死の支配者が新たな出会いを求めるのは間違っているだろうか   作:全ての道はところてんに通ず

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戦闘描写が長くて私燃え尽きそうよ…(満身創痍)


備えあれば憂いなし

【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり――

 

防衛線の前線に立ち、レフィーヤは詠唱を開始する。

彼女が詠唱を開始するとそれに呼応するようにして周囲の魔力は彼女へと収束し、それはしだいに一本の矢の形を取る。

しかし、それは多くの魔導士の目から見れば自殺行為そのものであった。

魔力を使用した魔法の行使。それはいくら魔法の扱いに長けているエルフであったとしても並々ならぬ集中力を必要とするものだ。

だからこそほとんどの魔導士は魔法の行使を行う際にはその場から動けず、固定砲台のような役割をパーティの中で果たしている。

しかし、レフィーヤが今行なっていることはそれとは全くの逆である。もしこの場にロキファミリアのママとも呼ばれているとあるハイエルフがいたとしたら、すぐさま後方へと引き戻され、数時間の叱責をされていただろう。

そんなレフィーヤに対し、疲弊した防衛線を突破した数匹のモンスターが迫る。

彼らは他の魔導士の例に漏れずその場で停止して詠唱をしている人間(レフィーヤ)を目にすると、顔を笑みで歪め彼女へと襲いかかる。

今までのレフィーヤであれば、この段階で目の前のモンスターに対しての恐怖により詠唱を止めその場にうずくまっていただろう。

 

――狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】

 

しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その瞳にはモンスターへの恐怖はかけらすら存在せず、モンスターを真っ直ぐに見つめるその瞳にモンスター達は思わず立ち止まる。

 

「...ふッ!」

 

そして、そのスキを冒険者は見逃さない。

アイズは足を止めたモンスター達に肉薄し、その首を貫くことで彼らを消滅させる。

 

「レフィーヤ、モンスター達はあそこに集まってる。魔法をお願い」

 

「わかりました、【アルクスレイ】!」

 

アイズの指さす方角にレフィーヤは杖の先端を向け、魔力の凝縮された矢をモンスター達に向けて打ち出す。

モンスター達は自分たちに向け高速で飛翔する物体を避けるために体を動かそうとするが、密集した状態の彼らでは互いが互いの動きを阻害し満足に移動することすらかなわない。

そうして矢は密集した彼らを一度に貫き、後方にいる他のモンスターを巻き添えにしながら爆発しその場に魔石を残し消滅する。

 

「周囲のモンスターはかなり少なくなりましたね。今から長文の魔法を詠唱するのでアイズさんは引き続き私の周囲のサポートをお願いします」

 

「わかった、今度は一匹もそっちに通さないから」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、無理はしないでくださいね」

 

レフィーヤはアイズの言葉に対してあいまいに微笑み、新たな敵を迎撃しに走り出した背中を見つめる。

彼女の心の中には今、一つの疑問が渦巻いていた。

それは、以前までの自分であれば目を輝かせながら狂喜乱舞していたであろうアイズの言葉に自らの心があまり揺れ動かなくなっていることだ。

少し離れていた間に彼女に対する信頼が下がってしまったのだろうか。いや、そんなことはない。今でもアイズという人物はレフィーヤの中でひと際尊敬する人物であると確信を持って言える。

ではこの胸の中に残る違和感はいったいなんなのか。

レフィーヤは長文詠唱に入るため懐に括り付けたポーチから一本のマナポーションを取り出し、それを口に含みながら思考をめぐらせる。

そしてレフィーヤは一つの結論にたどり着く。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

なまじ才能にあふれアイズやリヴェリアなどの圧倒的に格上の仲間たちと冒険していたことも起因しているのだろう。いつしかレフィーヤにとってダンジョンに潜るという行為は自らの道を切り開くものではなく、彼らが切り開いた道を後ろからついていくだけのものとなっていた。

それはレフィーヤが共に冒険をする者たちのことを仲間としてではなく、劇場にいる観客のような視点から見ていたことに他ならない。

 

「ーーッ!」

 

レフィーヤは緩んでいた気持ちを引き締めるように自らの頬を張る。

思い至る己の浅薄さに心底腹が立つが、ここで自己嫌悪に浸るのは以前までの自分と変わらない。

 

