桜が舞い、散ってゆく。多くの人が新しい人生を歩み始める。そんな日々は過ぎ、緑が生い茂る今日この頃。
「あ~、マジで可愛い」
携帯を眺めながら、棗が呟く。そこに映るのは、彼と同じ髪色の幼い男の子。
「また見てんのかよ」
その隣に座る悟が呆れたように言う。サングラスの隙間から青い目が覗いている。
「こいつのブラコンはいつものことだろ」
携帯をいじりながら、硝子が応じる。
「うるさいな~。自分に可愛い弟がいないからって、嫉妬しないでくれない?」
やだね~、と見当違いな解釈をする棗。
「別に嫉妬しているわけでは無いと思うけど」
「えっ!?嫉妬しないの!?」
「してほしいのかよ・・・」
こんなに可愛い弟に、と心底驚いた顔をする棗に、ついていけないという顔の悟。
毎日のようにバカやっていた日々。その計画していたのは棗だった。そんな彼もー
「ここで終わりだよ」
ボロボロの棗に向かって言う。
「わぁ~、夏油くんに五条くんじゃん。完全に詰んだね~」
壁に寄りかかって、あはは、と笑う棗。
「その割には元気そうだけど?」
「機嫌悪いね~。ストレス?五条くんも大人になったんだね」
昔のように悟を揶揄う棗。
「本当に先生になったんだね。厳しい指導で生徒死ぬんじゃない?」
「愛の鞭ってやつだよ」
「君らの生徒じゃなくて良かったって、今心底思ったよ」
「生徒の方が良かったんじゃないかい?そしたら」
《君を殺さずにすむ未来があったかもしれない》
私たちが君の担任だったなら・・・。
「う~ん。それでも、僕はお前らと同級生で良かったと思うけどけど?」
「「!!」」
屈託のない笑みを浮かべて、当然のように言う棗。
「・・・なら。・・・なら、何でそっちに行った?俺らと同級生で嬉しかったんだろ」
長年の疑問を悟が聞く。
「何で、か・・・。相変わらず質問ばっかだね、五条くんは」
変わらないな、と呆れたように、それでも慈しむように笑う棗。
「・・・私も理由を聞きたいな」
「おっ、何?2人ともそんなに僕のこと知りたいの?」
未だにはぐらかして、まともに取りあうことをしない棗。
「・・・やはり、大好きな弟、『狗巻棘』が原因かい?」
「!・・・何言って
「俺らには効かなかったよ。残念なことにな」
棘の名に反応した棗。
「はぁ・・・。本当にお前らって規格外だよね~」
「諦めろよ『狗巻』棗」
「懐かしいね。フルネームで呼ばれたの何年ぶりだろ」
棗は離反する際に、自分が狗巻家出身で、棘の兄であることを皆の記憶から消した。
「全員がその方がいいと望んでると思ったのにな・・・」
「ちなみに棘も覚えてるみたいだな。うっすらとだけど、いつも自分を褒めてくれる人がいたって言ってたぜ」
「!ああもう。可愛すぎるでしょ、僕の弟。今もでこ出しスタイルだし!?変な虫がつかないかな?誘拐されてない?お兄ちゃん心配。
なんかあったら2人とも呪うからね!?」
人が変わったように語りだす棗。
「相変わらずのブラコンのようだね」
「だから、僕は兄弟だから好きなんじゃなくて、棘だから好きなの!」
何年か前に聞いた主張。懐かしくて仕方がない。けど・・・
「そろそろお別れのようだ」
「そっか・・・。まぁ、お前ら2人に殺されるなら別にいいか」
これから死ぬのに、そこに浮かぶ笑みに恐怖の色はない。
「・・・ずっと謝りたかった。本当はあの時ー」
術になんてかかっていなかった。私は私の意思で彼らを・・・。
「負けず嫌いもいい加減にしなよ、夏油くん。いくら僕の術式にかかったことを認めたくないからって、嘘つくのは良くないよ」
「!ちが
「それに、例え傑の想像通りでも、僕は後悔してないと思うけど?」
「・・・そうだね」
例え真実が違ったとしても、やり直すには全てが手遅れだ。今から変えることができることなんて一つもない。
「・・・棘には黙っててよ」
「分かってるよ」
「なぁ、『悟』、『傑』」
懐かしい呼び方だ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーー」
私たちと笑っていた時の笑顔と、思いがけない言葉。手が震え、視界が霞んだのは、きっと・・・気のせいだ。