TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました   作:雅媛

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4 苦戦

 ボク達を狙った暗殺者たちが、剣を抜いて近寄ってきます。

 ニヤニヤと下種な笑みを浮かべており、勝利を確信しているのでしょう。

 こちらは女二人ですし、もしかしたら殺す以外のこと、具体的にはレイプなども考えているのかもしれません。

 

 何にしろ全くもって不利な状況です。

 三対一という数の差がまず厳しいです。母は、戦力として数えるのは難しいでしょう。母がどこまで戦闘用の魔法を使えるかはわかりませんが、魔法は発動までに時間がかかりますから、発動する前に攻撃を受けてしまうでしょう。

 ですので、ボクがどうにかしないといけないのですが、人数不利に加え、間合いの広さの差も厳しいです。

 なんせ相手は成人男性であり、ボクより体格が圧倒的に良いです。3人とも身長は170cmを超えているでしょう。それだけで腕のリーチに差があるのに、武器もこちらはショートソード、相手は両手持ちのロングソードです。

 間合いが何十cmと相手の方が長いわけで、これもまた圧倒的に不利な状況です。

 

 

「お母さま……」

「ウェントゥス…… フレマト……」

 

 

 お母様に逃げるように言おうと思って声を掛けましたが、すでに魔法の呪文を詠唱し始めていました。

 確かに逃げるのは難しいのはわかっています。森に相手が慣れていなければ万が一、というレベルでしょう。だから母は戦うことを選び、相手が油断している隙に準備を進めて相手にたたきつけようと考えているのでしょう。

 ですが戦闘用魔法の準備は時間がかかります。相手に大きな影響力を与える魔法を使うためのマナは膨大な量になり、体内にある魔力だけではとても足りません。そのため、マナを周囲から集める必要がありそれが準備時間として必要になります。

 ボクも正確なことは知りませんが、下手すると数分かかるとか聞いたことがあります。

 それなら僕がするべきことは一つだけです。

 

 こちらの動きに気づいていない三人を観察し続けます。

 少しずつ近づいてくる彼らが、あと三歩ぐらいの距離まで近づいた瞬間、ボクは一番前にいた男に襲い掛かります。

 

 

「でりゃああああああ!!!!」

「っ!?」

 

 

 大上段から振り下ろすボクの一撃を慌てて受け止めた男に、一瞬ののち、さらに力をかけて思いっきり吹き飛ばします。

 無力化するなら相手の剣を壊してしまうのが一番だとは思いますが、こちらの研ぎ直した中途半端な剣と向こうのロングソードでは向こうのロングソードの方が丈夫でしょう。試合で父にやったウェポンブレイクをやったとしても、おそらく相打ちになって双方の武器が壊れるだけとおもわれます。下手するとこちらの剣だけ壊れるかもしれません。そうすると、鞘を入れてもボクが壊せる武器は2つ。相手は3人なので、1人どうしようもなくなってしまいます。

 なので、一瞬に力を籠めるのではなく、大きく振り回して受け止めた相手を吹き飛ばしました。油断していたのでしょう、男は木々の向こうまで飛んでいきました。吹き飛んだ時のダメージも考えればすぐには戻ってこれないと思われます。

 そのまま流れるようにもう一人ぐらい吹き飛ばそうかと考えたのですが……

 

 

「この野郎!!」

「くらえっ!!」

「野郎じゃないです!!!」

 

 

 残念ながら残った二人は驚いて硬直したりすることなく、すぐに襲い掛かってきました。喧嘩慣れしているのか、それとも殺し合いになれているのか、どちらにしてもろくでもない相手なのは疑いがありません。

 右手の剣と、左手の鞘でそれぞれの一撃を防ぎます。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 相手が大人の男性とはいえ、力には自信がありますから、力負けはしません。

 ですが、鞘の方は明らかに不利でした。

 利き手ではない上に、鞘自体が太いため、上手く握れないのです。

 直撃は防ぎましたが、そのまま鞘を押しのけてた一撃がボクの左二の腕を切りつけます。慌てて振り払いましたが、ざっくりと切られた腕が熱く痛みはじめました。

 

 

「三人に勝てる訳ないだろ。おとなしく諦めればかわいがってやるよ」

「……もうすでに二人ですけどね」

「減らず口を!!」

 

 

 下種でロリコンなことを言う男に思わず反論すると、一人が怒りで切りかかってきました。

 最初と違い、同時の攻撃ではないので、右手の剣で受け止め、弾き飛ばします。

 最初のように大きく弾き飛ばすのを狙ったのですが、上手くいきませんでした。左手の傷が思ったよりも深いようで、痛みでバランスが崩れているのだと頭の中の冷静な部分が判断しました。

 

 

「この野郎!!」

「だからやろうじゃないって…… っ!!」

 

 

 もう一人が慌てて切りかかってきたのを躱したつもりでしたが、振り下ろした剣先がボクの右太ももをとらえました。丈夫な皮膚と言っても剣には十分なほど丈夫でないようで、大きな切り傷ができます。

 脚まで潰されたら戦うのが難しくなります。幸い骨まで届かず、肌を切られただけですが、血は出ていますし、集中を削ぐには十分な傷です。

 相手もそれに気づいたのでしょう。慎重にボクの方へと距離を詰めてきます。

 もはやこれまでか、と思った瞬間、風が吹きました。

 

 ドゴッ!!! 

