更新は不定期です。
沖谷京介は不幸だった。
昔から運動が苦手で身体は弱く、そして悲しいぐらいに女顔だった。
物心ついた頃から女子に揶揄われ、弄くり回され、玩具にされた。
決して嫌われているわけではない。しかし男としてはアウトオブ眼中。そういう存在として異性に軽んじられた京介は次第に弱気で内向的な性格となっていった。
京介は自分に自信なんか持てなかった。背も低く、身体は華奢。運動がダメならと勉学に力を入れてみるもどうにも要領が悪い。
これといった趣味も特技も、自慢できる一芸や輝く個性なんて有りはしない。
自分はやれば出来る‼︎ 本気を出せば変われる‼︎
そんな思春期特有の自己暗示すらできないほどに、京介は自分のことが好きにはなれなかった。
父からは日頃から「もっとしっかりしろ」と叱咤され、母からは「もう少し男の子らしくなってくれればねぇ」と嘆息され。
そんな自分を変えたくて。ほんの少しの勇気を振り絞って。
担任の推薦する東京都高度育成高等学校への受験を決めた。
そうして、今日。
桜舞い散る季節の中、無事に入学を果たした京介は……
「んで? 一応言い訳ぐらい聞いといてやろうか? つーか、遺言か。まあどっちでも変わんねーだろうがな?」
死にそうだった。
というか殺されそうだった。
明らかに堅気じゃない眼光のメスゴリラにマジで殺される5秒前だった。
京介は不幸だった。不幸が重なった結果だった。
先ずは早朝。端的に言って寝坊したのだ。
慌てて自宅を飛び出し(両親は盛大に呆れていた)電車を乗り継ぎ、都会の人の多さに驚きながらも漸く東京の地を踏んだ。
そこから地下鉄に乗り、前もって発送された学校の案内図に従い指定のバス停を目指した。
しかしここで盛大に迷った。またしても不幸である。
言い訳としては、京介の想像ではわざわざ国立の高校が通学に公共の市バスを使わせるとは思っても見なかったのだ。
きっと専用の送迎バスが有り、高度育成高等学校の関係者専用のバス停がある筈。という思い込みに駆られていた京介は地図中では目的地に着いているにも関わらず、それに気づく事なく有りもしない高度育成高等学校専用の送迎バス乗り場を探し回っていた。
結局、あんまりにも見付からず、これでは遅刻してしまうというギリギリまで追い込まれた京介は半泣きになりながら近くのコンビニに飛び込んで親切な店員に道を聞いた。
なお二十台後半のコンビニ店員をしていた女性が突如飛び込んできた涙目の美少年の姿に魅了されてしまい、結果イケナイ扉を開いてショタコンと化す。
将来的に警察のお世話になってしまう未来のことなど京介は全く知らないし、知る必要もないだろう。
紆余曲折ありながらも漸くバスに乗れて一安心。と気を抜いた京介は甘かった。
時刻は世のサラリーマンやOLさんが活動を始める通勤ラッシュのピークである。
簡単に言うとバスの中はおしくら饅頭状態なのだ。
身体の小さな京介はあっという間に人並みに揉みくちゃにされ、人混みに酔ってしまった。
吐き気と眩暈に襲われながらも、どうにか高度育成高等学校前へ到着すると同時にヨロヨロとした足取りで外へ出る。
都会の洗礼に泣きべそをかく思いでトボトボと下を向きながら、悪化していた体調を少しずつ回復させていた。
結果的に、これがいけなかった。
「わぷっ⁉︎」
単純な話である。前を向いて歩かないからこうなったのだ。地面の方を向いて覚束ない足取りで歩いていた京介は突然、何かにぶつかった。
彼がぶつかったソレは柔らかくて暖かかった。
どこか懐かしく、それでいて触った事のない不思議な感触の何かだった。
(なんだろう? これ?)
