TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました   作:雅媛

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第一章 男爵領の平和な日々と突然訪れる困難
1 田舎で農業はスローライフではない


 みなさんこんにちは、はじめまして

 

 突然ですが、社畜おじさんから過労死して、異世界で美少女になりました。

 転生先は剣と魔法の世界と言われるような、技術は中世レベルな一方、魔法がある世界です。

 そんな世界に、美少女、しかも竜人と言われるレア種族で転生しました。

 

 銀髪碧眼とか言う厨二心くすぐる属性を完全に備えた美少女です。

 竜人ゆえに、頭から銀色の角は生えているし、蝙蝠の羽が背中から生えているし、お尻からはトカゲのしっぽが生えていますが…… それらがついていても前世目線で見ても普通に美少女ですし、周りからも外見は結構褒められますから今の世界の水準でも美少女で間違いないでしょう。

 身長は低く140cmに届かないぐらいの低身長ですが、まだローティーンにもかかわらず巨乳で安産型のエロボディですよ。こちらでは成人と言われる年齢とはいえ、前世と違って二次性徴始まれば成人扱いですから、さらにまだ成長の可能性があるといえます。もうヤバいですね。身長も伸びてほしいですが…… ここ最近全然身長が伸びていないので、そこは正直あまり期待できなさそうなのだけが残念です。

 

 人種のおかげか何なのかはわかりませんが、身体能力も圧倒的に高いのも良いところです。純人と言われる前世で言う普通の人に比べると、圧倒的なパワーです。今の年齢で大の大人より余裕で力がある、と言えばそのすごさはわかるでしょう。まあ、前世と違って鍛えるとすごい勢いで身体能力伸びますから、単純な鍛錬のおかげもありそうですが……

 もちろん欠点がないわけではないですが、それはおいおい話していきましょう。

 

 

 さて、そんな美少女に転生したら皆さんはどうするでしょうか? 

 イケメンを侍らす? 

 大冒険に向かう? 

 国で重要な地位を目指す? 

 それとも田舎でスローライフをする? 

 

 いろいろ考えはあると思います。

 

 ボクは物心ついたころから、田舎で暮らして今は毎日農業をして暮らしています。

 物心つく前はもっと大きな町にいたようですが、色々あってシングルマザーになった母が今住んでいるド田舎の村に引っ越してきて、義父と結婚し、今はそこに住んでいます。

 田舎で農業と言うとスローライフだ、と思われる方もいるかもしれませんが、正直に言いましょう。

 

 

 

 農業舐めんなよ

 

 

 

 農業は無茶苦茶大変なのです。前世はあれだけ機械化されていても大変そうでしたが、今世では技術は中世レベルですから機械なんかありません。全部人力です。魔法は全く役に立ちません。

 いや、普段の生活には非常に役に立つんですよ。火種を簡単に作れますし、水とかも結構簡単に生み出せますから生活には重要な役割を果たしています。ですが、農作業には役に立ちません。

 土魔法でボコボコしていくよりも手で耕した方がよっぽど早いのです。

 

 なんにしろ、広い畑を人力で丁寧に耕す必要があります。

 鍬を振り上げ、振り下ろす。これだけでも非常に大変な作業です。

 しかもちゃんと耕さない、耕すことから手を抜くと収穫量は駄々下がりします。

 

 当然ですが、その回数も半端ないです。

 一人が1年間食べるために必要なだけの農地の広さ知ってますか? 

 1万平方メートル、100m×100mの農地が必要なんですよ。ウチの世帯は母と義理の父、義理の兄の4人家族ですから、それがかける4です。

 それを人力で耕すんですから途方に暮れるレベルです。

 ここで上げた面積は、最低限必要な畑の広さであり、実際うちが持ってる畑はこの倍以上の広さがあります。

 

 種植えの季節が近づくと、朝から晩まで耕して、それが終われば朝から晩まで種植えして、それが終われば朝から晩まで雑草を取って……

 死ぬほど苦労して毎年食料を生産するわけですよ。

 

 しかも農家の仕事はこれだけではありません。

 害獣が出れば狩りに行きますし、毎日の燃料のために柴刈りなんかもしますし、やることが、やることが多いのです……

 

 だれだスローライフとか言ったやつ。

 出てこい。この農業地獄を味わわせてやる。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「うおおおおおお」

 

 

 他人に文句を言ってもしょうがないので今日もいつものように必死に畑を耕します。

 今はまだ肌寒い冬の終わりです。ですがこのころから耕さないと、種まきに間に合いません。

 幸い、誕生日プレゼントに行商人から買ってもらった鉄の鍬は非常に使いやすく、今までの木製のモノに比べると効率が倍以上なのは助かります。義父は、誕生日プレゼントなんだし、と人形やら綺麗な服やらを勧めてきましたが…… 前世の知識に引きずられているのか、そう言ったものに全く興味がないんですよね……

