組み分けが終わり、ダンブルドアの二言三言の挨拶が終わり、食事の時間になった。
生徒とたちの机の上には、所狭しとおいしそうな料理が並んでいる。
ローストビーフ、チキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ポテト、ヨークシャープディング……。そしてなぜか、ハッカ入りキャンディ。
生徒たちは心行くまで、色とりどりの、様々な、最高の料理を楽しんだ。
男はこのような、豪華な食事を食べるのは初めてであった。
兎にも角にも油が多い。しかし不味いわけはない。
何なら、男の皿には、誰よりも多くの料理が乗っかっていた。
「たくさん食べるのですね」
男がフォークで口にチキンを運んだ時、ひだ襟服のゴーストが悲しそうに話しかけた。
「ゴーストか」
男はチキンを飲み込んでから答えた。
「はい。私はニコラス・ド・ミムジー……」
「ほとんど首なしニック!」
隣のロン・ウィーズリーが口をはさんだ。
「ええ、ですが、読んでいただくのであれば……」
すると、ロンの隣に座っていたシェーマス・フィネガンがまた口をはさんできた。
「どうやってほとんど首なしになれるの?」
『殆ど首なしニック』は会話が自分の思う方向に進んでいかないことが気に障ったようで、腹立たし気に答えた。
「ほら、この通り」
ニコラスは自分の左耳をつかみ、自分の首を蝶番のように開いて見せた。
生徒たちは『うわーっ』と声を出して驚いたので、ほとんど首なしニックは満足したような表情をした。
男はほとんど首なしニックが自分から意識をそらしたようなので、目の前の食事に戻った。
スリザリンに勝たねばならない、血みどろ男爵がどうとかと言う首の無いゴーストの言葉は、男にとってはほとんど空気のようだった。
その話が終わったところで、男に興味を示していたロン・ウィーズリーが男に話しかけた。
「あのう……」
男は反応して、ロンの方を向いた。もぐもぐとベーコンをほおばっているところだった。
「先生か7年生じゃないんですか」
ロンはおどおどしながら聞いた。
「特別生徒だ」
男はベーコンを飲み込み、短く答えた。
「それじゃあ……あなたは僕たちと同じ一年生ってことですか?」
「そうだ」
男はポテトフライを口に放り込んだ。
ロンは訳が分からないというような顔をした。
「名前はなんていうんですか?」
「ナナシと呼んでくれ」
「何歳なんですか?」
「隠している」
「魔法は使えるんですか?」
「使える」
「じゃあなんで一年生から?」
「この国の魔法様式を知らないから、学びに来た。物事は基礎が大切だから」
男は自分から喋らなかった。ロンはこの男が不機嫌なのかもしれないと思い、そこで質問を止めた。
男は特に気にする様子もなく、食事を続けた。もうチキンを一羽丸ごと食べていそうな勢いだった。
ようやく男の手が止まると、食べ物が消え去り、皿がピカピカになった。そして机にはデザートが現れた。アイスクリーム、アップルパイ、糖蜜パイ、エクレア、トライフル……。
男は全く変わらない勢いで、デザートを食べ始めた。特にトライフル(パフェのようなもの)がお気に入りのようだった。
もうだれも男には話しかけなかった。いつの間にか食事は終わりテーブルはキレイまっさらになっていた。
ダンブルドアが生徒諸君に禁じられた森についての諸注意をし、管理人のフィルチからのお願いを告げ、クィディッチ試合の予告をし、四階の右下の廊下に入ってはいけないという連絡をした。
「では、寝る前に校歌を歌いましょう!」
ダンブルドアが杖を取り出してヒョイと動かすと、金色のリボンがそこから流れ出て、テーブルの上高くで文字を形作った。
「みんな自分の好きなメロディーで。では、さん、し、はい!」
学校中が大声で唸った。
しかし困ったことに、男は文字が読めなかった。仕方がないので、男は最もよく聞こえる、ウィーズリーの双子のメロディーをそのままそっくりまねした。
結局、とびきり遅い葬送行進曲で歌っていた、男とウィーズリー兄弟が最後まで残った。兄弟は、なぜ男がぴったりと自分たちと同じメロディーで歌っているのか内心面白がった。男はまたも学校中からの注目を集めることになった。
三人が歌い終えると、広間の全員が大きな拍手をした。ダンブルドアのものが特に大きかった。
「ああ、音楽とは何にも勝る魔法じゃ」感激な涙をぬぐいながらダンブルドアが言った。「さあ、諸君、就寝時間。駆け足!」
グリフィンドールの一年生たちはパーシーに続いて、大広間を出て大理石の階段を上がった。壁に掛けてある動く肖像画を横切り、引き戸の陰とタペストリーの裏の隠しドアを二度も通り抜け、また階段に次ぐ階段を上り、ようやくそこで足が止まった。一年生たちは眠気でみんな目をしゃんと開けられないような状態だった。
