ようこそTSメスゴリラのいる教室へ   作:ケツマン

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間違えて匿名消しちゃったので初投稿です。
ログイン履歴消しちゃうと匿名も消えちゃうのね……1巻分書き切るまでは匿名でいたかったぜ。


メスゴリラやらかし譚

 

最高の目覚めとはどんなシチュエーションだと思う?

俺としては最高級のベッドの上で目覚めて、ふと隣に視線を送った時に最高にゴージャスな美女が生まれたままの姿で眠っている。そんなシーンを推したい。

昨夜のお楽しみを思い出して余韻に浸れるし、何だったら獣欲の赴くままに朝っぱらからおっ始めちまうのもアリだろう。

 

最高の目覚めには最高の女。俗っぽい話かもしれねーけど、でもまあ、少なくとも男なら誰だって一度は夢見るシチュエーションってヤツじゃないか?

意見なんざ十人十色。結局は人によりけりだろうから断言は出来ないさ。

とは言え、たった一つだけ。俺からすると、これだけは100パー間違いない。って言い切れる事がある。

 

それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……朝早くからこうして生徒指導室に何故、呼び出されているか。お前はその理由を理解しているのか? 剛力」

 

 

少なくとも、朝っぱらからオッサンと2人っきりで密室に閉じ込められる。なーんてシチュは誰1人だって望んでいないだろう。ってことさ。

 

 

「あー。ちょっと分かんないっすね。これでも品行方正に生きて来たつもりなんすけど」

 

「お前は敬語だけでなく四字熟語についても徹底的に勉強し直すべきだな。喜べ剛力、お前が望むなら現代文担当としていつでも補習を行なってやろう。格安でな」

 

「金取るのかよ……」

 

 

補習の権利もポイントで買い取れます。ってか? 馬鹿馬鹿しい。

 

端末をチラッと覗けば時刻は6時半をちょっと過ぎたところだ。良い加減、生徒指導室に呼び出されるのは慣れてきた俺だが、朝っぱらから呼び出されるのは流石に初めてだった。

 

 

昨晩、丁度腹ごなしの筋トレとストレッチをしていた時に端末に見慣れない番号から着信。

悲しいことに俺の端末に登録してある連絡先は寮の管理人と京介のみ。一体誰からだろうと訝しみながらも端末を取ると、まさかまさかの真嶋のオッサンから。

「明日の朝、職員室に。いや、もう生徒指導室に直接来るように。呼び出しを無視するような事があれば相応の処罰が下ると思いなさい」だなんてご機嫌な台詞で呼び出しだぜ? 全く、嫌になっちまうぜ。

 

 

「いや、でも割とマジで何も覚えが無いっすよ? 喧嘩もやってねーし、校則だって破った覚えも無いし」

 

「お前……本気でそう思ってるのか……⁉︎」

 

 

俺がそう言うと、真嶋のオッサンは唖然とした表情で絶句していた。

信じられない。と言わんばかりの表情だが、マジで俺は何かやらかした覚えがない。

里中の件で説教されてからは、特に誰かと交渉した覚えも無いし、もちろん揉め事だって犯しちゃいない。

だと言うのに真嶋は「はあああぁぁー……」とクソデカ溜息だ。挙句の果てにまるで飛びっきりの馬鹿を見るような冷め切った目で俺に説教を始めた。

 

 

「何から叱ればいいやら……先ず剛力。お前は以前ソファーの持ち込みを学校側に要望し、結果的に契約書にサインしたな?」

 

「えっ、はい。……いや、誰にも契約の事は喋って無いっすよ⁉︎」

 

 

尻が痛いからソファーの持ち込みを頼んだら怪しげな契約書にサインさせられ口止めされたのは入学初日の放課後だ。

退学まで仄めかされちまったからには、口を滑らすようなポカはしていない筈だ。

 

 

「口止めについては心配していない。が、剛力。あの契約はそもそもお前が備品の椅子では身体に負担がかかる為、仕方なく私物のソファーを持ち込みたい。という旨の話から発生したものだ。これは間違いないな?」

 

「へ? まあ、はい。間違いないっす」

 

「そして剛力。お前はつい先日、備品の椅子を学校側に返却して私物のソファーを……そう、ソファーを。少なくとも、お前自身はソファーだと主張するモノを教室に持ち込んだ。ここまでで何か異論はあるか?」

