ようこそTSメスゴリラのいる教室へ   作:薔薇尻浩作

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初投稿じゃないけど初投稿です。


さよなら里中くん

 

里中聡はイケメンである。

 

10人の女性に聞いたら10人がうっとりした顔で「超イケメン‼︎」と黄色い声を上げるだろう。

10人の男性に聞いたら8人の男性が羨ましげに頷き、2人の男性が嫉妬で悪態をつく。

まあ、そんな反応をされるぐらいに里中という青年はイケメンだった。

 

身長も高く、体つきは俗に言う細マッチョ。

ダメ押しとばかりに文武両道で中学時代の成績も良く、当時の担任から「お前なら絶対に受かる」と太鼓判を押され、こうして高度育成高等学校に入学した。

 

ルックスも良く、成績も良く。更に言うならば、里中本人は自覚していないが心優しく紳士的と周囲には思われており、早い話が性格も良い。

非の打ち所がない。とは正に里中のことで、当然、彼はモテる。やけにモテる。凄いモテる。

 

ツンデレ気味な女子。ちょっと内気な文学少女。男勝りな陸上女子。お高く留まったお嬢様や、少しメンヘラ入ったゴスロリっ娘。

色んな女子達からモーションをかけられ、グイグイと交際を迫られた経験もある。

潔癖。とまでは言わないものの、それなりに女性に対しての理想が高かった里中は彼女達の怒涛のアタックも何のその。

時には優しく、時には厳しく。諭したり、受け流したり、宥めこんだり。

上手いこと躱して生きてきた。

 

つまり結論から言うならば、里中という青年は非常にモテる上に女性の扱いに長けている。という事になるのだ。

 

 

そんな美青年。里中聡は今……

 

 

 

「ちょっと……面ぁ、貸してくんねぇかぁ? なあぁ⁉︎

 

 

筋肉モリモリマッチョウーマンの鬼に迫られて死にそうだった。

 

 

 

 

入学初日。始業のチャイムを待ち望みながらもソワソワした気持ちで周りの人間と手探りながらコミュニケーションをとり始める。

里中もその一人で、隣席の橋本という男子と仲良くなったところだった。

見た目はチャラそうで、実際に話した感じも軽薄なところが透けてみえたが、そんな玉瑕も気にならない程の気やすさと、話の巧さにすっかり里中は心を許していた。

 

さて、間もなくチャイムが鳴り担任が入室。

皺一つ無い真っ黒なスーツに身を包む、いかにも厳しそうな男性教師が学校の説明を始めようとした時だった。

 

 

「全員揃っては……居ないようだな。全く初日から遅刻とは」

 

 

在籍者、全40人であるAクラスの教室には空白があった。

それが最前列でなおかつ教卓の真前なのだから必然的に目がついた。当然、里中も気付いていたし、他のクラスメイトも気になっていた事だろう。

高校の入学初日。まさかの遅刻である。

しかも教師の反応を見るに、特に学校側に登校が遅れる旨を伝えた様子も無い。

何かのアクシデントに巻き込まれた不幸な生徒か。それともよっぽど肝が据わった大物なのか。

 

 

「とは言え時間は有限だ。先ずは自己紹介をさせて貰おう。私の名前は真嶋智也。担当教科は……」

 

 

そんな里中の密かな疑問と好奇心を置き去りに、教師の自己紹介が、今、まさに始まろうとしたその時。

ガラガラと音を立てながら教室の後ろ扉が開いた。

 

反射的に音の鳴る方へ。つまり最後尾で一番窓側に位置する『当たり』の席に座っていた里中は首を右へと曲げた。

するとそこには……

 

 

「遅刻だぞ。初日とは言え感心しないな。早く席に着きなさい」

 

「ウッス」

 

 

明らかにヤベーのが居た。

 

 

まずデカい。とにかくデカい。

こうして離れていると言うのに明らかに2メートル近い長身だ。と、そう確信できる程にその背丈が、圧力が、存在感が桁違いにデカかった。

 

ギョロリと今にも音立てそうな黄金の眼は力強い。というか力強過ぎるし迫力もあり過ぎだ。

極限まで飢えた大型の肉食獣に睨みつけられるような、命の危機を覚えるレベルの恐ろしい威圧感を放っている。

腰まで伸ばしたギラギラと照明を反射するブロンドは相当に硬く、太く、強いのだろう。

重力に反するように、ところどころ逆立っており、まるで鬣である。

その殺人的に鋭い眼光と合わさって、里中は益々もって牙を剥き出しにした百獣の王を連想した。

 