前方に一束、杖が空中に浮かんでいた。パーシーがそれに近づくと、杖がバラバラと飛び掛かった。
「ピーブズだ」
それがポルターガイストのピーブズであることを、パーシーは一年生たちに教えた。
「ピーブズ、姿を見せろ。血みどろ男爵を呼ぶぞ」
すると、大きな口をした、道化のような恰好の小男が現れた。その顔には意地悪な笑みを浮かべている。
ピープズは大きなカン高い声を出して笑い、一年生をめがけて急降下した。男以外はみんな身をかがめた。
「はーはっは! かーわいい一年生ちゃん! なんて愉快――うっ!」
ピーブズはびくりとらしくない動きをして、男の前で止まった。
男が手を出して、ポルターガイストのピーブズの首をつかんでいた。
ピーブズは明らかに動揺して、足をじたばたさせていた。
「血みどろ男爵を呼ぶぞ」
男は真顔で、もがくピープズに言った。
「な、なんで……」
ピープズはなんとか脱出しようと男の手をつかんだが、びくともしなかった。
一年生たち、とくにパーシーは目を見開いて驚いていた。
すると、フッとピーブズが姿を消した。
「なんなんだ?」
パーシーが男に聞いた。
「少し消えてもらった。しばらくは現れない」
男は淡々と答えた。
パーシーは納得しかねていたが、自分の今やることを思い出し、一年生の引率に戻った。
廊下の突き当りには、ピンクの絹のドレスを着た、太った
合言葉は? と婦人が聞くと、パーシーは「カプート ドラコニス」と答えた。
すると肖像画が前に開き、その後ろの壁の、高い位置に円い穴があった。背の低い一年生(男除く)はそれに這い登るのに苦労した。
その穴は、グリフィンドール寮の談話室に繋がっていた。
円形の広い部屋で、暖炉を取り囲むように肘掛椅子が接地され、他にも棚や物置、絵画などが置かれていた。
男は男子寮に続くドアから螺旋階段を上り、その一番上の寝室に行った。
深紅のビロードカーテンがかかった、四本柱の天蓋付きベッドが六つおいてあった。
一年生たちはさっさと寝間着に着替え、ベッドにもぐりこんで寝てしまった。部屋の中の最後の声は、ロンがスキャバーズにシーツを噛まれて叫ぶ声だった。
グリフィンドールの生徒たちが全員眠りについたとき、男は布団から出て、談話室へと降りた。
机の上のマッチを擦って、暖炉に火をつけた。
男は肘掛椅子に腰かけ、しばらく火にあたった。九月のイギリスの気候は、彼にとっては少し寒かった。
壁かけの時計は、午前の1時を指し示していた。男は列車の中でたっぷり寝たために眠くなかった。そもそもこの時間帯では、彼の母国は朝だった。
男は懐から、買った時から一度も開けたことのない細長い箱を取り出した。その中には、彼がグリンゴッツ横丁で買った、マンティコアの毒牙が芯の黒檀の杖が入っていた。
杖は黒曜石のように黒い美しい流線形で、暖炉の火が揺らめくのに合わせて光をうつしていた。
男は杖をなぞってみた。いわれもない満足感が男を包み込んだ。なんとうれしいのだろうか。自らの、この世の一本だけの杖があるとは。杖はただでさえ美しかったが、男にとってはそれ以上だった。
男が杖を軽く振ると、暖炉の火がフッと消えた。もう一度振ると、パチパチと音を立てて燃え盛った。
男は杖を上に向けて、目を閉じた。次の瞬間、男は音もなく談話室から消え去った。
禁じられた森の端、ハグリットの住む小屋の前に、男は音もなく現れた。彼の10メートル隣には、管理人のアーガス・フィルチがいたが、男には全く気が付いていないようだ。フィルチは少ししてから、校舎の中へ入った。
さらさらと芝生と木々の揺れる音がする以外は、全く静かな夜の校庭だった。見上げると、幾千と言う星々と、静かにたたずむホグワーツ城の姿が見える。
ハグリットの小屋はまだ明るかった。
コツコツ、男はハグリットの小屋の、木のドアをノックした。
「誰だ?」
ドアが閉じたまま、ハグリットの太い声が聞こえる。
「私だ。ナナシ」
「おまえさんか」
ドアが開き、男よりもさらに巨大なひげもじゃの男が顔を出した。
「よう来てくれた。さ、入って」
男は小屋に入った。
ハグリッドは大きな肘掛椅子に深くもたれかかった。男は壁際の木の椅子に座った。
ハグリットの小屋の中では暖炉がパチパチと音を立てて燃え上っていた。その他にも、天井から吊り下がっているランプのおかげで小屋の中は明るい。
