TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました 作:雅媛
農業して、剣術の訓練をして、の繰り返しで日々がいつも通り過ぎていきます。
必死に耕した畑の種植えも終わり、今の畑は緑のじゅうたんで埋め尽くされていてとても美しい時期になりました。
もう少し経つと雑草取りの仕事がありますが、今はまだ不要ですから比較的余裕があります。
のんびりしてもいいのですが、母の要望もあったので薬草採りを手伝いがてら、狩りをすることにしました。
「アーシェちゃんと一緒で楽しいわ~」
「転ばないでくださいよ、お母様」
いつも通りふわふわしている母は、お弁当と薬草採取用のナイフを持っていてとてもご機嫌です。
若干足元がおろそかなので転ばないかが少し心配ですが、まあなれたけものみちでしょうから大丈夫と信じましょう。
そんな母の格好ですが、ふわふわのレースが付いた白いドレスっぽいワンピースに、長手袋というご令嬢スタイルです。帽子をかぶって日傘まで持っているので、ご令嬢の外出と言われたらこんな格好だろうな、という姿です。
今歩いているのがピクニックコースなら完璧ですが、残念ながら薬草採りのために山に踏み入ってる状況なんですけどね…… 腰に下げている物々しい大きさの分厚い武骨なナイフがひどく浮いています。
「アーシェちゃんとのお出かけ、久しぶりだからおめかししちゃった♪」
「似合ってますよ、お母様」
ただのピクニック用ドレスではなく、ちゃんと魔法で
母の村でのお仕事は薬師ではありますが、おそらく本業は魔女になるのだと思います。銀髪ふわふわ系美女ですから、魔女という印象とはかけ離れていますが、魔法が得意なようでよくいろいろな品に魔法で
今の服も強化されていて、おそらく革製品程度には頑丈になっているのでしょう。
外見のふわふわっぷりに目をつぶれば、露出は全くないので、山に入るための姿にはなっているのは確かです。
「アーシェちゃんもかわいいわよ」
「お母様が用意してくれた服ですからね。でも似合っているなら嬉しいです」
正直ボクは服なんて全く興味がありません。
なので、暑くない服、という以上の判断基準を持っていないわけで、そのせいでいつも裸ギリギリの格好をして義兄にちゃんと服を着ろと叱られています。
そんなボクを見て、母は叱ったりはしませんが、代わりに結構服を作って着るようにねだってくるわけです。
母の作る服は、色々乙女なので、メンタル的に厳しいものが多いのですが、それでも最低1回は袖を通すようにしています。
今日着ている服も、そんな母の新作です。
ただ、可愛いといえるかは正直疑問なデザインです。
白いワンピースにリボンがついているというそれだけ見れば可愛らしいデザインに聞こえますが、ノーストラップでデコルテどころか胸の北半球まで丸見えですし、スカートも股下0cmですから、少しでも動くとパンツが見えるという素敵な露出っぷりです。ボクが暑がりなことに合わせてくれたのだと思いますが……
そんな危ういワンピースと、付け襟、腕は長手袋、脚はガーターベルトで固定されたロングソックスという何とも言えない組み合わせです。
母曰く、姫騎士をイメージしたとのことですが、こんな破廉恥な姫も騎士もいないよ、とボクは思います。そもそも姫騎士ってなんだ。姫が騎士とかおかしいでしょう。
まあセクシーさだけはかなりのもので、義兄に見せたら真っ赤になって「かわいいよ」と言いながらそっぽ向いていました。
義兄も私のチョイスだと露出が多いと叱れるのでしょうが、母チョイスなので何も言えなかったようです。
当然胸元も肩も太腿も露出していますが、ボクに限って言えば、森での活動程度ならば露出も特に問題はありません。
竜人の肌はかなり丈夫で、枝をひっかけた程度では傷がつきません。
そんな丈夫な肌にもかかわらず、触るとぷにぷになのだからどんな原理なのでしょう。我が身ながら不思議です。
