TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました   作:雅媛

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5 最終交渉

 ざっくりとした話は進んでいるが、一つ気になったことが生じました。

 それを確認するべく、ボクは現辺境伯(仮)であるエミリーさんのところへと向かいます。

 

 同行者は彼女が人見知りのことも考えて、同年代の者がいいだろうと思い、義兄とリルブ男爵子息のクレイと、ルドン男爵令嬢のフィオナさんを連れて行きます。

 ただ、このグループになるとなんとなくギスギスしてるんですよね。クレイはなんかずっと義兄を睨んでいますし、フィオナさんは愉悦の表情を常にしてるし。

 かといって年上の人を連れていくとエミリーさんの緊張が高まりそうなので、しぶしぶこのメンバーで行くことにします。

 

 廊下を歩いていると、メイドさんがパタパタと走っています。

 こちらを見つけると慌てて端に寄り頭を下げるので、気にしなくていいよと声をかけて進みます。なかなかできたメイドさんです。

 来た時は誰もいなかった館の中ですが、アランさんが呼び戻しているらしく少しずつ働いている人が増えてきているように思います。

 

 

 さて、そんなこんなでエミリーさんの部屋にたどり着きます。

 ボク達が来てからほとんど部屋から出ていないとのことですが、ノックをすれば素直に入ることが出来ました。

 部屋にはアルゥちゃんとアランさんも待機していました。少しお話をしたいと伝えていましたから、待っていたのでしょう。

 

 勧められるままに席に座ると、侍女さんが紅茶を出してくれました。

 人生初紅茶です。茶葉なんてうちの周辺の村では育てていませんから、最高級品ですよ。

 しかも白い角砂糖付きです。村での甘味なんてもっぱら果物か蜂蜜ですから、そんなの舐めたこともありません。

 ボク以外の人たちもそうですから、完全に場の空気を持っていかれました。

 

 

「クレイ、角砂糖二つ以上入れちゃだめだからね」

「そ、そんなことしねーよ!!」

 

 

 やらかしそうな幼馴染に釘を刺します。

 やりたくなる気持ちはわかりますが、普通にがっつきすぎですし。

 

 一度仕切り直したくなるような状況ですが、ここで逃げるわけにもいきません。

 正直紅茶や砂糖なんて辺境伯としてもかなり高級品でしょう。そういったもので場を遊離しておきたい程度には向こうも重要な話をしようとしていると思われます。

 

 ボクとクレイのやり取りをみてクスクス笑っていたエミリーさんに、早速こちらの話題から切り出しましょう。

 

 

「で、エミリーさん」

「エミリーで構いませんわ」

「わかりました、エミリー。それで、辺境伯をボクに譲るという話だったけど、そうした場合にはエミリーはどうする予定なのか聞きたくて」

「私もそれについてお話ししようと思っていましたの。アーシェロットさん、私をお嫁にもらってください」

「……ふえ?」

 

 

 とんでもない爆弾が投下されました。

 

 この世界、結婚は同性でも可能ですし、下手すると人以外とでも可能です。

 結婚をつかさどる愛の女神が、愛こそ至上としており、愛さえあればすべてを認めるという教義を残しているためです。

 ですが、同性婚はそうそう起きません。子供出来ないですから。特に家を継いでいく必要がある貴族には同性婚は致命的です。平民でも家業を持つ家では基本受け入れられないものです。

 

 譲渡した先の新辺境伯と、前の辺境伯の血筋が交わるのは確かに政治的にも意味がありますから、結婚ということ自体は理解できなくはないですが、それも同性婚では果たせないでしょう。

 つまり意味が分からないわけです。

 

 

「ちょッと整理させてください」

 

 

 エミリーの突然の提案に戸惑いながら状況が良くわかっていそうなアルゥちゃんと一緒に部屋を出て廊下へと行きます。

 アルゥちゃんはエミリーの姉貴分的存在ですし、状況を把握していそうです。

 

 

「アルゥちゃん、エミリーのあれ、一体何なんですか?」

「すいませんアーシェちゃん、あれはエミリーがいろいろ拗らせただけです」

「拗らせた?」

「エミリーはもともとおとぎ話が大好きでして、特に姫騎士様の話が大好きなんです」

「姫騎士……?」

 

 

 姫騎士、母も前に言っていた謎概念である。

 どうやらおとぎ話の存在らしい。

 

 

「もしかして、姫騎士アマーリエのお話、知りませんか?」

「ごめんなさい全く知らないです」

「端的に言うと、物語に出てくる帝国皇女でとっても強くて悪者を退治する人ですね。銀髪の竜人だったといわれていて、絵本なんかではその姿で描かれる場合が多いです」

「なるほど、もしかしてボクがそのイメージに合ってる感じ?」

「その服装も相まってあえて意識しているのかと思いました」

 

