TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました 作:雅媛
「助けていただいてありがとうございます。私はドリーと申します、辺境伯様」
「そんなに硬くならなくてもいいですよ、ドリーさん」
叩きのめした連中は、捕まっていた女性、ドリーさんの連れて来てくれた村の人達に預けました。ついでに首都の方へと馬での伝令をしてもらい、受け取りに来るように連絡をしています。
どうせ最後は死刑になるのだからさくっと殺してしまってもよかったでしょうし、ドリーさんが戻ってこなかったら実行していたでしょうが、一応何をしたかなどはいろいろ聞きだした方がいいのもありまして、せっかく生け捕りにしたのでちゃんと尋問をしてもらうことにしました。
そんな、捕縛と移送の手配を一通り終わらせる頃には日も暮れて、暗くなってしまっていました。
事務手続きはムアク男爵領に移動してしていたので、中途半端な場所で野宿をしないですみましたが、とはいえ泊る場所はまだ何も決まってません。
「そう言えばドリーさんは、家に帰るんですか?」
「いえ、父から売られたので、家には帰れないんです」
「あー、ご愁傷さまとしか言えないですね。でも納得していなかったと」
「当たり前です。父が道楽で作った借金をどうして私が返さないといけないんです。父がまず自分を身売りするべきでしょう」
ドリーさんは怒っていますし、そうだとすると身売りとして有効かどうか、かなり怪しいです。
身売りと奴隷化というのは、この国では合法です。当然奴隷だから何でもしていいわけではなくてルールはありますが、色々主人となる人の言うことを聞く必要があります。
そして、身売りができるのは本人だけです。親とか夫とか、そう言う関係ではできないわけです。普通、貧しい家ならば飢えるか飢えないかのギリギリで生きるより、身売りして奴隷になったほうが幸せになれますので、そう言う人たちが奴隷になっていきます。奴隷になれば、最低限主人は食事は与えないといけませんからね。
ですがドリーさんの場合、本人が承諾しないで売られたようです。まあ買った側も落ち武者もどきですから、実質的に人さらいというかなり違法なことを躊躇なくしていたのでしょう。
「そう言えば、辺境伯様はどのようなご用件だったのでしょうか?」
「人探しですね。魔道具技師のドランさんという方を探しているのですが」
「……」
「どうしました?」
「ドランは、私の父です」
またとんでもない巡り合わせを引いてしまったようです。
ひとまずドリーさんには危なくないように村の中で待機してもらい、ボクは情報収集を始めます。なかなか大ごとになってきています。
ドランさんという人は、ボクの予想では腕は立つけど経済的なセンスが壊滅している魔道具技師、という読みでした。ニキータさんがツケを認める程度には腕が良くて、でも返せなくなっているあたり経済的にはダメダメだろうというところです。
そうすると、給料で釣って勧誘するか、最悪借金を盾に債務奴隷にして連れて帰るか、と言ったことを考えていました。
この世界、奴隷と一言に行っても三種類あります。
一つは一般奴隷。身売りで売られた奴隷です。三種類の中では一番素性が良く、ですがあまり能力が高くない奴隷です。手に職がある人なら身売りしないで自分で稼ぎますからね。単純作業とか家事とか、そういうことをやってもらうのに向いています。一部は娼館などにも引き取られたりしますが、ああいうところはああいうところで技術が必要ですからね……
一つは債務奴隷です。何らかの理由で借金が返せなくなった人が奴隷になるパターンですね。この奴隷の特徴は、何らかの特殊能力を持っていることが非常に多いということです。何の技術も能力もないのに借金を貸す人はごく少数ですからね。一方で、経済活動に向いていない特徴もあります。返せるだけの技術、能力があってでも返せない訳ですから、まあ推して知るべしです。
最後が犯罪奴隷です。前世なら犯罪者は刑務所に捕まえておきましたが、あれ、すごいお金がかかるわけです。中世に人権なんてないし、お金もかけたくないので、使い捨ての奴隷にされます。当然保護は一番弱いですし、犯罪者ばかりですから使い勝手は全くよくありません。鉱山なんかで使い捨てたりするのが良くある使い方です。
