TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました   作:雅媛

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3 本隊

 一日かけて残った駐屯地から物資を回収します。

 食糧は残っていませんが、矢などの消耗品や、テントなどの大物はそれなりに残っているので、ありがたく使わせてもらいましょう。

 

 200人ぐらいしかいない村に500人もいるわけですから、いろいろ足りないものがあります。

 食に関してはしっかり準備していますから特に問題がないですが、住に関しては明らかに不足しています。

 一応テント村は作りましたので、野宿よりはましな状況ですが、微妙にテントも足りていないので詰め込んで寝てますし、地面も冷たいんですよね……

 かといって村の人の家に泊まり込むと確実にトラブルになりますので禁止にしています。

 

 建物を建てるのも時間がかかりますから全然進みませんし……

 先日やっと一つだけ立派な建物を建てましたが…… 手が空いていた先遣部隊の人が建てたのですが、当然人数に比して部屋が足りていません。

 軍の本部として機能しているので非常に助かっているのは確かですが、建てるために働いていた人たちがいまだテント暮らしなので少し悪い気がしてしまいます。

 

 そんな状況ですので、敵の駐屯地から奪ってきたテントは引っ張りだこです。

 これで過密状態も多少は改善されるでしょう。中には焼け残ったり破れたりしたテントをつぎはぎ修理し始める兵もいますから、どれだけ需要が高いかよくわかります。

 

 そんな状況ですがボクは義兄と一緒に男爵さんのお家の客間に泊まっています。VIP待遇ですね。テントでもよかったのですが、さすがにトップがそれでは示しがつかないということで、客間に押し込まれました。本部建物の方にも泊る場所がありますが、リスク分散のためボクは男爵さんのお家に分配されました。

 なのでボク自身は快適と言えば快適です。部屋の掃除なんかもお手伝いさんがしてくれますし。

 

 何にしろ、駐屯地をほとんど更地のような状況にした翌日、公爵軍の本隊が到着しました。

 

 

 

 

 

「公爵軍本隊はいかがでしたか?」

「半端なく強い。遠くから嫌がらせをして多少遅らせるのがせいぜいだった。下手すると簡単に補足されて壊滅するからな」

 

 

 足止めのハラスメント攻撃をしていた部隊も少し前に帰ってきていましたので、疲れているだろうと思いましたが早速話を聞きます。

 

 4つの男爵家の部隊を取りまとめていたサルナン男爵は、困ったような表情をしながら報告をしてくれます。

 

 

「そこまで強いですか?」

「あれは多分公爵の直属で、率いているのは公爵本人だろう。やり手の公爵と聞いているし、兵士全員が下手すると男爵レベルだ。うちの兵士じゃとても相手にならない」

「そこまでですか」

 

 

 補給の関係上人数が増やせないのだから精鋭を持ってくるのは手でしょうが、こんな辺鄙な場所に公爵がわざわざ出張る理由はわかりません。

 わざわざ嘘を報告する必要もなさそうですが、謎がいろいろ浮かんでしまいます。

 ひとまず男爵も含めて話をした方がいいでしょう。

 更に人を呼んでもらい、そのまま会議をすることにします。

 

 辺境伯の政治を行っていたアランさんとアルゥちゃん

 書面上の知識なら一番詳しいだろうエミリー

 第三者目線が必要なので義兄

 補給のためこちらに来ていたニキータさんも捕まえて会議開始です。

 本当は義父も呼びたいところですが、この前の独断専行があったので謹慎中です。

 

 

「そう言えばそもそも公爵がこちらに攻めてきた理由ってなんでしたっけ?」

「……」

 

 

 根本のそこの部分について、よくよく考えたらよくわからなくなってしまったので、そこを確認したのですが、沈黙しか返ってきません。

 

 

「あれ、宣戦文って何が書いてありました?」

 

 

 戦いになるときの様式として宣戦文が送られ、そこになぜ攻めるのかという理由が書かれています。

 辺境伯がボクの村に攻めた時は、要約すれば偽皇女の討伐でしたし、今回のキリル子爵領攻めは前キリル子爵のキリル子爵領不法占拠と主従契約不履行による懲罰です。

 名目だけの理由のこともありますが、こういうのを送るのが様式美だったりします。

 ですが、今回の公爵からの宣戦文に何が書いてあったか、記憶になかったので確認したのですが……

 

 

「多分、宣戦文は届いていません」

「公爵がそんな手抜かりしますかね?」

「多分前キリル子爵には届いていると思うのですが……」

「サルナン男爵、前キリル子爵から何か聞いてますか?」

「いえ、公爵家の侵攻が始まったと聞いてすぐに彼の元から去りましたから」

 

 

 つまり、公爵はキリル子爵領目的で侵略を始めたということ? 

