〇気になるあのコに贈る♡ 簡単マカロンの作り方☆
まず、アーモンドパウダーと粉砂糖をふるいにかけておこう!
目の細かいふるいだとアーモンドの油分が出やすいから、目の粗いものを使うこと!!
次にメレンゲを作ります☆ 卵の卵白をボウルに入れ、ハンドミキサーで泡立てよう!
(※ない方は手動のもので頑張ってかき混ぜてね!)
この時、グラニュー糖を3回に分けて加え
「・・・・・。」
本棚の奥に眠っていた料理本らしきそれには、そんなきらきらした文章が踊っていた。
・・・8割方、どうせシャミ子の私物だろう。ここ最近・・・というかしばらく前から、私の自宅がシャミ子の私物に侵食され始めている気がする。ここ私の家なんだけどな。一応。
そんなことを思いながら、カラフルなマカロン達の載ったページを何の気なしに見つめる。
いい加減、料理が上手になりたいな、と思った。ひとに美味しいって言ってもらえるくらい上手になったら、まず最初にシャミ子に食べて貰おう。シャミ子には、今までずっと、作ってもらいっぱなしだったから。
・・・まぁ、食材を発光させてしまう私にとっては、まだまだ遠い道のりらしいのだが。
私の壊滅的な料理センスからいったん目を逸らす。べっ・・・別に、そりゃ、私は・・・料理、料理?が、その・・・ちょっと?下手かもしれないけどさ。・・・料理以外の家事なら基本全部できるし?裁縫得意だし?
シャミ子がご飯を作って、私がそれ以外をやる。完璧。これぞ理想的な家事分担。
みすぼらしい現実逃避をしていた所で、そういえばあのマカロンの本は何処で見つけてきたんだろう、とふと思う。
そういえば物置部屋の掃除中だったことをいま思い出した。危ない危ない、ここで私がお菓子作りハウツー本を読み耽っていては、シャミ子ひとりに物置掃除をさせることになってしまう。
掃除機を片手に意気揚々と階段を駆け下りていったまぞくの姿を思い出す。最初はがらんとしていたこの家も、彼女が来てからはなんだか賑やかになったような気がする。・・・いや、別にシャミ子がうるさくしているというわけではない。決して。
「もんも、・・・そんなところでじっとして、何やってるんですか?」
噂をすればなんとやら。気が付いたときには我が家に棲みついてしまったまぞく様が、いつの間にか後ろに立っていた。
「・・・あぁ、そういえばもうすぐホワイトデーでしたよね。
・・・欲しいんですか?マカロン。」
私の読んでいた本の内容を覗き込んでひとり合点したのか、シャミ子は「しょうがないですね」と言わんばかりの表情でそういう。
「ん~・・・いや、別にどうしても食べたいって訳じゃないし」
ぱたんと本を閉じて、空いていた本棚の隙間にさしこむ。もともとその本があった場所かは知らない。
「あぁそうだ、ごめんね、掃除サボっちゃって。
いまからちゃんとす・・・・・・ん?」
家主が休んで(不法)同居人が掃除をするという申し訳ない状況を回避するべく、掃除を再開しようと私は立ち上がった。が。・・・どうもその同居人がいま手に持っているアイテムは、掃除機ではないようである。
「・・・シャミ子、・・・手に持ってるそれ、なに?」
「これですか!!さっき掃除していた時に見つけたんです!!」
意気揚々とそう述べるシャミ子が見せつけてきたのは、・・・何かの、衣装・・・?
「これ・・・前のハロウィンのやつじゃない?確か、ミカンが着てた・・・」
「そうです!!しかも吸血鬼さんのですよ!!
ハンガーにつるされた状態で放置されていたので、拝借してきました」
ふむ。言われてみると、確かに吸血鬼とやらを模した衣装に見えるような気がする。いかにもミカンが着ていそうな肩のあいたもので、シックな黒をベースにオレンジの差し色が入っている。ジャック・オ・ランタン風デザインの蜜柑ヘアピンはおまけだ。
「その服、気に入ったの?確かにシャミ子には似合うかもしれないけど、サイズが合わないんじゃ・・・」
「私が着るんじゃなくて、桃が着るんですよ!!」
・・・は?
「・・・いや、いやいや、確かに、サイズはいい感じかもしれないけどさ。私にコスプレの趣味はないよ」
「コスプレじゃないです仮装です!!ハロウィンの!!」
3月にハロウィンの仮装をするひとがどこにいるんだ、おばか。あと半年は先だぞ。
「でっででででも!!桃に似合うかなって思って持ってきたんです!!桃黒い服に合うじゃないですか!!闇堕ちフォームみたいな!!」
だから、絶対似合うと思うんです!!私はもう、自分の好奇心を抑えきれません!!
そんなことを言いながら、きらきら・・・もとい、ギラギラした視線でこちらを見つめる
シャミ子。
「・・・そんなに着てほしいの」
「はい!!」
「・・・別に、・・・実際着てみて似合って無くても、がっかりしたりしない?」
「そんなことしませんよ!!」
ですから!!