 

「異論も何も。その通りっすけど」

 

 

一昨日の放課後。やっとの思いで理想の椅子を家電量販店で見つけた俺は昨日の朝にウキウキ気分で自分の席に設置。その座り心地と抜群の機能に大満足していた。

まあ、クラスメイトからは何か言いたげな視線をチラチラ貰っていたが。

何だったら隣の席の橋本というチャラ男から引き攣った声で「な、なぁ。剛力の姐さん。その椅子……椅子? 随分と高そうだけども一体、いくらしたんだ?」なんて聞かれたりもした。

俺としては椅子の値段なんかよりも、何で喋った事も無い男から姐さん呼ばわりされているのかが腑に落ちんのだが。

 

ただ真嶋のオッサンは俺の返事がどこか気に食わなかったのだろう。

頭が痛いと言いたげにこめかみを抑えながら重苦しい溜息をまた吐き出した。幸せが逃げまくっちまうぜ? 一体何だっつうんだよ。

 

 

「剛力……お前はまた随分と、大きくて機能的なソファーを持ち込んだようだな? 先日の朝のホームルームで初めて見た時、俺は思わず二度見してしまったぞ」

 

「まあ結構良い値段した高級品っすからねー。隣に座ってる橋本ってやつにお値段教えてやったら大袈裟にひっくり返ってましたよ」

 

「そうだな。そりゃあ、そうなるだろう……入学して1週間と経たない内に 『120万ポイントもするマッサージチェア』を持ち込んだんだからな‼︎」

 

 

怒鳴る。と言うよりも唸るような叫び声を上げて真嶋のオッサンは机の上に突っ伏した。

なんか辛そうだな? もしかして二日酔いか? シジミの味噌汁でも飲んだ方がいいぜ?

 

 

「お前……何でソファーを持ち込む筈がマッサージチェアにすり替わってるんだ‼︎ 普通に考えておかしいだろう⁉︎」

 

「いや、ソファーもチェアーもあんま変わんねーじゃないっすか。マッサージ機能も授業中には使ってないし」

 

「当たり前だこの大馬鹿者が‼︎ 授業中に優雅にマッサージでもしてみろ⁉︎ 即刻、没収と厳罰だからな⁉︎」

 

 

ハイハイ。ったくケチ臭ぇ上に相変わらず口煩いオッサンだこと。

 

 

「っつーか、何でセンセーが俺の椅子の値段知ってるんすか? 橋本にも100万ポイント以上はした。ってな感じでボカして伝えてた筈なんすけど」

 

「担任教師は自クラスの生徒が所持しているポイント残高と売買の記録を閲覧する権利があるからだ。恐喝や不正行為に対する防犯対策みたいなものだ」

 

「あー成る程」

 

「それにだ、次に。そうだ、そう。ソファー。じゃなくて問題のチェアーの値段の話だ……お前が持ち込んだ高額な私物がきっかけでAクラス内から数名の生徒から意見? まあ、意見だな。苦情に近い声が上がっている」

 

「はい?」

 

 

マッサージチェアーの話が何でクラスの奴らに関係あるんだ?

あんな豪華なチェアーを持ち込むなんてズルい‼︎ 俺達にも使わせてくれー。って話?

 

 

「明らかに不正な手段を用いてポイントを稼いでいるであろう某生徒。つまり、剛力に対する不正行為の証拠を学校側で押さえて処罰して欲しい。という陳情、よりも嘆願に近かったなアレは。お前がカツアゲや暴行、脅迫行為に手を染め、不正にポイントを集めているに違いない。とな……剛力、お前何をどうしたらこんな短期間でここまでクラスメイトから恐れられるんだ?」

 

「言い掛かりにも程があるだろうが⁉︎」

 

 

何にもしてねーのにビビられるのは慣れてるが犯罪者扱いは納得いかねーぞ⁉︎

つーか不正行為って何だよ⁉︎ 冤罪にも程があるだろうが⁉︎

 

 

「マジで俺は何にもヤッてねーぞ‼︎ 里中の件だって脅迫でも何でも無ぇのに、お前が煩かったから今でさえ無駄に気を遣ってるっつうのに‼︎」

 

