ようこそTSメスゴリラのいる教室へ   作:薔薇尻浩作

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特殊タグ入れたいので後々編集したいから初投稿です。
感想、評価、誤字修正。ありがとうございます。


鬼の第六感

 

自画自賛みたいで小っ恥ずかしい話ではあるんだが、俺は俗に言う有名人の1人だ。

アホほど金を稼いでいるし、ニューヨーク州にある実家で適当にテレビのチャンネルを回せば俺の顔がどっかしらに写っている。

ちょい役とは言え何とか賞にノミネートした映画にも出演した事もあるし、自慢の身体能力を駆使して何十ものギネス記録だって保持している。

 

アウトドア系のブランドやスポーツウェアメーカーとのCM契約とかも結んでるし、マイナースポーツの広告キャラクターなんかもやっている。

売上はそこそこ。実入は……どうだろ? 金勘定はパパンに任せっきりだしな。

 

 

知名度がある人間って言うのは周りの視線を集めるもんだ。

好奇の視線だったり憧憬の視線だったり。後はまあ、下心を隠さない下種な視線だったり嫉妬の視線だとか。

故郷では家から一歩でも出ればそう言った様々な視線を浴びながら日々を過ごして来た俺だが、来日してからは割と平和だった。

 

入学式直前に日本の地を踏んだ関係でまともに観光していないというのもあるが、コンビニに行こうが公園をランニングしようがストレスフリーだ。

もちろん常人と比べて頭二つか三つ分デカいタッパと分厚い筋肉のせいで視線は集まるものの、驚愕や畏怖の籠ったものだけ。

それは高度育成高等学校に入学してからも同様で、俺は俺なりに故郷とは違った雰囲気の生活を楽しんでいた。

 

 

「見学者は坂柳1人のみ‼︎ しかも全員が問題なく泳げるなんて優秀なクラスだな‼︎ 流石はAクラ……ゴホン‼︎ もし泳ぎが苦手なヤツがいても心配するな‼︎ 先生に任せておけば必ず上達させてやる‼︎ 夏までに泳げる様になっておけば必ず役に立つ……必ずな‼︎」

 

 

さて、何で水泳の授業中だっていうのに、いきなりこんな事を長々と回想してるかっつーと。

要するに俺は人一倍、他人の視線。っつーモノに敏感だっていうことを説明したかった訳さ。

 

 

「では今から男女別で50メートルの競泳を行う‼︎ 種目は自由型、タイムは測るが正式なレースでは無いからそこまで肩肘張らなくて良いぞ‼︎ そしてお前達のやる気を煽る為の賞金も用意してある‼︎」

 

 

男子の卑猥な視線、女子から浴びる心地良い熱の篭った視線に、先ほど口説いた真澄からチラチラ向けられる羞恥の視線。

まあ、ここまでは良いんだ。ママン譲りの顔立ちに、このデカい胸と尻のせいで男から性欲の込もった眼で視られるのも慣れている。

可愛い子猫ちゃんが俺の筋肉にうっとりする目を向けるのも故郷じゃ普通の事だった。

それから真澄に関してはどんどん俺を意識して欲しいから存分に眺めてくれ。なーに、お代は要らないさ。いつかベッドの中で君の身体の隅々まで眺めさせて貰うからwin-winってワケ。

じゃあ、何が言いたいかっていうと、だ。

 

 

「男子で1位になったものと『女子で2位』になったものには賞金で5000ポイントを進呈‼︎ 最下位の者にはそれぞれ補習の時間をプレゼント‼︎ 気張れよお前達‼︎」

 

 

さっきからキラッキラした視線を向けられてるんだわ。

うん、なんつーか。向こうでは慣れてるけど、日本に来てからは初めて向けられる純度100パーセントの憧れの視線。

例えるなら、ティーンにもなっていない幼児がスパイダーマンやスーパーマンみたいな英雄を見るような、汚れのない無垢な視線。ってヤツだな。

そりゃあ、ちっちゃい子からハルク扱いされて怖がられる事や、ワンダーウーマンと間違えられてハグを要求されたりは慣れてるから別に嫌なワケでも無いし、なんだったらファンサービスぐらい幾らでもしてやるよ。

 

ただ、なあ。よりによってそんな視線を向けて来てるのが……

 

 

