君の未来に虹を架けたくて   作:りんごあめ

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3話を投稿した際、一瞬ですが新作日間ランキングにこの小説が載ってました。読んでくださりありがとうございます。次は普通に日間に載れたらいいな……なんて。


今だけは私を忘れてほしい

 

 

 それが過ぎてから。真実を知ってから私は犯した罪の重さを知る。

 決して償うことができない罪と苦しさに胸を突き刺されながら。

 だから、馬鹿な私は歌うだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高校二年生としての生活が始まり1週間が経った。そんなある日の昼休み。

 机を合わせいつものように3人で昼ご飯を食べる。そんななか、虹夏が俺の腕をバシバシと叩いて興奮した様子で話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ見てよ晴人くんこれ!!」

 

「や、痛い痛い落ち着け虹夏………で、なにがあったって?」

 

「ほら!結束バンドに入りたいって子が連絡してきてくれたんだよ〜!」

 

「お、ほんとだ。よかったじゃん、メンバー募集のビラ貼った甲斐があったな」

 

「うん!!やった……これでライブ、できる。スターリーで……!」

 

 ガッツポーズをして嬉しそうに顔をほころばせる虹夏に俺も笑みをこぼすと、なぜかリョウが得意げな顔をして腕を組みだした。

 

「私がいる以上メンバーが集まることは運命みたいなもの。ところで晴人、私はいま財布が心もとない。菓子パン買うからお金貸して」

 

「どっから来てんだその自信は。そしてついでに金たかるんじゃないよ、それならまず先月貸した2000円返せ山田」

 

 今日も今日とて俺たちは代わり映えのしない日々を過ごす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして!喜多郁代です、よろしくお願いしますっ!!」

 

「ここでバイトやってます雨後晴人です、よろしく」

 

 その日の放課後、日直の仕事があったため虹夏達より遅れてスターリーに行くとそこには虹夏とリョウと笑顔で話す人物が。

 なんでもこの子がバンドに加入したいと申し出てきた子らしい。

 

 整った顔で明るい声で挨拶をして人当たりのよさそうな笑みを浮かべる彼女に自然と悪い印象は抱かなかった。この人なら結束バンドのメンバーとして上手くやっていけそうだとひと安心した。

 

「いやぁ〜喜多ちゃんがギターボーカルやってくれるってことだからさ、もういつでもライブできちゃうね!よしっ、早速お姉ちゃんにライブ出してもらえるように頼んでくるね!!」

 

「えっ、もうライブやるんですか!?あ、行っちゃった……」

 

 ニコニコ笑う虹夏がそう高らかに言って星歌さんの方へ駆け出していく。そしてその背中に慌てたように手を伸ばす彼女に苦笑して声をかける。

 

「あ〜あいつそそっかしいというか、勢いで色々やるとこあるから。ごめんな、えっと……」

 

「喜多ちゃんとかでいいですよ、みんなからそう呼ばれてるので!」

 

「あ、わかった。喜多ちゃんごめんな、これからも振り回しちゃうことあるだろうけどよろしく頼むよ」

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします!!」

 

「たっだいま〜!」

 

 改めて挨拶を交していると満面の笑みの虹夏が帰ってきた。その表情から結果を予想するのはそう難しくなかったが一応問う。

 

「おかえり、店長なんて言ってた?」

 

「ふふ〜ん……オッケーだってさ!結束バンドの初ライブは来月に決まりましたぁー!!」

 

「え、来月!?1ヶ月後にもうライブやるんですか!!」

 

「それ大丈夫か?結成直後でろくに合わせたりもしてないだろ。それに曲だって何やるか全く決めてないし、間に合うのか?」

 

「まぁ流行りの曲でもわりと簡単な曲もあるし、コピーバンドとしてならどうとでもなる。私のハイレベルなベースでお客さんを虜にしてあげる」

 

「さすがはリョウ先輩!きっと会場も満員間違いなしです!!」

 

 突然の決定に驚き目を丸くするがなるほどコピーバンドか。前にリョウが組んでいたバンドは普通にオリジナル曲を演っていたし、どうするのかと思ったが既存の曲なら確かに真似して演奏するだけだしな。とりあえずステージに立って披露することはできそうだ。