と述べて、彼女はずいっとこちらに衣装を差し出してくる。・・・まったく。
「・・・わかったよ。着ればいいんでしょ」
「もんも・・・
・・・ってうわぁぁっ!!ばかばかばか!!どうしてここで脱ぎ始めてるんですか!!」
「え?・・・だって脱がなきゃ着れないじゃん」
別に着替えをシャミ子に見られようが何されようが、私は気にしない。
「私が気にします!!」
そう言われて、私はぽいっと廊下へと放り出される。
・・・うぅ、寒い。もう3月といえど、暖房の効いた室内に比べれば、廊下はまだまだひんやりと冷たいわけであって。まぁ別にそれを反論として扉の向こうのシャミ子に言い返す気もないので、いそいそと着替えるだけなのだが。
(・・・にしても、吸血鬼ね・・・。)
吸血鬼は果たして魔族なのだろうか、なんてどうでもいいことを考える。
シャミ子は確か、自分のことを夢魔だとか言っていた気がする。なんでも、相手の深層心理に入り込んでなんとかかんとかみたいなことをすることが出来るらしい。それはつまり、シャミ子の眷属たる私にも、その深層心理なんとか能力が付加されているという訳である。知らないけど。
それに対し、吸血鬼は何をするのかというと、そのまんま名前があらわす通り、要するに血を吸うだけである。それだけ。深層心理の中に勝手にもぐりこんで、夢のヘドロを掃除したりもしない。あのわるまぞくみたいに。
夢魔と、吸血鬼。夢魔に心理を細工された人間はその性格に影響が起こるというが、吸血鬼に血を吸われた人間は、どうなってしまうのだろうか。
吸血鬼に血を吸われた人間は、死んでしまうとも、その眷属になるともいわれている。
・・・眷属。
『今日こそ、貴様を眷属にしちゃります!!』
そう言っていたシャドウなミストレスとは、もう今年で何年の付き合いになるだろうか。
ちなみに、眷属という言葉には、どうやら『親しい相手』という意味も含まれているらしく。それを加味して考えれば、シャミ子のほうこそ私の眷属と言っても過言ではないだろう。・・・シャミ子側が私の事を親しい相手と思ってくれていれば、の話だが。
「・・・・・・・。」
・・・もうこの話やめよう、うん。
「――――まぁ、こんなもんかな・・・。」
なかなかいい感じに着れたほうではなかろうか。気持ち、服のサイズが小さいような気もするが。
近くには姿見も手鏡もないが、なんとなくその場でくるっと1回転する。当然、吸血鬼コスの自分がどんな感じなのかの確認なんてものはできない。肩がスース―する。
「シャミ子ー、入るよー?」
そう述べて、寒い廊下から暖房の効いた室内へと帰還する。そういえば今日は物置の掃除をしようとしてたんじゃなかったっけ。知らんけど。
さっきまで着てた服をテーブルの上に仮置きして、ちらっと同じ部屋の中にいるまぞくの様子を見る。
似合っているのか似合っていないのかはわからないが、もし仮に衣装が似合っているのなら、シャミ子はきっと大はしゃぎだろうな。『やっぱり桃にはシンプルな黒が似合う!!興奮してきた!!』と、しっぽをぶんぶんふりながら言うに違いない。
だが、部屋の中はいつまでたってもただ暖房が働く音だけが聞こえていて、シャミ子のはしゃぐ声などみじんも聞こえてこない。
「・・・うん?」
もしかして似合ってなかったか・・・。そう思って、今なお黙り続けるシャミ子の表情を覗き込む。
赤面していた。それはもう、ありがちなラブコメの、恋する乙女のように。
「・・・シャミ、子?」
「はうぁ!!・・・ま、まずい・・・捌かれる、サバのように・・・」
そうとだけ言い残すと、彼女は尻尾を踏まれた猫のような勢いでぱっと壁際へと跳んで行く。そして視線を合わせてくれない。
「・・・ん~?」
そんなシャミ子がどう見ても不信だったので、つかつかと壁際のまぞくに近づく。
「・・・どうして目を合わせてくれないの」
「い・・・いや、その・・・」
「やっぱり似合ってない?これ」
「ちっ違います!!その・・・
もっ!!桃がっ!!・・・かっこよすぎて、直視できなかったんですっ!!」
・・・は?
「あぁもう言わせるなこの無自覚イケメン魔法少女が!!えぇい!!お前はかっこいいんだ!!ばか!!」
まくしたてるようにそう言って、後から恥ずかしくなったのか、「まったく・・・」なんて言いながらぷいっと視線をそらしてしまうシャミ子。
顔を紅潮させて、しっぽをへなへなと垂らして。
ふと、可愛いと思った。
「・・・シャミ子ってさ、可愛いね」
「はへ!?いっいきなりなにを」
「そんな可愛いシャミ子を、今から私の眷属にしちゃります」
シャミ子の左手を手に取る。彼女はもう目を逸らすという概念を忘れてしまったらしく、顔を紅潮させたままこちらから視線を離そうとしない。
「ちょっ・・・もっももも桃!!ほんとにいったい何を」
そして、そのまま私は、手の取ったシャミ子の左手の薬指を・・・一気に口の中に飲み込んだ。
「んっ!?ちょっ・・・桃!?」
薬指の付け根を甘噛みする。私には牙も八重歯もないが、いまだけ、血を吸う牙が欲しいような気がした。
一瞬鉄のような血の味がして、私はゆっくりと薬指を解放する。離れ際に、少し名残惜しい気持ちと共に、噛み跡をぺろっと舐めた。
「ほら。これで、眷属。・・・でしょ?」
「なっ、なななななな・・・」
壊れたレコードのごとくなを連呼したのち、シャミ子はそのままぺたんっと床に座り込んでしまう。
「は、はへ・・・」
「・・・・・・。
・・・ほーら、今日は物置部屋の掃除をするんでしょ?はやく再開しないと、日が暮れちゃうよ」
「は・・・!?おい貴様逃げやがったな!!」
だってそもそも今日は物置掃除デーだと昨日から決めてたじゃん。さっきまで着てた服を片手に駆け足で廊下へと退散していく私。
「こなくそー!!これで勝ったと思うなよ!!」
去り際に見えた彼女の左手の薬指には、傷跡が指輪のように残っていて。・・・ふと、エンゲージリングだな、と思った。
「『目標未達成』。なんてね。」