TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました   作:雅媛

26 / 28
6 戦後

 戦争が終わりました。

 終わると戦後処理が必要になります。

 前キリル子爵を裏切ってこちらに付いた男爵たちは、そのまま領地を保証したまま主従契約を結び直します。

 こういう時、どうするかはボクのような上の人間が決めるわけで、場合によっては許さんと殺してしまっても構わないようですが、ボクはそういう選択はとりません。正直、どうでもいいんですよね。トラブル起こして何かほかの領に迷惑をかけない限りは。

 裏切りをしたというのは周りからも良く思われていないわけでして、近隣と揉め事を起こせば不利になる傾向が強いのは理解しているでしょうし、理解してなければ最終的にそういうことが起きた時に潰せばいいわけです。一応対公爵軍でも頑張ってくれていたわけですから、特に何もせずに続投を認めたわけです。

 

 ですが、子爵領と男爵領2つが公爵に攻められ、トップがいなくなっていますからここに関してはどうするか決めないといけないわけです。誰かに押し付けたいところなのですが、そう言うのにいい相手がいないんですよね…… 全体的に人手不足です。

 辺境伯になるまでの戦いでそれなりに貴族が亡くなっていますので、その穴埋めに予備の地位にいた貴族の次男次女を使ってしまっているので、あまり分けられる相手がいません。今回の戦いで大きな結果を残した誰かにあげるかというと、候補は伯爵を捕まえたクレイなどの抜剣隊の人たちになるでしょうが……

 

「領地より新しい剣術を教えてほしい。あのクリス殿が使っていた受け流す技とか」

「肉がいいな肉。肉は体を作るのに重要だし」

「俺は剣がいいな。今のだと軽すぎる」

 

 彼らは剣の道に生き始めたせいか、報酬として新しい剣術や武具等は求めても、領地は断られてしまいました。

 まあ新領地の経営大変ですからね……

 公爵領との唯一の陸路の道を子爵領が持っていますから、重要拠点というのもあるので男爵領含めた3つの領を辺境伯の直轄地とすることになりました。代官には村の人の互選で選んでもらいます。

 

 

 

 領土の割り振りはひとまず完了しましたが、それではい終わり、というわけにもいきません。当然攻められた地域は家は壊れ、田畑は荒れ、食糧が不足しています。

 その食糧を回す作業も必要です。これがなかなか面倒でして、近場から持っていくのが安上がりなのですが、それをやるとあいつらが俺たちの食糧を取った、みたいに思われて結構トラブルになるんですよね……

 なのでひとまず辺境伯のところに運ばれてきた食料をわざわざ端の領まで運ぶことになるわけです。経済的合理性がかけらもないですが、トラブル回避にはしょうがなかったりします。

 送る量の決定と運送方法の手配だけでもそれなりに大変でした。

 

 また、近々来る公爵たちを迎える準備も必要です。軍を返して、正式な和平の儀式をする予定であり、向こうがこちらに出向く予定になっています。エミリーを迎えに来るという建前もありますからね。

 もちろん雑になんて扱えませんから、食事から何からきちんとそろえる必要があります。まあうちの領で揃うものなんてたかが知れていますが……

 エミリーの知恵を借りてどうにか様になるような準備をしていきます。教えてもらったものをもとに、ニキータさんに必要なものを指示して、どうにか取り寄せてもらっていますが果たしてどれだけ集まるか…… 

 ベッドカバーに絹のレースとか絶対無理だと思うんですけどね……

 あと、エミリーがいなくなると儀礼が無茶苦茶になりそうです。エミリーがいなくなった後は一応そういった知識がある母にどうにかしてもらうしかないでしょう。

 

 

 

 何にしろああだこうだしているうちに公爵がうちの領を訪れたのは、公爵軍が撤退を始めた日から1月後でした。

 公爵領との隣接地域は公爵に否定的感情を抱いていそうですし、ちゃんとお迎えの兵を出して、比較的安全な前戦争の時の本部建物で1泊、そしてそのまま辺境伯首都までというちょっと強行軍気味の日程で頑張ってもらいました。

 公爵が率いていたのは騎馬兵ばかり300程度だったので、移動が本当に速かったようです。徒歩だと、公爵領との境目から4日ぐらいかかりますからね。騎兵隊、憧れますしうちでも編成しましょうか。

 

 

「いらっしゃい、公爵様。歓迎しますよ」

「お久しぶりですお兄様」

「お迎えありがとう。エミリーも元気そうだね」

 

 

 ほのぼのした空気が流れます。まあ今回の歓待役はエミリーですし、彼女に任せておきましょう。すでに荷物はまとめていますが、本人がやっぱりヤダとか言い始めたら、連れて行かせられませんし、公爵にはせいぜいエミリーのご機嫌を取ってもらう必要があります。決闘で情けない姿を見せてますしね……

 