 

 どうやらエミリーのあこがれの存在に近い格好をしているらしい。

 めんどくさい一目惚れである。

 

 

「それだけではなくてですね、前辺境伯様やお世継様は、エミリーを邪険にし続けていました。実はエミリーは前辺境伯のお兄様の子供でして、家系的にはエミリーの方が正当なんです。そういうのもあってかなりいじめられていまして、正直エミリーも前辺境伯様たちを恨んでいたと思います」

「あー、彼女にとって、ボクは正義の味方の位置づけなんですね」

 

 

 つまり悪い養父や義兄たちをぶったおして、助けに来た姫騎士様がボクだと。

 でもそこからプロポーズはかなりかっ飛んでると思います。

 

 

「まあ、正当性も得られますし、少しの間だけでもお付き合いいただければ助かります」

「なるほど、わかりました。ひとまず全部おじゃんになったらごめんなさい」

「え、どういうことですか」

「だってまったく拒否するつもりだし」

 

 

 ボクの答えはすでに決まっていました。

 

 

 

 

 

 

「少し考えましたがエミリーと結婚はできません」

 

 

 はっきり告げると、エミリーは驚き悲しそうな顔をしました。

 正直黒髪褐色美少女は性癖にはドストライクで、無茶苦茶かわいいと思います。

 性欲だけで言えばぺろぺろしたいぐらいなのは間違いありません。

 

 ただ結婚になると外見とか正直あまり重要ではないと思っています。

 生活を共にして、協力して生きて、場合によっては子育てとか言う死ぬほどめんどくさい作業をしないといけないわけです。

 外見の好みなんて正直そういったことには何も役には立たないでしょう。

 

 

「そもそもボクはお義兄様と結婚する予定です」

「でもさらに私も娶っていただければ」

「お義兄さまは結構嫉妬深いので他の人とさらに結婚するつもりもないです。それに二人以上を平等に愛することができるほど器用でもないので」

 

 

 貴族となると重婚は可能です。

 前世で言うハーレムとかも可能だったりします。同性婚も可能ですから女性だけのハーレムとかもやることも可能です。

 

 ですけどね、ハーレムって絶対大変ですよ。主に好感度管理が。

 あんなのお相手全員がハーレム主に脳死レベルでべた惚れか、逆らえない関係か、ハーレム主が超コミュ力強いかのどれかですよ。

 実際前世の歴史を見れば、オスマン帝国のハーレムなんてみんな奴隷だったわけですし。

 ボクにそんなコミュ力はないですし、義兄がボクにそこまで惚れているかというとそんなこと絶対ないでしょう。結構嫉妬深いですから。

 ボクはノーと言える竜人なので、断固断ることにしました。

 

 

「で、でもそれなら辺境伯を差し上げるのも難しいというか……」

「それならいらないですよ、辺境伯」

「え?」

「男爵領一つもらえればうちとしては十分なので」

 

 

 そもそも別に成り上がったりしたいわけではないのです。

 現状欲しいものというと、生まれるだろう弟か妹のための男爵位ぐらいです。

 今のままでも村の補佐とかのお仕事はあるでしょうが、どうせならばそれくらいの地位は用意してあげたいじゃないですか。

 そうすると飛び地の男爵領一つあれば十分です。ライン村にボクたちが戻るかどうかは弟か妹が大きくなってから考えればいいので。

 

 正直辺境伯自体は重荷の面が大きいので、やーめたと言われれば全く問題なかったりします。その後の辺境伯の運営をどうするかはボク達の感知することではないので。

 辺境伯をダシにしたのは売り言葉に買い言葉的な話なのだろうとは思いますが。

 交渉の札は全くないことをエミリーも気づいたのでしょう。言葉に詰まっていました。

 そして……

 

 

「えう、えううううう」

 

 

 泣き出してしまいます。さすがに年下の子を泣かせるとちょっと焦ります。

 男性陣は同じように困った表情を浮かべていますし、フィオナさんはとても楽しそうです。この人鬼畜ドSなのでしょうがないですね。

 アルゥちゃんは肩をすくめ、代替案を提示しました。

 

 

「まあエミリーを嫁に、とは言わないけど、アーシェちゃんが辺境伯になったら子爵にしてあげると助かるわ。行き場もないし、経験はないけど頭がいい子だからそこそこ使えるから」

「まあそれくらいなら……」

「えうぅぅぅぅぅぅ」

 

 

 謎の鳴き声を上げているエミリー。

 可愛いけどフィオナさんが愉悦の表情を浮かべているのはどうにかしてほしいです。

 色々トラブルはありましたが、どうにか交渉はまとまりそうな感じになりました。




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いつも誤字報告ありがとうございます。助かっています。
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