 

 なんだかやたらとリョウに目を輝かせている喜多ちゃんがちょっと不思議だったがとりあえず、虹夏が目指していたスターリーでのライブという夢が叶えられそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 望んでいた夢が叶う。そうすれば、もしかしたら。彼女が記憶を失うこともなくなるかもしれない。

 

 10年近く記憶を毎日失い続けているんだ。何かをきっかけに突然治る可能性だってある。

 信じたっていい、信じるだけならタダなんだ。根拠がなくたって勝手に希望を抱いて好き勝手信じてやる。

 

 一縷の望みを胸に、俺達はライブ当日を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁぁ〜ダメね、全然上手くいかないわ……」

 

 動画サイトの初心者用のギター練習動画を流しながらギターを鳴らして天井を仰ぎ、大きなため息をつく。

 今になって自分の行いに後悔の念を募らせる。

 

 路上でのライブをしていたリョウ先輩の見た目や楽器を弾きこなしている姿に惹かれ一目惚れをして、そのリョウ先輩が新たなバンドでメンバーを募集していると知り、勢いでつい加入してしまった。

 

 ボーカルは友達からもカラオケで歌が上手いとよく言われてたし多分大丈夫。しかし問題はギターだ。持ってすらいなかったのにギターを弾けると嘘をついてしまった、そうしなきゃバンドに入れてもらえないと思ったから口先から出任せを言ってしまった。

 

 さすがにこれはマズいとお父さんからお年玉とお小遣いを2年振り前借りしてなんとかギターを購入し、動画を見ながら練習をした。

 毎日続けた、何時間も。それでも動画のような綺麗な音が鳴ることはちっともなかった。

 スタジオで合わせで練習しようと言う伊地知先輩からの連絡を毎度、何かと理由を付けて断りながら家でただ一人。ひとりぼっちでギターを鳴らし続けた。

 

 勉強や運動など大抵のことはそつなくこなすことができていたし今回だってなんとかなると高を括っていた私を恨みながら今日もろくに鳴りやしない弦を弾く。

 

 

 

 

 そうして迎えたライブ当日、放課後。

 私は結束バンドのグループロインの画面と睨み合いながら震える指でそっとタップした。

 タップした先には『退会』の2文字。

 

 私はライブから、結束バンドから逃げ出した。

 

 このグループに入っている結束バンドの伊地知先輩とリョウ先輩、そして二人の幼馴染で一緒にライブハウスでバイトをする雨後先輩。

 何も言わず抜けてしまうことは三人には申し訳ないが仕方がない。

 

 頑張って練習を続けたものの、結局ギターが弾けるようにはならなかった。こんな状態で行ってしまってもライブなんてできるわけがない、足を引っ張ってしまうだけだ。

 

 きっと二人なら。二人だけでもライブをやり遂げたり、或いは代わりのメンバーを見つけて上手いことやれるんじゃないだろうか。

 

 今回はダメだったがギターの練習は続けよう。練習して今度こそちゃんと弾けるようになって、そしたらその時はちゃんと謝りに行こう。ライブすっぽかしてごめんなさいって、ギター弾けるって嘘ついてごめんなさい、って。

 

 

 

 

 

 だからその日まで。私のことなど気にせずに、そんなヤツもいたなぁくらいに頭の隅に置いておいて、とりあえず今だけは私のことなど忘れていてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時はまだ知らなかった。

 後になって大きすぎる後悔の念や自責の念に苛まれることを知らない馬鹿な私、喜多郁代は、自分勝手な言い訳や願い事なんていう戯言を並べつけて結束バンドから逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ、はぁ、はああ……はっ」

 

 息を切らしながら私は行くあてもなく午後の下北沢を駆ける。

 

 

 何が悪かったのだろう。いや、きっと私が悪いんだ。何の相談もせず浮かれて勝手に予定を決めてしまったあの日の私がこの結果を招いてしまった。

 思い返せばあまり話もしていなかった……らしい。ノートに書いてあったことを見返した限りではそんな印象を受けた。

 もっとしっかり話したりしてお互いを知ることができていたなら、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 