「教師をお前呼ばわりするな馬鹿者が……まあ、確かにあの件はお前の主張した通り『里中とは話し合いの末に1万ポイントを払い、席を交換して貰った』という事で落ち着いたな。里中に送金した形跡も見られたし、何度か確認したが里中本人が特に脅迫も暴行も受けてない。と被害を訴えていない時点で脅迫行為は無かった。と学校側は見なしているが……」

 

「なら問題無ぇじゃねえか」

 

「お前は周りの視線というものをもう少し考えろ。例え学校側のボーダーラインを超えていなかったとしても、自らの行いが良識あるクラスメイトにどのように映るか。剛力、少しでも考えた事はあるか?」

 

「あー……まあ、そう言う正論を言われちまうとなぁ」

 

 

まあ俺自身、周囲の視線なんて気にしないで生きているとは思う。無頼漢っつーのか? いや、漢では無いけど。

と言うか第三者目線を気にする様な人間だったら、例え才能があったとしてもこんな巨体になるまで鍛えまくったりしなかったと思うし、目についた美女を口説いてはベッドにお誘いなんてしなかったと思う。

何つーか、畏怖の視線に慣れちまってたんだよなぁ。どうせビビられるならちょっと強気に当たって俺自身が生きやすくなるように周りを変えちまおうって。大概それでモノゴト上手くいって来たし。

流石に殺人とか強姦とか。最後の一線まで越える事は絶対に無ぇだろうけど。あとドラッグと酒。

 

 

「更には剛力。お前はある日の晩、泣き叫ぶ女生徒を肩に担いで寮へ誘拐したのでは無いか。と言う容疑がかかっていた事もあったんだぞ? 目撃者が学年問わず多数現れてな」

 

「誰が誘拐犯だ⁉︎ ありゃデコピンしたら大袈裟に泣き出しちまったダチを運んだだけだっ‼︎ ついでに言えばその時俺が運んでいた京介は男だぞ‼︎ ……一応な」

 

「まあ、寮内の監視カメラをいくつか確認した結果。自室に連れ込んでいる様子も見られず、当の被害者から訴えもなかった為に流された案件ではあるが……京介というと、もしやDクラスの沖谷か」

 

「あん? 何で知ってる……って普通に授業でDクラスに顔を出すからか」

 

 

Aクラスの俺だってCクラスの担任のオッサンの数学やDクラスの女神、茶柱先生から日本史を習ってるわけだし。

そう言えばBクラスの担任らしい星乃宮先生には教室で会ったことないな……選択科目でも担当してんのか?

 

 

「とにかく。お前がやりたい放題やればやるほど周囲は悪い方向に誤解していく悪循環だ。もちろん意見を上げた生徒には不正行為や犯罪行為の証拠は一切無く。少なくとも、今のところは、これから先はともかくとして、 現時点では‼︎ 剛力に疾しいところは無い。と、否定しておいたが」

 

「おいコラ。めっちゃくちゃ予防線張ってんじゃねーか」

 

「長年生きていると勘というものも馬鹿に出来なくなるものでな」

 

 

こ、この野郎……いつか確実に俺が何かやらかすって確信してやがるな⁉︎

 

 

「と言うか、お前なあ……少し考えれば分かるだろう? 10万ポイント支給された初日でさえあの騒ぎだったんだぞ? 金額の大きさに沸き立つクラスメイト尻目に、普通に生活していたら絶対に買えないような高価な品物を1週間もしない内に持ち込んだら誰だって不正を疑うに決まっている。剛力、頼むからもう少しだけでも頭を使って生きてくれ。本気で」

 

「ボロクソ言いやがってこの野郎‼︎ そもそも俺の金策については真嶋‼︎ アンタが許可出したんだろうがコラァ⁉︎」

 

「教師を呼び捨てにするんじゃない馬鹿者‼︎ そう、その金策。というかお前が提案した『ルール上はギリギリ問題にならない作戦』に関しては確かに学校側は許可を出した……だが。俺は言った筈だぞ剛力‼︎ やり過ぎるなと‼︎」

 

 

カチンと来た俺が声を張り上げると、真嶋は負けじとばかりに机をぶん殴りながら怒鳴り返してきた。

俺相手にここまで強気に言い返せる人間は滅多にいねーんだが……意外に修羅場でも潜ってんのか?