「それから剛力‼︎ 君だけは特別に‼︎ 個別で‼︎ 最後に‼︎ タイムを測らせてもらうからそのつもりで身体を解していてくれ‼︎」

 

 

体育教師のオッサンから向けられてるんだよなぁ……。

いや、まあ。真嶋のオッサンも俺の過去のこと何となく知ってたっぽいから、そりゃもしかしたらって思ってたけどよー。

この先生、見るからにバリバリのスポーツマンだし、体型と筋肉のつき方から見るに水泳以外でも何かしらの格闘技を齧ってるぽいしなぁ。

 

 

「あー……一応聞いておきたいんだが先生? もしかして俺のこと知ってる人?」

 

「ハッハッハッ‼︎ きょっ、教師が生徒のことを知っているのは当然じゃないかー‼︎ 面白いことを言う人だなー貴女は‼︎」

 

「いや、そう言う意味じゃ……まあ、イイけどよ」

 

 

キラキラした目を器用にバシャバシャ泳がせる体育教師。コイツ、嘘がつけないタイプの大人だな。いつの間にか俺のことを『アナタ』って呼んできてるし。

そんな、あからさまにリスペクトしてます‼︎ みたいなノリで来られるとどうにも気が抜けるぜ。

 

周りの生徒が不思議そうに俺と先生を見比べてるけど、まあこれに関してはどうしようもない。有名税ってヤツなのさ。

何となく事情を察した俺は肩をすくめて掌を上に向けた。

 

 

「ゴホン‼︎ ……では先ずは男子から始めるぞ‼︎ さあさあ、学籍番号順に並んだ並んだぁ‼︎」

 

 

誤魔化し方も下手くそだなぁ。と思いつつも先生の号令に従って、男子からレースは始まった。

適度にストレッチをしながら眺めていたが、どうやらウチのクラスは運動神経がいいヤツが多いらしい。

見た感じ平均タイムも結構早めだし、極端に遅いヤツが居ないのも印象的だ。

普段の授業態度も真面目だし、やっぱりエリート学校に入学して来るヤツは文武両道が当然なのかねぇ?

俺、マジで勉強は苦手なんだけど……普段の授業も英語以外は一応真面目に聞いてるけど半分も解らんし。

こりゃテスト前は冗談抜きで金払ってでも補習頼まなきゃいけないハメになるかもなぁ。

 

ちなみにレースの結果は男子の優勝が鬼頭でビリが名前の知らねーやつ。

女子は暫定1位が真澄で最下位が田宮というタレ目の娘だ。

真澄の順位が決まった瞬間に口笛吹いて拍手してやったら顔を赤くして速攻で目を逸らされちまった。こりゃ口説くのに時間がかかりそうだな。

 

 

「ポイントは授業終了後に振り込むから確認しておくように……では、最後に‼︎ 剛力‼︎」

 

「OkieDokie」

 

 

何故か俺よりも気合いが入った声で、叫ぶように名前を呼ぶ先生に苦笑しつつ、俺は軽く手を振りながら気楽な気持ちで飛び込み台の上に立った。

そーいや、俺が優勝するのは当然として、肝心のポイントは貰えるのかね?

確か5000ポイントだっけ? 端金だが、昼メシ代ぐらいにはなるだろ。貰えるなら京介に飯でも奢ってやるか。

 

 

「なあ、センセー。俺が優勝したらポイントはくれるんだよな?」

 

「勿論だとも。額は……タイムによって変わると思ってくれていいぞ」

 

「……ふぅん。まあ、期待はしないでおくよ」

 

 

真剣な面持ちでストップウォッチを握り締めているセンセーには悪いが、ぶっちゃけた話俺はそこまでやる気は無かった。

というのも、俺は身体能力に関しては超人の域に達している自覚があるとは言え、冗談抜きで水泳だけは苦手だったからだ。

カナヅチとまでは言わないが、筋肉っつーもんはそもそも水に浮きにくい。

オマケに俺の身体にはバカみたいに主張の激しい胸と尻が出っ張りになっちまうもんだから、水に対して抵抗力を産んでしまうワケ。

つまりまとめると、俺の体型は悉く水泳競技には向いていないってコト。悲しいね、全く。

 

 

「Take your marks‼︎」

 

 

