男とマンティコアの杖
「黒檀の木にマンティコアの毒牙。36センチ。まっすぐ硬く、しかし柔軟性も兼ね合わせている。振ってみてください」
黒い髪のアジア風の顔をした、紺色の剣道着に身を包んだ男が、オリバンダーに長めの杖を勧められ、それを試すところであった。
杖は糸のような素材で緻密に編まれた独特の模様をした持ち手があり、その先に黒色の、滑らかな流線型をかたどった黒檀の立派な杖が伸びていた。
男は頭の上から空を切るように、びゅうっと音を立てて振り切った。
男はその瞬間に眉根を寄せた。その場に硬直し、数瞬だけ動かなくなった。
「素晴らしい」
オリバンダーは目を見開き、そのしわだらけの口の端を更に引き延ばした。
「マンティコアの毒牙、初めての試みじゃった。いいものに巡り合えた」
男は杖を顔の近くに上げ、ぐっと握って見せてから、手をゆっくりと開いた。
「縛られたような感覚だった」
男はオリバンダ―に、低く落ち着いた声で言った。
「マンティコアは、全く忠誠心を示さない。しかし主と感じた物には、無条件に、盲目的に、本能的に付き従う。全く疑いもなく」
オリバンダーは男を見上げた。男は180センチを超える大男であった。その目は細く、しかし長く吊り上がり、目の奥にはどうとも形容しがたい深みがあるようだった。
「しかし、それだけに束縛も強い。あなたの一生のしもべとなるであろう。気をつけなさい。あなたが死んでも、この杖はおそらく死なない。あなた以外の誰かが主になることは、めったにないじゃろうが……。あなたが殺されたときは、そのものが認められれば、杖はまた盲目的に従うであろう」
オリバンダーは、また改めて杖をじっくりと見た。
「あなたがどうあろうとも、この杖は変わらぬじゃろう。あなたがそのような人間であればこそ、この杖は認めたのであろうが」
オリバンダ―はそこまで言って、杖が入っていた箱を持ち上げた。
開いた男の手から杖を取ろうとしたが、杖は少しも離れなかった。
男が自ら杖の先を持って取ると、杖はようやく離れ、黙って箱の中に納まった。
「お代は?」
男はオリバンダ―に聞いた。
「7ガリオンじゃ」
男は懐からじゃらじゃらと音のする布の物入れを取り出し、その中から金色のガリオン硬貨を七枚、ちょうど取り出した。
「野暮なことを聞いてもよいか?」
オリバンダ―は男に聞いた。
「なんだ」
「何のためにここへ?」
「杖を買いに来た」
「そうでしょうな」
男は特にそれ以上何も言わず、杖の入った箱を持ち、出口へ向かった。
ドアに手をかける直前、男はオリバンダ―に振り向いた。
「飛ぶためのほうきはどこで買える? 私はこの国の文字が読めない」
「レンガの入口の方へむかって歩けば、ショーウィンドウにほうきが飾ってある店があるはずです。あれがそうです。なんのほうきが飾っているかは忘れてしまいましたが」
「ありがとう」
男は店から出た。
大きくたくましい背中を、オリバンダ―は見送った。
読んでくださりありがとうございました。できれば自由気ままに投稿していきます。
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