ヒキニート、高校生になる   作:ナカイユウ

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 「しゃあ、アレやりますか」

 まもなく支部大会1日目の競技が行われる陸上競技場のトラックの一角で、キャプテンの雄磨の一声で陸上部のエントリーメンバーとなった部員たちは円陣を組む。

 「みんなそれぞれ目標だとか色々あると思うけど、俺から言うことはこれだけです・・・“いつも通り”に陸上を楽しみ尽くすこと。以上ッ!」
 「「アァイ!!」」
 「誰よりも楽しんで行くぞ!!」
 「「アァイ!!」」
 「桜高ファイッ!!」
 「「オォォッ!!」」
 「さぁ行こう!!」

 4月26日。桜咲高校陸上部、12年ぶりのインターハイ出場に向けた“夏”が始まった_


ヒキニート、応援に行く

 4月26日

 

 支部大会当日_

 

 

 

 「(やっぱ早めに出て正解だったな)」

 

 午前9時25分。赤羽にあるアパートから地下鉄を乗り継いで約50分。赤間たち陸上部が出るという支部大会の会場の最寄り駅の改札を、どうにか約束の5分前に通過する。黒崎から集合場所をLIMEで送られてきた時点で俺の住むアパートからまあまあ遠いことは分かっていたけど、つい1ヶ月前まで家から一歩も出なかったヒキニートにとって片道1時間弱の移動は、運よく途中で座れたとはいえ控えめに言って片道だけでも少しばかり疲れる。

 

 「おはよ~貴臣くん」

 

 駅から出た瞬間に目の前に広がる集合場所の駅前広場に着くや否や、一足先に着いていた黒崎が“ここだよ”と言わんばかりに手を振りながら俺を出迎える。

 

 「待った?」

 「ううん全然。てゆーかよく“1人”でここまでこれたよね?」

 「まぁ、事前に調べておいたから何とか」

 「あははっ、貴臣くんらしい」

 

 ちなみに昨日、思い切って千鳥を誘ってみるもあまりに急な話すぎたせいで普通に断られた俺は、自分の部屋へ帰った後に海崎さんを“友達要因”として誘うかどうか5分ほど悩んだ末、これぐらいのことで海崎さんに頼るのは良くないという判断に至って、“1人”で行くことにした。

 

 「(まぁ、正確には見えないところで“もう1人”がスタンバってますけどね・・・)」

 

 言うまでもなくリライフ実験の都合上、あくまで被験者に過ぎない俺はもれなくサポート課(海崎さん)の“監視”付きだけれど。

 

 「ところで黒崎さん。隣にいる人は?」

 

 と、何気なく黒崎と話していたら、その斜め後ろで“ちょこん”とした感じで黒崎の背後に隠れるようにして立っているもう一人の女子が立っていた。着ている服が私服のせいで分かりづらいけど、確実に黒崎と同学年か後輩の生徒だろうなっていうのは一瞬で分かった。とりあえず、どうやら黒崎は“本当の意味”で1人だけ誘えたみたいだ。

 

 「あ、そうそう。実は貴臣くんにどうしても会わせておきたかった子がいてさ~、じゃ、自己紹介よろしくっ」

 「あ、はい」

 

 黒崎から促される形で、斜め後ろに立っていた子は緊張した面持ちでスッと前に出る。

 

 「2年4組の、野矢純(のやじゅん)です。漫画研究部に所属してます・・・よろしくお願いします」

 

 少しだけ俯くような視線と緊張した様子と最低限の言葉で自己紹介をする、“野矢純(のやじゅん)”という名前の2年4組に在籍している女の子。ただでさえ初対面な上にいきなり1学年上の先輩と話すとなれば、余程の“陽キャ”じゃない限り大なり小なり誰だって緊張はする。

 

 「初めまして。俺は黒崎さんと同じ3年1組の大神貴臣です。ちなみに黒崎さんからはクラスメイトとして仲良くさせてもらってる感じです」

 「実物見るともっとイケメンでしょ貴臣くんって」

 「ちょっと黙ってくれるかな黒崎さん?ほんと海崎さんに負けず劣らずだなこいつは・・・)」

 

 とりあえずこのように緊張で萎縮している子にはまず警戒心を解いてもらうために、なるべくフレンドリーに話してみる。晴れて引き篭もりを“卒業”して2度目の高校生活を送り始めること早3週間。引き篭もる前の“コミュ力お化け(※カズ曰く)”状態と比べるとまだ遠いものの、人と話す機会が圧倒的に増えたことで自分なりにとはいえ家族以外の人との接し方とその感覚は戻りつつある。