 

 不可視の鉄槌が男たちを吹き飛ばしました。

 

 

 

 

「うちの娘に何してくれてるのよ!!」

 

 

 激怒した母が、髪をたなびかせながら魔法を連発しています。

 風弾が男たちを滅多打ちにして、同時に足元から伸びた植物を利用した拘束魔法が復帰しようとフラフラ戻ってきた男含め、三人とも拘束します。

 そのまま雷が落ちれば戦闘終了です。本当に一瞬でした。

 準備ができた魔導士は強いという話は聞いていましたが、ここまでかと思うレベルの強さです。

 あまりの圧倒的な光景にあっけにとられてしまいました。

 

 

「アーシェちゃん! 血が出てるわ! 大変!!」

 

 

 一通り賊を叩きのめした母は、慌ててボクに駆け寄ってきます。

 傷口に慌てて薬草を貼り付けはじめます。

 

 

「傷が残らないようにするから、お母さん頑張るから!!」

「残っても気にはしませんが……」

「クレス君なら気にしないと思うけどそれはそれ、これはこれよ!!」

「なんでお兄様の名前が出てくるんですか……」

 

 

 いやわからなくはないですけどね。傷が付いたらお嫁に行くときに問題になりかねないという話だと思います。

 で、うちの村ぐらい小さい村だと、相手が誰とか、これくらいの年齢になると大体予想ができてくるわけです。年齢的に相手も限られますからね。

 で、ボクの相手はというと義兄ぐらいしかいないですし、義兄の相手の最有力候補もボクなのはなんとなく察しています。そういう意味で義兄は気にしないという発言が出てきたのでしょう。

 

 義兄のことは大好きですが、恋愛関係というと少し悩みます。

 なんせ、前世の記憶を引きずっているせいでそういう目で見る相手は基本女性なんですよね。

 義兄はマッチョな男らしい男性ですから、恋愛という意味では好みからすさまじく外れています。

 義兄の方はどうなんでしょうね。ボクが煽ると結構反応してくれるので、外見は好みなんだと思いますが……

 

 とはいえ結婚が必須となればやはり相手は義兄しかいないでしょう。

 いきなり知らない男あてられても困りますし、イケメンとか見ても爆発しろという感想しか思い浮かびません。ましてやキスとか子作りとか、気持ち悪すぎて絶対無理です。

 義兄が相手だとすると…… きついですが我慢ぐらいは出来そうな気もします。

 結婚しないという選択肢もありますが、子供欲しいなぁという漠然とした思いもあるので……

 

 そんなことをむにゃむにゃと考えていたら、母の治療は終わりました。

 薬草を貼って、布で巻くという応急処置です。

 固定されていて動きにくいですが、動けないほどでもありません。

 

 

「じゃあボクが村まで戻って大人を呼んできます」

「駄目よ、二人で戻りましょう」

「でも、そうすると逃げられちゃうかもしれませんよ」

 

 

 ここに誰かひとり残って見張らないと、目を覚ました男たちが逃げてしまうかもしれませんし、もしかしたらまだ隠れていた人がいて襲ってきたりするかもしれません。

 準備状態の母ならそういったことにも対応できるでしょうし、ボクが人を呼んでくるのがベストだと思うのですが……

 

 

「戻るまでに誰かが待ち伏せしていたら、今のアーシェちゃんじゃどうにもできないわ。二人で戻るのが安全よ」

「ああ、そう言う可能性もあるんですね」

「こいつらが逃げてしまうかもしれないけど、アーシェちゃんの命の方がずっとずっと大事なの。だから二人で戻るのよ」

 

 

 襲撃犯の身柄と、ボクの安全、結局どちらを重視するか、という話だったようです。

 で、母は迷いもなくボクを取ると。

 そういう意味だと気づくとなんかとても嬉しくなってしまいます。

 

 母はボクを抱え、臨戦状態のまま山を下りていきます。

 フカフカな母に抱えられ、こんなことがあったにもかかわらずボクはご機嫌になってしまいます。

 

 

 

 

 最終的にボクと母は無事村に戻れましたが、父が襲撃現場に戻ったときには襲撃犯たちは装備だけ残して皆いなくなっていたそうです。

 

 

「ああいうとき、報告者が一人以上どこかに隠れていたはずだからね。しょうがないわよ」

「じゃあボク一人帰っても良かったのでは?」

「そうしたら報告者はアーシェちゃんを狙ったかもしれないわね」

「…… どうしてボクは狙われたんですか? 皇女ってなんですか?」

 

 

 今日の一番の疑問はここです。田舎娘を暗殺する必要なんてありません。あれだけの装備と人員を準備するだけで手間もバカにならないはずですから。

 その理由をきっと義父と母は知っているはずです。

 

 

「あの人たちが帰ってきたら、ちゃんと説明するからね」

「……わかりました」

 

 

 平和な生活が終わろうとしていました。




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