そして何よりも。何よりもその体躯だ。

屈強。だなんて言葉が薄っぺらく感じるほど、真っ赤なブレザーに窮屈そうに閉じ込められた鎧のようなその筋肉の主張は強烈だ。

見よ、スカートから伸びる褐色の太腿の迫力を。まるで作りかけの石膏の様。

発達した筋肉がところどころ瘤のように膨らみ見事な陰影を生み出し、極太の血管の筋があちこちに走っているのが目に見える。

一般的な少女のウェスト程の太さを誇るその立派な脚は、爆発的な脚力を秘めている事は確実だろう。

 

最後に里中の目を引いたのは、少々言いづらい事に、バスト。つまり、その豊満に過ぎる巨大な胸。

第2ボタンまで開け放たれた白いカッターシャツから溢れんばかり。否、ブチ破らんばかりにギリギリ収まっている柔肉は、手を突っ込んだらどこまでも吸い込んでしまいそうな深い深い谷間を作り出している。

言うまでもなく、メロンやスイカが可愛らしく思えてくるレベルのとんでもない大きさのギガントサイズの果実だろう。

ほんのちょっとの衝撃でも与えれば、シャツは破裂し、中身が弾けてしまうのではないか?

そんな疑問すら浮かぶ程の、正に規格外の爆乳。

 

女性との交流が多かった里中でも出会ったこともないレベル。それこそイヤらしい話だがエロ本やAV何かに出演していたモデルや女優なんかと比較しても見たことの無い大きさだ。

あまりにも巨大過ぎる魅惑の果実に思わず生唾を飲む……寸前になって恐ろしいまでの圧と、あの眼から放たれる「オレサマオマエマルカジリ」と言わんばかりの眼光がリフレインし、里中はスッと机の上に視線を固定した。

 

恐ろしかった。単純に怖かったのだ。

顔立ちは文句なしの美女。さらにボディスタイルはダイナマイトボディなんて言葉が陳腐に聞こえる程に抜群にグラマラス。

エキゾチックかつセクシーな色気は年頃の男子の視線を釘付けにする筈……だった。

 

そのデカ過ぎる身体とデカ過ぎる筋肉‼︎ あまりに規格外の圧倒的な存在感と威圧感さえ無ければ‼︎

 

 

真嶋教諭に軽く謝罪をしたメスゴリラ……もとい大女は肩をいからせるように威風堂々と歩みを進め、最前列ど真ん中の席にドッサリと音を立てて空白を埋めた。

その際スカートに包まれた、それこそ彼女の規格外のバストにも負けない程の質量と肉感。それから齧り付きたくなるような濃密な色気を持った張りの良いデカ尻が「ムニュリ」と音立てるように形を変え、里中を含めた一部の男子達の青い性を刺激した。

が、その巨体に悲鳴を上げるように、巨尻を支えていた椅子がギチギチと軋むような音を立てた辺りで、男子諸君の煩悩の燻りは一斉に鎮火。

 

下手な事を考えたら(物理的に)圧殺する。座した鬼女の後ろ姿は、そんな無言の殺害予告を暗示していた。

 

 

その後は何事もなかったかのように先生から学校の説明が始まった。

流石はエリート校の教師。あんな怪物に全く動じてないなんて‼︎

この時点で里中含む多くの生徒からの信頼を獲得していたのを真嶋先生はまだ知らない。

 

Sシステムの特殊性やら既に支給されていた金額の多さに多少騒つきはしたものの、比較的平穏に説明は終わる。

そしてその後の質問タイムだ。教師から伝わる威圧感や、名門である高度育成高等学校に入学した自負が生み出すであろう緊張感もなんのその。

件の怪物は沈み込むような深いアルトに反するフランクな言葉遣いで、物怖じ一つせず次々と真嶋先生に質問を飛ばしていた。

やれスカートが気に食わない。席を変えたい。あげくの果てにはソファー持ってきていい? 等と言いたい放題である。

 

豪快奔放たるその様に真嶋先生などは呆れた様子で溜息をついていた。

里中も明らかに荒々しく野蛮な雰囲気を纏ったアマゾネスがどうしてこの名門校に受かったのか内心で疑問に思う。

自分が知らないだけでスポーツ推薦のような枠があったのだろうか? そんな事を考えていた。

 

 

「皆、少し時間を貰いたいのだが構わないだろうか」

 

 