『すでに起きてしまったことは、どんな方法を使っても覆すことはできない。自分を責めたところで残るのは罪悪感か後悔くらいなものだ。重要なのは、次にその失敗を繰り返さないために失敗から何を学ぶかだ』

 

モモンガはおそらくレフィーヤのこの歪みを少ない交流の中から見抜いていたのだろう。だからこそ、レフィーヤがその事実に気づいたときのためにあんな助言をしてくれていたのだ。

ロキファミリアの上級幹部たちと比べてもあまりに大きすぎるその姿を理解していたつもりであったが、その想定をやすやすと乗り越えるその底知れなさに畏怖とともに強い敬意を抱く。

しかしその敬意は憧れとしてだけではない。いつか並び立つ壁としてである。

 

「憧れるだけじゃ足りない!私は、私の道を切り開く!」

 

そしてレフィーヤはその決意の咆哮とともに再び杖を掲げ、魔法の詠唱を始める。

 

【ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れーー

 

彼女が詠唱を始めると、その光に吸い寄せられるようにしてモンスターが集まってくる。

 

「レフィーヤのところには、行かせない」

 

しかし、それを阻むようしてアイズは立ち塞がる。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

彼女は剣を胸の前に掲げると詠唱と共に自らの剣に風を纏わせ、突然の新手に一瞬動きの止まった彼らに切り掛かる。18層に存在するモンスター達にとっては目視すら叶わないレベル5による神速の剣は、彼らの存在を知覚する前に消し去っていく。

防衛線付近に存在していたすべてのモンスターを魔石へと変えたアイズは、乱れた呼吸を一呼吸置くことで整えるとレフィーヤを一瞥する。

 

ーー繋ぐ絆、楽宴(らくえん)の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい】

 

今までの彼女とは明らかに違うそのまっすぐとした立ち姿、そして決意に満ちたその瞳にアイズは後方にて魔法の詠唱を行っている彼女の師リヴェリアの姿を幻視する。

短期間での過剰な経験値取得による急成長、それ自体は珍しいことではないが前例はある。かく言うアイズ自身も毎日のようにダンジョンに潜り続けることによりレベル5まで駆け上がってきた。

しかし、その成長はステイタス面での成長がほとんどである。さらに言うならレフィーヤがダンジョンに取り残されていたのはたった半日。にもかかわらず彼女はレベルとちぐはぐに感じるほどの雰囲気を宿している。

最近頭打ちとなっている自らの成長に役立つことがあるかもしれない。後でティオネと一緒に何があったのか聞こう。

アイズは後でレフィーヤに尋問を行うことを決心し、防衛線に再び集まってきたモンスターの迎撃に駆け出す。

そしてその瞬間、彼女が詠唱を終了したことにより足元から淡く光る魔法陣が出現する。

 

【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風(うず)を巻け――

 

そしてレフィーヤは更なる詠唱を開始する。

先ほどの詠唱は召喚魔法(サモン・バースト)であり、その効果は同族であるエルフの魔法に限り詠唱とその効果を完全把握することによりその魔法を使用できるというオラリオを探しても二人として居ない彼女の代名詞ともいえる魔法である。

彼女自身はこの魔法を、今まで発現したにもかかわらずあまり使うことをしなかった。

他者の魔法を模倣する。そんな方法を取ることでしか役に立つことすらできない自らの無力を実感し続けていた。それに自分がこの魔法を使ったことでもし大きな失敗をしたら、魔法を教えてくれた師匠であるリヴェリアに恥をかかせてしまうかもしれない。

今でもその気持ちはあまり変わらない。リヴェリアの詠唱を復唱するたびに自身の胸中に言いようもない恐怖が渦巻くのは事実だ。

 

――閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬--我が名はアールヴ】

 

しかし、レフィーヤはその恐怖を押さえつけ詠唱を完成させる。

足元の魔法陣は詠唱を終えると同時に光り輝き、漏れ出した魔力の影響か彼女の足元には小さな氷の結晶が生み出されていく。

そして彼女は輝きの収束点である杖の先端を正面へと向け、限界まで引き絞った矢を放つようにしてまっすぐにその撃鉄を振り下ろす。

 

「――ウィン・フィンブルヴェトル!!」

 