 二人がデートで出ていきましたから、ボクは公爵側の事務の人と条項について交渉を始めました。

 ふわっとした内容は決まっていますが、文字に起こすとなるとこれがまたなかなか大変です。

 例えば境界域の山脈について。山全体をこちらの領地としてしまうのが表現的には簡単ですがそうすると公爵側の人たちは山には入れなくなります。山からは薪などが取れますし、山の幸もありますから、山に入れないということの打撃は非常に大きいわけです。

 で、公爵領側の山の斜面からとれる山の恵みなんて、辺境伯領側から利用できませんから、もらっても利益がないですから、そう言う取り決めはあまり良い結果を生みません。利用範囲が重なっているならいろいろ整理が必要ですが、高くて険しい山ですから、辺境伯領側と公爵領側で利用範囲は重なってないみたいですし。

 

 一方で鉱物資源となると、鉱脈が山全体に広がっていることがありますから、鉱山の入り口がどちらにあろうが揉める可能性があるわけです。何かしらの鉱脈を見つけた後、反対から掘られて掘りつくされる可能性がありますから。

 そういったことがないように、今回辺境伯側だけ採掘したいという約束をしたいわけですが、今度は鉱山の入り口についての取り決めの問題があります。見つかったものによっては鉱毒の話も出ますから、下手に向こう側に鉱山の入り口を作るとまた公爵領ともめるわけです。そういったことをいちいち取り決める必要があるので、本当に面倒です。

 公爵側としては、他にも鉱山を持っていますから、境界域の山脈の鉱脈は興味がないようですが、何か公爵側にトラブルが起きた時に対応できる条項にしようとしてきますし、こちらはできるだけ自由に掘りたいわけですから、どう書くかでもめてしまいます。

 

 ここでこちらの文官の少なさが響きます。こういった交渉事に慣れているのは商人のニキータさんぐらいで、あとはボクが義兄のフォローの元必死に考える必要があります。元々辺境伯では前キリル子爵が外交関係をやっていたらしく、前回の戦でほぼ全滅してますから、文官がまるで足りません。

 一方公爵側は歴戦の外交官ですから、もう、うん、どうしようもないです。

 パンチで解決していいかな、という思いが頭をよぎります。

 

 無関税使用権についても、どういう風に認めるか、という問題が出ます。船籍が辺境伯なら全部関税免除、とはいかないでしょう。だって船籍なんて旗で判断しますから、偽装がしやすいですからね…… 自分のところの船ならば、旗以外の要素で偽物ってわかるでしょうが、他人の船籍なんて判断が難しいです。

 なので割符の免税証明書を発行してもらうことになりますが、これがまた面倒なわけです。免税の範囲、はまあ公爵の慣習に合わせるとして、何枚出すか、盗まれたらどうするか、紛失したら再発行できるのか、その場合にどうするか、みたいなことを決める必要があります。船のことですから、沈んで紛失、なんていうことも、海賊に襲われて奪われる、なんてことも普通にあるわけです。

 

 そういうことを一々取り決めると、本当に煩雑になっていきます。

 どうにかこうにか、内容を決める頃にはボクは疲れ切ってヘロヘロになっていました。

 

 ですがこれで終わりなわけではありません。

 最後にエミリーに本当に公爵についていくか、聞く必要があります。

 まあ、こちらにいてもなかなか肩身の狭い思いをしてそうですから、ついていくって言いそうな気もしますけど。

 何にしろ、一度呼び出して意思確認です。

 

 

「で、どうするの?」

「お兄様についていこうと思います。止めますか?」

「いや、全然そんなことは考えてないけど」

 

 

 エミリーのことは気に入っているし、彼女が幸せになろうとするのを止めようと思いません。将来のことを考えると貴族的には良い手ではないのでしょうが、まあ、そんなの子孫に考えてもらうことにします。

 

 

「確かにお兄様は気が利かないし、アーシェ様のお義兄さまに負けて情けないし、そもそも女装が私よりカワイイのが腹立ちますが」

「急激なディス…… やっぱりやめる?」

「いえ、辺境伯のお屋敷の本は読みきってしまいましたが、お兄様のお屋敷には本がいっぱいありますからお兄様についていきます」

「本目当てかよ!?」

 

 

 思わず言葉遣いが崩れました。

 

 

「なんだかんだでお兄様は私に優しいですし、周りの皆さんも甘やかしてくれますから、向こうに行った方が楽しそうだと思うんです。何より本がありますし」

「本当に大丈夫? 本目当てってバレて返品されない?」

「出戻りになったらまた雇ってください」

「まあ同じようなポジションで働いてくれるなら受け入れるけど……」

 

 

 したたかと言えばしたたかだし、天然と言えば天然なエミリーの話を聞いて、違う意味で不安になりましたが、まあ本人が決めたことです。

 彼女を送り出すことにしました。

 

 

 

 

 正式に和平が結ばれ、エミリーは公爵についていきました。

 彼女の被っているかも怪しい化けの皮が剝がれることがないことを祈るのみです。

 何にしろ、これで辺境伯領は平和になるでしょう。

 慌ただしい時代が終わり、ようやくゆっくりできるのです。




評価お気に入り・感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。