やや疲れた顔をした先生が入学式までの待機を命じ退室した後だった。

禿頭が目を引く男子生徒。後になって葛城と名乗る男が自己紹介を提案した。

隣の席の橋本が賛同すると、周囲も賛成ムードに。もちろん里中も頷いた。

 

そうして始まる自己紹介タイム。なかなかに個性的な面子が揃っているなーと里中は呑気に考えながらも、卒なく自己紹介を終えた。

特に面白味のない無難な内容だったとは思うが、女子の熱い視線と一部男子の視線に苦笑い。

隣の橋本からは軽く肘で突つかれ「流石だな色男」と揶揄われたりもした。

やがて坂柳有栖と名乗る杖をついた妖精のように可憐な少女が美しい礼と共に自己紹介を終えた後。

 

我々は、ヤツの存在を思い出してしまった。

 

 

「次に……その、一番前の、君。お願い……出来るだろうか」

 

 

スンッと音を立ててクラスの雰囲気が死んだ。

桜舞い散るこの季節に相応しい春風のような暖かい歓談の時間はあっという間に氷河期に変貌を遂げる。

このクラスには39人の人間と1匹の怪物がいる事を思い出してしまったからだ。

先程までリーダーシップを発揮してハキハキとした様子で進行をしていた葛城は脂汗に頭をテカらせ、声も震えて掠れている。

だが誰もそんな彼の醜態を笑ったりしない。笑えはしない。むしろ同情したい気持ちでいっぱいだった。里中もそうだった。

 

さて、メスゴリラ。もとい鬼女。呼称はどうあれ大注目のビッグバンガールは葛城の呼びかけに気安く「OkieDokie」と答えてゆっくりと立ち上がった。

ミシリと椅子が軋み、ブルンとその規格外の乳が揺れる。思わず視線を吸い寄せられそうになる男子一同だが、性欲よりも生存本能が優先されたのだろう。

皆一様にビビり散らしていた。「なんか一人だけ世界観違くない?」里中はそう思った。

 

 

「剛力だ。剛力オーガスタ。スペルはA・U・G・U・S・T・A……」

 

 

剛力オーガスタ。そんな怪物の名前を聞いた瞬間、里中は『名は体を表す』という諺が真っ先に浮かんだ。

決してゴリラだとかオーガだとかポケットに入ってるモンスターのゴーリキーだとかを思い浮かべたりはしなかった。そういう事にしといて欲しい。

 

剛力の説明によれば、彼女はアメリカからの留学生。

鞣した牛革のような見事な褐色の肌に、堀りの深い顔立ちから想像した通り、外国人であることに里中は何ら疑問を持つ事はなかった。

むしろ剛力という姓から彼女に僅かでも日本人の血が流れている事実こそが里中に大きな驚愕を与えた。

 

冷静に考えれば日本人でも長身の人間はいくらでもいる。

例えば世界で活躍する日本出身のバスケットボールプレイヤーやバレーボール選手は2メートル超だって珍しくも無いし、日本で最も知名度があったと言っても過言では無いプロレスラーの愛称はジャイアントである。

だが里中には目の前の彼女が同じ日本の血を引いた人種とは信じ難かったし、何なら本当に人間なのか。と失礼千万な疑いすら持っていた。

 

だって余りにも存在感が違うのだ。

例えるならば学園系ライトノベルにアメコミのヒーローが混じったように。

日常系アニメの世界にサイヤ人が混じったように。

どうぶつの森にキングギドラが襲来したように。

余りにも現実離れした超越的な存在感が、里中を含む多くのクラスメイト達に一斉に同じ印象を強烈に残した。

 

 

(((絶対に関わっちゃいけないタイプのヤベー奴だ‼︎)))

 

 

 

あのゴリラのような巨体でありながら、そこらのモデルや女優にも劣らないそのワイルドな魅力溢れる美貌。そしてセックスボムさながらの女性的に過ぎるボディーが、アンビバレントな衝撃をこれでもかと与えてくる。

矛盾したような二極の存在感を鮮烈に知らしめた剛力オーガスタと名乗るマッスルモンスターの自己紹介を最後まで聴いている余裕は、里中含む多くのクラスメイトに残されていなかった。

 

 

(絶対に‼︎ 何があっても絶対に関わらないように頑張ろう‼︎)

 

 

男女問わず多くの人間がそう決心したように。

里中がそんな決意をしたのはある意味で当然のことだった。

 

 

 

 

 

「Hey‼︎ Twink boy」

 

「ヒェッ」

 

 