 

 「なるほど。となると大神先輩は愛火先輩と同じクラスなんですね?」

 「うんそう。じゃあ野矢さんも“漫研”に入ってるってことは黒崎さんと一緒ってこと?(“大神先輩”とか何気に高校以来だわ・・・)」

 「はい・・・と言っても、入ったのは今月からなんですけどね」

 「へぇ〜そうなんだ?」

 「そもそも私、4月に桜咲に編入してきたばかりなので」

 「待って、てことは俺と一緒じゃん」

 「はい。一応それも愛火先輩からは聞いてます」

 

 城野みたいにはいかないまでも俺なりに明るく振る舞ってみたら、黒崎からの“野次”じみた手助けと“編入生”だったというまさかの共通点が分かったからか、野矢という子は次第に肩の力を抜いて俺と視線を合わせて話し始めるようになった。

 

 “ていうか、この子どこかで見たことあるぞ俺・・・”

 

 「この前漫研でやった“写真模写”のときに、モデルとして愛火先輩が写真付きで紹介してくれたので」

 

 

 

 “『笹原先生、あそこにいる2人ってもしかして“編入生”ですか?』”

 

 

 

 「・・・あれか」

 

 楕円形レンズの黒縁メガネと少しだけ紫がかったブロンドのような独特な髪色をしたこの子と、編入初日に俺は進路指導室で見ていてすれ違いざまに一瞬だけ目が合ったことを思い出した。何となくあの子のことは頭の片隅で残っていたけれど、こんな形で会うことになるとは思わなかった。

 

 「あれかって、もしかして覚えてなかったの貴臣くん?」

 「ちゃんと覚えてるよ。中庭で黒崎さんに撮ってもらったやつ」

 

 もちろんあの後に笹原先生から“あんまり人のことを“覗き見”するのは良くない”と釘を刺されたこともセットで覚えているから、思い出したけど正直あんまり良い思い出じゃないから今は黙っておこうと思う。断じて言うけど、あれは覗きなんかじゃない。

 

 「じゃああたしが“お礼に新入部員の絵の中で“一番良いやつ”を貴臣くんにあげる”って約束してたのは、覚えてる?」

 「約束・・・」

 

 なんてしょうもない心の内なんて知る由もない黒崎は、被写体として写真撮影に付き合った日のことをわざとらしく首を傾げながら問いかける。言われてみれば、確かにあのとき黒崎は俺にそんな約束をしていた。

 

 「でも、まだその絵もらってないんだけど・・・」

 

 

 

 “『多分、新入部員の中で貴臣くんのことを一番カッコよく描けると思う』”

 

 

 

 「・・・あぁ、ひょっとしてそういうことか

 

 “伏線”が繋がったことで確信した俺は、黒崎が同じ漫研の野矢を誘ってわざわざこうして俺と会わせた理由を察した。

 

 「野矢さんなんだね。“一番上手く”描いたの

 「・・・上手く描けたかは、分かりませんけど

 

 頭の中に浮かんだその理由を本人にぶつけてみると、野矢は分かりやすく照れながらその視線を俺も黒崎もいない左側に逸らした。これは間違いなく、図星だ。

 

 「あははっ、あたしがネタバラシする前に気付いちゃうなんてさすが天才貴臣くん♪」

 「“天才て●びくん”みたいに言うな」

 「“ノヤジュン”も自分で描いたんだから他人のフリしないで自信もって素直に喜ぶ♪だって貴臣くんにプレゼントしたくて今日来たんでしょ?」

 「いや、何だか本人を前にしたら急に恥ずかしくなって・・・」

 

 ネタバラシの前に答えに辿り着いてしまった俺が天才なのかは置いておくとして、これで今日の面子がパッと見でそこそこ謎な組み合わせの“この3人”なのに合点がいった。まぁ、それを言えば約1名が薬飲んで若返ってる“更生中のヒキニート”の時点で謎過ぎるにも程がある話だけれど。

 

 「ごめんね。貴臣くんとは完全に初めましてでノヤジュンちょっと緊張しちゃってるっぽいから、絵を見せるのは競技場着いて大会がひと段落してからでいいかな?」

 「うん。俺はそれでいいけど、野矢さんは?」

 「私もそれでお願いします。まだちょっと心の準備が出来てないですし、そろそろ行かないと100メートル走に間に合わなくなると思うので・・・」

 