 私と幼馴染のリョウで組んでいるバンド、結束バンドにギターボーカルとして加入してくれたという女の子、喜多ちゃん。

 

 もう一人の幼馴染の晴人くんが撮ってくれていた三人で写る写真や、喜多ちゃんと会った日のノートを見た限り、彼女はとても明るく社交的な女の子だったそうだ。その日の記憶は今はもうないけれど、ノートを見ればその子とリョウで上手くやっていけそうだと期待に胸を膨らませていた。

 

 結果、当日になって彼女はグループロインから突如退会し、音信不通になってしまった。電話をかけてもメッセージを送っても連絡がつくことはなかった。

 

 きっと私がいけなかったんだ、勢いに任せた行動をして喜多ちゃんに呆れられてしまったんだ。過去の自分のバカ。なんだってそんな大事なことを勝手に決めたんだよ。取り返しのつかない現実に何度も「私のバカ!」と心の中で罵声を浴びせながら私は走り続けていた。

 

 自分の犯した失態なんだし自分でどうにかしないと、代わりのギターを探さなきゃ。

 そう思ってリョウや晴人くんの制止を振り切って、私はライブハウスを飛び出した。

 もしかしたら代わりにギターをやってくれる人がいるかもしれない。いや、きっといる。そんな都合のいい勝手な思い込みをして私は街でギターを担いでいる人を探して走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしよう、全然見つからない……」

 

 下北沢駅周辺を回ったが今日に限ってギターを持っていそうな人は見つからず、気づけば私は住宅街へと迷い込んでいた。

 

 

 

 

「ねぇ、どうして?何がダメだったか教えてよ……」

 

 自分が悪い。そう思っていても、その理由は察しているのに私の口から力なくそんな言葉がこぼれ出た。

 

 嫌だと思ったなら遠慮せず言ってほしかった。辞めるなら一言くらい言ってから辞めてほしかった。何も言わずにいなくなるなんて悲しいよ。

 

 弱気になった途端、そんな悲しみの感情がどんどん溢れ出てきた。

 私たちの元から突然去ってしまったあの子、あの子……あの明るい…………名前は、たしか…………………

 

 

 

 

 

 

 あれ、名前……なんだっけ?どんな顔の子だったっけ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきまで覚えていたはずのその子の名前と顔が出てこなくなった。

 思い出そうにもノートもスマホも慌てて飛び出してきたせいで忘れてきてしまった。

 あれだけその子について考えていたはずなのに、もう何もかも忘れてしまった。

 記憶をすぐに失ってしまうらしい自分に心底腹が立つ、嫌気がさす。

 なんでこんなあっさり忘れちゃうんだよ、それならなんのために必死こいていま街を駆け回っているんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いや、大丈夫だ。それは覚えている。代わりにギターをしてくれる人を探す。そっちはちゃんと覚えている。こうなったら必ずギターを見つけてライブはやってみせる。その子のことはその後だ。

 

 なんとか気持ちを切り替え気を取り直したその時、ふと私の足は止まった。

 

 角を曲った先にあった公園。その中のブランコに俯いて腰掛けるジャージ姿の女の子が一人。その背中には黒い何かが背負わされていた。

 形を見ればすぐに想像がつく。ギターだ。きっとそうだ。ついに見つけた。

 ライブまでもうそんなに長い時間は残されていない。迷っている暇なんてある訳ない、行こう。

 唾を飲み、決意を固め私は大きく息を吸った。

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!ギター〜〜〜!!!!」

 

 

 

 

 

 

 まだ名も知らないその子に私は思い切り声を張り、躊躇うことなく駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時はまだ知らなかった。

 この子とのこの日の出逢いが私、伊地知虹夏の……いいや、私たちの運命を大きく変えていく出逢いだということを。

 




次回、ようやくヒーロー参戦。








たくさんの方からお気に入りや高評価などをいただき、のびのびと承認欲求モンスターが成長していらっしゃいます。これからもよろしくお願いします。

Twitterに主人公のなんとなくのイメージ画を載せておきました。よければご覧ください。一応閲覧注意(?)
https://mobile.twitter.com/ringoame_9876





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