瞬間、杖へと収束していた膨大な魔力は空気すらも凍てつかせる死の風となって正面のモンスター達へと吹き抜ける。

冒険者たちに濁流の様に襲い掛かるモンスター達を一瞬のうちに物言わぬ彫像へと変えていくその風は地を這うようにして領域の奥へ奥へと吹き進んでいく。そして最後の余力を放出するがごとく3箇所の通路を塞ぐほどの大氷壁を生み出した。

 

「モンスターの出てくる道を塞いだ!すごい、すごいよレフィーヤ!」

 

「ぼさっとすんな!チャンスは今しかねぇ!氷が解ける前にあいつらぶっ潰すぞ!」

 

「思うように動けなくてムカついてたし…テメェら全員バラバラのミンチにしてやらァァァァァ!!」

 

ティオネ達の雄たけびを筆頭に前線で防衛をしていた冒険者たちは動きの止まったモンスター達に一斉に切りかかる。そうして戦線は一気に押し上げられ、先ほどまで数を数えることがバカバカしくなるほどに存在したモンスターの大群は今や目視で確認できるほどにその数を減らしている。

 

「今のは…私の魔法か?」

 

「しかし当人である君はここにいる。となればあの魔法を使ったのはおそらくレフィーヤだね」

 

「ああ、それは私にも分かる。無事なようで安心した…だが、あれはいったいなんの冗談だ?あんな緻密な魔力操作は私ですら難しい」

 

「僕たちと離れている間に何かがあったことは確実だろうね。詳しく聞きたいところだけど、その前に状況の解決に専念しよう。ここで決着をつける、手の空いている者は避難誘導をしているガレスと合流して残ったモンスター達の討伐を」

 

「「「「了解!」」」」

 

フィンは近くにいた団員たちを引き連れ、未だ戦闘音の鳴りやまない前線へと進行を開始する。

暗雲立ち込める戦況が瞬く間に改善されたことにより、ロキファミリアの団員たちが今まさにその勢いを取り戻さんとした、その時――

 

地響きが響き渡る。

フィン、リヴェリア、ガレス、アイズ、ベート、ティオネ、ティオナ、そしてこの場にいるすべての冒険者たちが動きを止め、地響きの方角を見やった。

明らかに領域全体の空気が一変している。

領域全体に響き渡っていた喧騒はぴたりと止まり、静寂がこの場を支配する。

そして、一瞬の静寂を打ち砕いたのは地響きを引き起こした主――18階層の天井に触れんばかりの巨躯を持つモンスターが足に張り付いた氷塊を破壊した音であった。

彼は足元の氷塊を足蹴にするようにしてことごとくを破壊する。そして塔のごとく巨大な尻尾を鞭のようにしならせ、そのまま正面のゴミを払うように()()()()()()()()()()()()()()

衝撃波とともに地面はひび割れ、巻き込まれた氷像は地面の隙間へと姿を消していく。

人間だけでなく、モンスターも区別なく殺戮する人知を超えた文字通りの『怪物』。

オラリオ最大勢力の一角であるロキファミリアですら遭遇したことのない異常事態(イレギュラー)がそこには立っていた。

千を超えるモンスターの大群にすら整然たる態度を崩さなかったフィンの頬に一筋の汗が伝う。

右の親指に巻いた包帯からは赤い雫が染みつき、地面へと零れ落ちていた。

 

『――』

 

怪物はため息を吐くような唸り声を上げ、真正面に棒立ちとなって立っている冒険者たちを紅く光り輝く両眼でとらえる。そして、小さく身じろぎをすると。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!!』

 

一瞬の静寂を塗りつぶす、超弩級の咆哮を放った。

領域すべてを吹き飛ばす息吹(ブレス)にも匹敵する音の爆発、怪物の周りにクレーターを形成するほどの音塊が響き渡ったその直後、その場にいた冒険者のほとんどが意識を手放し地面へと沈む。

レベル2の冒険者は耳から血を流し、レベル3は血を流すことは無いにせよ時折痙攣を繰り返しながらも目覚める様子はない。

ではそれ以上の冒険者には効果がなかったのか。答えは否、断じて否である。

彼らはその場に縫い付けられてしまったかのように動けない。体が石化してしまったかのように、その瞳すらも動かせなかったのだ。

圧倒的な格上、そんな言葉がちっぽけに感じるほどの存在。

それを否応がなしに肌で感じ、フィンは歯嚙みする。

己は自分でも気づかないうちに慢心していたのだ。ここはダンジョンの中腹、既に過ぎ去った死線(デッドライン)。そんな場所で自らに対処できない異常事態(イレギュラー)が起こることはない。