 ともかく赤間の応援に行く3人(面子)(※背後にサポート課1名)が揃ったところで、俺は“漫研組”と一緒にここから歩いて約15分のところにあるという競技場に向けて歩き始める。

 

 「そういえば仮入部期間のとき1日だけ編入生のイケメン君が来たんだけど名前って分かる人いる?」

 「少なくとも漫研ですらない俺は分からないよ(そういや写真撮ってたときこんなこと言ってたな黒崎・・・)」

 「まー貴臣くんはそうだよねー」

 「(何故だろう、俺の“アウェー”感が凄い・・・)

 

 支部大会が行われている競技場までの道中を他愛もない話をしながら3人で歩いていると、話の内容はいつの間にか黒崎が中庭で俺の写真を撮っていたときにチラッと口にしていた“1日だけ漫研に顔を出したもう1人の編入生”の話題になった。無論、漫研には顔すら出してない俺は全く知る由もない・・・と言いたいところだけど、実は進路指導室ですれ違っていて何なら軽く会釈もしている。

 

 「そうだ、ノヤジュンは名前とか覚えてたりする?」

 

 でもそれを言ったら言ったで話がややこしくなりそうだから、このことも今は黙っておくつもりだ。

 

 「あの、もしかして“夜明くん”のことですか?」

 「よあ・・・あ~そうそう夜明くん!」

 「夜明・・・珍しい名字だ」

 「よく名前覚えてたねノヤジュン?」

 「一応同じクラスですので」

 「言われてみればそうじゃん!」

 「と言ってもほとんど話したことないんですけどね」

 「まじかー」

 「ていうかなんで黒崎さんはそんなに夜明って人に拘ってんの?」

 「だってうちの漫研に“イケメン枠”がいないからどうしても入って欲しいんだよね~」

 「漫研だったら顔より絵心のほうが重要なのでは?(まだ諦めてないんだ・・・)」

 「ねぇ貴臣くんって絵とか自信ある?」

 「さり気なく俺を勧誘しないでくれるかな黒崎さん?

 

 とりあえず話の流れで、あのとき進路指導室にいた2人の編入生が誰なのかが俺の中で分かった。まさか半分くらいはどうでも良さそうな話の中で、また一つ編入生の謎を知ることになろうとは。にしても“夜明”ってすげぇ名字だな。と言っても多分、学校ですれ違ってもまず野矢と同じクラスの時点で学年が違うし特に話す理由はないから何も起きないだろうけど。

 

 「この横断歩道を渡って公園突っ切って少ししたらもうすぐ着くよ」

 「徒歩15分って歩いてみたら意外とあるね(学生とか社会人のときはこのくらい平気で歩いてたのに・・・シンプルに体力不足か?)」

 「まぁ単純に考えて池袋の西口から学校までを往復するくらいの距離はあるからね~。何なら帰りはバスにする?」

 「ううん、俺は帰りも歩きで大丈夫(だってこの鈍った身体をどうにかしないとだし・・・)」

 「おっ、貴臣くんはストイックだね~。ノヤジュンは?」

 「あ、私も歩きでお願いします」

 

 そうこうしているうちに、俺たち3人は競技場まで徒歩5分圏内のところまで進んで、横断歩道を渡って車道に沿うように広がる公園の中を突っ切る。

 

 「公園の中をショートカットするってさ、何だか優越感ない?」

 「どうして?」

 「だってこんなところを通れるのは歩行者とか自転車に乗ってる人だけじゃん」

 「あー、まー言われてみれば分からなくはないかな」

 「あからさまに“意味わかんねー”って顔してるね貴臣くん?」

 「そもそもショートカットするために公園を使ったことないし」

 「うわ出た3年1組イチの“優等生”」

 「とりあえず今の話に優等生の要素はないし1組の“優等生”は城くん1人で十分だよ

 

 公園内の遊歩道を“歩行者の特権”と言う優越感に浸りながら先導するように斜め前をご機嫌に歩く黒崎の背中と横顔が、微笑ましく目に映る。その足取りと仕草だけで、黒崎が競技場のトラックで走る赤間の姿を心の底から楽しみにしているのが、ひしひしと伝わってくる。

 

