TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました 作:雅媛
辺境伯就任のお披露目も兼ねた就任式。
その開催までがまず大変です。
ひとまず各地に散らばっていた辺境伯軍の捕虜を全員かき集めましたが、その時点から大変ででした。その数700以上です。予想よりもかなり生き残っていたようです。
亡くなった数が多ければ多いほど領地には打撃なので、残っていてくれて助かった部分は大きいですが、返還の手続きの手間は増えるわけです。ひとまずどこの村で何人捕まえたか、を計上して記録し、次にその人たちがどこの出身かを記録します。
辺境伯軍は混成軍でしたから、捕虜の出身地もバラバラです。それぞれの村同士が直接交渉していたら煩雑でみんなパンクしてしまいます。なので、辺境伯で捕虜を全員引き取った上で出身地に返し、身代金は辺境伯が回収して捕まえた側に支払うことになりました。
人数も多いですしかなりの量にはなりますが、そこまで支払いには懸念はありません。代金用に、うちの義父から古い穀物を借りていますし、町の方からも就任に合わせてお祝いがかなり集まっています。そういったものをやりくりすればひとまず支払える予定です。
また、いくつかの乗っ取った男爵領の身代金は貴族位自体を買い取った対価としてチャラにしてもらったりしています。一番大きいのがうちの義父のところで捕らえた分150人弱です。これを辺境伯位の対価の一部としているのでこれも支払う必要がないという形で処理しています。そう言った支払わなくていいものを含め、実質的な支払いは半分強、400人分ぐらいになります。
後は徴収側も色々考えています。具体的には物納ではなく労力で支払う形も考えている感じですね。負けた男爵領の方ではそう余裕もないところも多そうですので、労役という形で支払ってもらう方法です。ひとまずライン村まで続く街道は2本整備する予定だったりします。最短距離の道と、少し遠回りの道です。この2本を通せば、大体の村が辺境伯の首都マーチまでのアクセスが格段に良くなるでしょう。
いままでは敵対的な関係でしたから、道なんて通したら即進撃路になってしまうのでそうそう作れませんでしたが、今後はお仲間ですから作るのに懸念はないわけです。さらに、ライン村の奥は魔の森と大洋しかなく、奥から敵が攻めてくる、ということもありません。魔の森からは魔獣が出てくることはありますが、あいつらは餌を求めてるだけですから街道なんて使いませんからね。
実質的に辺境伯領の安全地帯になったので、整備をしない手はありません。どんどん開発してどんどん発展させていきたいわけで、その初期投資の部分を身代金代わりの労働力でやろうという話です。
まあ、そう言った皮算用も結局地道な事務作業を終わらせないといけないのがつらいところですね。全く人手が足りていないので、結局ボクまで記録を取る作業に加わっています。捕虜から帰ってきた人に官僚系の人もいるようですが、さすがに捕虜に捕虜集計の記録の仕事やらせるわけにもいかないので……
地道な事務作業が苦手なボクはひーひー言いながら手伝い、どうにかこうにか全員分の記録を取りました。
記録を取れば、基本的に地元まで帰っていいことになっています。町に住んでいる人たちは当然家に帰りましたし、家族が待っている人たちは慌てて地元に戻っていきました。ですが、大半の人は就任式まで待って帰る予定のようです。来賓でどの村の人達も来る予定ですし、残っていれば御馳走食べられますからね。
城には兵士が駐留するための部屋も、貴族用の客間もそれなりの数があります。なので長期間滞在することも可能です。
この時期滞在するとなれば就任式の手伝いに駆り出されることになりますが、それでもかまわないならまあ、問題ないでしょう。
捕虜関連の問題も解決の目処が立ちましたし、就任式の準備が進みます。
お祝いですから大量の食糧が振舞われますが、これは町の商人から安く買いました。先の戦いでの祝勝記念用に仕入れていたものらしいですが、大敗北により売る先がなくなった食料や高級品です。それをニキータさんが目ざとく見つけて原価ギリギリで買いたたいてきたものです。おいておけば腐るだけのものも多かったですから損切としてしょうがないと商人たちも考えたのでしょう。
ひとまず安酒と配るパンには困らないぐらいの量が仕入れられました。
貴族たちも続々と首都に集まってきます。
招待状が届いているかどうかわからないぐらいの早さで来た貴族もちらほらいました。
そういう貴族は、大体3パターンに分かれます。
1つは捕虜に早く会いたいパターンです。多くの捕虜が取られているところ、後継ぎや多くの親族が捕虜に取られているところ、単に捕虜が心配で早く来てしまったところなど、詳しい理由は様々でした。さっさと捕虜に会わせて、帰ってもいいし、就任式までいてもいいしと伝えています。捕虜の皆さんが元気なのを確認するとそれで安心するのか、皆就任式まで滞在すると伝えてきました。
1つはボクに早く知り合いたいパターンです。
