「あ、やっと衛士からLIME来た」
夕方の5時。支部大会の観戦を終えた俺は黒崎と2年の野矢と一緒に競技場を出て、他愛もない話をしながら最寄り駅への道のりを戻る。終わってみれば結局、俺は漫研の2人と一緒に100M走の決勝の後にやったリレーも含めて支部大会の一日目を全て観戦した。今更だけれど、せっかくの土曜日を丸一日“観察”に付き合わせてしまった海崎さんには、少しだけ申し訳ない気分だ。
「赤間先輩が大会中にスマホを見ないのは本当だったんですね」
「うん。ホント衛士ったら一度スイッチが入ると息抜きすらしないんだから」
ちなみに今はどんな状況なのかというと、黒崎が赤間へ送った隙間時間に観客席で撮ったこの3人でのスリーショットの返信がようやく返ってきたところだ。ついでに言うと、赤間は今回のような大会があるときは“集中したいから”という理由で競技が全て終わり撤収するまでスマホを見ないようにしているという。もちろんこれは、観客席で4×100Mリレーの競技開始を待っていたときに黒崎が教えてくれた。
「“貴臣くんと漫研の後輩の3人で観戦なう”っていうメッセに対して“おう、おつかれ”って・・・・・・貴臣くんは衛士のこの返信どう思う?」
「それはシンプルにコミュニケーション音痴かと」
写真付きでメッセージを送ってから約3時間後にようやく赤間から返ってきたLIME。黒崎は俺に“おかしくない?”と言いたげにその返信を教える。正直リアクションに困るところはあるけれど、キャッチボールになっていない赤間のLIMEを一言で言うとするなら、こんな感じだ。
「ていうかさ、もしかして赤間くんってLIMEでもこの調子なの?」
「いいや日による。多分今は大会の後で疲れてるからいつになくコミュ力の調子が悪くなってる」
「コミュ力に好不調があるなんて聞いたことないんだけど(俺も俺で人のことは言えた義理じゃないけど・・・)」
心を壊してヒキニートにまで落ちぶれた俺が言える立場じゃないのは百も承知だけど、さすがにLIMEでもコミュニケーション音痴な一匹狼には一言ツッコみたくなる気分だ。ただそれだけってだけで赤間は本当に良い子だから、全く憎めないのだけれど。
♪_
「?」
すると今度は俺のスマホから例の着信音が聞こえてきて、ほぼ条件反射的にその画面を開く。
『_大神ってさ、周りに女子しかいなくても平気なんだな?_』
「ブッ」
赤間が何の前触れもなく送り付けてきたLIMEのメッセージに、俺は思わず吹き出してしまった。
「ちょっ、いきなり笑い出して怖いんだけどどうしたの貴臣くん?」
「ごめん何でもないw」
「明らかに何でもないわけなさそうに私には見えるんですが」
「いやほんと、マジで大したことじゃないから」
「だとしたら逆に怖いですよ大神先輩」
「ねー♪」
「大丈夫、本当に大したことじゃないから(なんかマジで引かれ出してるな俺・・・)」
そして堪えきれずに笑ってしまったら、一緒に歩く女子2人から若干引かれてしまった。恐らくは黒崎が送った写真を見て思ったことをそのまま俺に伝えただけなのだろうけど、あまりに唐突過ぎて笑わないほうが無理だ。
「今のLIMEもそうだけど、赤間くんってやっぱ面白い人だなってさ。それだけ」
たださすがにそろそろ何か説明のひとつでもしておかないと本気で引かれかねないから、送られてきたLIMEの内容は伏せて頭の中で思いついたそれっぽい言い訳で白を切る。赤間が送ってきたメッセージのことを言わなかったのは、何となくバラしたら俺まで“自爆”しそうな予感がしたからだ。
「本当?」
「本当だよ。普段のぶっきらぼうな感じとか、そのくせ実は天然で不器用なところとか、陸上のトラックを走ってるときのカッコよさとか・・・クラスメイトとして赤間くんのことを知れば知るほど、本当に赤間くんって面白い子だなって・・・」
右隣を歩きながら“本当?”と疑いの目をかけてくる変なところで勘が鋭い黒崎に、本心を伝える。咄嗟に思い浮かんだ言い訳の延長とはいえ、赤間に対する気持ちだけは紛れもなく本物だ。普段の如何にも“一匹狼”な感じの振る舞いに反して、大事な日に筆記用具を忘れたりする天然さとクールになりきれない不器用さ、そして短距離走に対する真っ直ぐな思いを感じた今日の走り。