その判断はあまりにも甘かった、今この場で起きている状況はロキファミリアはおろか、オラリオにいる冒険者が総出となったとしてもおかしくないほどの危機である。

 

『■■■■■■■■■!!』

 

そんなフィンの思考を置き去りにして怪物が進撃を開始する。

彼らをまっすぐに見つめるその双眸には、地獄の底から湧き上がるような殺意が込められている。

自らに向けられたその感情に、この場にいる全員が自らの死を幻視する。

 

その時、止まったロキファミリアの時間を動かすように一つの影が怪物に向けて疾走する。

迷宮(ダンジョン)の中であっても煌々と輝く水晶の光が、その山吹色の長髪を反射する。

レフィーヤ・ウィリディスは恐怖に凍り付いたロキファミリアの仲間を置き去りにして、まっすぐに怪物に向かい突き進んでいく。

確かにあの怪物は怖い。レフィーヤの表情にも他の団員たちと同じように恐怖の感情は存在した。

しかし、彼女はこれ以上の恐怖を知っている。死を幻視するほどの恐怖ではなく、()()()()そのものを。

端的に言えば、彼女の恐怖心はモモンガにあったその瞬間に少々壊されていたのである。

彼女は怪物へと疾走しながら懐から一つの袋を取り出す。その袋の正面には『備えあればうれしいな』というなんとも気の抜ける文言が印字されていた。

これは、モモンガがレフィーヤと別れる際に渡してくれた拳一つ分ほどの小袋である。

 

『この中には私が便利だと思ったアイテムがいくつか入っている。使いどころを選ぶが、うまく使えば戦況を変えることもできるかもしれないぞ』

 

『そんな便利なものを…ありがとうございます!』

 

『礼には及ばないさ、私にとってはゴミアイt、無用の長物だからな!!』

 

『?』

 

彼は使いどころを選ぶと言っていた。

あの時は言葉を濁していたのだろうが、今なら理解できる。彼の言う使いどころとは今なのだ。

レフィーヤは小袋に手を入れ、その中を探る。

そして怪物は自らに迫る少女を見つめると、その表情を歪め爪を振るう。

爪の薙ぎ払いにより大気はすべてを切り裂く風の刃となり、レフィーヤへと襲い掛かる。

しかし、レフィーヤが小袋から取り出した布切れを振った瞬間、目の前の少女を殺戮せんと迫っていた刃は最初からそこに存在しなかったかのように消失した。

 

『――■■■■■!』

 

怪物はその光景に驚愕をあらわとしていたが、次の攻撃として尻尾を振り下ろす。

 

「…レフィーヤッ!!」

 

圧倒的な強さを持つ龍種によってファミリアの大切な仲間が殺されようとしている。

自らのトラウマを限界まで刺激するその光景に身体の硬直から何とか抜け出したアイズから悲鳴のような声が上がる。

しかし、レフィーヤの表情は絶望に歪むことはない。

彼女が再び布切れを迫る尻尾へと振ればその照準は横にずれ、衝撃はレフィーヤを避けるように霧散していく。

この布切れの名前は『ひらりんマント』、レア装備ガチャの中では中当たりに分類される回数性のアイテムであり、使用することで魔法のこもっていない60レベル以下の攻撃を無効化し、装備すればフィールド効果を打ち消す効果を持っているのである。

怪物は目の前の光景を信じられないのか躍起となり攻撃を繰り返す。しかし、レフィーヤはそのことごとくをその外套を振るうことにより右へ左へと受け流す。

 

「…何が起きていやがる、あの攻撃はあの猪野郎でも食らえば致命傷だって分かる。だがそれをあのアイズの腰巾着野郎が防いでやがる。あの布切れに細工があんのか…?」

 

「言ってる場合!?早くレフィーヤの援護に行かないとヤバいって!」

 

「落ち着きなさいバカティオナ!あんな攻撃無策で食らったらミンチになるじゃすまないのよ!?」

 

「でも!ここで何もしなかったらレフィーヤが死んじゃう!!」

 

