TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました   作:雅媛

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10 決闘

 目の前に現れた騎馬兵、おそらく名乗った通りの辺境伯本人に気を引き締めます。

 この世界の貴族というのは基本強い人が多いのです。

 これは単純に、武力のための鍛錬を積み重ねている、というところが大きいと思われます。

 前世でももちろん鍛えた人というのは強かったですが、こちらの世界だと鍛えた時の身体能力の上限が前世と比べ物にならないのです。さっきみたいに木製の盾ぐらいならただの鉄の直剣で普通に真っ二つにしますからね。

 そして、爵位が上の貴族の方が個人的な武力は強い場合が多いです。

 もちろん例外もありますが、こうやって単騎で飛び出てきたということは自身の武力に自信があるのでしょう。

 

 

 こんな一方的な一騎打ちの所望に応じてやる必要は一切ないでしょう。

 ですが、囲んで叩くのも少し難しそうな状況です。

 今この場にいる人の中で万全の状態なら一番強いのは義父でしょう。ですが、先ほどの戦いで少し怪我をしているようです。動きが鈍っていませんが、左手から血が滴っていますし、一度下がってもらったほうがいいでしょう。

 他の男爵さんたちも今のところ命に別条がありそうには思えませんが、多かれ少なかれ怪我をしていそうです。

 となると、皆下げた方がいいでしょうし、残ったメンバーで袋叩きにしようにも連携の練習もしていませんからマイナスになりそうです。

 

 

「お義父さま。下がってお母さまの治療を受けて来てください」

「だが、辺境伯をだれが止めるのだ!?」

「そりゃボクですよ」

「アーシェ!?」

「偽皇女殿が相手か。手間が省けるな」

「偽物でもないしそもそも手を出してきたのは貴方の方なんですけどね」

 

 

 放置してくれればこんなことにならなかったのに。

 恨みを覚えながらも鉄塊のような剣、斬馬刀を上段に振り上げ構えます。

 義父のことはもう無視します。義父達にはさっさと退散して回復してもらわないといけないのですから。

 そしてボクが負けたら義父達に倒してもらわないといけないのですから。

 

 

 馬に乗った辺境伯を前に剣を構えます。

 騎馬兵というのは優秀な兵科です。利点はいくつもあります。

 まず、馬の分背が高くなります。ボクが140cmにもいかない低身長なのもありますが、辺境伯の背の高さは馬に乗っているのを合わせれば2mを優に超えています。下手するとボクの倍ぐらいの高さになりそうです。

 高いというのはそれだけ重力を利用した振り下ろし攻撃の威力が上がりますし、視点も高くなるので観察する面でも有利です。

 また足の速さも圧倒的です。逃げるにも、唐突に攻めるにも速さというのは有利に働きます。

 他にも重い、というのもあります。馬は人間の何倍も体重がありますから、騎馬兵ごと突撃されるだけで大抵の人間は死にます。

 他にも馬自身が判断してくれるとかいろいろ利点はありますが、結論を言えば騎馬兵と徒歩兵が戦うというのは徒歩兵が圧倒的に不利だということです。

 鹵獲した馬を持ってくればよかった、と一瞬思いましたが、辺境伯の立派な馬に比べると鹵獲した馬は質として明らかに劣りますし、ボク自身騎乗戦闘になれているわけではないので、むしろ不利は広がるかもしれないと思い直します。

 

 

 

 さて、決闘と言っても作法も何もわからないし、攻めてもいいのかな、と思った瞬間、辺境伯が声を上げました。

 

 

「我こそは辺境の守護者、マーチ辺境伯ウィリアムズである!!!」

 

 

 どうやら名乗りを上げた方がいいらしい。

 ならば一応ボクの方からも返事をしよう。

 

 

「ライン男爵令嬢、アーシェロットです」

 

 

 皇女と言われても正直現状でもピンとこない。だが、義父の娘という自覚はあるので名乗りは義父の名を使わせてもらった。

 

 

「いざ尋常に勝負!!!」

 

 

 そう言いながら辺境伯は馬に拍車をかけ、突撃を始めます。

 全体重の乗ったチャージなど受けたら僕は簡単に吹き飛ぶでしょう。

 ですがこちらも機先を制するために準備していたことがあります。

 

 

「ファイアアロー!!」

「魔法だとっ!?」

 

 

 魔法を使った後、辺境伯が突っ込んでくるのが見えたので、実は今までずっとマナを収集し魔力を練っていました。集まり切っているわけではないですが、今集まったマナをもって魔法を行使します。

 ファイアアロー、火の矢を打ち出す魔法です。

 細長く形作られた炎が、12個空中に生み出され、辺境伯に向かって飛んでいきます。

 見た目は派手な魔法ですが、効果はというと、実はあまり強くなかったりします。

 純粋な高温の炎だけを打ち出しているので、表面が一瞬炙って終わりなんですよね、これ。

 油とかぶっかけていれば着火して一大事になりますが、何も下準備がないと目くらまし程度の意味しかありません。

 ただもちろんこれには利点もあります。

 一つは少ないマナで大量に行使できることです。

 先ほど使った風の魔法ですらこの何倍もマナを使いますし、直接的な殺傷能力を付与したいならストーンアローやアイスアローといった魔法を使う必要がありますが、1本生成するだけでさらに風の魔法の何倍もマナが必要になります。