 

んで、話を金策のことに戻す。

確かに真嶋は「やり過ぎるな」とは言っていた。

半分聞き流していたとは言え後で難癖つけられ、せっかく稼いだポイントを没収されるのも馬鹿馬鹿しい。

だからこそ俺は無理しない程度の稼ぎで妥協してやったんだ。だと言うのに何でこんなボロクソに説教喰らわなきゃいけねーんだ‼︎

俺は確固たる意志を持って真嶋に反論してやった。

 

 

「ほんの400万ちょっと稼いだ程度でどこがやり過ぎなんだよ‼︎」

 

「どう考えてもやり過ぎだろうがこの大馬鹿者おおおおぉぉぉ‼︎‼︎」

 

 

真嶋の怒号で狭い室内がビリビリと震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。十分にやり過ぎだと思うよ」

 

 

時刻は飛んで昼休み。昼食の時間だ。

無駄に難易度の高い授業で疲れ切った頭を癒すため、日当たりのいい屋上でダチと駄弁りながら栄養補給に励んでいる。

 

 

「いや、吹っかけりゃ倍以上は儲けられた可能性もあったんだぜ? それに喧嘩売る部活は男子が中心に活動している部活オンリーに絞ったし、十分良心的だろう?」

 

「そういう問題じゃないと思うな……」

 

 

朝の理不尽な出来事を京介に愚痴っていた俺はマイフレンドからの共感をちっとも得られずにちょっとモヤモヤしていた。

大前提として、俺は一切ルールを破っていないっつーのに酷い話だぜ。

 

 

「えーと、そもそも……オーガスタさんはどうやってこんな大金を稼いだの? まだ1週間も経ってないのに?」

 

「まあ、早い話が道場破りだよ。ポイントを賭けたな」

 

「道場破り?」

 

 

コテン。と可愛らしく小首を傾げた京介に癒されつつも俺はここ2、3日に自分が何をやったかの説明をしてやった。

つっても、Smart(賢い)な作戦を自負してるだけあって、内容もSmart(無駄のない)でシンプルなんだけどな。

 

 

「主に格闘技系の運動部に単身乗り込んで賭け試合を申し込んだんだよ。全額ベットして勝って倍になって、また別のところで全額ベット……その繰り返しさ」

 

 

カツアゲや恐喝はダメでも賭博は有りだなんて相変わらずこの学校の基準は良く分からんが、真嶋曰く生徒間でのポイントのやり取りは、そこそこ日常的に行われているんだってよ。

まあ毎月10万ポイントも貰えるなら一般的な金銭感覚のやつは生活に困る事なんて無さそうだし、刺激が欲しくなるものなのかねー?

 

 

 

「でも……いくら女の子とは言え、オーガスタさんみたいな見るからに強そうな人から戦おう。って言われたら皆怖がって断っちゃうと思うんだけど」

 

「まあ、普通にヤッたら唯のイジメになっちまうからな」

 

 

京介には話して無いけど俺は故郷のアメリカじゃあ、普通にプロの格闘家として認知されているだろうからな。

それに割とマジな話、現時点でも世界最強の格闘家の自信はあるんだ。

15歳超えた時点でボクシングを始めとしたどんな競技でも誰も試合組んでくれなくなっちまったし。

 

仲良くしていた局の悪ノリ企画で実現しちゃった、当時の男子ヘビー級王者とのドリームマッチがトドメだったな。

試合開始3秒で一発KO。周囲がアンビリーバボーと叫び出した辺りで、俺はもう向こうの格闘技界からは暗黙の了解で殿堂入りみたいな扱いになっちまった。

それでも、まあテレビに出たり映画でスタントマンやったりユーチューブやったりと仕事には困らなかったけど。

 

 

「真正面から喧嘩吹っかけても誰も乗ってくれない。だから徹底的なハンデと挑発をくれてやったのさ。結果的に殆どの部活が勝負に乗ってくれたぜ」

 

「ハンデと挑発?」

 

「そうさ。例えば男子柔道部では大前提として柔道の技以外は禁止。それから俺は左手の親指と人差し指以外の使用禁止。さらに俺が一歩でも足を動かしたら強制的に相手の勝ち。ってな具合だな」

 

 

