの挨拶を済ませた後に黒崎から半ば強引に誘われる形で中庭でやった“撮影会”まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 「本当だったら3年1組にいるはずの千鳥奈桜っていう生徒(ひと)について、黒崎さんが知ってることがあったら教えて欲しい・・・・・・俺はクラスメイトとして、千鳥さんを知りたいから

 

 振り返った黒崎の表情と口ぶりで千鳥のことを“よく知っている”と確信した俺は、腹を決めて今までずっとクラスのみんなに聞けなかったことを思い切って聞いた。

 

 「・・・やっぱり聞いてたかー

 

 どう言葉を返すか数秒ほど考え込むように斜め上を見つめて、黒崎はそう呟くと再び視線を俺のほうへと移す。どうやら事が事なだけあって黒崎もまた、俺に千鳥のことを打ち明けることに対して相当悩んでいたみたいだ。

 

 「“アッキー”でしょ?奈桜のこと貴臣くんと海崎くんに話したの?」

 「・・・詳しいことまでは聞いてないけど、千鳥さんが別室登校なのは、もう聞いてるよ」

 「ていうかさぁ、アッキーから聞いたところでどうしたらいいんだーって話だよね・・・」

 

 まるで俺がこのことをずっとみんなに聞けていなかった理由(わけ)を言い当てていくように、目の前に立つ黒崎は呟くように話しかける。いつものように飄々と振る舞って見せるけれど、俺に余計な心配させないためなのか取り繕っているのが普段より少し低めなテンションで分かる。

 

 「聞きづらかったよね?ぶっちゃけた話?」

 「まぁ・・・事情が事情だから・・・」

 「・・・・・・」

 

 そして知っていても聞きづらくて言えないでいたことを話の流れで俺が明かすと、黒崎は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 「ごめん貴臣くん・・・・・・隠すつもりはなかったって言うと言い訳になっちゃうけど、“こと”がことだし奈桜から“大事(おおごと)にはしないで”って言われてたから・・・編入生の貴臣くんや海崎くんには直接言えなかった・・・本当にごめん

 

 もちろん色んな事情があってクラスで千鳥の話題(こと)に触れるのは“タブー”みたいになっているのは分かっていたから、頭を下げてごめんなさいと謝る黒崎のことを責める気なんて微塵もなかった。

 

 「黒崎さんが謝る必要なんて全くないよ・・・笹原先生からは事細かく事情を聞かされたってわけじゃないけど、俺みたいな編入生にはどう説明したらいいか分からない事情(こと)なのは分かるし・・・むしろ、俺のほうこそ気を遣わせてごめん」

 「いや、貴臣くんは何も」

 「本当はクラスの誰かに千鳥さんのことを聞こうとずっと思ってた・・・・・・けど、怖くてタイミングのせいにしてずっと逃げてた・・・

 

 むしろ黒崎を謝らせてしまった罪悪感で居たたまれなくなった俺は、千鳥のことを本当はずっと聞こうとしていたことを打ち明けた。いざそれを聞いてしまったらクラスの空気を重くしてしまうんじゃないかという恐怖心から、中々話すタイミングが合わないことを言い訳にして聞けないでいたことも打ち明けた。もちろん“俺の存在は1年後には忘れ去られてしまうから、こんな存在してはいけない存在のせいでみんなの高校生活が壊れるなんてことを起こしたくなかった”なんて真実は言えるわけがないから、話せる範囲で話せる本当の気持ちを黒崎に伝えた。

 

 「・・・そっか」

 

 ずっと言えなかった理由を謝りながら打ち明けた俺の話を、黒崎は静かに頷きながら聞いてくれた。隠しごとがひとつ減ったからか、正直に話したらほんの少しだけど肩の荷が下りたような感覚がした。

 

 「それでさ・・・俺、今日学校に行く途中で千鳥さんと会った

 

 そのことで自分の中で緊張が解けたのか、俺は学校へ行く途中で千鳥と会って話したことを黒崎に明かした。

 

 「それ、あたしも知ってる。行きの電車で奈桜が貴臣くんと偶然会ったって

 「・・・えっ?

