TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました   作:雅媛

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2 夜襲

 集まったのは抜剣隊20人とアルゥちゃん、義兄と義父になりました。あとはボクの副官としてエミリーも一緒に聞いています。彼女は管理してもらうだけで作戦自体には参加しませんが。

 今回の作戦上身体強化ができないと特に防衛線を飛び越えるのが難しいので、メンバーが限られるのはしょうがないでしょう。

 身体強化技術、一応まだ秘伝の類なので、教えた人の数は多くないのです。

 

 

「今回の作戦は二段階に分けます。まず最初は夜襲です。ですが皆で行くと同士討ちの可能性がありますから、順々に一人ずつ行ってもらいます」

「わざわざ分けるのかい?」

 

 

 義兄が不思議そうに首をかしげます。

 数を集めてたたきつける、というのが基本ですから疑問なのはわかります。

 

 

「そうです。皆さん剣の腕はかなりですから、それでも可能だと思います。3人倒すか、1合でも受けられたら撤退してください」

「不完全燃焼になりそうだな」

「こんな前哨戦で怪我でもする方がつまらないですよ。本隊が来るのは早くて2日後なんですから」

 

 

 辺境伯のところに残って鍛えていたクレイが愚痴を言いますのでたしなめます。

 

 

「ここのメンバーは、現状の辺境伯軍の最精鋭です。だからこそ、このような困難な作戦に参加してもらっていますし、だからこそ不用意に消耗されると困るのです。第二段階の作戦もありますから、敵を一人も倒せなくても構いません。必ず無事に帰ってきてください」

「それで第二段階は?」

「明け方の奇襲です。こちらはここにいるメンバー全員で切り込みますし、今日連れてきた本隊に遠距離攻撃で援護してもらいます」

 

 

 日が少しでも上がれば明るくなりますから、同士討ちの危険もなくなりますし、この時間がわかっていても一番人間が動きにくい時間帯です。目覚める直前ですからね。

 夜じゅう嫌がらせで消耗させて精神的にも疲弊させて、一気に攻めれば相手の士気はボロボロでしょう。相手の軍を崩壊させるのが目的で、殺し切るのが目的でもないですし。

 

 

「明け方の切込みは、先遣隊のトップと思われる人間を狙います。ですが遠距離攻撃部隊との連携上、鐘がなったら確実に引いてください。離脱援護のための矢の雨に巻き込まれますよ」

「了解。まあ俺に任せてよ」

 

 

 クレイの大言壮語っぽい発言は気になりますが、まあ自己責任です。

 

 

「何か質問は? なければ夜の間切り込む順番を決めます。寝ていても出撃少し前に起こしますから、必要なら仮眠をしていてください」

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「では先陣、行かせてもらいます」

「よろしくお願いします」

 

 

 日も暮れて、少し経った頃から夜襲を始めます。

 トップバッターは抜剣隊においては珍しい商家出身の女性、サラさんです。

 実力的には下の方ですが、商家出身らしい視野の広さと現実主義的な状況判断力を重視して先陣をお願いしました。

 

 軽々と防衛拠点の障害物を超え、闇夜に紛れます。

 10分もすると、同じように障害物を超えて戻ってきました。

 

 

「どうせなので回り込んで東側から攻撃してみました。やはり裏側ということで守りは薄いように感じました。見張りを3人倒してきましたし、もう一度やっても成功するかと思います」

「おつかれさま。ばっちりですね。じゃあこれ、感状です」

「ありがとうございます」

 

 

 特に何事もなく襲撃は成功したようです。先遣隊の駐屯地は遠目で見る限り少し騒がしそうですが、落ち着かせないことこそが狙いなので問題ありません。

 ちなみに感状とは、指揮官がいい働きをした部下に渡す戦功ポイントみたいなものです。今回の戦いから導入した制度で、用紙にサインと何が良かったかを書いて渡します。とても良ければ何枚渡してもいいわけで、今回はサラさんには襲撃成功と偵察成功で2枚渡しています。

 何が良かったかが定型的にわかりやすくするために導入したものですが、みんな張り切る反面、指揮官におもねる人も出てきているので一長一短です。

 