ドランさんという人は二番目の債務奴隷に向いていると思いましたが、場合によっては犯罪者崩れですから、そうなると何か研究させるには向いていません。
裏で犯罪的なことされても困りますからね。
とはいえドリーさんがボクに嘘をついている可能性もあります。
なので裏付けとして、客観的な意見が必要になります。幸い、ボクは辺境伯ですし、大取物をした後ですから、ムアク男爵にお話を聞いてみることが可能です。
「お久しぶりです、ムアク男爵。突然お騒がせして申し訳ありません」
「いえいえ、最近近くにならず者が現れて困っていたところです。辺境伯に捕まえていただいてこちらも助かっております」
「そういっていただけると助かります。それに関連して一つ聞きたいことがありまして」
「なんでしょうか?」
「前キリル子爵に捕えられていましたドリーさんという方についてお聞きしたく。彼女曰く、勝手に父に売られた、と言っていました。子供だとしても親が勝手に身売りするのは犯罪です。もっともドリーさんが嘘を言っている可能性もありますから、ドリーさんとその父親について教えていただきたく」
男爵は男爵領の代表で、村の人のことはよく知っています。ボクも出身のライン男爵領のことならかなり詳しい自信があります。まあ最近人の流れも多そうですしボクが知っている男爵領じゃなくなっている可能性もありますが……
閑話休題、ドリーさんもドランさんもこの村の人のようですし、まずは男爵に意見を聞くのが一番手っ取り早いわけです。
「私としては、ドリーの言うことが正しいと思っています。彼女はこの村にある農具の修理や、小さな魔道具を売ることで生計を立てていました。村としても助かっていましたし、彼女自身は生計をたてられていたはずです」
「ドランさんの方は?」
「あまりいい男ではありませんな。娘に集っていたのは私も見たことがありますし、借金もあったと聞いております。昔は腕の立つ魔道具技師だったとは聞いておりますが、そういった仕事をしているとはトンと聞きません」
男爵が言うことを聞く限りはドリーが正しそうに思えました。
しかし、なんとなく引っ掛かります。
ボク個人の好みとして、部下がそういうたぐいの人間を使うことまでは否定しませんが、あまり悪人を直属の部下には使いたくありません。
ニキータさんもボクのそういう好みはわかっていますから、てっきり金にはだらしないが腕のいい人だと思い込んでいましたし、ニキータさんはそう分析していると思います。
ですが、男爵から聞いた人物像や、ドリーさんから聞いた人物像は結構違うように思えました。ニキータさんの人選ミスならそれはそれで納得ですが…… もうちょっと情報を集めてみましょう。
今日は男爵の家に泊まらせてもらうことにして、ドランさんのお家へとドリーさんを連れていきます。
ドランさんの家は村のはずれにありました。ぼろい家です。
ひとまずノックをしてみましたが反応がありません。全力でノックすると家が崩れそうです。
中に人の気配がするので、話しかけてみました。
「すいませーん、ドランさんいらっしゃいますか? 娘さんのドリーさんについてお話したくて伺いました」
「俺に娘などおらん!! 帰れ!!」
取り付く島もありません。
「父は、もう私に会いたくないのでしょう」
「そのようですね」
できれば双方の話を聞いてみたいと思いましたが……
このまま粘ると遅くなりそうですしひとまず今日も遅いですし、出直しましょう。
「そういえば、辺境伯様はどうして父を訪ねてきたのですか?」
「最近、辺境伯領内で魔石の鉱山が見つかりましたから、魔道具技師を探しているんですよ。ドランさんが魔道具技師と聞きましたので」
「なるほど…… よろしければ、私を雇いませんか? 私も父に魔道具技術を習っています。父ほどではないですが、お役に立てるかもしれません」
「それもいいかもしれませんね」
如才なく売り込みを掛けに来るドリーさん。魔道具は高いですから、後ろ盾が必要でしょうし、辺境伯に売り込みに来るのはまあ当然と言ったことでしょう。
まあそれもありかな、と思いつつ、ボクは本日泊まる男爵の家へと向かうのでした。