「もちろん選手として走ってる姿を見て、本当に心の底から赤間くんのことを応援したいって思ったよ」
黒崎や城野が思っていることと同じっていうわけじゃないけれど、良くも悪くも不器用で愚直なぐらいに真っ直ぐな赤間はやっぱり“愛される”人柄をしていると俺は思ったし、だからこそそんな赤間のことを本気で心から応援してあげたいと思った。
「・・・面白い“子”って。やっぱり貴臣くんってたまに発言が大人目線になるよね?」
「(やばっ、油断してた・・・)えっ?あぁ、今のはその、シンプルに言い間違えた」
「ふふっ、衛士のことサラッと“天然”って言ってたけど貴臣くんも人のこと言えないね?」
「こればかりは何も言えない・・・」
「ちなみに私は大神先輩も十分に面白いと思ってます」
「えっと、これは普通にありがとうって感じに受け取っていいんだよね?」
という感じで赤間に対して思っていることを2人に打ち明けたら、つい油断して出てきてしまった軽い失言を黒崎からツッコまれ、2年の野矢から無自覚な追い打ちを俺は食らう。2度目の高校生活に身体も心もすっかり慣れてきたせいで自ずと危機感が薄れてしまっているけれど、リライフは自分が“同い年じゃない”ことが周囲にバレた瞬間に終わり、薬を飲んで若返ってから今日までの記憶も消されてしまうから言葉や振る舞いには本当に気を付けなければいけないのが怖いところ。というか、そんな得体の知れない薬の効果に突っ込むことなく受け入れてしまっている自分も、どうかと思うのだが。
「でもほんとにありがとね貴臣くん。衛士のことをここまで友達として思ってくれて」
ちょっとした油断の言葉を突っ込まれたことで心の中に若干の不安を感じたが、どうやら黒崎にはちゃんと本音だけが伝わったみたいだ。揶揄い好きなところはあるけれど黒崎のこういうところはちゃんと本当の気持ちだから、これ以上掘り下げられなかった安堵よりも純粋な嬉しさが勝つ。
「ううん。俺はただ思ってることを言っただけだから」
それと同時に、本当のこととはいえちょっと言い過ぎてしまった恥ずかしさが心の中で込み上げてくる。だけどこれもまた裏を返せば、思ったことを言葉にすると恥ずかしくなるくらいに、いまの俺は充実した一日を送れているということになるのかもしれない。
もしもあのとき赤間にとっての黒崎や城野みたいに、周りに“陰の支え”になってくれる人が1人でもいたら、俺は間違えなかったのだろうか・・・
「でもまさかリレーの2走目で走ってた
そろそろ最寄り駅が視線の先に見え始めてきたところで、話題は赤間から100Mの決勝からリレーまでの隙間時間に軽く盛り上がった渡瀬という2年生の話にすり替わった。
「ノヤジュンももっと早く言ってくれたらハードル走も見せられたのに~」
「すみません。つい昨日まで陸上には1ミリも触れないまま育ってきたのと渡瀬くんとはまだ一度も話してないのであんなに凄い人だとも知らなかったので」
「ま~でもハードルって今日の大会だと一番最初で9時半には終わっちゃうからもっと早く集合しなくちゃって話になるからあたしたち“観戦組”からするとちょっと大変だけどね?」
「というか陸上で掛け持ちしててどっちでも活躍してるって凄くない?」
「うん、普通に凄いよ。噂じゃ渡瀬くん、衛士たち3年生の代が引退したら本格的に100Mとハードルの二刀流に挑戦するらしいし」
「随分詳しそうだけど誰から聞いたのそれ?」
「キャプテンの原田くん」
「ハルダ?・・・あ~、昨日カフェテリアで赤間くんと一緒にいた人か」
「そうそう」
叱る素振りで笑いながら冗談を言って可愛がる黒崎に、純粋な野矢は本気のトーンで申し訳ないという気持ちを漫研の先輩へ伝える。ちなみに2年の渡瀬という人は一体どういう人なのかというと、今日の支部大会で赤間たちが出た100M走の前に行われた110M
「にしても100と200とか200と400を掛け持ちしてる人は割といそうだけど、100Mとハードルを掛け持つ人ってそういやあんまり聞かない気がするんだけどどうなの?」