どんだけ興奮してるんだか、ネイティブもビックリの発音と声量で位置につくよう叫んでいる先生の顔は興奮で真っ赤だ。

アンタさっきまで普通に「位置についてヨーイ‼︎」って日本語で指示出してただろうに。

さっきまでのレースと比べて気合いの入れ方が明らかに違うもんだから、周りのクラスメイトも困惑した雰囲気になってそうだよなぁ。

キラキラを通り越してギラギラした目で注目してる中年のオッサンには悪いが、そう面白い結果にはならないと思うけどな。

 

心の中で溜息つきながらも飛び込み台の上でしゃがみ込んで笛の音を待つ。

モチベーションが低いからかどうにも集中力が高まらないのが実情なんだが。

まあ、所詮は学校の授業なんだ。気楽にヤルぐらいが丁度いいのかもな。

 

 

Piー‼︎ と笛の音が鳴ると同時に俺は下半身をバネにして力強く跳躍する。

跳ぶ。と言うよりも飛ぶ意識で空に浮かんだ俺は暫くの間、水面と並行になって、かっ飛んだ。

やがて重力に引っ張られて着水。イルカをイメージしながら身体を丸め、ド派手な音を立てて水面を食い破ったら、あっという間にプールの底に手が着いた。このまま頭をぶつけて気絶しました。なんてオチになっちまったら笑えねーよな。

跳び箱でも跳ねるかのようなイメージでプールの底を両手で勢いよく引っ叩いて更に加速。魚雷の如き激流のまま水面に顔を出せば、あとはやる事は単純さ。

 

こちとら脳筋。しかも水泳は元から苦手。正しいフォームの知識やら効率良く泳ぐ為の技術なんかあるワケない。

ひたすら全力で両腕を回す。そして全力でバタ足する。

まあ、つまりフィジカルによるゴリ押しって意味だな。

 

 

「……っと、着いたか。センセー、タイムはよ?」

 

 

50メートルという距離は想像以上に短かったようで、あっという間にゴールに手が着いた。

ザバリと音立てながらプールから上がった俺は、びしょ濡れになった髪を雑巾みたいにしぼりながら、先生に尋ねた。

 

 

「あぁ……タイムは……タイムは……‼︎」

 

 

つっても、まあ。ストップウォッチを震えながら見つめているセンセーには悪いけど、正直なところ失敗したなぁ。とは思ってるんだよな。

クラスメイトの様子をチラッと見るだけで分かる。ポカンと口開けて固まっちまってる。

 

まあ、あえて言い訳させて貰うなら、だ。

単純に水泳は苦手。オマケに来日してからトレーニングの量がガッツリ減っていて身体も鈍っている。そもそもヤル気もそんなに無い。

こんな悪条件が揃った状態でぶっつけ本番のレースだ。そりゃ、つまんねー結果になるよな?

 

 

「タイムは……20秒91‼︎ 男子世界記録タイ‼︎ 伝説的な記録だ‼︎‼︎」

 

 

ほらな。『たかが世界記録すら』破れねーっつうんだからよ。全く、しけたオチだぜ。

 

 

興奮に打ち震えているオッサンを尻目に俺は肩をすくめる。これが陸上競技だったらもっと面白い記録が出せたっつーのに……そんな事を考えていると頭上からパチパチと音が聞こえた。

ふと見上げればそこには観客席で授業を唯一見学していた坂柳が満面の笑みでもって俺の健闘を讃えてか、拍手している。

あー……可愛い子ちゃんに上から見られていたのを忘れてたぜ。もっと気合い入れとけば良かったなー。そんな事を考えながら片手を振りながらウィンク飛ばした。

 

 

「せ、世界記録ってマジ⁉︎」

 

「そりゃあの身体だから運動神経スゴイとは思ってたけど……ヤバすぎだろ⁉︎」

 

「剛力さんスッゴイ‼︎」

 

 

そんな坂柳につられてか何故かクラスメイトもセンセーも揃って拍手喝采だ。

止めてくれよ……この程度で全力だと思われたく無いんだけど。もうちょい真面目にやるべきだったか。

 

 

「凄い‼︎ 凄いぞ剛力‼︎ 想像以上だ‼︎ 女子だったらブッチギリの世界記録更新‼︎ 嗚呼、これが唯の授業だというのが本当に惜しい‼︎‼︎」

 

 

感極まると言った表情で叫ぶようにして俺を持ち上げるセンセー。いや、マジで居た堪れない気持ちになるから勘弁して欲しいぜ。

 

 