最初に乗り込んだ時は頑固として反対していた柔道部の部長だったが、ハンデを設けると次第に顔つきが険しくなり、幾ら何でも馬鹿にしてるのかと声を荒げて来た。

ここまで来れば後は簡単さ。

 

 

「ここまでハンデをつけてやったのに逃げただなんて噂が立ったら相手も赤っ恥だろ? トドメに『高育の柔道部は玉無しのヘタレの集まりだな。練習って名目で男同士乳くりあってるカマ野郎の巣窟だなんて知らなかったぜ‼︎ 』って挑発したら鼻息荒くして乗って来たぜ」

 

「うわぁ……」

 

「まぁ中には怒り狂ってルールをガン無視して襲い掛かってくるバカもいたが。そいつらがどうなったかは……言わなくても分かるだろう?」

 

 

俺が八重歯を剥き出しにして笑みを深めると、京介も何となく察したように顔を青くする。

結果的に言えば格闘技系の部活はこの戦法で全勝出来たから、サクッと終わった楽な仕事だった。

 

 

「残った球技やら陸上やらの運動部は簡単だな。バスケやサッカーなんかはチームvs俺1人でミニゲームやって全勝。陸上は単純にタイムにハンデ付けたり重りを背負った状態で対決して全勝……まあ、そう言う感じで勝ちまくった結果、400万ポイント超を数日で稼げたってワケさ」

 

 

特にサッカー部は気前が良かった。

部長とは別のキャプテン的なポジションだったのか。やけに女を囲っている金髪のエースストライカー的な先輩が「おもしれー女」とか言いながら個人的に100万ポイントをポンっと送ってくれたし。

まあ、やけに顔色悪くて足がガクガク震えていたのは気になったが……

 

 

「とは言え、まあ。学校側からはヤリ過ぎ。って見なされちまったみたいでな。こんな最後通牒まで貰っちまったよ」

 

「何それ?」

 

 

スラックスのポケットから折り畳んだ紙を広げて京介に見せてやる。

これは怒鳴り疲れた真嶋のオッサンから押し付けられたものだ。

 

 

「柔道部、総合格闘技部、ボクシング部、合気道同好会、陸上部、男子サッカー部、男子バスケットボール部……色んな部活の名前があるけど、もしかしてコレって?」

 

「ご名答。俺が乗り込んだ部活に所属してる奴らが連盟で抗議文出して来たみたいでな。要するに俺は殆どの部活から出禁を食らっちまったワケさ」

 

「それは……まあ……仕方ない、のかな?」

 

 

陸上部に関しては大会に出て欲しいみたいな嘆願も混じってたけど、後の部活は純粋な抗議文だ。

真嶋のオッサンが胃の辺りを押さえながら「これでもお前は品行方正に生きてきたとでも言うつもりなのか……⁉︎」と死にそうな声で文句言って来たのが印象的だ。

やれやれ、ティーンズのちょっとしたお茶目なんだから大目に見て欲しいぜ。

 

 

「朝っぱらから説教食らってブルーな気持ちだって言うのに、その紙きれの後にトドメとばかりに渡されたのがコレだぜ? 嫌になっちまうよ」

 

「コレ。って……鍵? だよね。随分大きな鍵だけど、何の鍵?」

 

「更衣室だとよ。俺、専用のな」

 

「更衣室?」

 

 

説教も終わりを見せた頃、ついでとばかりに渡されたのがこの鍵だ。曰く、本来なら教職員が使う為の更衣室の合鍵らしい。

今日の午後には初の体育。しかも大型のプールを贅沢に使用する水泳の授業が控えている。

 

わざわざ早朝から呼び出したのは、体育の授業の前にこの鍵を渡したかったのが本来の要件で、他の説教はあくまでついで。……の筈だったんだが余りにも俺が問題を起こしてるから、話が長くなってしまったんだとさ。

 

女子更衣室が在るのにも関わらず俺だけ隔離しておくとは、まあ考えられる理由は1つ。要するに俺に女生徒の裸を視姦させない為だろうな。

全く、ピーピングトム扱いは心外だぜ‼︎……そりゃ、ちょっとは楽しみにしてたけどよー。

堪らず俺は、幾ら何でも差別が過ぎる‼︎って真嶋に抗議した。だが……

 