「もちろん結構なレアなケースだよ。少なくともあたしが豊藤中に通ってたときはそんな選手見たことも聞いたこともないし。ただ陸上って中には近代五種みたいに1人で5種目やって順位を決めるやつもあるから、珍しいってだけで世界を探せばいくらかはいるかもね」
「さすが元陸上部なだけあって詳しいな黒崎さん」
そりゃあ世界中を探せば幾らかはいるだろうなって突っ込みたい気持ちはともかく、やっぱり俺の想像していた通り100Mとハードルを掛け持ちしている選手はかなり少ないらしい。実際に陸上を経験している黒崎がそう言っているんだから、きっとそうなんだろう。というか、100とハードルの“二刀流”は素人の俺でも普通に凄いのがわかる。
「ちょうどいま陸上を
「ひょっとしてテーマはその近代五種ってやつ?」
「それはまだ秘密」
ついでにその話の流れで、黒崎が陸上をテーマにした新たな漫画を描こうとしているということを俺と野矢に打ち明けた。漫研の活動に興味があるわけじゃないけれど、もしかしたら文化祭の出し物として出すためのものなのだろうか。
「あ~でも、どうしても貴臣くんが気になるって言うんだったら漫研に顔を出してくれたらあたしは幾らでも」
「どさくさで勧誘したって俺は漫研には入らねえって(いつまで引っ張るつもりなんだこいつは・・・)」
と、聞こうとしたけど聞いたらいよいよ本気で勧誘されそうな気がしたから、結局そのときの楽しみということにした。
「・・・あの、愛火先輩と大神先輩」
すると俺と黒崎のちょうど斜め後ろを歩いていた野矢が、僅かばかり恥ずかしそうな口調と声色で話しかける。
「・・・最初はどちらかというと大神先輩に自分の絵を渡したくて陸上の試合観戦に参加してて、正直陸上なんて今まで見たこともないレベルの素人が一緒に観たら逆に失礼なんじゃないかとも思ったりして不安なところもあったのですが・・・・・・本当に今日は来てよかったです・・・ありがとうございました」
そのままどこか緊張した面持ちで、野矢は振り向いた俺と黒崎へ視線を真っ直ぐに向けて真っ直ぐな感想を告げる。
「ううん。俺だって野矢さんから絵をプレゼントされて本当に嬉しかったから、こちらこそありがとうだよ」
向けられる言葉に何一つ先輩だからと気を遣ったりしているところがないのが目と表情にこれでもかと現れているから、本当にこの子は良い子なんだなっていうのが雰囲気や言動からひしひしと伝わってくる。これは黒崎のようなタイプから好かれるのも納得だ。
「あの、何だか愛火先輩に対して失礼な言い方になってしまいましたが、先輩からこういう機会に誘われたことはとても嬉しかったので・・・その点だけは誤解しないで頂けるとありがたいというか・・・言葉足らずですみません」
足を止めて2人の先輩へ誘ってくれたことの感謝を告げる野矢だったが、自分で言った言葉に引っかかるところがあったのか、黒崎にそのことを続けて謝る。目の前の本人に言ったら怒られる予感しかないから心に留めておくけれど、この子ほど名前と中身が一致している子はそうそういないと俺は思う。
「大丈夫大丈夫。ノヤジュンの気持ちはちゃんと全部あたしに伝わってるから、貴臣くんもだけど今日は来てくれただけで本当にあたしも嬉しい」
そんな疑うことさえも知らなそうな純粋な人柄の野矢を前にすると、普段はSで腹黒いところもある黒崎もいつもの倍ぐらい優しくなる。何というか、この子といい赤間といい千鳥といい、タイプは違えど周りから“愛される”ような性格をしている子を見ていると人懐っこい
「そうですか・・・ありがとうございます」
あのときと比べて自分が大人になれたかと誰かから聞かれても、“はい”と胸を張って言えるような生き方なんて俺はしていないし、母さんがいなくなった夏のころに思い浮かべていた大人になった未来の自分には、これっぽっちも近づけていない。だけどかつては同じくらいの歳だった自分とかつての自分と同じくらいの歳の周りのみんなを重ねて、大袈裟とかじゃなく目に入れても痛くないくらいに可愛がっていたカズを思い出している俺は、それだけ“大人”になったということだろうか。
“『寂しくなるね・・・兄ちゃんが家を出るのは』”
