TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました   作:雅媛

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5 決闘

 翌日、決闘する場の周りには、皆が集まりました。

 これで戦争が終わると周りもわかっているためか、気が緩んだ感じの兵士が思い思いに席を作って観戦しています。

 公爵軍も空気が緩んでおり、こうなればこれ以上戦争は難しいでしょう。

 正直公爵側の裏切りや奇襲の可能性も考えていたため、この雰囲気は助かりました。

 

 若干お祭り気分になり始めたため、村の人も出てきます。

 公爵軍の人たちが、お金で村の人達に支払いをしようとして困惑させていました。

 帝国小銀貨ですね。きっと遠征費用として各自持参しているのでしょう。

 

 

「辺境伯様、これ、どれくらいの価値があるのでしょうか?」

 

 

 男爵さんが、困った顔をしてボクに価値を聞きに来ました。

 

 

「大人1人の1日分のパンと同じ価値があるといわれています。それだけの価値で良ければボクの方で引き取りますよ」

「わかりました。よろしくお願いします」

 

 

 貨幣経済が全く浸透していないからイメージがつかないのでしょう。

 こちらの軍の支払いだって、基本租税との相殺で計算されます。200人弱の村ですから、200人の1年分の食糧の5パーセントが辺境伯に収める租税になります。

 そうすると大体帝国小銀貨3500枚です。こちらの軍の支払いも合わせれば、今回の戦争分だけでこの村や道中の村の今年の租税分ぐらいには達してしまうでしょう。下手すると来年分まで入るかも……

 やっぱりあまり戦争はしたくないですね……

 

 領内にできれば貨幣経済も浸透させたいですが、貨幣を用意するのが大変なんですよね…… 銀貨なんてそうそう作れないし、そうすると紙幣ですが、それはおいおい考えましょう。

 

 

 公爵軍の方は酒もふるまわれていて、もう雰囲気が完全にお祭りです。

 中心となる簡易に作られた舞台の上では、本番である義兄と公爵の戦いの前に腕試しとして、有志同士が戦っています。

 

 基本的に辺境伯軍の腕に覚えがある人対公爵軍の腕に覚えがある人なのですが、やはり公爵軍の人たちは強いですね。

 うちの抜剣隊から何人か出ていますが、勝率は4割弱です。

 公爵直属である伯爵になると、普通の男爵ではとても勝てそうにありません。

 先遣隊で捕虜になったくっころ女騎士さんのリリーさんなんか、無茶苦茶強くて、三人抜きしていました。よくあんな人をクレイは捕まえたな、と思うレベルです。

 

 ボクも、本番直前に軽く一手、ということで、公爵のお母様であるリリスさんと剣を合わせることになりました。

 

 

「お手柔らかにお願いします」

「こちらこそ」

 

 

 男装の麗人が半身で立ち、正面に片手で剣を構えるフェンシングみたいなスタイルです。当然ながらまったく油断できる相手ではありません。

 始まりの合図とともに細い刀身の片手剣による斬撃と刺突の嵐が襲い掛かってきます。

 

 一撃は軽いですが無茶苦茶速いので、大剣ではとてもついていけません。

 持っていた大剣を投げ捨て、いつもナイフ代わりに使っている、中途半端な長さの剣を抜いて剣と鞘の二刀流で受け流します。

 風の剣で踊るように舞い、水の剣で受け流す。あまり得意な分野の剣ではないので、どうにかこうにか躱わすので精一杯でした。義父や義兄ならば反撃できるのでしょうが……

 本気で殺し合いをするならば、防御を捨てて大剣で全力で切りつけるのが一番でしょう。射程的に大剣を使えばこちらの方が有利でしょうし、あの軽い一撃なら、身体強化を最大にすればボク自身の丈夫さに加えて服の防御力も合わさりおそらく1,2撃ならば耐えられるはずです。

 

 ですが前座の見世物で、そんな肉を切らせて骨を断つみたいなガンギマリ戦法をするのは周りもドン引きでしょう。手加減もできませんし

 なので苦手な戦法で相手に合わせざるを得ません。するすると舞うように、踊るように躱し、流していると、一息ついたタイミングで相手は剣を下ろしました。

 こういう受け流したり躱したりする戦い方は得意ではありませんが、それなりに華やかになったのではないでしょうか。

 

 

「ありがとうございました」

「ありがとうございました。やはり公爵夫人、強いですね」

「貴女に本気を出させられない程度ですよ。やはりお強い」

「そんなことないですよ」

 

 

 殺し合いならば確かに別の戦法を使ったでしょうが、決闘は決闘であり殺し合いと別のルールがあります。

 そのルールの中でボクは全力でしたし、殺し合いならこんなまだるっこしい戦い方をせずに後ろから援護射撃させています。

 ウチは弓兵重視なのです。剣で切られても、矢で射られても人は同じように死にますからね。

 

 ただ、前公爵夫人はいまいち納得していただけないようでした。

 

 

 

 

 そうやって場が温まると、本番である決闘が始まります。

 

 義兄は辺境伯家の家宝の剣を持っています。

 もともとの剣の質もいいですし、エンチャントかけたので切れ味も丈夫さも一級品の剣です。両手でも片手でも扱える長さなのでパワーファイターなボクには向いてないですが。

 