「なぁ、センセー。アンタやっぱ俺のこと知ってる人だろ?」

 

「当然だ‼︎ あのオーガスタだぞ⁉︎ 世界最強‼︎ 世界最速の超人オーガスタ‼︎ アイアンマンレース最速ギネス記録保持者‼︎ 『グレート・オーガ』だ‼︎ 」

 

 

跳び上がらんばかりに騒いでいるセンセーには悪いんだけど、その小っ恥ずかしいあだ名は勘弁して欲しいんだけどなぁ。

興奮覚めやらぬ先生を宥めようにもベンチの方で様子を伺っていたクラスメイトも既にガヤガヤと騒ぎ出してるし。

どうにもギネス記録っつー単語が連中の琴線に大きく反応したらしい。

つっても、あれもピンキリだからギネス自体は大したこと無いんだけどなぁ……。

中には顔面にいくつの洗濯バサミを挟みつけるか。なんて下らない競技? もあるワケだし。

 

そこそこ真面目な授業だった筈が、あっという間にお祭り騒ぎだ。全く、暫くこの喧騒は治まりそうにねーな。

とりあえず握手をねだって来た先生の肩を抱いてファンサービスに努めながらも、俺はどうやって肝心のポイントを強請ろうかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っつーワケで今日の昼は俺の奢りだ。昨日の内にデパートで豪勢な弁当を買っておいたから、遠慮せず食え」

 

「うん。その前に色々とツッコミたいかな……」

 

 

時は飛んで翌週の月曜日の昼休み。いつものように京介と2人、屋上で飯を食っている。

前日の夜に適当に買ってきた一個3000ポイントという、ランチにしてはちょっとお高めのお弁当を京介に差し出してやったらこんな台詞だ。

全く、細かい事を気にする男はモテないぜ?

 

 

「世界記録って……オーガスタさんって水泳選手か何かなの?」

 

「まさか。つーか何度も言った通り水泳は苦手なんだよ」

 

「全世界の水泳選手が落ち込んじゃうからそんなコト言っちゃダメだよ」

 

「つっても事実だしなー」

 

 

やけに高級感のある幕の内弁当をパクつきながら先週の水泳授業の話だ。

個人的には周囲が騒げば騒ぐほど置いてかれた気持ちになって冷めた気分になるもんさ。

ちなみにポイントはしっかり貰えた。額は5万ポイント。5000ポイントしか貰えていない鬼頭や真澄から不満の声が上がるんじゃ無いかと心配だったが、特にそう言った声は無かったのが幸いだ。

まあこの昼飯代だけで1万ポイント以上使っちまってるから賞金の残りはそんなに無いんだけどな。

お高いお弁当っていうのは質が良くても量が足りない。少食の京介に1個、大食いの俺に3個で計4個も買っちまったから仕方ないけど。

 

 

「それと、アイアンマンレースって何? 有名な水泳の大会か何か?」

 

「水泳じゃなくてトライアスロンのレースだな。昔、興味本位でやってみたら思ったより好成績を残しちまって騒がれたんだよ」

 

「トライアスロンって……確か、自転車乗ったりする競技だっけ?」

 

「そうそう。水泳とロードバイク、そんで長距離マラソンで締める3種競技のレースだな」

 

 

14歳の半ばの時だっただろうか。当時アプローチをかけていた女性(20代前半の黒人女性。ウェストからヒップにかけてのラインが芸術的だった)に薦められて出場したトライアスロンだったが、基礎体力をつけるのにはうってつけの競技だった。

もっとも水泳への苦手意識が当初からあったもんだから大会への出場は一度きり。

とは言え当時のギネス記録を結構ガッツリと上回ったもんだから、かなり大袈裟に騒がれた記憶がある。

まあ、その頃には俺の身体能力が超人じみてるだなんて、合衆国でテレビのある家に暮している人間ならとっくに知っていた事だろうけどな。

 

 

「えっと、じゃあオーガスタさんはトライアスロンと水泳でギネス記録を持ってるってこと?」

 

「いや、レース関係で正式な記録を測ったのはトライアスロンくらいじゃねぇかな? あとは、みーんなテレビの企画とかで適当に計測した非公式記録だし」

 

「それでも世界記録より凄いタイムをいっぱい更新したんだよね?」

 

「んー……まあ、一通りな。どこぞのお偉いさんからオリンピックに出ないかとは聞かれたな」

 