ハグリットの飼い犬、ファングは、暖炉の少し離れた場所で気持ちよさそうに寝ていた。ドアが開いたことによる涼しい風と、男の匂いに反応したのか、鼻をぴくぴくと動かしている。しかしその瞼は閉じたままだった。
「それにしてもよう来てくれたな。フィルチがそこにいたはずだが」
「姿を隠す魔法を使った。初めて杖でつかった魔法だったが、上手く行ったようだ」
「しかし、あの猫もいたはずだが?」
あの猫とは管理人フィルチの飼い猫、ミセス・ノリスの事だった。
「瞬間移動をしてここのすぐ前まで来た」
「おまえさん、姿現しを使ったのか!? 初めて杖を持ったのに」
ハグリットは目を大きく開いて驚いた。
「姿現しと言うのか。上手く行って良かった」
男はたいしたこともなげに言った。
「おまえさんの魔法の才はよーくわかったよ……。じゃあ、そろそろ問題に入ろうか」
ハグリッドは椅子から立って、棚から紙と羽ペンとインクを取り出した。
「英語の文字を教えてほしいと言ったな」
ハグリッドはそれらを机に置き、男は羽ペンを手に取った。
「アルファベットさえ教えてくれれば、辞典が読めるようになる」
「たいしたもんだ。ほんじゃあ、まずは全部書き出すか。ABCの並びはしっとるか?」
「聞いたことだけは」
「聞いたことは全部おぼえとるくせに、文字は読めんと来たか」
ハグリッドはアルファベットの並びを全て紙に書き出した。
「これがABC全部だ」
男は紙を自分の手に持ち、ざっとそれを見た。
「今から書いてみるから、書き順が間違っていたら言ってほしい」
「分かった」
ハグリッドは男がアルファベットを書くのを見ながら、所々で眉をピクピクと動かした。その書き順が、全てハグリッドと同じだったからだ。しかし、ハグリッドの書き方と同じでも、筆跡は全く違う。走り書きでどちらかと言うと汚いハグリッドと比べ、男の文字はピシッと整っていて綺麗だった。
恐らく男の頭には、読めなかったまでも、今まで見たありとあらゆるアルファベットが入っているのだろう、と、ハグリッドは思った。
「一つも間違っちゃいない」
「それは良かった」
男は席を立った。
「あとは辞書を見るだけだ。ありがとう、ハグリッド」
ハグリッドはそう言われて、壁にかかっている時計を見た。
「十分しか経っとらんが」
「そうか」
男はハグリッドと違って何も動揺していなかった。
「お茶でも飲んでいかんか?」
「あなたが良ければ」
男は再び席に着いた。
ハグリッドが机に置いた淹れたての紅茶を、男はゆっくりと飲んだ。
「何か私があなたにできることはあるか?」
紅茶を机に置いて、男は聞いた。
「文字を教えてくれた返しがしたい」
ハグリッドは喉を低く唸らせてから答えた。
「ABCを教えた返しに?」
「そうだ」
男は何がおかしいのかとばかりに言った。
「そりゃあ、おまえさんの力がありゃあ、百人力だが……」
「何がある?」
「フーム」
ハグリッドは言いかねるといった風に喉を唸らせた。
「禁じられた森で、最近奇妙なことが起こっとる」
「どんな?」
「なにも起っちゃいないんだが……妙な気配がするんだ。ケンタウルスは何も答えちゃくれんが、俺にはわかる。何か妙なことが起こっとる……もしくは、起こるかもしれん」
「ならそれに協力しよう」
そう言って、男は席を立った。
「頼もしい限りだ……っと、今から行くつもりか?」
「すまない。眠かったか」
男がそう言うと、ハグリッドは呆れたような顔をした。
「おまえさんが構わんなら、おれも構わんが……サムライってのは、みんなそんな感じなのか?」
「侍か武士かは関係ない。私の考えだ」
「なら素晴らしく結構だ。行こう」
ハグリットは椅子から腰を上げた。
男は最後に机に残った紅茶をぐいっと立ったまま飲み干し、カップを置いてドアを開いた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。結構長かったと思います。
次回は物語は原作を外れて、もう禁じられた森へ突入します。
良ければまた次回もよろしくお願いいたします。
男がホグワーツに入るとしたら、どんな寮がいいでしょう? 参考までにお願いします
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グリフィンドール
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ハッフルパフ
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スリザリン
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レイブンクロー