 

 だけど黒崎は、俺と千鳥しか知らないはずの出来事を口にした。言うまでもなく何も知らない俺は困惑した。

 

 「これも貴臣くんか海崎くんから奈桜のことを聞かれたら本当のこと話そうって決めてたんだけど・・・実はあたし奈桜のLIME持っててさ、毎日ってほどじゃないんだけど奈桜とやり取りしてるんだよね・・・

 

 困惑した俺に、黒崎は千鳥の“LIME”の存在を明かした。当人曰く、1組のことは基本的に千鳥と“分け隔てなく親しい”黒崎から聞いているという。

 

 「そうだったんだ・・・じゃあ、俺が千鳥さんと偶然会ったことも本人から?」

 「うん。お昼休みのときに奈桜から直接あたしのところにLIMEが来てさ、マジでビックリした」

 

 そして俺が千鳥と電車の中で会ったことは、当人を通じて黒崎のLIMEへと送られていた。にしても、一見あまり接点のなさそうな黒崎と千鳥がこんな感じで繋がっていたのは正直意外だ。

 

 「なんか言ってた?俺のこと?」

 「それも聞いちゃう?」

 「やっぱいきなり根掘り葉掘り聞くのも悪いからどっちでもいいよ」

 「ホントはいきなり声かけられて怖かったとか言われてそうで恐いとか?」

 「別にそんなんじゃないよ(むしろ話しかけてきたのは千鳥(むこう)だし・・・)」

 

 仲が良いという黒崎に俺のことを何かLIMEで言ってなかったかをさり気なく聞いてみたら、“平常運転”に戻った黒崎から揶揄われながら心を読まれた。ただその心の読みは7割くらい外れているけれど、俺が千鳥からどう思われているかは気になっている。

 

 「それとも奈桜になんか酷いこと言ったとか?」

 「だから違うっての

 

 

 

 “『ごめんなさい・・・なんか大神さんのことを避けちゃってるみたいな感じになってますけど、本当に寄るところがあるってだけなので』”

 

 

 

 「ただ・・・千鳥さんが少しでも恐い思いをしたとしたら、謝っておきたいなって思うからさ

 

 最寄り駅で降りた後、“寄るところがある”からと先に学校へ行くように言った千鳥の言葉に従って、俺は彼女を駅の構内で置き去りにする形で歩き出した。もしあそこで一緒に学校に行こうと言って寄り添ったとしても、まだ編入生の俺にどこか警戒心を持っていた千鳥のことを考えるとそんな真似は出来なかった。あのとき俺が頭の中に浮かんだ“2択”の中で選んだあの選択は正しかったと信じたいが、やっぱり当の本人がどう感じていたかははっきり言って恐いところもあるけど気になってしまうものだ。

 

 「・・・それなら心配しなくても大丈夫だよ。もしかしたら奈桜にバラしたら怒られるかもだけど、貴臣くんのことは“まだよくわからないけど優しい人だとは思う”・・・ってLIMEで言ってたから

 

 そうやって少しだけ心配していた俺に、黒崎は千鳥がLIMEのメッセージで言っていたことを優し気な表情で教えてくれた。実質的に今日の通学途中に会って話したばかりだからまだまだ距離感はあるのは当たり前だけれど、悪くは思っていないみたいでひとまずは安心できた。

 

 「・・・そっか・・・良かった

 

 だけどそんなことよりも、ある“出来事”がきっかけで心を閉ざしてしまっている千鳥に、今でもちゃんと大切にしてくれる“友達”がいると知れたことが・・・自分のことのように嬉しく思えた。

 

 

 

 “・・・やっぱりこのまま何もしないのは・・・千鳥のためにはならない・・・

 

 

 

 「・・・ちなみにだけど、多分いまから近くにある図書館に行けば奈桜に会えると思う

 

 こうして心に傷を負ってしまっている千鳥のために一歩踏み込んでみようと決意した俺に、黒崎はあることを提案した。

 

 「良かったら帰る前に会いに行ってみない?・・・って言ってもあたしはこのあと“漫研”があるから結局行けないんだけど、奈桜も貴臣くんと仲良くなりたいってきっと思ってるから・・・

 

 

 

 

 

 

 こうして漫研の活動がある黒崎と別れた俺は、千鳥がいるという図書館に着いた。ちなみに海崎さんにもタイミングを見計らって“なるはや”で千鳥のことは明かすらしい・・・まぁ、現在絶賛観察中の“じゃないほう”こと海崎さんは、とっくにその事情を知り尽くしている(下手したら学校の人間以上に)のだけれど。

 

 “ほんとにLIMEしてくれたんだよな・・・黒崎のやつ?”