「うわあぁぁ……オーガスタさんって本当に凄いんだね‼︎」

 

 

あの体育教師にも負けない純度100パーセントのキラキラした尊敬の瞳が眩しいぜ。

しかもむさ苦しいオッサンとは違って京介のお顔は甘くて可愛らしいんだ。

そんな美味しそうな可愛い子ちゃんから、頰を赤くして輝く瞳を向けられちまったら、うっかり押し倒したくなるもんだから自重して欲しいぜ、全く。

まあ、褒められるのは気分が良いとしても、身体能力に関しては今更だよな。

俺は間違いなく天才だし、なおかつ才能に胡座はかかないように意識して毎日鍛えてるから、結果が出るのも当然ってワケ。

 

 

「そう言えば『グレート・オーガ』ってオーガスタさんのニックネームなの?」

 

「誰がつけたか知らねーけどな。テレビに出演し始めてからは、そう言うよく分からねーニックネームが何個も付けられたんだよ」

 

「漫画のキャラクターみたい。カッコいいなぁ……」

 

「えー。かっこいいかー?」

 

 

幼い頃は天才少女。とか未来の天才ボクサー。って感じのありきたりで、まだ大人しい分類の渾名で済んでいた。

だが試合で勝ちまくる度に。テレビの企画で色んな記録を更新しまくる度に。誰が呼んだか分からない、微妙なセンスのニックネームがつけられるようになった。

『Great Ogre』もその一つ。俺の名前のオーガスタに掛けてるつもりなんだろうけど、そもそもスペルからして無理があると思うんだがなぁ。

 

 

やたらとキラキラしたお目々で俺の話を強請る京介に苦笑しながらも閑話休題ってやつ。

 

話題は徐々に変わってお勉強の話に移っていく。

俺は勉強嫌いで成績はお世辞にも宜しくないので、京介がもしも頭が良いなら得意科目の1つや2つ、面倒を見て貰いたい。だなんて下心もあったから、ちょこっと探りを入れておきたかった。

だが残念ながら京介も勉強は苦手らしい。それでも、故郷では芸能関係の仕事のおかげで公欠続きで殆ど不登校。まともに教科書すら開いて来なかった俺よりはマシだろうが……。

 

 

「授業が聴こえないって……京介、お前そんなに耳が遠いのか?」

 

 

そんなお勉強のお話の最中に、京介が何気なく零した内容でちょっと気になる話が出てきちまったんだ。

 

 

「違うよ。クラスメイトの人達の話し声が大き過ぎて、僕の席からじゃ先生の話なんてまともに聴こえないんだ」

 

「おいおい。そりゃ、幾らなんでも……」

 

 

いや、幾らなんでもそりゃ無いだろう。

Aクラスの授業風景なんかまさにエリート‼︎って感じだ。信じられないことに私語の一つも無いんだぜ?

教員は皆フレンドリーで親しみやすい雰囲気を出してるし、隣の席の橋本なんか如何にもチャラそうで話好きっぽい。

だと言うのに、何か不自然なまでに背筋をシャンと伸ばして授業をみーんな真面目に受けてるんだ。

そもそもこの学校って国立のエリート校だろ?

 

 

「あー京介。俺は確かに日本人の血が流れているとは言え、育ちも生まれもニューヨークだからな。悪いとは思うんだが、ジャパニーズジョークの笑いどころ。って言うのが今一つ分からなくてなぁ」

 

「ジョークじゃないよ‼︎ 本当なんだってば‼︎」

 

「いや、流石に冗談だろ? 先生の話が聞こえないレベルで授業中に騒いでるって普通に考えておかしいだろ? 教師陣だって注意や説教やらするだろう?」

 

「それが……何にも。本当に何にも、一切、何にも言ってくれないんだ。すっごく煩くて、一部の人達はとっても迷惑してるのに。どの先生も注意するどころか、生徒のことなんか知らない。って感じで無視して授業を進めちゃうんだ」

 

 

京介は元々勉強も運動も苦手な、俗に言う落ちこぼれの学生だったらしい。

だが、何の奇跡か名門校として名高い東京都高度育成高等学校に受かったのをきっかけに、せめて勉強だけは‼︎ と、心を入れ替えて頑張るつもりだったんだとか。

だがそもそもの話、頑張るも何も肝心の授業が聴こえないのではどうしようもない。

一応、自分なりに予習復習と励んでいるらしいが効果薄。

これからの学生生活に不安を覚えているんだってよ。

 