そう考えていた日もありました。とばかりに翌日の早朝から盛大にフラグを回収するハメになった里中は短い悲鳴を上げた。

とうぃんくぼーい。なるスラングの意味は理解できなかったものの、声の持ち主がしっかりと此方を見下ろしているのだから知らないフリなど出来るワケも無い。

 

里中は必死になって周囲を見回し助けを求めた。情けないとか言われてもやはり命は惜しいのだ。

だがしかし、先日友好を深めた筈の橋本は即効で他人のフリをして別の人間と雑談に興じているフリをして即座に逃走。

先日リーダーシップを発揮して、いかにも頼りになりそうな見た目をした葛城はまだ教室におらず。

先日の入学式の後に開催されたファミレスでの食事会で連絡先を交換し合った、新たな友人達も一斉に目を逸らす。見捨てられたのだ。里中は友情の儚さを学んだ。

 

唯一、剛力に対し萎縮した様子を見せなかった坂柳は愉しそうにコチラをニコニコと笑顔で眺めているが、彼女に頼るのは流石に論外。

まさか歩行に杖が必要な程に虚弱な少女を、小腹が空いたからと人肉を摘んでいても違和感のないオーガからの逃げ場所にするワケにもいかず、候補はここに全滅。

 

神は死んだ。

里中は絶望した。

 

 

「なーに。取って喰おうってワケじゃねーんだよハニー。初夜みてーに固くなることは無いさ」

 

 

ドスンと音を立て、オーガの。否、剛力の太くて長くてオマケに硬い右腕が里中の肩に乗せられ、スルリとアナコンダのように絡みつく。

互いの半身が密着することで、その規格外の爆乳も必然的に里中の身体に擦り付けられ、その形を変えていたが、彼にその感触を楽しむ余裕など一切無かった。

 

もしも、首に掛かる彼女の腕に力が入り、そのまま締め付けられれば確実に首の骨が折れる。そうすれば当然、里中は死ぬだろう。

もしも、彼女の気が変わってその大きな掌で頭蓋を掴まれ力を込められたら、あっという間にザクロのように砕ける。そうすれば必然、里中は死ぬだろう。

もしも、彼女が空腹でそのまま首筋に牙を突き立てられれば、あっという間に首の肉を食いちぎられる。もはや論ずるまでも無い、里中は死ぬだろう。

 

身体中から嫌な汗が吹き出し、明確に映る死のビジョンが吐気を催す程の絶望的な恐怖を生み出し、恥も外聞も投げ捨てて里中の身体中がマナーモードのスマフォみたいに小刻みに激しく震え出す。

喉奥が不自然に締まり、心臓の鼓動が爆発するように高鳴る。

顔色を蝋のように白くした里中を覗き込んだ剛力は、座して固まった青年の身体を強引に引っこ抜きながら笑顔で続けた。

 

 

「サトナカ……つったっけ? ちょっとばかしお前さんに頼みたい事があるってワケ。なーに、心配すんなって。大した話じゃないんだ。シリアル摘むよりも簡単なコトさ」

 

 

黄金の瞳が獲物を見つけ、にんまりと形を変える。ペロリと舌舐めずりした口腔からはステーキナイフのような八重歯が唾液に濡れテラテラと輝いている。

 

己の運命を悟った里中の脳裏に、かつて読んだことあるコミックのワンフレーズが過ぎった。

 

 

笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である。

 

 

「ちょっと……面ぁ、貸してくんねぇかぁ? なあぁ⁉︎

 

 

いくら彼が女性の扱いには慣れていたとしても、カテゴリーが人外となれば流石に対象外である。

かくして自身の命運を悟った哀れな里中は、理不尽の化身たるメスゴリラに強引に引き摺られながら教室の外へ連行されて逝った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。ホームルームを始める……む、里中。何故、最前列にお前が……何? ああ、剛力の席替えの件か。両者共に合意をしているなら問題ないが……さ、里中? 顔色が土気色だがどうした⁉︎ 何故そんなに震えている⁉︎ お、おい、剛力‼︎ 本当にしっかりと里中から了承を得たのだろうな⁉︎ もし脅迫や暴行などが発覚した場合は厳罰が……視線を此方に向けないか剛力‼︎ 何そっぽを向いて口笛吹いているんだ⁉︎ 入学2日目にして何をやらかしたんだお前はあぁ⁉︎」

 

 

 

居心地の良い席より、命の方がずっと大事。

里中は自分にそう言い聞かせながら、真嶋先生の怒鳴り声をBGMに、恐怖の記憶を消去する為に自己暗示をかけ続けるのだった。

 

 




里中君はイケメンランキング1位のモブです。
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