 「すみません、“城くん”って誰ですか?」

 「あたしたちのクラスにいる城野真太郎って人。ツーブロックの銀髪にピアスでめっちゃ背が高いから学校だとすぐに見つけられると思うよ?」

 「ツーブロックの銀髪にピアス・・・・・・先生から怒られないんですか?」

 「大丈夫大丈夫。うちの学校って身だしなみの校則めっちゃ緩いから」

 「にしてもじゃないですか?まだ誰なのか知らない私が言うのも難ですけど」

 「もちろん見た目とか言葉遣いは桜咲でもちょっと浮いてるくらいチャラいけど、成績はめっちゃいいし不特定多数の優しいからねあのムードメーカーって」

 「確かに、俺のこととかも編入生なのに初っ端からずっとクラスメイトだったみたいな距離感で話してきたし、城くんはいいムードメーカーだよ・・・慣れたとはいえ外見とのギャップが凄いけどね」

 「ははっ、ホントにそれ」

 「・・・話を聞く限り、城野先輩って人は何だか面白そうですね」

 

 そんな黒崎の遠足前の子供に通じるワクワクを抑えきれないテンションが伝わり出したのか、野矢の警戒心がだんだんと解かれていくのを良い意味で気を遣わなくなり出した言葉遣いの節々で感じる。正直言うと駅前で会って自己紹介をしたときの様子から編入生なりに苦労しているのかなと思っていたけど、何だかんだでこの子は自分の居場所をこの学校で見つけることが出来ているみたいだ。

 

 「そうなんだよめっちゃ面白いんだよ城野くんって。何なら明後日会ってみる?」

 「いえ、会ったところで“ビビり散らかす”自信しかないので遠慮します」

 「もちろん無理にとは言わないよ。だって何も知らない状態であの“銀髪ピアス”に話しかけるのって最初は結構勇気いるし。だよね貴臣くん?」

 「うん。俺もぶっちゃけ最初見たときはちょっと恐かった」

 「あははっ、やっぱりそうだよね~」

 

 思えばこんなふうに、同じクラスの子の応援にクラスメイトたちと一緒に行くなんて充実した生活、初めて桜咲の制服を着た自分の姿を鏡で見たときには想像すらもしていなかった。それどころか8つも年下の子たちと一緒に馴染むことすらも、難しいと思っていた。

 

 「でもさ、城くんもそうだけど・・・俺は1組に入れて本当に良かったって思ってるよ

 

 

 

 

 

 

 “『人っていうのは案外容易く変われるものですよ・・・・・・“実家暮らしのヒキニート”から“1人暮らしの高校生”になれたように』”

 

 

 

 

 

 

 「貴臣くん・・・シンプルにどしたの?」

 「(やべっ)えっ?あぁいやこれは」

 「急に打ち切り漫画の最終話で主人公が言ってそうな台詞言うじゃん

 「いや例え方が“漫研”過ぎやしませんか?てか打ち切り漫画とか縁起悪いなオイ・・・)」

 

 なんて油断して海崎さんの言っていた助言を思い出して感傷に浸るままに心の声を発してしまい、8つ下のJKから癖強めな例えツッコミを食らう25歳のヒキニート。もちろんたまに出るフラッシュバックという悪い癖のせいでつい黄昏てしまった俺が悪いんだけど、死角から海崎さんがニヤけているのが脳裏にチラつくから、複雑な気分だ。

 

 「・・・大神先輩って、面白いですね」

 

 すると俺の右隣りを歩く野矢が、控えめながらも今日初めて笑顔を見せた。別にウケ狙いで口走ったわけじゃないから面白いと言われると反応には困るけど、先輩2人を前にちょっとばかり萎縮していた野矢が笑ってくれたことは、何だか千鳥が笑ったところを見たときのような嬉しさを感じた。

 

 「そうそう。貴臣くんってパッと見だとクールなイケメン転校生って感じだけど話してみたらノリとかも良くて今みたいに結構面白くてさ。ある意味、城野くんと負けず劣らず“見た目詐欺”だよ」

 「そんなに見た目詐欺かな俺?

 

 リライフを始めてまだ1ヶ月の俺には“これがリライフだ”とはまだ言い切れないけれど、いま俺が被験者として受けているこの実験は被験者の更生と同時に、1人でも多くの人を笑顔にするために行われていることなのかもしれないと思う。無論、あくまで“個人の見解”ってやつだけど。

 

 「ほらあそこだよ。衛士たちがいる競技場」

 

 そしてこんなふうに他愛もない話で黒崎たちと盛り上がりながら歩いていたら、あっという間に陸上の支部大会が行われているという競技場に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

『_衛士!ぜってぇ1位とってこいよ!_』

 

『_(fight!)_』

 

『そっちもな』

 

 「・・・・・・」

 