 何にしろ成功したようですのでまずは一安心です。

 

 

「じゃあ次はクレイですね。頑張ってください」

「まかせろ!!」

 

 

 クレイは意気揚々と飛び出していき、闇夜に消えていきました。

 

 

 

 クレイも10分もすると戻ってきました。ただ、顔色が良くありません。

 

 

「大丈夫ですか? 怪我でもしましたか?」

「いや、そう言うことではないんだけど……」

「ならよかったです。状況はどうでしたか?」

「北側の森が深いほうからなら奇襲になるかと思って攻めたんだけど、やたらでかくて強そうな奴がいて、切りかかったけど受け止められちゃったからあわてて逃げてきたんだ。だから成果0で……」

 

 

 しょんぼりするクレイ。戦果がなかったのを気にしているようですが、特に問題ありません。

 

 

「わかりました。お疲れさまでした。はい、感状2枚渡しておきます。生還と、偵察成功ですね」

「え? だって俺、一人も倒せてないし……」

「作戦に従ったわけですし、北側に強敵がいるのもわかりました。それで十分ですよ」

 

 

 それは敵は倒すに越したことはありませんが、3人程度の死傷では、全体から見ればそこまでの損害ではありません。下手すると直ぐに復帰する可能性もありますからね。夜で暗いからどの程度のけがをさせているかわかりませんし。

 情報を得るのと混乱を与えるのが目的なので、クレイの判断が正解なわけです。

 これで正しいんだとアピールする意味も込めて、サラさんと同じだけ戦功ポイントである感状を渡します。

 

 若干釈然としない表情をしていましたが、クレイは大人しく帰っていきました。

 もっと頑張って大人になるんだぞ。ボクの方が少し年下ですが、偉そうにそんなことを思いました。

 

 

「次はお義父さま、おねがいします」

「まかせろ」

 

 

 今回は珍しく大剣を背負って、義父は飛び出していきました。

 そして戻ってきたのは20分後ぐらいでしょうか、少し長かったです。

 

 

「アーシェ、北側につっこんでそのヤバい奴をぶったおしてきたぞ。大体10人ぐらい倒してきたからな!!」

「……」

「アーシェ?」

「お義父さま、正座」

「え?」

「正座」

 

 

 クレイの成長を喜んでいたら、義父がやらかしてくれましたよ本当に。

 いやまあ、義父を生贄にすれば何をするべきかアピールしやすいからいいんでしょうが、義父はたぶんそんなこと考えていません。息子と義娘に言い所見せたくて張り切り過ぎただけです。

 強いからってボクの指揮下に入れたのが仇になりました。

 

 

「お義父さま? 夕方のお話、聞いてましたよね? 1人3人までって。それで1合でも合わせる強敵が居たら引くようにって。クレイは守りましたが、お義父さまはそんなこともわからないわけですか?」

「し、しかし」

「話して良いと言っていませんよ。お義父さま? お義父さまは確かに強いでしょうから、3人どころか10人でも20人でも行けるかもしれません。でも他の人たちはそういうわけでもないわけです。ほかの人が無理して怪我とか、場合によっては死んじゃったりしたら、お義父さま責任取れますか? 取れないですよね?」

「うぐぐ」

「あとでお母さまにも言いつけますから。朝方の第二作戦でも、切込みじゃなくて射撃部隊の護衛に回ってください」

「そんな!!」

「異論は聞きません」

 

 

 このまま朝まで正座させたいぐらいですが、残念ながらまだ作戦は残っています。帰るように冷たく義父に言うとすごすごと帰っていきました。

 

 

 そのあと入れ代わり立ち代わり、出撃しては帰ってきます。徐々に警備が厳しくなっているようで、戦果も上がりにくくなってきました。

 とはいえ義父の無様な様子を見て、それぞれ自分の役割を理解したのか、色々な方法で嫌がらせをし始めます。

 

 義兄は投石機を持っていき、篝火の近くにいた兵士に石礫を命中させさっさと帰ってきました。外周以外から被害が出たため、駐屯地は混乱をしているように見えます。

 他には魔法も使える方が、ファイアアローをばらまいて帰ってきました。テントや木の柵、そして備蓄の食糧が燃えて大わらわになっています。

 

