「うん、お疲れ」
セミが鳴く7月。よく晴れた空の下、体術の訓練が行われている。
「・・・あ・・・ありがとう・・・ございました・・・」
「大丈夫?水持ってくるね」
最強な2人とまでいかないが、この人の相手も疲れる。狗巻棗。あの五条さんと夏油さんの同級生だ。
「はいどうぞ」
「すみません・・・ありがとうございます・・・」
「七海は律儀だね~」
そんなにかしこまらなくていいのに、と笑いながら狗巻さんは言う。
「それにしても、成長したなあ。さっきのはヒヤッとしたよ」
「・・・それでも、五条さんたちからしたら雑魚なんでしょうね」
「あの2人は化け物だから。七海は十分強いよ」
「過剰評価は辞めてください」
「え~、僕ほめて伸ばすタイプなんだけど」
「それは灰原と弟さん相手にしてください」
そうするね、と笑いながらペットボトルのキャップを回す狗巻さん。
「・・・前から気になっていたんですが」
「なになに?」
「どうしてそんなに弟さんが好きなんですか?」
狗巻さんは普段ふざけている人だが、現実主義な人だ。家族だからって人を好きになることはない。その証拠に、
「狗巻さんは家族が嫌いなんですよね?」
狗巻さんの笑みが消え、セミの声が大きくなる。
「違うよ。生理的に無理なだけ」
遠くを見つめて狗巻さんが語る。
「僕はさ、家を第一に考えるような人たちの考えが理解できなかった。だから親との付き合いも悪かったし、使用人からも距離をおかれていた。
そんな中で棘が生まれた。一応兄としての役目は果たそうとは思っていた。けどそれだけ。今じゃ信じられないけど、当時の僕は棘のことを何とも思っていなかった」
信じられないでしょ、と呆れたように笑う狗巻さん。
「それが変わったのは、初めて会った時。面倒くさいと思ってた。それでね、実際に会うと、棘は笑ってくれたんだ。その視界に僕を移した瞬間、花が咲くような笑顔を見せてくれた。親戚の誰にも似てない笑い方だったよ」
当時を思い出しているのか、嬉しそうに笑っている。
「それで決めたんだ。その子の笑顔は僕が守ろうって。いつか親戚のような笑い方にならないようにしようって。僕自身初めてだったんだよね。あんな悪意のない笑顔を向けられたの」
うちの家の連中はさ~、と愚痴をこぼす狗巻さん。けど彼は知らない。彼が弟の話をする時、最強な人たちと話している時、彼が言う『親戚とは違う笑顔』で笑っていることを。
だからこそ、貴方はその道を歩んで後悔しなかったんでしょうね。