オーバーロード 嗤う骸骨は帰りたい   作:嘆きのラジオ

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迷い宿②

「がぁ、、、ㇵ、、」

弱々しく床に伏し、シャルティアは吐血した、HPは一割を切っており、MPはほぼない、スキルは使い果たし戦闘継続は不可能だろう

 

右腕と左足は根本から吹き飛び、体に力が入らない

 

とはいえ、たかが吸血鬼如きが母の尻尾を三尾も落とすなど大したものである

 

時間逆行、実体ある分身、必中の槍、絶対防壁

母も初見で意表をつかれたとは言え称賛に値する

 

「ありがとうシャルティア・ブラッドフォールン、この戦闘は母にとっても、僕たちにとっても良い経験だったよ」

僕たちに唯一弱点があるとするならそれは外敵との戦闘経験の少なさだ

 

本来幻影とは宝物殿から活動域を広げない性質ではあるが妹のように僕たちも世界へと目を向けなければならない

 

だが元来の我々の性質上そうなることがまず稀だ

 

我々は既に迷い宿で完結しているのだ

 

だが子供たちも外部との接触は必要なのだ

 

青年は頭を振り、思考を消す

 

今考えるべきなのは現状についてだ 

 

上空で二人の戦闘を観察していた青年はゆっくりと下降し地面に降りる

 

勝敗は決した、

 

全ての手数を出し切ってなお母には届かなかった

 

それだけの話だ

 

「では、シャルティアブラッドフォールン、命までは取らない、だが今、君が一番大切にしているものを頂くよ」

 

青年は倒れ伏すシャルティアを見下ろし淡々と話す

 

その声色は酷く冷たいが敬意のようなものを感じられた

 

「これはこの迷い宿におけるルールだ、本来は拒否権があるのだけど」

 

「生憎、母との決闘に破れた場合、その限りではない、君は迷い宿に害を成した、母に害を成した時点で略奪者だ」

 

「我々は平等だ、それがルールだからね、故に略奪者から取り上げるのもまた敗北者へのルールだ」

 

「ただ安心していい、己の命だけは対象外だ」

 

迷い宿のルール、本人の今この場にある命以外の大切な物を没収する代わりにこの宝物殿からの退去権を得る

 

「君の武具を頂くよ」

青年はシャルティアをジッと見据え言葉を放つ

 

ビクリとシャルティアの体が動き、首だけを青年に向け睨みつける、青年はそんなシャルティアを意にかえさず、指先がシャルティアの武具に触れた

 

「や、、、め、、」

「残念ながら、ルールはルールだ、」

掠れた声でシャルティアは拒絶するが、武具は煙を上げ霧散した

そこには令嬢の衣装を纏まったシャルティアがいた

 

「君は危機感さんの妹だね」

シャルティアの要件が終わったのか青年はこちらに向き直る

あの頃のプレッシャーはなお健在なようだ

 

(なん、、て、マナマテリアル!)

ただ存在するだけで気分が悪くなる

それだけ濃密なマナマテリアル

 

「はぁ、困ったことだ、本来なら君たちからも取り立てを行わなければならない」

青年は困ったようにやれやれと話す

 

「母との約束を覚えているかな?」

「……もちろん」

兄から聞いた話しではあるが忘れるわけがない

それほどまでに迷い宿の経験はルシアの記憶に焼きついていた

 

「危機感さんと違って話が早くて助かるよ」

「憎たらしいことに危機感さんは僕達に他の神をぶつけた、だがその結果、まだ成熟していない状態の神を打倒できた」

兄はなんてことをやっていたのだろうか?

そもそもどうやって?なぜ?

 

幻影に幻影をぶつけるのだって信じ難いのに神に神をぶつけるなんて最早理解不能だ

 

「あぁ、それが当然の反応だ」

青年は少し嬉しそうに話す

そういえば兄は迷い宿に侵入していたが、また、というより迷い宿でも問題を起こしたのだろうか?

 

「結果論ではあり、利用されたことは変わらないが、迷い宿として何れ衝突するであろう神を弱った状態で戦えたのは非常にありがたいことだ」

 

「故にこの借りとして君たちから取り立てることはしない」

 

「我々の性質は恩には恩で、だからね」

納得がいかないように青年は不機嫌そうに話すが、責任がルシアではなくクライにある以上あまり責められないのだろう

 

だが恩には報いなければいけない、ある種、厄介な性質なのだろう

 

「この宝物殿もナザリック地下大墳墓から既に脱出し遥か上空へと移動した」

 

「悪いけど、排出先までは選べないし、上空から放り出されてもそこまで関与する義理はないのでね」

 

「わかっています。それで十分です」

賭けに勝った

 

正直ナザリックから抜け出せるかは本当に賭けだった

 

迷い宿の高速で移動するという性質

 

空間を断絶する結界術

 

ナザリックという脱出不可の監獄を抜け出すための唯一の策

いや無謀とも言える作戦は上手くいったと言えよう

 

内心、吐きそうではあるがガッツポーズをとる

青年はそんなルシアの心情を詠み、困ったように肩をすくめた

 

「ではさよならだ、危機感さんの勇敢な妹とその仲間たちよ」

青年の姿が周囲の子供たちの姿が消える

 

「あぁそうそう、シャルティアは君たちとは少し後に排出するよ、やることもあるしね」

 

視界が霞がかったようにぼやけ始める、ありがたいがやることとは?

 

だんだんとマナマテリアルの濃度が薄くなっていくのを感じる

 

「あ、、、忘れてた、、、」

後ろ振り返りフォーサイトが膝をつき嗚咽を漏らしていた

完全に意識の外だった、少なくとも思わず口に出してしまうほどには

 

「み、みんな、大丈夫?!」

ルシアはすっかり忘れていたフォーサイトのメンバーの安否を慌てて確認する

 

「う、、、うぅ、大丈夫じゃないかも」

「あ、、あぁ、大丈夫、なの、、か?」

「ごめん、気持ち悪い、、うぷ、」

「すいません、、私も無理そうです」

 

フォーサイトは相当酷くマナマテリアル酔をしていたようだ

顔色が真っ青だ

 

ヘッケランやイリーナはもちろん、聖職のロバーテイクでさえ、酔どめの魔法を行使していたのにきつそうだ

 

とくにアルシェは一番酷くいつ意識を失ってもおかしくない

 

とはいっても目立った外傷はないようだ、

 

「あれが、、神、、ですか、そう言われても納得できますね、、

「あの、化け物吸血鬼を倒すなんてまさに神だな、あ、やっぱ無理ぃ」

「ヘッケラ、、あぁ私も駄目だわ」

プレッシャーから開放されたのか各々が口を開く 

思っていあよりは元気そうではある

 

「フライ」

ルシアはそんなフォーサイトを横目に全員に時間差で起動するフライをかける

 

「「「「え?、、なんでフライ???」」」」

四人の声が重なりルシアに同じ質問を投げかける

 

「それはもちろん、落ちるからですよ?」

 

「「「「え?」」」」

キョトンとするフォーサイトに当たり前かのようにルシアは言う

 

迷い宿の景色が霧のように霧散した瞬間

 

足元の感覚が消え、空に放り出された

 

重量に従うように、空気抵抗しながら落下する

 

「「「「えええぇぇぇぇ‼!!?」」」」

遥か上空に四人の悲鳴が木霊し風に紛れて消えていく

 

霧が晴れた空はとても綺麗な晴天だったことをアルシェは薄れゆく視界の最後に、気絶した

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