「ちなみにあたしとノヤジュンはガ●トに寄ってから帰るけど、よかったら貴臣くんも行く?」
1ヶ月前に暫くの“さよなら”をした弟のことを不意に思い浮かべて勝手に耽りかけていた意識に、黒崎の声が入ってくる。どうやら黒崎と野矢は、この後に駅前のファミレスに寄っていくらしい。
「ごめん、俺夕飯とか買わないとだから先に帰るね」
ただ生憎ちょうど食べる物を切らしていた俺は夕飯と明日の朝食を優先して、一足先に帰ることにした。気が付くと競技場から歩くにはそれなりの距離があった最寄り駅のロータリーが、交差点の先に見えていた。
「あぁうん、わかった・・・っていうか何で夕飯?」
「実は俺1人暮らしで身の回りのことは全部自分でやらないとだから」
「えっ!?じゃあ自炊とかしてるの!?」
「そう(お金は経費だけど)」
「めっちゃ偉いじゃん!」
「いやいや全然、1人しかいないから仕方なくやってるだけだよ」
「まず高校生で1人暮らしっていう時点で凄い気がします」
「まぁ、そうなのかな?(本当はそうじゃないんだけどね・・・)」
何となく会話の流れで俺が1人暮らしだということを“現役JK”の2人に明かすと、やや大袈裟に驚かれた。大学と社会人だったときには1人暮らしをしている人が周りに幾らでもいたから俺にとってそれが当たり前のようになってしまったが、確かに言われてみれば高校生で1人暮らしは中々珍しい気がする。正確に言えば、見た目が高校生なだけの更生中のニートが1人暮らしをしているという、おおよそ洒落にならないシチュエーションなのだけれど。
「じゃあ俺はこれで帰るね」
「うん、応援に来てくれてほんとありがと!また学校でね!」
「うん。また来週ね」
「お疲れ様でした、大神先輩」
「お疲れさま。野矢さん」
そして駅前の信号が青に変わり交差点を渡ったところで、俺は黒崎と野矢の2人に手を振って別れて駅の改札へと足を進める。
「(・・・そうだ、赤間にまだLIME返してなかった)」
駅の改札口まで来たところでまだ赤間にLIMEを返していなかったことを思い出して、邪魔にならないところに移り足を止めてLIMEを開く。当たり前のことだが、俺は“ながらスマホ”なんていう危険な真似はしない。と言いながら、ついさっき一瞬だけ歩きながら赤間のメッセージを確認してしまっているのだけれど。
『_どういうこと?_』
赤間へどう返信するか10秒ほど悩んだ末に、俺はメッセージを送った。そのまま突っ込んでやろうかとも考えたが、俺がいきなり黒崎が撮った写真を見てのLIMEだってことに気づいていたらそれはそれでおかしいし、1日目が終わって疲れ気味の赤間がもっと困惑してしまうだろうと思って、敢えて知らない体を装う。
「(既読早っ)」
なんて考えながら返信を送ったら、5秒足らずで既読がついた。ああ見えて赤間は意外とLIMEとかの返信はこまめにやるタイプなのか、あるいはたまたまLIMEを開いていたのか。どっちにしろ、らしいっちゃらしいけど。
『_愛火から送られてきた写真を見た。愛火と愛火が漫研に入った後輩だって言ってたメガネの奴と一緒に大神が映ってた_』
「メガネの奴て(いちいちストレートなんだよなぁこの一匹狼は・・・)」」
勝手に赤間の考察をしているうちに当の本人から返信が返ってきて、これまた赤間らしさが溢れる返しにほぼ無意識にツッコミの言葉がこぼれる。ただでさえ無口な赤間と何気にLIMEでやり取りをするのは初めてだけど、良くも悪くも話す言葉がストレートなところはメールでも健在だから微笑ましい。
「グッ・・・」
立て続けで返って来るらしさ全開のLIMEに、危うく俺は吹き出しかける。いや、この返しに“お前ってLIMEだとこんな感じなんだな”って返しは軽く想定外。こんな予想の斜め上の返答は我慢すればするほど笑いが込み上げるパターン。ぶっちゃけ、電車の中で見なくて正解だった。
うん。やっぱりこの子ちょっと変わってておもしろいわ。
『_それよりお前って周りに女子しかいなくても平気なのか?_』
と、脱線したやり取りで少し油断していたところで、赤間はいきなり本題に戻してきた。そうだった。まだ肝心な答えを赤間には返していなかった。とは言うものの、どう返せばいいかは中々出てこない。