 しかしそれならどうしてこちらと戦っているのでしょうか。

 少なくともこちらの防衛線まで何度か迫っていただろうことは防衛線の傷や落ちていた矢や石礫などから明らかですが……

 

 

「そもそも公爵側が攻めてきたのってどういう状況だったんですか?」

「サルナン男爵たちが逃げてきたのをこちらで保護しようとしていた時に、追撃してきた先遣隊がこちらまで攻撃したので、反撃したのが最初だったかと」

「つまりなし崩し的に始まった感じ……?」

「そうね」

 

 

 こちらの先遣隊を率いていたアルゥちゃんの説明で、戦闘がずぶずぶで始まったのを自覚します。

 あまりいい状況ではないですね。こちらも向こうも戦略目標があいまいですし、それで戦いがすでにかなり動いてしまっています。

 

 

「一度公爵とお話ししないとだめかもしれませんね」

「この前捕まえた伯爵にお話聞いては?」

「そうですね、そこから始めた方がよさそうです」

 

 

 かなり混沌とした状況になっているのもわかりました。捕虜の人たちへの尋問は、まだ始まったばかりですし、状況確認のためにも話を聞くことにしました。

 

 

 

 

 

 捕虜の人のうち偉い人は本部建物の方の地下に閉じ込められています。

 幸い今回捕まえた捕虜の人は30人程度、怪我をしている人を別の村に護送したのでここで捕らえているのは10人ほどですから、少し窮屈でしょうが全員地下に泊まれるぐらいでした。うちの時は多すぎて野ざらしになりましたからね……

 

 

「それで、お話聞かせてほしいんだけど」

「くっ、辱めを受けるぐらいなら死んだほうがましだ、殺せ」

「なんでそうなるの……?」

 

 

 伯爵さんは年齢は20代後半ぐらいの、美人さんです。

 ですが頭は残念なようです。なんせ今ここにいるのはボクと、アルゥちゃんと、フィオナさんの3人です。あまり威圧感がないようにと女性を集めたのですが、どうしてくっコロになってしまったのでしょうか。

 

 

「そうね、あなたが正直に話してくれないなら、あんなことやこんなことしちゃうかも」

「ひっ!?」

「フィオナさんも止めてください」

 

 

 訂正です。やべー奴が居ました。ごめんなさい確かに覚悟しますねこんなのが居たら。

 

 

「で、聞きたいのはどうして公爵がこちらに攻めてきたか、なんだけど……」

「西方から貴様ら蛮族が攻めてきて辺境伯領がほぼ全土占領されたとキリル子爵から聞いたためだ」

「なにそれこわい。というかボクこれでも皇族の血を引いていると聞いているのだけれども……」

「確かに、銀髪碧眼の竜人は皇族の色だ。くっ、ユーグの奴、適当しか言わなかったな!!」

 

 

 どうやら前キリル子爵のせいで情報がぐちゃぐちゃになっているようです。おそらく情報操作をして、上手くやろうとして、そして失敗して盛大に自爆した、ということだろうと思われます。

 

 

「で、子爵への宣戦理由を教えてほしいんですが」

「宣戦理由は正当なる辺境伯の後継ぎ、エミリー殿を守らず敵前逃亡したこと及び辺境伯の奪還を妨害したことだ。救援要請をしておきながらほとんど手伝おうとしなかったからな」

「で、そのまま追いかけてうちとぶつかったと」

「蛮族と思っていたからな、そもそも、貴殿らはいったい誰なんだ」

 

 

 なんということでしょう。お互いの相互認識がなさすぎる。

 まあこちらも武装してましたし戦場の空気に飲まれるとこうなっちゃうのかもしれません。こちらも公爵軍であるという認識以上なかったわけですし。

 

 

「あ、自己紹介してませんでしたね。ボクが現マーチ辺境伯のアーシェロットです」

「それじゃあやはりエミリー殿は……」

「元気ですよ」

「そうか…… え?」

「元気ですよ、今連れてきますね」

 

 

 エミリーを連れてくるように指示を出します。

 伯爵さんの心配し様を考えると、エミリーをさっくり殺して簒奪したと思ったのでしょうか。

 なんにしろ一つ意外なのは、エミリーが単なる引きこもりのビブロフィリア(活字中毒)ではなかったということでしょうか。公爵側の人たちにそれなりに名前が知られているわけで、どういうつながりなのか気になります。

 まあ、よく考えたらエミリーは公爵のことをお兄様と呼んでいたようですし、それなりに親しかったようですから、公爵側に好意的に思われているのかもしれません。

 

 

「アーシェ様、何か御用ですか?」

「エミリー、こちらの伯爵さんがエミリーに会いたいって」

「伯爵…… あら、リリーお姉様、ごきげんよう」

「……」

「リリーお姉様?」

「えみりーちゃああああん!!! 心配したんですよぉお!!!!」

 

 

 伯爵さんが泣きだしました。

 エミリーもボクも困惑です。

 

 伯爵さんが泣き止むまで、ボク達は眺めているしかできないのでした。




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