 一方の公爵はバカでかい大剣装備です。一見すると美少女メイドですし、それが大剣を持っていると性癖に刺さりますね。小柄な美少女にバカでかい武器はとても相性がいいのは明らかです。ボクもあのスタイルにしてみようかなぁ……

 何にしろ公爵はパワーファイターみたいですね。というか大体貴族の剣技って力こそパワーみたいなパワー系の技ばかりなんですよね。盾と片手剣を使った防御重視の剣術もありますがマイナーですし、義父みたいな受け流しと回避まで技術に含まれている剣術は義父のもの以外見たことがないです。

 

 二人は礼をすると剣を構えます。正眼に構える義兄に、公爵が先手を打って上段から一撃を繰り出しました。

 義兄は受け止めるように見せかけて、その一撃を流します。

 なにも抵抗なく、それが当然だったかのように横に反れていった一撃を躱し、義兄は左手での正拳突きを公爵の顔面に叩き込みました。

 公爵が後ずさります。一撃を躱されたのも、拳でぶん殴られたのも驚きなのでしょう。剣と格闘を合わせた技というのはボクもアルゥちゃんのモノを見るまで知りませんでした。それを義兄は応用したようです。確かに受け流した後に切り返すと相手も態勢整えて防御してくることが多いですから、流しながら殴ったほうが早いのは確かです。

 

 公爵もさるもので、一瞬動揺を見せましたがすぐに立て直します。

 そのまま大剣をすさまじい速さで振り始めました。公爵夫人も使っていましたが、かなりスピード重視ですね。でも剣が長くて重いですから、威力は十分です。

 それを義兄はすべて受け流していきます。素早い連撃ですから間に反撃を挟むのは難しそうですが、今のところ余裕をもって受け流せているように見えます。

 

 この攻防が続くとどちらが有利かは何とも言えません。

 体力的には小さく動いて受け流している義兄の方が有利でしょうが、一方で慎重に受け流さなければならないため精神力的には義兄の方が不利でしょう。

 現状は拮抗していますが、それが崩れた瞬間、どうなるかが問題です。

 

 はらはらしながら見守っていましたが、崩れたのは公爵の方でした。

 らちが明かないと思ったのか、大振りの一撃を放ったのです。スピードもパワーも乗った素晴らしい一撃でしたが、慎重にそれを義兄が捌くと、公爵はバランスを大きく崩しました。

 その瞬間、義兄はまた拳の一撃を繰り出します。今回狙ったのは、公爵の剣を持つ手でした。

 めきょっ、と鈍い音がした後、カラン、と金属音がしました。

 公爵が剣を落としたのです。手を攻撃して、剣を持てないようにしたのでしょう。

 えげつない義兄の攻撃で、決闘には決着がつきました。

 

 

「くっ、何故だ。妹を、エミリーを思う気持ちを持つ私がなぜ負けるのだ」

 

 

 公爵が急に独白を始めます。というかエミリーは別に妹じゃないでしょ。

 

 

「簡単だ。私が義妹を思う気持ちが、貴様のそれよりも圧倒的に強いからだ」

「なんだと!?」

 

 

 義兄もその独白に付き合い始めます。というか何言い始めてるんでしょう。

 

 

「私は義妹と結婚したし、そのために後継ぎの地位も捨てた。対して貴様はどうだ。妹のために地位を捨ててでも守ろうという気持ちがあったか。攫ってでも助けてやろうという気持ちがあったか。それが貴様と私の差だ」

「ぐっ……」

 

 

 この義兄、何言ってるんでしょう。

 確かにライン男爵の後継ぎの地位は現状保留中で、母が子を産めばライン男爵の地位はそちらに引き継がれる可能性が高いですが、義兄が辺境伯の夫というさらに一ランク上の立場になったからですし、現状子爵になったわけですから捨てたと言うにはかなり語弊があるでしょうに。

 ですが義兄の出まかせに近い勢いのある主張に、公爵は膝を折りました。

 

 

「私は、エミリーを、妹を、思う気持ちが足りていなかったというのか。彼女を攫って、どこまでも逃げるべきだったというのか」

「そうだ。その気持ちの差が、剣のわずかな差となり、そしてそれが結果につながった。ただそれだけだ」

 

 

 ドヤ顔を決める義兄ですが、もう放っておくことにします。何にしろ勝ったわけですし。

 

 

「で、エミリーはどうする? 帰る公爵と一緒に行ってもいいですし、再度迎えに来てもらってもいいですし」

「私は一度マーチの街へ帰ります。荷物の整理や仕事の引継ぎもありますし」

「了解、ということで公爵。いつでもいいけどうちの本拠地までエミリーの事迎えに来てくださいね。ちゃんと歓迎しますから」

「あっ、ああ」

 

 

 若干呆然としていた公爵はそう返事をしました。

 さて、これで戦争も終わりです。公爵との紛争がしばらくなくなれば、こちらの領も安定するでしょう。

 

 食糧を受け取った公爵軍は翌日朝には撤退を始めます。後片付けはいろいろあるにしても、戦争が終わってこれで一安心と言えるでしょう。




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