 

 ちなみに俺が図書館に行くと言い出したときに“LIME入れとく”と黒崎は言ってくれていたけど、果たして本当にメッセージを送ってくれたのかどうかが若干心配だ。というか大きな音を立ててはいけない図書館はだいたい原則として携帯はマナーモードにしないといけないのがルールだから、バイブレーション機能を切っている場合だとそもそも気付かない可能性すらもある・・・だとしたら、ある意味で俺は“アポなし”で千鳥に会いに行くことになる。

 

 ヴゥ_

 

 図書館の前で何も知らなかった場合の千鳥への言い訳を考えながらウロウロしていると、マナーモードにした俺のスマホが鳴る。着信は黒崎からだった。

 

 

『_奈桜から返信来たよ。ロビーで待ってるって_』

 

 

既読『_ありがとう、助かった_』

 

 

『_(Fight!)_』←※バツネコスタンプ

 

 黒猫をデフォルメしたキャラクターがメッセージを喋るスタンプと一緒に、黒崎から送られてきたLIMEで千鳥が図書館にいることを俺は知る。別に疑っているつもりはないけど、とりあえず黒崎はちゃんと俺が来ることを伝えていて、それが千鳥本人にも伝わっていたようでひと安心だ。

 

 “この中に、千鳥がいる・・・”

 

 それにしても、ただ図書館のロビーで待っている同じクラスの子に会いに行くっていうだけなのに、どうしてこうも緊張するのか。現実的に考えれば外見だけ若返る薬を飲んで学校の制服を着て登下校する状況のほうがよっぽど緊張するし何もかもがぶっ飛んでいるのに、どうして俺はこれぐらいのことで今更緊張なんかしているのか。

 

 “とりあえず会って話すのはいいけど、まず何を話したらいいんだ?”

 

 理由はたった1つ、シンプルだけどすごく難しいことだ。相手の抱えている事情をある程度知っているからこそ、何を話していいのかが分からない。 “何とかしたい”という一心でここに来たのはいいけれど、そもそも編入してから1,2週間しか経っていない俺が千鳥のために出来ることは何なのか、それを考えると無性に不安になってくる。

 

 “でも・・・千鳥はもっと“不安”なはずだ・・・

 

 けど、心を許している“友達”の黒崎を通じて俺と会って話してもいいと思ってくれた千鳥は、相当な勇気を振り絞ってそのメッセージを黒崎へ伝えたはずだ。ならば俺は、これぐらいのことで躊躇なんかはしていられない。

 

 「・・・・・・行こう

 

 息を吐くと同時に意味もなく独り言を吐いた俺は止まっていた足を動かして、図書館の自動ドアを通り抜けてロビーに入る。

 

 「・・・あ、どうも」

 

 ロビーに入った瞬間、まるで俺が来るのをずっと待ち伏せていたかのようにロビーにあるソファーに座っていた千鳥が俺の姿を認識するや立ち上がり、丁寧にお辞儀をしてきた。

 

 「ごめんね。いきなり色々と」

 「謝らなくてもいいですよ。事情は愛火ちゃんから聞いてますので」

 「ていうか、待った?」

 「いえ、多少時間が掛かるかもというのも聞いているので大丈夫です」

 

 そんなあまりにもあからさまに来るのを待っていた様子のクラスメイトについ力んでしまった俺を、千鳥は淡々としながらも優しくフォローする。全く、この間の本屋のときといい、中身だけは8歳年上なはずの大人が現役のJKにまたしてもリードされるというこの始末・・・もうなんだか死角から観察しているであろう海崎さんが心の中で大爆笑している姿がチラつく・・・でも美人な薬剤課の日代さんに優しそうな海崎さんのことだから、意外と逆にこの状況を羨ましがっているかもしれない・・・

 

 “いや待て・・・・・・何気にさっきからめっちゃ“合法JK”してね俺?

 

 「(ってか“合法JK”って何だよ?)」

 「では中に入りましょうか。片付けていた課題がまだ終わっていないので」

 「えっ?あぁうん」

 「どうかしました?ひょっとして図書館みたいな静かな場所は嫌いだとか?」

 「いや、全然どころかこういう落ち着いたところのほうが好きだよ俺?(さっきからなに動揺してんだ俺・・・)」

 「そうですか・・・(あんまりそんなふうに見えない・・・)」

 

 不覚にも“合法JK”を満喫しまくっていることに気が付いて動揺した俺は、再び8つ下のJK・・・もとい千鳥にリードされる恰好で図書館の受付へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ライブハウス・SOUND GREEN(サウンドグリーン)_

 

