「私の事はナナシと呼んでくれ。私は日本人だ。尾張という場所から来た。この国の魔法を学びに、ホグワーツ魔法魔術学校に来た。年齢は隠している。よろしく」
男は戸惑うハリーとロンに向けて自己紹介をした。
ハリーとロンは、目の前にいる男がどこからどう見てもホグワーツの生徒としてふさわしくはないという事に動揺していた。
「あ……」
男が二人をじっと見つめていることにハリーが気づき、何でもいいから喋ろうとした。
「僕、ハリーです。ハリー・ポッター。一年生……です。11歳」
ハリーは何とか絞り出した。おどおどして目をきょろきょろさせていた。
「ハリー・ポッター」
男はそれを復唱した。
「覚えている。組み分けの時、帽子が少し長く考えていた。」
ハリーはドキッとして目を見開いて男を見た。
「そう……右の額に稲妻のような形をした傷がある……丸眼鏡をかけて……そうだ、初めて見た時は眼鏡が壊れていたが、組み分けの時は既に治っていた……」
ハリーはそれを聞いて、とっさにハーマイオニーに眼鏡を治してもらったことを思い出した。
「それと、多くの生徒たちが君のことを話していた。ハリー・ポッター。私は君のことを殆どと言っていいほど知らない」
「ぼ、僕は……」
ハリーはどもりながら言った。
「元々、僕は自分が魔法使いだって知りませんでした。でも、僕はまだ赤ちゃんだったときに、その……『あの方』……」
ハリーはハグリッドの方をちらりと見た。ハグリッドは顔をしかめていた。
「あの、あの方、っていうのは、その……」
「ああ、Vから始まる名前の人か。10年前、突如として姿を消し、今では滅んだと思われている……。人々は今でも名前を呼ぶことを嫌い、代名詞を使っている。私は特に構わないが、ハグリッドはそれを嫌っている……それに」
男が息継ぎをして続けた。
「ハリー・ポッター……『近代魔法史』『闇の魔術の興亡』『二十世紀の魔法大事件』などのいろいろな書物に載っている」
「そう、ですか」
ハリーは緊張が全く取れていないようだった。
それを見かねて、ハグリッドが言った。
「隣にいるウィーズリーの子……確か、ロンだったか、おまえもなんとか言ったらどうだ。ちょうどおれもお前さんのことを知りたいと思っとった」
ロンはハリー以上におどおどしていた。
「ぼ、僕は、ロン・ウィーズリーです。えっと、その……」
ロンはさんざん目を泳がせて迷った挙句、ようやく言った。
「に、日本てどんなところですか? その、まだサムライがいるんですか?」
ハリーとハグリッドはロンにばっと顔を向けた。
ハグリッドは好奇心から、ハリーは男の顔の様子が変わったからだった。
男はゆっくりと口を開いた。
「興味があるのか?」
「う、うん。たぶん」
「では、侍について教えよう」
男はまた間を置いた。ハリーとロンは、男の話に興味を持った。
「日本に侍はもういない」
男が言うと、二人は肩を落とした。
「流石にこの時代にはいないか」
ロンは肩を落として椅子の背にもたれかかった。
「武士ならいる」
「ブシって?」
今度はハリーが聞いた。
「私も武士だ」
「そうなの?」
ロンがまた興味を持った。
「そうだ。戦いに生きる者のことを武士という」
「じゃあ、カタナを持ってるの?」
ハリーが聞いた。
「持っている」
男が懐に手を入れると、そこから黒い菱形模様の柄が鍔まで顔を出した。
ハリーとロン、ハグリッドまでもが食い入るようにそれを見つめた。
男は腕をいっぱいまで広げ、懐をもう片方の手で広げ、ようやく懐から長い刀を取り出した。
「ブシは、こんなに長いカタナをつかっていたの?」
ロンは感嘆した。それは1mほどもある、長い刀だった。
男は鞘に手をかけ、数センチだけ刀を抜いた。
それは淡い刃文が走る刀身だった。覗き込むハリーとロンの目が刀の刃に薄くうつっている。
暖炉の炎に合わせて、刀にうつる光がゆらゆらと揺れている。
「鏡みたいだ」
ロンが思わずつぶやいた。
「カタナって、こんなものだったんだ」
ハリーが男を見上げた。
男はキンッと音を立てて刀を納め、懐に(苦労して)仕舞った。
「それってどんな時に使うの? 人を切る時?」
ロンは目を輝かせていた。
「主には戦いのためだ。だが、人にかかわらず、いろいろなものを斬ることができる」
「切ってみてよ」
「いや。刀は気軽に日常的に使うものではない」
男はそっけなく首を振った。
「杖は魔法の世界で武器としても日常用品としても用いられるが、刀は違う。いつも持ち歩くのは同じだが、刀はもっと厳格に扱われる。それに、私はここに魔法を学びに来たのだから、これを使う事になることはないだろう」
男は代わりに杖を取り出し、ヒョイと振ると、テーブルに置いてあったロックケーキが少し大きくなった。