半ば無意識の内に京介はソレの正体を確かめる為に両手で触れた。
これで体調が良好だったり、遅刻ギリギリで頭が焦燥感に駆られたりしていなければ。
内気ではありながらも礼儀正しい側面を持つ京介なら、こんな無体な真似をしなかっただろう。
だが彼はよろめく視界の中、半ば夢現のようなぼんやりとした頭のまま本能で行動してしまった。
結果的に京介は深く考えることもせずに自分が顔を埋めている柔らかいナニかを両手で弄り、揉みしだく愚行を犯した。
「おい」
そんな時、頭上から声が降ってきた。
女性にしては低い、轟くようなハスキーボイスに導かれるように「ほぇ?」と間抜けな声をあげて京介は顔を上げた。
上げてしまった。
「白昼堂々人様の胸に顔を埋めて御満悦ってか? なかなか肝の据わった変態野郎がいたもんだなぁ? あぁん⁉︎」
鬼がいた。
獅子と狼と鷹を足して割らないキメラのような異様に鋭い眼光の鬼がいた。
京介は恐る恐る自分の両手に視線を下ろす。
なんと言う事でしょう。
己の両手はあまり当たって欲しくなかった予想通りに巨大な二つの果実を制服越しにとは言え、思いっきり揉んでいた。
それはそれは思いっきり揉んでいた。
偶然当たってしまっただとか、触ってしまっただとか、そんな言い訳がきかない程に思いっきり揉み揉みしていた。
「ごっ⁉︎……ごごっ……ごご……‼︎」
人は本当に窮地に追い込まれた時、咄嗟に言葉が出なくなる。そんな事は今は知りたくなかったと京介は顔色を青くしたり白くしたりと忙しく点滅させる。
目の前にいる鬼。否、恐らくは同じ高育の新入生だと思われる少女は恐ろしく大きかった。
間近で見上げているからだろうか、その背丈は2メートル近く、華の女子高生という言葉に全くそぐわない程に分厚く、重厚で、巌のように堅そうだった。
デカい。とにかくデカかった。身長が。身体が。胸が。尻が。太腿が。
とにもかくにも規格外に大きく、それでいて強靭に練り上げられた肉体だというのが衣服越しにでも伝わる程に、圧が大きかった。
そんな見たこともないスーパーウーマンに痴漢行為を働いた自分がどんな未来を辿るのか。
勉強が苦手な京介でも流石に分かる。分かってしまった。
「んで? 一応言い訳ぐらい聞いといてやろうか? つーか、遺言か。まあ……」
胸倉を持ち上げられた京介の身体があっさりと、あまりにもあっさりと持ち上げられ、両脚がブラブラとあっという間に宙に浮く。
ポケットティッシュでも摘むような気軽さのまま片腕一本であっという間に自分を持ち上げてしまうような怪力の持ち主だ。
その拳が自分の顔に向けられたら頭が弾き飛んでしまうのだろうか。
その光景を想像した瞬間。ぬっと音立てる勢いで鬼の顔面が急速に近づいて来た。
「どっちでも。変わんねーだろうが。なぁ?」
ゴツリ。と音を立てて互いの額がぶつかる。
趣味は人殺し。特技も人殺し。悪そうな奴はたいてい下僕。
そう言われたら間違いなく信じてしまいそうな程の炯々とした眼光である。
今まで見てきた地元のどんな不良達よりも怖かった。
いや、不良と鬼を同じ括りで考えることこそが間違いだった。
京介の目から涙が溢れて身体がプルプルと震え出した。もしも今朝、優雅に朝食を取っていたならば今頃失禁か、それ以上の粗相を晒していたかも知れない。
令和現代に生きる若者の日常生活にとって全く縁の無い『戦慄』の二文字。
それに浸され、縛り付けられた京介は謝罪の一言すらまともに話す事は出来なかった。ただただ涙を流し、己の運命を悟り、絶望。
耐えきれないとばかりにギュッと目を瞑るしかなかった。
「……ん?」
だがしかし。結論から述べるならば京介が覚悟していた地獄のような暴力はいつまでも訪れなかった。
恐る恐る瞳を開くと、そこには目の前の鬼がマジマジと自分の姿を観察している姿がある。
「どんな糞野郎かと思ってほぼ無意識の内に襟首引っ掴んだものの……ほう、ほう。これはこれは」
ジー。そんな音が鳴りそうな程に目の前の鬼。否、女性は京介を。というよりも京介の顔を覗き込んでいる。
「どうにも綺麗な面してるな……なあ、おい」
「は、はい⁉︎」
獣のような鋭い眼光が鳴りを潜めた。切長の瞳はただそれだけで射抜くような力強さがあったものの、不思議と毒気が抜かれたように暴力の気配は散っている。