 

「クラス分けの運が悪くてたまたまタチの悪いバカが集まったとかか? バカ真面目なAクラスと足して割ったら丁度イイのかも知れねーけどな」

 

「オーガスタさんのクラスはそんなに静かなの?」

 

「ぶっちゃけ俺以外は揃って全員優等生だな。私語も遅刻も忘れ物も無し……多分俺が一番やらかしてんじゃねーのか?」

 

 

入学初日に遅刻。担任に生徒指導室に呼び出されるのが日常になりつつある。授業について行けない。唯一の得意科目の英語では常に爆睡。日本史の授業がある度に授業前に茶柱先生を口説く。

うん。ちょっと考えただけでも、なかなかやらかしてるな、俺。

 

 

「く、口説くって……教師相手にそれは幾らなんでもダメなんじゃないかな?」

 

「おいおい腑抜けたこと言うなよ京介。お前もDクラスの生徒なら分かるだろ? 茶柱先生がどれだけ美しくてセクシーか。ってことぐらい。あんな美女を口説かない方がむしろ失礼な話さ」

 

「確かに茶柱先生は綺麗な人だけど……」

 

 

あのクールな表情にグラマラスなボディ。是非とも一度は抱いてみたいもんだぜ。

 

と、脱線しかけたので話を戻すがAクラスの連中は揃いも揃って真面目ちゃんだ。

日本が誇る名門校を目指していた人間なら、お利口さんなイイ子ちゃん達が揃っていてもおかしくない。と俺は勝手に思い込んでいたがどうにも京介の話を聞くと間違いらしい。

少なくともDクラスに関しては現在進行形で学級崩壊している。

クラスメイトの気質も、お世辞にも真面目な人間は殆ど少ないそうだ。

 

 

「平田くんとか櫛田さんとか、その、リーダーみたいな、友達の多い人とかは真面目で優しいんだけど。軽井沢さんや篠原さんみたいな女子は声も大きくて気が強いから怖いし……池くんや山内くんも悪い人では無いんだけど、ちょっとヤリ過ぎっていうか」

 

「あー。平田だとか櫛田だとかはちょこっと聞いたことあるなー」

 

 

水泳の授業からちょっとばかしクラスメイトとの距離が縮まったのか、隣の席の橋本と休み時間にちょくちょく話をするようになった。

Bクラスのイチノセ? が可愛いだとか、Cクラスに黒人で喧嘩の強そうなヤツがいるだとか。

その時にDの話が出て、平田っていうイケメンと、櫛田っていう可愛い子ちゃんの名前を聞いた筈だ。

 

 

「須藤くんの遅刻とかも日常茶飯事だし。水泳の授業の時には……その、女の人には言い辛いんだけど、えっと、女の子の水着姿を盗撮して……む、胸の大きさで賭け事とかしてるし……」

 

「ほーん。で、京介は誰に賭けたんだ?」

 

「ぼ、僕は参加してないよ⁉︎ 誘われたけどちゃんと断ったってば‼︎」

 

「ジョークだジョーク。そう怒るなよMy Sugar(俺の可愛い子ちゃん)

 

 

俺としては中々楽しそうなクラスに聞こえるが、名門校の生徒に相応しいかと聞かれると首を傾げる有様のようだ。

気の小さい京介が大袈裟に捉えている可能性もあるが……それにしたって違和感が残る。

 

なんつーか、キナ臭ぇもんを感じるな……。

初日の放課後、真嶋にハメられて理不尽な契約書にサインさせられた時に感じた、奇妙なキナ臭さと同じもんを感じるぜ。

 

真っ赤な顔で1人慌ててる京介の頰を両手で捏ねて遊びつつ、俺の脳内には直感的にナニかが引っ掛かる。

一日中頭の中で鳴り続けている奇妙な警笛が妙に気に障り、結局どうにもモヤモヤした気分で1日を過ごす羽目になった。




Aクラスが不自然に真面目なワケ?
そりゃ一番後ろの席からティラノサウルスみたいな威圧感出してるメスゴリラが(授業が分からないから内心頭を抱えて)機嫌悪そうに黒板を一心不乱に睨みつけてるんですから、怖くて怖くてダレけたりできないよね?



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