「硬いロックケーキを柔らかくしてみた。食べてみてくれ」
二人はロックケーキを手に取った。噛むのすら難しかった、石のようだった先ほどのロックケーキと違って、それはしっとりとした手触りになっていた。
それを口に入れると、ケーキは確かな噛み応えと共に噛み切られた。しっかり美味しかった。
「変身術ですこし理論と感覚を学んだから、これくらいの作り替えはできるようになった」
男は杖を懐に仕舞った。
「そうだ、ロン」
三人がケーキを食べていると、ハグリッドがロンに話しかけた。
「お前さんの兄貴たちは元気か? あいつらは良く森に入りたがるから、おれは奴らを追い払うのに人生の半分を奴らに取られてるようなもんだ」
ハグリッドとロンが話し始めた。
取り残されたハリーが、気まずそうに男と目を合わせた。
「あの、えっと……」
「無理に話さなくてもいい。話したくなければそのままでいい。私は特に不快にならない」
そしてハリーが沈黙したため、自分から話さない男も黙った。
ハリーは暇だったため、部屋の中を見回した。すると、ハリーはテーブルの上に載っているティーポット・カバーの下に、何か新聞の紙切れを見つけた。
ハリーがそれを取って見ると、『日刊予言者新聞』の切り抜きだった。その見出しはこうだった。
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グリンゴッツ侵入さる
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グリンゴッツとは、魔法使いの世界での唯一の銀行だ。ハリーや男がホグワーツへの入学の前に、授業のための用具を買ったダイアゴン横丁の中にある。
そしてそこには、
七月三十一日に起きたグリンゴッツ侵入事件
とあった。
その日は、ハリーがハグリッドと一緒に、ちょうどグリンゴッツ銀行に言った日だった。そこでハグリッドは、何が入っているか分からない小さな包みを引き取ったのだ。
ハリーは自分の心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。
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グリンゴッツの小鬼たちは、今日になって、何も盗られたものはなかったと主張した。荒らされた金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていた。
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もし、あの時、ちょうどハグリッドがあの小包を引き取った後に、侵入事件が起きたのだとしたら? あの小包が、侵入犯の目的だったのかもしれない。あの金庫には、その小包しか入っていなかった。もしかしたら……。
「ハグリッド」
ハリーは新聞の切り抜きから目を離して、ハグリッドに呼びかけた。
「このグリンゴッツ侵入事件、僕の誕生日、あの時一緒に買い物に行った日に起きたみたいなんだ。その日に何かあったのかもしれないよ」
ハグリッドはハリーから目をそらし、ウーッと唸った。明らかに何か後ろめたそうな様子だった。ハグリッドはテーブルにロックケーキを追加した。男が杖を取り出し、それを柔らかくした。
「私が杖を買いに行った日は、その次の日あたりだったか。こんな新聞が出ていたとは。出ていたとしても読めなかっただろうが」
男はハリーから切り抜きをもらって見た。
「何があったか、見当もつかない。この内容では」
男は机にそれを置いた。ハグリッドの方を見たが、男と目を合わせず、そっぽを向いていた。
「私は戻る」
男は杖を取り出した。
「ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー。さようなら」
音もなく、その場からかき消えた。
男は誰もいないグリフィンドール寮の寝室に来ていた。そして自分のベッドに座り、横にあった、巨大で分厚い本を開いて、ぱらぱらと捲った。本を最後までめくってから、男は本を脇に置き、ベッドに横になって目を瞑った。
数分後、男はゆっくりと起き上がり、呟いた。
「ニコラス・フラメル……」
「我々の知る限り、賢者の石の創造に成功した唯一の者……六六五歳」
それは、男が捲った本の中の、一節の内容だった。
「賢者の石……いかなる金属をも黄金に変える力があり、また飲めば不老不死になる『命の水』の源でもある」
「現在はイギリスのどこかに移り住んでいる……命の水の効能によって生きながらえている。アルバス・ダンブルドアとの錬金術に関しての共同研究を行っている……」
「賢者の石……」
男は再び呟いた。