「これは差別じゃなくて区別だ馬鹿者。俺はお前の担任だぞ? お前が故郷でどんな『ヤンチャ』をしたかも当然、資料として送られて来ている。さて剛力、お前は随分と同性相手に浮名を流して来たそうだな。歳下の少女に同級生。女性アスリートにハリウッド女優。おまけに1年前には家庭を持っている某有名歌手まで……それで、まさかとは思うがこれ以上の説明が必要か?」

 

なんて冷めた目で言われちまったらお手上げさ。

 

 

「まあ、ちまちま覗きに励むよりも堂々と口説き落としてベッドに誘う方が性に合ってるから構わないけどな」

 

 

俺がそう吐き捨てると、京介がちょっと顔を赤くして恐る恐ると言った感じでこっちを見上げて来た。

 

 

「あの、前々から思ってたんだけど。もしかしてオーガスタさんって女の子が好きな人なの?」

 

 

急にそんな当然のことを聞いてくるもんだから俺は思わずキョトンとしちまった。

一瞬だけ生まれた沈黙の間を京介がどう受け取ったのか「あの‼︎ 差別とかじゃなくて……偏見とかも無くてっ‼︎」と勝手にワタワタしている姿が何だか愛らしい。

そう言えば日本についてから誰かと恋バナなんかして来なかったから、俺が女しか抱いたことが無いなんて普通は知らないか。

 

 

「逆に考えてみろよ京介? 俺が男にベッドの上へ押し倒されて甘い声で喘ぐ姿なんて想像出来ないだろう?」

 

「ベッド……押し倒すって。……あ、あの。もうちょっと、こう。遠回しな表現をした方が」

 

 

相変わらず赤い顔で気恥ずかしそうにボソボソ言ってる京介の姿がどうにもツボに入っちまう。悪戯心が刺激された俺はニンマリ笑って京介の耳元で囁いてやった。

 

 

「んー? ならもっと具体的に言ってやろうか。俺が好きなのは女さ。今まで何人もの女を抱いて来た。ベッドの上で裸に剥いてから裸体に覆いかぶさってキスをしてやるんだ。最初は優しく、壊れものに触れるように優しく。次第に熱く、深く、そして激しくしてやる。舌先で脳味噌までかき混ぜてやるんだよ」

 

 

あえて熱っぽい吐息が耳元を擽ぐるように語ってやると京介はたちまち真っ赤に顔を茹だらせてあっと言う間に硬直した。

やっぱコイツは可愛いやつだな。ますますイジリたくなってくる。

それこそベッドの上で愛を囁くような距離まで唇を耳元で近づけると、抑揚と熱を込めて囁き続けた。

 

 

「俺の隠れた特技で、キスには自信があってな? レズビアンに興味が無いなんてツレ無い事を言ってた女だって1分もしない内に真っ赤になって腑抜けちまうのさ……さて、甘い口付けを心まで堪能したら次は女性特有の滑らかな柔肌を堪能する……」

 

 

もうこの辺りから京介は茹った顔のまま半分涙目で、俺の語りをどうにか止めようとポカポカ叩いて来たが、そんな軽い拳じゃマッサージにもなりゃしない。

俺自身も、どうにもストレスが溜まっていたせいか目の前の可愛い子ちゃんをイジメてやりたくて堪らなくなっちまう。

そもそも京介のやつがそこらへんの女子より可愛い顔をしているのが悪いのさ。

 

耳に口付けるシーンでは優しく耳の輪郭を小指でなぞってやったり。

首筋を甘噛みするシーンは首筋に唇を近づけて挑発してみたり。

鎖骨にキスするシーンでリップ音を立てたり。

 

そのまま語りは熱を帯びてやがて愛撫は胸元へ、臀部へ。そして本丸へ……と辿り着く手前であっという間に昼休み終了5分前さ。

何故か不自然な程に前屈みになりながら座り込み、半泣きのまま俺を睨みつける真っ赤な京介。

それから、あまりに可愛いリアクションにケラケラ笑いながら、その頰を突いている俺がいた。

 

 

すっかり機嫌を損ねて真っ赤な顔で不機嫌そうに睨んで来る京介に平謝りしながらも、次に会う時には似たようなやり取りを繰り返す。

何だかんだありながらも、俺と京介は暫くの間、そういう関係に落ち着くのだった。




感想、評価ありがとうございます。
とっても嬉しい‼︎

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