 何にしろ、新しい鉄製鍬のおかげで、数日でうちの畑は全部耕すことができるでしょう。

 ちなみに魔法はありますが、農作業には基本役に立ちません。

 日常生活には火種を作ったり、水を生成したりと役に立つ部分も多いのですが、この広い畑を耕すのは魔法では明らかに出力不足です。土魔法でボコっとすると一応耕せるのですが、ボクの魔法では鍬を振り下ろす1回分ぐらいの面積しかできませんし…… それなら鍬を振ったほうが圧倒的に早いです。

 もっと魔法の勉強とかしたいですが、こんなド田舎ではどうしても限界がありました。本で独学ですからね。

 そんな、今ボクがつかえるレベルのショボ魔法でも、日常生活では役に立っています。村の人にも教えたら喜ばれました。

 

 

「アーシェ、頑張るのもいいけど、嫁入り前の娘がそんな肌を出しちゃいけないよ」

「大丈夫ですよお義兄さま」

 

 

 そんなこんなで、乙女力が0どころかマイナスになるような声を上げながら全力で畑を耕していると、ボクの声を聞きつけたのでしょう、義兄が家の方から出てきて、声をかけてきます。

 

 義兄は比較的平凡な顔と、農業と武術で鍛えられた筋肉を持っています。身長もボクより頭一つ以上大きいです。とはいえ真面目な性格から村ではまあまあモテている方ぐらいですね。

 外見はそれくらいの平凡な感じですが、妹であるボクに対しては心配性で駄々甘なシスコンです。

 町とかに買い出しに行くと、お土産は自分用のモノなんてまったくなく、ボク向けのお菓子やら本やら、ボクの欲しいものしか買ってきません。正直我儘を言えばどんなことでも聞いてくれそうなぐらい甘いです。

 

 そんな義兄がボクを見ると自分の着ていた上着をボクに渡そうとしてきます。

 言いたいことはよくわかります。なんせ現状ほとんど下着だけの姿ですからね。一応胸を隠すための布を胸に巻いて、紐パンと言われるような下履きを着ていますが…… あとは靴だけだから正直痴女みたいな格好だという自覚はあります。

 だけど、普通の服を着ると暑くてしょうがないのです。

 

 竜人という種族のデメリットというか、圧倒的な身体能力の副作用なのかわかりませんが、運動するととにかく体が火照ります。暑くてしょうがないのです。

 そんな特性のせいで、雪が積もるような時期でも薄い服一枚で全く問題ないという利点もあるのですが、基本的には普通に服を着ると暑くてしょうがないという欠点の方が目につきます。今日みたいなまだ肌寒い季節でも動けばすぐにあったかくなり、人力暖房になれるぐらいです。

 だから動く時は大事なところだけ隠す、ほとんど痴女みたいな格好にならざるを得ないのです。

 

 とはいえ年齢が二桁を超え、色々出るところは出ている美少女がそんな格好をしていれば心配性で優しい義兄としては心配でならないのもわかります。

 前までは、まだ子供だったからそこまでうるさく言われ…… いや、義兄には結構最初からうるさく言われていたな……

 

 

「ほら、私の上着貸すから羽織りなさい」

「はーい」

 

 

 しぶしぶ義兄から渡された上着を羽織ります。

 サイズ差がすごいため上着を借りると結構ぶかぶかです。前を閉じれば、太腿丈ぐらいになりますし、まあちゃんと隠れているといえるでしょう。

 

 

「すんすん…… お兄さまの匂いがする」

「すまない、着ていた奴だから」

「いやじゃないですよ、いい匂いです」

 

 

 袖を顔に当ててなんとなく匂いを嗅ぎます。

 毎日清潔にしているとはいえ義兄の上着は汗の匂いがしました。おそらくさっきまで剣の素振りでもしてたのでしょう。

 とはいえ嫌な匂いではありません。嗅ぎなれた、安心できる匂いです。

 暑いなぁ、と思いながらも、義兄の心配を受け入れ、ボクは上着をはためかしながら再度鍬を振いはじめます。

 

 

「無理に頑張らなくてもいいんだよ」

「やりたいからやってるんです」

 

 

 正直仕事以外やることは少ないですし、家一番の大飯ぐらいのボクとしては、自分の食い扶持分ぐらいは頑張りたいのです。

 身体能力が高いせいか、おなかが非常に空いて義兄や義父よりもよく食べてしまうのです。燃費の悪さも竜人の欠点ですね。

 二人ともいっぱい食べるボクをかわいいとは言ってくれますが、さすがに食べるだけでは悪すぎるので頑張って働かないといけないでしょう。

 ボクが作業を辞めないのを察した義兄は、自分の鍬を持って畑を耕し始めました。

 

 

「鍛錬はいいのですか?」

「鍬を振るうのも鍛錬になるし、終わったら二人で打ち合いした方が効率的そうだから大丈夫だよ」

「わかりました、終わったら打ち合いにお付き合いします」

 

 

 適当に雑談をしながら、ボクは義兄と一緒に鍬を振るうのでした。




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