そんな不思議は置いておいて、ボクの方の荷物は薬を入れる背負籠と、腰に下げた剣です。
剣と言っても片手で扱える程度の短いショートソードです。もともと家にあった、さび付いたロングソードを削って研いで使えるようにしたものです。錆を落としたら長さが半分ぐらいになってしまったため、刀身は分厚いですが、長さは持ち手合わせても70cmぐらいしかありません。
主な用途は邪魔な枝を切ったりする、鉈みたいな役割のモノです。
鉈でもいいのでしょうが、万が一熊とかが出た場合に戦えるようにとこちらを持ってきています。
あと、鞘がカッコいいんですよね。鞘は母が作ってくれたものなんですが、色とりどりの糸で飾り付けられていて、非常に見た目が良いのです。
そういうこともあり、大体外出の際はこの武器としては中途半端なショートソード持ち歩いています。
「でーと♪ でーと♪ アーシェちゃんとデート♪」
「デートならお義父さまとしてください。そして早く娘離れしてください」
母は楽しそうに歩いていますが、ボクは周りの気配を探りながら進みます。
春も結構暖かくなってきましたから、熊が出ても襲ってくることはないと思いますが、場合によっては危ないですし、こちらに驚いた猪が突進してくるとこれも結構危険です。
なので一応ある程度は警戒しながら進んでいたのですが……
「お母さま」
「? どうしたの?」
ボクが急に止まったので、後ろをついてきていたお母様も止まります。
何故止まったかと言えば、生き物の気配を感じたためです。
数は3。前方に固まっています。
鹿や猪の親子か、とも思いましたが、それにしては大きさが3つとも同じぐらいです。
それに……
「金属音がします」
「……」
母も警戒をし始めます。
金属音がするということは、十中八九ぐらい、人だということです。
しかも、それなりに武装した人間の可能性が高いということが予想されます。
一般人はそんな金属製品身に着けていませんからね。
これがこの辺りの薬草採取などを目指す冒険者なら安心ですが、そのような可能性はまずないでしょう。
なんせ、ボク達の村は辺境過ぎますし、そもそもこの辺りを探索するならうちの村に滞在をしているはずです。
村に近寄っていない以上、山賊あたりが妥当かと思いますが…… さて、どうしましょうか。
逃げるべきかと考えていましたが、悩んでいたのが失敗だったようです。向こうもこちらに気づいて、近寄ってきました。
木々の合間から現れた人たちは、薄汚れた鎧とロングソードを持った完全武装の人たちでした。
雰囲気が殺気立っていて、とても友好的には思えません。
「どうやって標的に接触するか悩んでいたが、わざわざ来てもらえるなんてついてるな」
「標的?」
「そうだ、お前らが邪魔で消してほしいっていうやつらがいっぱいいるんだよ。聖女イヴリン殿下、そして皇女アーシェロット殿下」
「……」
何を言っているかさっぱりわかりません。確かに母はイヴリンで、私がアーシェロットですが、名前以外身に覚えがないものばかりです。なんだ聖女って。なんだ皇女って。
まあ母の神々しい美しさを考えれば、百歩譲って聖女も似合うかもしれません。
でもボクに皇女は無理でしょ。男爵令嬢だって無理っぽいのに。村の人から貴族だと思われてないのは確実です。
まあそのおかげでよく果物とか分けてもらっていますし、貴族になんかなりたくもないんですが。
ただ、こいつらの勘違いは置いておきましても、命を狙われているのは間違いないでしょう。
ボクは剣を抜いて右手に持ち、左手には鞘をもって構えます。1対1ならまだしも、1対3ではかなり厳しいです。向こうが持っているのは威力の高いロングソードで、リーチの差があるのも厳しいです。
ですが、これ以上ないものねだりをしてもどうしようもありません。最低でも逃げる隙を作るため、ボクは身構えるのでした。