まあいきなり出てきて辺境伯の城を占拠した出自不明の女ですからね。そういう人たちは大体血気盛んなので、「辺境伯様の実力を是非見せていただきたい」とか言い始めて試合になります。なので叩きのめすところからスタートです。貴族の上に立つ貴族は強くなければならないという発想が前提としてあるようです。野性的すぎてヤバいですね。
幸い苦戦するほどの腕を持つ相手はいませんでした。辺境伯の身体強化が強いですからね。一撃で木剣をへし折ってやれば皆負けを認めてくれました。
ただ、ボクより弱いといっても、男爵ごとに技術が違って面白いのは間違いありませんでした。それぞれの剣術の技術を集めて、剣術道場とか開けたら面白いのにな、と思っていたりします。今度新しい政策として提案してみましょうか。
貴族たちの交流としては剣術の試合以外にも宴会をして親睦を深めています。
貴族の人たちが集まり始めてから、3日に1回以上のペースでやってますから、なかなかの頻度です。
ちなみにボクは初回で飲んでトラブルを起こしたせいで2回目以降はお酒禁止になりました。お酒、嫌いじゃないのですが、あまり強くないので、少し調子に乗って飲むと直ぐ記憶が飛ぶんです。今回も記憶が飛んだあとは当然覚えていないのですが、参加者に力比べを挑んで、3分の1ぐらいそのまま伸してしまったようです。そんな大暴れの結果、お酒禁止令となった次第です。
ちなみに宴会の話題は下世話なコイバナもありますが、陳情的な話も少なくありません。特に、適当にだれでも参加可能としたせいで、貴族だけでなく一般の人や商人の人たちも集まり始めてからその傾向が顕著でした。その場で決めるのはしませんが、耳寄りな情報も集まってきています。
まず、逃げたキリル子爵ユーノの話が圧倒的に多いです。軍を用意して怪しい動きをしているとか、そう言う系の話ですね。この前の戦の時、キリル子爵とその取り巻きの男爵たちは、一切兵を出していません。彼らは辺境伯北方、隣接する貴族たちがちょっかいを出してこないようにという備えのために残されていた名目があります。ただ、この前の戦に関しては、ボクが偽皇女で討伐するべきという話を持ってきたのもキリル子爵だったらしいですし、自分で煽って自分はその軍役から逃げたわけですから、参加している貴族たちからの彼らの評価は最悪です。その上責任も取らず逃げたわけですからね。
ひとまずは隣接する男爵たちには優先的に捕虜を返して、さらに馬を何頭か渡して警戒してもらっています。馬がいれば偵察にも何かがあったときの伝令にも使えますからね。キリル子爵はそのうち討伐予定ですが、戦争が終わったばかりの今は手を出したくないところです。
あとは今回新しく辺境伯傘下に加わった村々の商売に関する話が主に商人の方から多いです。街道を通す予定があるという話をすると、ある商人さんがライン村のあたりに港を作ってはどうかという話を持ち掛けてきました。ライン村は海にも近いため、作れるなら作ってもいいかなと思います。提案してきた商人さんを記憶し、後日呼び出して見積もりと計画書を作らせましょう。
最後のパターンは、一番厄介な奴です。揉め事ですね。褒賞に渡す予定だったある男爵の後継ぎ問題です。
亡くなった男爵に娘がいたからそちらを後継者としてくれと突然ねじ込んできた話です。正直困ったことになりました。
この娘というのはあまり信用できません。そもそもそういう後継ぎがいたなら最初から後継ぎがいると連絡をするべきだったのです。にもかかわらず、遠縁の男性しかいないから嫁入りの形での男爵を送ってくれと送ってきたのは相手の方でした。今更娘がいたからやっぱりなし、というのは到底受け入れられる話ではありません。
ただ、かといってこのまま正論で推し進めてもいいことはないのも確かです。無理やり引き継ぐのを強行しても現地の反発がすごいでしょうし……
「そんな感じなのですがどうしましょうか」
「そうねぇ……」
そんな面倒な男爵の地位を引き継ぐ予定だったルドン男爵令嬢フィオナさんとひとまず打ち合わせです。
この人、両刀なんですよね多分。男性と結婚するのにもためらいはなかったみたいですし。戦の間は女性ばっかり食べてましたが。
「その娘という方には会えるかしら?」
「今も来てるので会えますよ」
「では二人きりで『お話』したいから部屋を一つ貸していただけれると助かるわ」
「相手がどういう人間だかわかりませんので気を付けてください」
「どうせお互い裸になるんですから、暗器も仕込めませんわ。ちゃんと隅々まで確認しますし」
どうやらベッドの上の肉体言語で解決するつもりらしい。まあそのあたりは本人が解決するなら手段についてあまり文句を言うつもりはないのですがが、そんなことを話しながらボクのことを視姦するのは止めてほしいのですが。立ち会ってるお義兄さまがすごい顔してるし、そのイラつきは最終的に夜のボクにぶつけられるんだぞ。
多分そこまで察してそういうことをしてきているんだろう。そういう所が食えない人なんですよね。
まあ本人がどうにかするといっているのだから報告はちゃんとするように言って丸投げしました。
後日のことになりますがフィオナさんは、無事、関係者を全員説得し、全員配偶者にして解決したとのことです。力技が過ぎる解決方法でした。
こんな感じで、大きなトラブルも起き、酒の減りがすごいことになりつつも、着々と就任式の準備は進むのであった。