それ故に京介もなんとか声を上げることが出来た。無論、その声は恐怖と緊張で掠れ裏返ってもいたが。
「お前、男か?」
「お、おおお、男です‼︎」
「えーホントにー? その顔でー? どう見ても女じゃん。マジでチンコついてんの?」
「ちんっ⁉︎ お、お男です、本当に‼︎ あ、あのっ、それよりさっきは‼︎ し、失礼なことしてしまってごめんなさおおおおっっ⁉︎」
今が最後のチャンス‼︎ とばかりに勇気を振り絞った京介の謝罪の言葉は最後まで続かなかった。別に油断していたところをぶん殴られたという訳ではない。だが衝撃はそれ以上だった。
「うおー本当についてる‼︎ この顔でチンコついてるって何かスゲーな⁉︎」
なんと目の前の彼女が京介の股間を鷲掴みにしたのだ。
未だかつて体験したことの無い睾丸への圧迫感と、スラックス越しとは言え異性に性器を触られるショックは京介に激しいダメージを与えた。
とうの犯人は無駄に整った顔面を愉しげに歪めながら「これがリアル男の娘かー‼︎」とケタケタ笑っていたのだが、現在進行形で揉み揉みされている京介としては堪ったものじゃない。
「あ、あの‼︎ は、離してくだっ‼︎ さ、いぃっ‼︎」
「あぁん? テメェは勝手に人の身体触っといて自分は嫌です。って随分と虫のいい話じゃねぇか? つーかこんくらいで許してやってんだから俺様の寛大さに咽び泣いて感謝しろや」
「そ、れはそうですけど……あ、あの、ホントそれ以上は……‼︎」
さっきまで青くなっていた京介の顔は真っ赤だった。
これで目の前の痴女の見た目が、初対面の通りに鬼やゴリラにそっくりそのままだったならば、身体を触られることへの嫌悪だけで済んだだろう。
だがしかし、改めて見ると目の前の少女。というよりも女性はあまりにも美しかった。
虎のような黄金の瞳。筋の通った高い鼻。ポッテリとした唇。外国の血が入っているであろう褐色の肌。
丹念に鍛えられてきたであろう分厚い筋肉は女性らしさを損なうものであろうに、それを凌駕するように主張の激しいバストにヒップ。
特にそのミサイルのように飛び出た特大の乳肉は京介の胸にベッタリと押しつけられるようにしてフニフニと形を変えているものだから、溜まったものではない。
「んお? 何だか固くなってきたような……」
京介の顔は女っぽくても、その身体と魂はしっかりとした思春期男子である。
ハリウッドスターのような美貌を持った長身の女性に身体を擦り付けるように近付かれ、挙句に無遠慮に股間を刺激されているのだ。
嫌悪だなんてとんでもないが、その代わりにとんでもない羞恥心と衝撃的な快楽に襲われて沸騰せんばかりに身体が真っ赤に染まっていた。
「も、もうっ‼︎ ほ、本当に……‼︎ で、でちゃうっ……からぁっ‼︎」
先程まで震えていた理由とは全く違う理由で体が震え出す。
両脚を内股に摺り合わせ、なんとか暴発を堪えようとする京介の艶姿は誰がどう見ても男の姿には見えなかった。
あと少し、ほんの少しでも刺激されれば果ててしまう。
そんな限界ギリギリの彼を救ったのは校舎の奥から響いたチャイムの音だった。
「……んぁ⁉︎ 今のチャイムか⁉︎ やっべ、こんなことしてる場合じゃねーわ、遅刻しそうなの忘れてた‼︎」
慌てた様子の大女はこうしちゃいられんとばかりに京介をポイッと放り出すと校門に向かい信じられない速度で走り出していった。
「……えぇ?」
放り出された京介は尻餅をついたまま唖然としていた。まさに嵐のような出来事だった。
結局、先程までいた同輩らしき女子に無礼を謝罪するどころか名前すら聞くこともなく。
せめて自己紹介か謝罪のどちらかぐらいは済ましたかった。
そう考えていた京介だったが、その機会は案外、直ぐに訪れることになるのをまだしらない。
……とは言え、今の彼はそれどころではないのだが。
「……うぅ。早く治まってくれないかなぁ」
京介は顔を真っ赤にして股間を庇うように俯いた。
半泣き状態の彼が巡回していた生徒会役員に発見されるまでの5分間。
京介は羞恥と己の煩悩と戦い続け、未成熟な下半身を押さえつけるハメとなった。
もう一つも頑張って書きます。