「ニコラス・フラメル……ヴォルデモート……」
男はベッドから立ち上がり、グリフィンドールの談話室に降りた。何人かの生徒がそこで話していたが、男を見たとたんに黙りこくった。
男はそのまま出入り口の穴から外に出て、階段を下りた。
男が廊下をつかつかと歩くと、道行く人が男を振り向く。ただし、男が目を合わせた人はみんな目をそらす。
ホグワーツの木の門を開け、そのまま校庭に出た。多くの生徒が談笑したり、遊んだりしている。
男ははずれの所、禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋に来た。ノックをすると、ハグリッドが出てくる。
「またおまえさんかい? なんで来たんだ?」
中にはハグリッドとファング以外は誰もいなかった。ハリーとロンは既に帰ったようだ。
「賢者の石だろう」
男がそう言うと、ハグリッドは突然慌てたように外をきょろきょろと見た。
「その名前を言うな! 早く入ってくれ!」
男が入った後にバタンとハグリッドがドアを閉めた。
「なぜ分かった?」
ハグリッドは小屋の中を横切りながら言った。そして椅子にどかっと座った。
男は話し始めた。
「あの方はまだ生きている。昨日、森を出た後もこのようなことを言ったが、あなたもそう思っているだろう」
「それはそうだが……」
「あの方は何らかの方法でこの世にとどまっている。しかし、姿を現さず……私が星を見たところでも、おそらくあの方は回復していない。そうすれば、何か、回復するものを求めているはずだ」
ハグリッドは顔をしかめて男の話を聞いていた。
「グリンゴッツ銀行を何が襲ったか。新聞には、その犯人は何も書かれていない。犯人が逮捕されたようなことも書かれていない。であれば、その犯人はグリンゴッツを襲って逃れることができるほどの魔法使いと言う事だ、と私は思う」
「それで……?」
ハグリッドは低くうなった。
男は息継ぎをして口を開いた。
「現代において、グリンゴッツを襲撃できるほどの実力を持つ魔法使いで、しかも犯罪を犯すようなことをする人間は表の社会にはほとんどいないだろう。であれば、犯人は社会の裏の人間であると予想する。私は先ほど、『魔法界における貢献をした人物大全集』を読んだ。そこには、賢者の石のことが書かれてあった。グリンゴッツ銀行襲撃の新聞には、『荒らされた金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていた。』とあった。何もない金庫に襲撃するわけはない。犯人も下調べを念入りにしただろう。しかし、なぜ、それにもかかわらず襲撃をして、そして既に空になっていたのか?」
話はついに結論へと向かっていた。ハグリッドの顔は動揺の色に染まっていた。男は大きく息継ぎをした。
「その日に、誰かがその中にあるものを引き出したからだ。そして、その中にあるものは、たった一日で、それも短時間で引き出せるほど、小規模なものだった。しかし、そうでありながら、実力あるものが襲撃する価値のあるものとは?」
男はハグリッドに目を合わせた。
「賢者の石だ、と私は思う。そしてそれを襲ったのは、あの方の手下か何か……」
「お、おまえさんは……」
「お前さんは一体、どこまで?」
ハグリッドはお茶を入れようとティーポットを手にしたまま硬直していた。
「これらはいろいろな要素から予想したものだ。今日はこの後、ニコラス・フラメスを尋ねるつもりだ。彼が賢者の石を今持っているかを聞きに行く」
「場所を知っているのか?」
「イギリスに住んでいることは分かっている。これからいろいろな文献をしらみつぶしに探す。ダンブルドア殿はニコラス・フラメルの住んでいる場所を知っているかもしれないが、教えてくれるとは限らない」
「そこで、何か知っていることがあれば教えてほしい」
ハグリッドはようやく手を動かして、テーブルにカップを置いてお茶を注いだ。
「……悪いが、おれはダンブルドア先生に言われとる……信頼されとるんだ……。おまえさんが探るのを止める権利はないが、少なくともおれは何も言えん」
「分かった」
男はお茶を飲んだ。
「話を聞いてくれてありがとう。少なくとも、賢者の石がかかわっていることが分かってよかった」
男が席を立った。
「待ってくれ、ナナシ」
「なんだ?」
「ハリーたちは巻き込まんでくれ。ハリーが何か勘づいたようだが、これはあの子たちを巻き込んでいい問題じゃない」
「分かった。さようなら」
男がドアを開け、外に出た。ハグリッドはそれを無言で見送った。
読んでくださってありがとうございました。また次回! 沢山読んでもらって感謝!
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