 「審査でやるセトリだけどさ、やっぱ“青天井”からの“Re:*(リ・アスタリスク)”のほうが良いんじゃねってオレは思うんだけどみんなどうよ?」

 「あ~、確かに曲調的に“Re:*”のほうがメリハリもつくしこれはこれでいいかもな」

 「でも私は“革命児”のほうがライブ映えすると思うから正直どっちも捨てがたい」

 「うわ~それはそれでマジでやりてぇ」

 「そもそも持ち時間10分なのがネックだよね」

 「ならいっそワンチャン思い切って“青天井”をボツにしてみるか?」

 「“青天井”でテープ審査応募してる以上そんなことしたらおれらは即失格だよタク」

 「マジで?テープ審査ってそんなルールあったの??」

 「いや知らなかったんかい拓巳(おまえ)?」

 

 放課後。オレたち“Penguin park(ペンギンパーク)”一行はバンドの活動拠点にしているいつものライブハウス兼スタジオで、来月のゴールデンウィークに迫る10代限定の音楽ロックフェス・“サウンドオブライオット(通称“SOR”)”のスタジオ審査に向けた曲決めを兼ねた練習(リハ)をしていた。

 

 「・・・なぁ?今からすっげぇ馬鹿なことみんなに提案するけどいい?」

 「今度はなに、タク?」

 「こないだ海音が俺らにデモ送った新曲あんじゃん?」

 「あぁ“Who am you(仮題)”ね」

 「いっそのことアレを今から急ピッチで作り込んで審査にぶち込んでみるってのはどう?」

 「あれは“SOR”とか関係なく時間を掛けて作り込むって決めてるから却下」

 「ですよねー」

 「そもそも歌詞がまだ未完成なんじゃねぇのアレ?」

 「うん。あと言っとくけど一昨日上げた仮の歌詞、やっぱりボツにするからみんなも何か案があったらおれのとこに送っといて」

 「オッケー」

 「オッケーって、拓巳って歌詞とか書けたっけ?」

 「海音(コイツ)には全部却下されたけど、真太郎と凉っちが入る前の中2んときに3つくらい書いたことあるわ」

 「却下されてんなら意味ねぇじゃねぇかオイ

 

 ただしご覧の通り、テープ審査を突破したはいいもののスタジオ審査で披露する2曲を決める曲決めは難航して、グダり始めていた。

 

 「つーか“SOR”でやるセトリっていつまでに決めるんだっけ?」

 「25日」

 「だったら何やるかは来週の月曜までに決めるっつーことで、今日と土日は一旦セトリは考えないで3曲の練習を徹底的にやるって感じで良くね?」

 「・・・3曲同時・・・決まってない状態でリハやるのは気持ち悪いんだよなぁおれ・・・・・・そこら辺どうにかなんない?中途半端なままなのは嫌なんだけど?

 

 普段のマイペースな感じとは違い、スタジオに入ってフロントマンの“スイッチ”が入っている海音が、遠回しに俺たち3人へ“今日中に決めてほしい”と要求する。

 

 「海音の気持ちも分かるけど、真太郎の言う通りとりあえず3曲じっくりと色々試して演奏する2曲を決めてくってやり方のほうが効率的だと私も思う・・・どうしても今日までに決めなきゃいけないことってワケじゃないし」

 

 海音からの自己中な要求に、凉がオレに代わって提案を続ける。もちろんオレたちはこと自分の音楽(バンド)となると良くも悪くも自己中心的になるフロントマンのこういう“一面”も音楽仲間(バンドメンバー)としてちゃんと受け入れている。

 

 「ちょっとごめん。一回外の空気吸ってきていい?」

 「おう。でもすぐ戻って来いよ」

 「大丈夫。2分で戻るから」

 

 そしてオレと凉からの提案にどうするか考えるように何秒か黙り込んだ海音は、一旦気分を落ち着かせたいのか “2分で戻る”と言ってスタジオブースの防音扉を開けてサウンドグリーンの外へと出て行った。

 

 「はぁ・・・やっぱ一度スイッチ入ると中々折れてくれないんだよな~海音のやつ」

 「でも小1からの付き合いの俺からするとこれでも良くなったほうだけどな?」

 「それ、前も拓巳から聞いた」

 「マジ?」

 

 フロントマンがいなくなると同時に出てくるのは、陰口まではいかない海音への愚痴。誤解のないように言っておくけど、少なくともオレは海音のことを陰で嫌っているとかは全くないし、むしろ海音のことはこういう一面も含めてバンドメンバー以前に友達として受け入れている。

 

 「心配すんなよ。海音(アイツ)が気分転換に行ったってことは、真太郎(おまえ)と凉っちの意見を受け入れたってサインみたいなもんだから」

 「これで違ったら責任取れよ拓巳?」

 「いやそれは無理」

 「だって“オレと凉(おれら)”と違って小1からの付き合いだからよく知ってんだろ海音のこと?」

 「付き合いが長いからってあのマイペースな“異星人”の全部を理解してると思ったら大間違いだぞ」

 