恐慌状態から徐々に立ち直っていくロキファミリアの団員たちは目の前の光景に呆然としながらも渦中の中にいるレフィーヤを助けるために各々の武器を持ち直す。

体も、心も依然として死を幻視するほどの恐怖に委縮している。しかし、自分たちよりレベルの下回っている少女が戦っているのにも関わらず棒のように立っていることは彼らの残されたロキファミリアのプライドが許さなかった。

だが、怪物が彼女に攻撃を加えるたびに発される衝撃波はレフィーヤ以外の人間が戦場に入ることすら許さない。

衝撃波により吹き飛ばされた冒険者はダンジョンの床や天井に叩きつけられ口から血を噴き出す。

そんな冒険者たちの姿を目撃した怪物はニヤリと表情を歪め、彼らの姿をあざけ笑う。

瞬間、彼の顔面に向けて雨のような炎の矢が放たれる。

 

『■■■■■■■■ー!!』

 

怪物は魔法の飛んできた方向に視線を移し、今度はその表情を怒りの籠ったものへと変える。

レフィーヤはそんな怪物の表情をまっすぐに見つめ、小瓶を咥えた口元に笑みを浮かべる。

 

「今、レフィーヤの詠唱する声が聞こえたかい?」

 

「いや、全く聞こえなかった。だがあれは間違いなくレフィーヤのヒュゼレイド・ファラーリカだ」

 

「並々ならぬ修練によりついに無詠唱で魔法が行使できるようになった。なんて可能性は?」

 

「冗談を言うな。そんなことができるなら私は並行詠唱を体得しようとは考えなかったさ。おそらく、咥えている小瓶に入っていたであろう魔法薬による効果だろうな…だが、そんな魔法薬が存在するなんてことは噂ですら聞いたこともないぞ」

 

自分たちと一回り、二回りも年若いレフィーヤの援護に回ることすらできないフィンとリヴェリアの二人はそのふがいなさに拳を握り締めながらも少女の奮闘を眺めている。

レフィーヤの飲んでいた魔法薬はこれまた袋に入っていたアイテムの一つであり、その効果は飲んだ後に放つ超位魔法以外の魔法発動までの時間を大幅に短縮し、その魔法の威力を向上させるというものである。

一見すれば魔法詠唱者(マジックキャスター)であるモモンガにとっては大当たりの部類に思えるかもしれないが、ユグドラシルプレイヤーの中でもカンスト勢の一員であるモモンガにとってはこの小瓶を飲んで攻撃をするよりも魔法を三重にした方が総合的なダメージ総量が高いのである。

しかし、魔法の発動に詠唱を必要とするこの世界の住人にとってその効果はあまりに大きい。

強化された魔法攻撃を真正面から食らったことにより、怪物はその巨体を苦し気に震わせる。

 

『■■■■■■■!』

 

それでも怪物は攻撃の手を緩めない。彼は目の前の少女に向けお返しとばかりに再び風の刃を差し向ける。

その攻撃は先ほどの様に彼女の振るう外套によって防がれる。しかし、幾度となくその攻撃を防いできたその外套にもついに限界が訪れたのだろう。外套は鈍く光を放ったと思うと、ガラスが四散するような音を立てて消滅してしまう。

 

「――!」

 

レフィーヤの口から初めて動揺したうめき声が漏れる。そして怪物はそんな彼女の動揺を見逃さない。

振るわれる尾、目の前の1人の少女に振るうには過剰とも思えるその一撃は、必ず殺すという明確な意思を以て振り下ろされようとする。

回避は不可、受け流しは不可、受け止めることはもってのほか、もはや彼女の死は確実なものとなり眼前まで迫っている。

 

「せやぁぁぁぁぁッ!!!」

 

それでもレフィーヤの闘志は消えない。彼女は怪物の尻尾に付いている鱗のわずかな隙間に向け杖の先端を突き出す。

もちろん戦士職でもないレベル3の苦し紛れの一撃がこの怪物に通用するとは到底思えなかった。

しかし、ここで諦め目を閉じてしまえば元の弱い自分に逆戻りしてしまう。それに比べたら、ここで死んだ方がよっぽどマシだ。

そんな彼女の決意とは裏腹に彼女の渾身の思いを乗せた魔杖は迫る鱗により弾かれ、無慈悲に砕け散っていく。

そして怪物の一撃が今まさに彼女の体を押しつぶそうとした、その時。

致命の一撃は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




次回、ついにモモンガ様がロキファミリアの前に現れるのか!?

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