 トラックで円陣を組んで気合入れをした後の、ちょうど誰もいないロッカールーム。スマホに届いていた匡からのLIMEを返して自分のロッカーにスマホをしまって、これから走るための雑念を封じる。

 

 「やっぱりここにいたか衛士。そろそろ“ミッチー”の応援に行くぜ」

 

 自分のスマホをロッカーにしまうタイミングを図ったかのように、背後からロッカールームに戻ってきた雄磨がいつもの飄々とした調子で支部大会でこの後に始まる一番最初の種目となる110MH(メートルハードル)走に出場する渡瀬(わたぜ)の応援に行くぞと声をかける。

 

 「あぁ、言われなくとも」

 

 本当は雄磨がなぜ俺がこんなタイミングでこんなところにいるかを分かった上で呼び来たことは俺自身も分かり切っているが、敢えて触れずに素っ気なく相槌を返す。

 

 「・・・戸畑くんは何て言ってた?

 

 もちろんそんな俺が素っ気ないリアクションをすることも含めてこいつにはお見通しだから、察していないフリをしても結局こいつは触れてくる。この前の春季大会のときもそうだったように。

 

 「“ぜってぇ1位取って来いよ”・・・っつってた」

 「そっか・・・じゃあ絶対優勝しないとだな?」

 「当たり前だろ。支部大会で勝てなかったら、(あいつ)に合わす顔がねぇ」

 

 気負い過ぎだと言わんばかりに気さくに笑いかける予選前でも平常運転の雄磨に、俺なりの意思をぶつける。

 

 「ははっ、相変わらず気負ってるなぁ孤高のエース様は」

 「気負って何が悪い。誰よりも早く走るには、俺は絶対負けねぇって自信を気負わなきゃ話にならねぇだろ?」

 

 もう慣れたことだし今更言ってもこいつが変わらないことも分かっているとはいえ、相変わらず俺は雄磨の“こういうところ”だけは初対面のときからずっと気に食わない。

 

 「雄磨(おまえ)もそうじゃねぇのか?

 

 だけど雄磨が同じ陸上部の“キャプテン”だという以前に、(あいつ)とは違う“居場所”を選んだ俺にとってなくてはならない“戦友”と言える存在なったのは揺るがない事実で、雄磨のことは“こういうところ”も含めて尊敬しているし、雄磨がいるからこそ俺も目標に向けてここまで頑張れている。

 

 「・・・当然でしょ。俺だって勝ちたいし

 

 俺が本音で思っていることを突くと、雄磨はいつもの爽やかな笑みを浮かべたまま“戦友”ではなく“ライバル”としての言葉で俺に返す。同じ種目を専門とする俺たちはリレーのときは仲間だが、100 M(メートル)と200 M(メートル)のときは同じユニフォームを着た“敵同士(ライバル)”だ。

 

 「100と200だけは、俺も容赦しねえから

 

 何より雄磨は俺と同じように、同じチームの誰かが勝てればそれでいいと割り切れるほどのお人好しじゃない。そもそも“勝ち”に貪欲じゃなかったら、インハイ出場を目標にしている桜高陸上部のキャプテンなんて務まらない。

 

 「・・・ったく、お前のこういう無駄に爽やかなとこだけは(あいつ)を思い出すからずっと嫌いだわ」

 「そうイライラすんなよ衛士。陸上は楽しんだもん勝ちだぜ☆」

 

 こうやって俺たちは時には“戦友”、時には“ライバル”になり互いを高め合って、インターハイという同じ目標に向けて走ってきた。もちろんそれは、どっちかがその目標に手が届くその瞬間まではきっと続いていく。

 

 「チッ、だから“こういうところ”っつんだよボケが」

 

 

 

 でも俺たちが“それ”を掴めるのは・・・今年が最後のチャンスだ・・・

 

 

 

 「つーわけで衛士・・・・・・インターハイ、“俺たち”で行くぞ

 

 

 

 

 

 

 “『来年こそは絶対上がって来いよ。インターハイ』”

 

 

 

 

 

 

 「・・・おう

 

 やる気に満ちた爽やかな表情で拳を突き出す雄磨に去年のインハイ予選の後に7位で敗退した俺を寂し気な笑みで見送った匡の姿を重ねながら、俺は突き出された拳に自分の拳を突き出して無言の気合入れを交わし、後輩の応援をするためトラックへと向かった。




補足として新しく登場した野矢純というキャラクターの名前の発音は、本名が小栗旬の“栗旬”の部分と同じ発音で、愛火から呼ばれている“ノヤジュン”は松潤と同じ発音になります。
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