 かと言って相手は周囲から“異星人”と言われるくらいには感性がズレていて、日や気分次第で主張がコロコロと変わるマイペースで芸術肌な“音楽バカ”だから、偶には本人のいないところで一言二言は言いたくなることもある。けどそんなものはオレらに限らずみんなだって持ち合わせているものだから、気にするだけ無駄なことだ。

 

 「でも結局さ・・・その時の気分で言うことが二転三転したりするから“ふざけんな”って思うこともあるけど、毎回良い曲書いてくるし何だかんだで人思いだから憎めないんだよね海音って

 

 そんなオレと拓巳のちょっとした愚痴話をベースのチューニングをしながら傍観するように聞いていた凉が、何だかんだでオレたち3人が海音と一緒に居続けている理由をボソッと呟く。

 

 「それなんだよなぁ、もうほんっとにバチクソにカッコイイ曲しか書かないんだよなぁ海音のやつ・・・しかも歌もギターも上手ぇし顔も良いし何なんだよマジで・・・あぁでもアイツ、運動センスはミジンコだったわ」

 「そんなところでマウントとっても醜いだけだぞ拓巳?」

 「あと人から借りたものを一向に返さないところ」

 「あ~それはめっちゃ分かる」

 「ちなみに私は妹の海莉(かいり)ちゃん使って貸してた“NA●A”無理やり返させた

 「うぅわその手があったか!俺には恐れ多くて出来ないけど(ていうか“ NA●A”読んでるんだ凉っち・・・)」

 「そういや海音のやつ妹ちゃんにはマジで弱ぇからな」

 「でもだからってあんまり海莉ちゃんに変なこと吹き込まないでよね?」

 「いやどの口が」「いやどの口が

 

 結局のところオレたちは、誰よりも純粋に音楽のことが好きな海音がいつも“イイのが出来た”と言って送ってくるデモテープが好きで、海音が伝えたい思いが詰まった一曲をもっと素敵にカッコよくして一層オレたち4人が好きだって思える(カタチ)にしたいから、海音と一緒に音楽を続けている。

 

 「つーことで・・・とりまこうなったらオレらもオレらでもっと頑張んねぇとな?」

 「だな。いつまでも海音の才能におんぶにだっこじゃいられねぇし」

 「私、あの新曲の歌詞本気で考えてみようと思う」

 「おっ、いいねそれ!」

 「じゃあオレら3人で出し合って誰の歌詞(やつ)が採用されるか勝負しようぜ!」

 「うっわやべぇテンション上がってきたマジで!」

 「って言いながら海音が“ごめん遅れたー”って言って書いてくる歌詞が一番しっくりくるパターンになるかもだけどね?」

 「うわぁそれもなんかすげぇわかるけど言い出しっぺの凉っちがそれいっちゃダメだって」

 「言い出しっぺは鞍手でしょ?」

 「今更だけど凉っちっていつも俺だけ苗字で呼ぶよね?別に俺的には平気だけど・・・)」

 

 

 

 もちろん本当の理由をもっと掘り下げたら、それぞれ違うのだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 “『野球続けるのがもう無理なら・・・おれのバンドにドラムスで入ってくれない?だって君、スタミナあるでしょ?』

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、マナティーからLIME来てるんだけどみんな見た?

 

 なんて具合にフロントマンの海音抜きで盛り上がっていたら、気分転換を終えた噂の本人がスタジオのブースに戻って来るなり、いきなり愛火からLIMEが来たことを割と本気(マジ)なトーンでオレたちに言ってきた。

 

 「愛火から?」

 「おれらの“グループ”に送られてるから、みんな見れるはず」

 

 つい2,3分前まで超真剣に考えていたセトリのことなんか“どうでもいい”と言いたいくらいの海音の様子に内心でやや困惑しながらもオレはスタジオの床に置いていたスマホの画面を確認すると、確かにホーム画面にはオレたちバンドメンバーとペンギンパークの“美術担当”の愛火が入っているグループLIMEに、愛火からのメッセージが送られていた。

 

 「・・・これって

 「もしかしなくてもそのまんまの意味だと思う

 

 送られてきたLIMEには、貴臣が奈桜のことを愛火に聞いてきたことが書かれていた。




作者のバンド経験が皆無なおかげでめちゃくちゃ難産でした・・・タハハ
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