『_平気っていうか考えたことないかな_』
『_前の学校でそういう人たちのグループにいたっていうのもあるけどね笑_』
結局2,30秒考えてもそれらしい理由が浮かばなかった俺は“少しの嘘”を織り交ぜありのまま思ったことを赤間に返して、そのままICカードを掲げて改札を抜けてメトロのホームへと繋がる階段を上がりながら、その意味を考える。周りに女子しかいなくても気にならないかとか、やっぱりそういうのは考えたことがないから平気かどうかもわからない。確かに初めて黒崎や千鳥と1対1で会ったときはちゃんと周りに自分が高校生として見られているかっていう不安もなくはなかったけれど、それも1日が終わればすぐに慣れてしまった。
“『大神くんもウチらと写真撮ろ!』”
“『うんいいよ!ていうかカメラとかどうする?』”
“『しゃーねぇなあとりま俺が撮るわ』”
“『サンキュー遼平!』”
“『そん代わり後で俺のクラスで売ってるチュロス買いに来いよ』”
“『俺今月マジで金欠なんだよな~』”
“『うわ出た大神くんの金欠アピールw』”
“『ちょっwもうちょいオブラートな言い方あんだろ!w』”
だって男子だとか女子だとか関係なく、仲の良いクラスメイトや友達と一緒に話したり文化祭とかのイベントで思い出作りに写真を撮ったりとか、平気も何も俺にとってはそれが普通だったし、少なくとも高校に通っていたときまでは俺の周りにいた連中もそういう奴らばかりだったから、本当にそういうことを考えたことがなかった。
♪_
駅の階段を上がりきりホームに着いたタイミングで、一旦ポケットにしまい込んでいたスマホが鳴り画面を確認する。赤間からのLIMEのせいかは分からないけど、気が付くとまだ母さんが家を出て行って間もないときの青葉祭での何気ない会話の一コマを思い出していた。家に帰ればどん底でも、まだ俺の周りに今までと同じように学校で会えば必ず顔を合わせて笑い合う友達がいて、“ルカ”との関係も続いていたときの記憶。今思えば、あそこで周りを巻き込みたくないと強がらずに誰か1人にでも弱音を吐き出せていたら、もう少し未来は変わっていたのかもしれない。なんて、今更思い返しても意味がないのは分かっているのだけど・・・
『_やっぱりお前って女慣れしてる?_』
“『一回しか言わないから聞き逃さないでね・・・・・・』”
『_悪い。やっぱり何でもない_』
『_今のは全部忘れて欲しい_』
『_俺がどうかしてた_』
『_本当にすまない_』
「フッ・・・ははははっ・・・!」
突然勝手に取り乱し始めた赤間からのLIMEに、とうとう俺は堪えきれなくなって笑い声をあげてしまった。
「(セーフ・・・ってことにしておくか)」
次の瞬間に羞恥が込み上げてふと周りの視線が気になってホームを見渡してみると、ホームに立つ人はみんな知らん顔をしている。とりあえず、自分の中では“セーフ”ということにしておく。
「(海崎さんにはガッツリ見られてるだろうけど・・・)」
きっとこれは察するに、自分から聞いておいて急に我に返って恥ずかしくなったのだろう。その気持ちは俺も分かる。
とにかく明日も競技があるという赤間のために、俺はさっきの質問を忘れることにした。
こうして赤間とのLIMEを終わらせて、俺はスマホをポケットに再びしまう。
“・・・俺が“女慣れ”か・・・”
それにしても、まさかあの陸上一筋な感じの赤間があんなことを聞いてくるとは想像していなかった。まあ、絶対に口にはできないけど俺のほうが8年ほど人生を長く積んでいるわけだから、人にもよるけど8コ下の子と比べて慣れているのは当然っちゃ当然だ。今でこそ更生中のニートなこの俺にも、“彼女”はいたからな・・・
“『大神貴臣くん・・・・・・好きです』”
「(“忘れる”って言ったろ。俺・・・)」
『まもなく、二番線に、各駅停車、中野行きがまいります』
自分で忘れると言っておきながら無意識に思い返そうとした意識を溜息で吐き出すと同時に、俺の立つホームに各駅停車の到着を知らせるアナウンスが響いた。
ラ●ン風のトーク画面が上手く再現できない。