 

「大体備蓄の集積場所はわかっていましたから」

 

 

 事前の情報収集含め、やり手ですね。花丸です。

 こんな感じで一晩中攻撃を続けましたから、向こうはもう疲弊しきっているようです。

 第二段階の作戦を実施するのに都合が良い状況が出来上がりつつありました。

 

 

 

 漸く東の地平線が明るくなり始めます。そろそろ日が昇るころでしょう。

 そしてこれが、第二段階開始の合図でした。

 合図用の鐘が鳴り、ボクが率いてきた本隊のうちの遠距離攻撃部隊100名が駐屯地近くの丘から姿を現します。明け方前から移動してもらっていました彼らを見つからないようにすることもまた、襲撃の目的でした。そして、姿を現すと共に全力射撃が始まります。合計100の矢と石礫が敵の陣地に降り注ぎます。狙わないで撃ってもらっていますから、ほとんど当たることはないでしょうが、テントを壊したり、篝火を倒したり、本当に運が悪い兵士が当たったり、そんなことが起きると駐屯地は大混乱になります。

 

 敵軍の意識が遠距離攻撃部隊に向いたタイミングで、ボク達は突撃を始めました。

 

 

 

 狙いは敵のお偉いさんです。捕まえられれば最高ですね。場所はおそらく、中央あたりです。そこに本部らしきものがあるのは事前情報からも、今日の襲撃からも予想されていました。

 ボクが持っている大剣を振り回すと、敵兵が面白いぐらい吹き飛んでいきます。気分は無双ゲームです。大振りの隙をついてくる兵士は、義兄が対応してくれますので、ボクは思う存分ブンブン丸ができるわけです。

 

 ボクの白系で角が生えているという特徴的な外見と、あまりにでかい剣を振り回しているので、注目はボクに集まりまくります。手柄を立てようと襲い掛かってくる人、逃げようとする人で場は大混乱になっています。

 混乱は望むところですが、主目的である敵のお偉いさんを捕まえるには非常に不味い状況になりました。お偉いさんはこの群衆の向こうにいるでしょう。混乱した群衆に戦闘力はありませんが、障害物としてはこれ以上ない邪魔さです。

 退路を意識しながら暴れるだけ暴れるか、と考えながら、後ろに下がりつつ剣を振り回していると、鐘が遠くから響きます。撤退の合図です。

 

 何が起きているかわかりませんが、後ろから俯瞰的に見ているエミリーがそう判断したならば帰りましょう。全力で後ろに跳ぶと、そのまますたこらさっさと拠点まで帰ります。

 追撃は、遠距離攻撃で妨害されますし、特に問題なく、ボク達は襲撃を終わらせるのでした。

 

 

 

 拠点に戻ると、先遣隊を率いていたらしい伯爵が縄で縛られていました。

 

 

「アーシェが真正面から馬鹿正直に突っ込んでいったから、俺たちは裏に回って捕まえてきたんだ」

 

 

 クレイが自慢げにそう話します。

 どうやら自己判断で数人別れると、裏に回って敵の本部に攻撃を仕掛けたようです。

 ボクが大暴れしていたのもあり、手薄になっていた本部から、偉そうな髭おじさんを回収したとか。

 

 また、敵の駐屯地の物資が集積されているあたりが良く燃えています。

 ソロ奇襲で放火していた放火おじさん(正式名称スミス男爵)が、これまたボクを囮に物資集積場所に忍び込んで、魔法で大規模に放火した結果のようです。

 

 自己判断した彼らに比べ、何も考えずに突っ込んだボクは囮以上には役に立っていなかったようで、とても悲しい結果に終わりました。

 やっぱり義父の娘は脳筋でした。いや、義兄はそうでもないし、よく考えたら血がつながってないはずなんですけどね……

 

 

 何にしろ一晩かけた夜襲は成功に終わりました。

 烏合の衆となった敵軍は散り散りになっていきます。

 あとは本隊を待ち受けるのみです。気は抜けませんが、こちらの士気は大いに上がりました。




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