 風の魔法の時ほどのチャージ時間がなくても、ファイアアローなら12も放出できますからね。

 もう一つの利点は、知らない相手なら当たってはいけないと焦ることです。

 ファイアアローに殺傷力がないのは魔法を使う者なら知っています。だから弾けばいいと思うでしょう。ですがそれを知らない者が見たらどう思うでしょう。

 例えば…… 人語を解せない馬などは。

 

 

「くっ、沈まれ!!!」

「でりゃあああああ!!!!」

 

 

 辺境伯は一瞬驚いたものの、ファイアアローに威力がないのは知っていたのでしょう。すぐに冷静になり火の矢を腕ではじきました。ですが、馬の方は大いに驚き棹立ちになってしまいました。

 その隙に、馬の腹に斬馬刀を叩きこみます。

 当然馬は耐えられるわけもなく、そのまま横に倒れました。

 

 

「ぐおっ!!!」

「チッ、外した」

 

 

 投げ出された辺境伯は、受け身を取って落馬の衝撃を和らげようとしていましたが、その瞬間、後ろから援護射撃が飛んできます。皆、見入ってしまっていたようですが、一人だけ、目の前のお貴族様に矢をぶち込んでやろうと考えていた人がいたようです。

 熊の皮すら貫く矢は、気配を察知して身をよじった辺境伯の胴体には当たりませんでしたが、左二の腕にクリーンヒットしました。

 金属製の重装甲を身にまとっていましたが、それすら貫いて矢が左腕に刺さっています。

 

 

「一騎打ちに割り込むなど卑怯な!!」

「いきなり襲ってくるアンタの方が卑怯だよ」

 

 

 この辺境伯、やりたい放題過ぎるんですよ。

 一騎討、決闘というのは、紛争が起きた時に、戦争を避けるために直前にお互いの合意で行うものなはずです。戦争の決戦時に不利になったからいきなり一騎討だ、なんて言われても何を言っているんだという話です。

 今ボクだけが対応しているのは単純に戦力不足であり、男爵さんたちが元気だったら4人がかりで襲い掛かってきていたでしょう。

 

 

「逃がさない!!」

「ちっ!!」

 

 

 上段から振り下ろしたボクの剣を、慌てて立ち上がりながら右腕に持った剣で受ける辺境伯。

 一合合わせただけで、純粋な武力なら正直ボクより強いだろうなと思います。ボクの両手の一撃を片手で受け止めているわけですから。

 ですが、落馬の衝撃によるダメージに左腕が使えないというハンデがあれば、戦える相手です。

 

 

「でりゃでりゃでりゃでりゃ!!!!」

「くっ、調子に乗るな小娘っ!!!」

 

 

 一気呵成に攻めますが、なかなか守りを崩せません。片手とはいえ、やはり相手の方が上手なのでしょう。

 そうしているうちに相手もじれてきたようで、力任せにボクのことを押しててきました。

 腕力ならば、さすがに片手の相手に負けることはありませんが、体重をかけて教えてきたため、体重差で押し負け、相手との間合いを開けさせられます。その隙を利用して、辺境伯は大上段からの一撃を振り下ろしました。

 

 単調ですが威力が乗った一撃を、ボクは剣をかかげて受けるふりをしながら、受け流しました。

 受け流しは得意ではないですがここまで単調な一撃ならばいくら速くて力強くても流すのは難しくありません。

 右に一撃を流し、さらに剣を手放して完全に衝撃を地面と剣に流しながら、ボクは辺境伯の手首をとりつつ、後ろに回り込みます。

 

 

「どっせい!!!」

「ぬわああああ!!!!」

 

 

 そして移動と体の回転の勢いを利用し、ボクは辺境伯を逆一本背負い投げしました。

 

 

 

 この世界、剣術と魔法は発達していますが、無手の格闘技はあまり発達していません。

 ですので前世知識を利用し、奥の手としていた一つがこの投げ技でした。

 幸い力については有り余っていますし、多少技術が足りていなくても投げ飛ばすのは難しくありません。この世界の人たち、投げられるという経験がないせいで、対応もお粗末ですし。

 

 空いていた右腕の肘関節を逆に極めながら、ボクは辺境伯を投げ飛ばします。

 柔道とは違う殺し合いですから、引き手は意識せずに脳天から地面に落とします。

 

 

「へぎゅっ!?」

 

 

 辺境伯は間抜けな断末魔を上げながら、逆さまに地面に突き刺さりました。

 これで死んでいればいいですが、この世界の人間は結構丈夫なので自信はありません。

 後腰に差していたショートソードを抜いて、胸を貫けば確実です。

 

 辺境伯が打ち取られ、辺境伯軍は明らかに動揺を始めます。

 そのまま逃げだす者もあらわれました。

 

 

「追撃するぞ!!」

 

 

 治療を終えたらしい義父達が、馬に乗って門から出てきました。

 このまま易々と逃がしてやる選択肢はありません。

 生け捕り出来れば身代金の交渉もできるでしょうし、死んでいても装備や服は役に立ちます。

 それにうちの村はまだましですが、避難してきた村の人たちの恨みは深いでしょう。

 

 拠点から離れた奥地に来ていたのも災いし、追撃やその後に各村が行った落ち武者狩りに襲われ、辺境伯軍は身代金代わりに帰ってきた者を除けば誰も戻ってこなかったようです。




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