死の支配者が新たな出会いを求めるのは間違っているだろうか   作:全ての道はところてんに通ず

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聖王国編と5期を見てたら書きたくなってしまいました。



ロキファミリアの意地

レフィーヤは目を見開き、驚愕をあらわにする。

しかしその目線は怪物の尾には向いていない。その先には、怪物の一撃を受け止めるある男の姿があった。

背中に背負っていた戦斧を怪物の尾と打ち合わせなおも拮抗を続けているその男は、いつも余裕を持ったしわと髭の蓄えた顔を歪ませ、全身には衝撃によるものか亀裂が入ったかのような傷が浮かび上がり血が噴き出していくが、その眼の闘志が揺らぐことは決してない。

 

「……オォォォォォォォッッッ!!!」

 

『■■■■■ッ!!』

 

彼は雄たけびともに戦斧を振るい、怪物の一撃をついに弾き飛ばす。

怪物は自らの尾が弾かれたことにより大きくバランスを崩し地面へと崩れ落ちる。

まさに城砦、その両足は大樹の様に地面へと打ち付けられ傷だらけになりながらもその地に立つドワーフの巨大な背中を、レフィーヤは呆然と見つめる。

 

「…ガレス、さん」

 

「おう、リヴェラの町にいた冒険者たちの避難が終わったもんで加勢に来た。怪我は…ないようじゃな。よかったよかった、ガハハ!」

 

「いや、でも、その傷…!」

 

「なに、この程度の傷なぞ若い頃に飽きるほどしたわい!…それより、気を抜くのはまだ早いようじゃぞ」

 

手に持つ戦斧を握りなおしたガレスの目線の先には、先ほどの怪物の姿がある。

彼は再び立ち上がり、その双眸をレフィーヤ達へと向ける。表情に先ほどまでとは比べ物にならないほどの怒りを滲ませた彼の鱗には無視できないほどの亀裂が走っていた。

 

「お主の奮闘のおかげであの化けものもなかなかの傷を負っておる。じゃが奴さんを倒すにはまだ足りんようじゃな」

 

「………」

 

レフィーヤは思考を巡らせる。

先ほどまであの怪物の攻撃を防いでいたあの外套は既に砕けている。しかしガレスが一度攻撃を防ぐだけであれほどの負傷をしてしまっているのだ、ロキファミリアの中にあれを無傷で防ぐ手段を持つ者は誰一人としていないだろう。

今からでも退却して体制を立て直す?いや、意識を失っている者の数が多すぎる。それにここで退却すればあの怪物はダンジョンに残る。その後にどれほどの被害を出すか見当もつかない。

…小袋に唯一残っている()()()の使いどころはここじゃない。使うとするならば、それはあの怪物が同じく切り札を使った時だ。

そのためには何としてでもあの怪物を追い詰めなければばならない。考えろ、あの怪物に対抗できる作戦を。

私がやらなきゃいけない、私にしかできない。どうする、どうすればアイツを――

 

「レフィーヤ、ちいと落ち着け」

 

「いだぁッッ!!」

 

瞬間、衝撃。

頭の中に星が流れるほどの衝撃にレフィーヤの思考は中断させられる。

ガレスとしては彼女を落ち着かせるために軽く小突いたつもりだったのだろう。しかし彼はロキファミリアの中でも最大の実力を持つレベル6の冒険者の一角であり前衛職、それに対してレフィーヤはレベル3の魔導士であり普段より後衛で魔法を打つことが多いためか他の同レベルの冒険者よりも耐久の値が低い。結果としてガレスの放った軽いこぶし(おちつけパンチ)はレフィーヤの額に大きなたんこぶを作る結果となった。

 

「すっっっっごい痛いんですけど!何で殴ったんですか!!」

 

突然の暴挙に怒り狂ったレフィーヤがガレスに詰め寄る。痛みのせいか若干涙目となっている。

 

「いやすまん、レフィーヤが余計なことを考えてると思ってな。大方、あの化け物を一人で何とかしようと知恵を巡らせておったんじゃろ」

 

「……」

 

ガレスの真をついたような言葉にレフィーヤは押し黙る。

とはいえレフィーヤにも言い分はある。それはこの戦いにそもそも他の人間が参加できないということだ。

先ほどの戦いの最中、誰一人として加勢に来なかったのがその根拠だ。正確に言うなら彼らは加勢に来なかったのではなく、行けなかったのだが。

あの怪物の放つ咆哮は周囲の人間に死を幻視させ、攻撃の際に発生する衝撃波は彼らが戦場に近づくことを許さない。

レフィーヤが戦場に立てるのは手に残った外套の切れ端のおかげだと考えられるが、それもいつまで続くか分からないのだ。不安が募るのも仕方ないといえる。

 

「不安に思うのは分かるが、お主は一つ思い違いをしておる」

 

「思い違い…?」

 

「先ほどは無様を見せたがな、ロキファミリアはこれでもオラリオの最大勢力の一角を担っておる自覚がある。そんなもんに入ってる奴らが、誰よりも勇ましく戦うお主の姿をただ見ておるだけなんて――できるわけなかろうが」

 

ガレスの言葉と同時に、怪物の体表に小さな影が反射する。

影は弾丸のような速さで怪物へと肉薄し、懐へと飛び込む。そして、怪物の腹部へと槍を穿ち――その巨体を後方へと吹き飛ばした。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■!!』

 

怪物はその衝撃に苦し気なうめき声をあげながらも、彼に攻撃を叩きこんだ影たる小人族を睨みつける。

しかし彼が周りへの警戒を怠り自身の憎しみを優先させたその一瞬、彼の顔面に新たなる一撃が加えられた。

 

「遅いじゃないかベート、寝坊かい?」

 

「言ってろフィン、テメェだって今来たところだろうが」

 

わざとらしく肩をすくめるフィンに、罵声を返すベート。

怪物に一撃さえ食らえば確実に致命傷を負うであろう二人は、にもかかわらず怪物の目の前でお互いに軽口を叩きあっていた。

怪物は腕を振り上げ、そんな2人を潰さんとその腕を振り下ろす。

その瞬間、彼の腕部に対し色とりどりの魔法が殺到する。

それらは怪物の腕部の関節に集中して放たれ、着弾の衝撃は彼の一撃を無効化する。

 

「魔法を放った第一陣は一時退却!第二陣は魔法の詠唱を開始せよ!奴に攻撃の隙を与えるな!!」

 

「「「了解しましたリヴェリア様!!」」」

 

怪物を取り囲むように立ち並ぶ魔導士たちはリヴェリアの指示のもと、一糸乱れぬ動きを見せ途切れることなく再び地面へと倒れ伏す怪物に対し集中砲火を浴びせる。

怪物からは撃ち込まれる魔法により黒煙が上がり、その体表には徐々にヒビが入り始める。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!』

 

怪物は再び咆哮を上げる。

先ほどまで格下であると嘲笑を浮かべていた相手に、今やその戦況を覆されつつある。

その現実に彼はその表情を醜く歪ませる。

そもそも己の役割はこんな羽虫の如き弱い生き物を狩ることではない。

己を生み出した母より殺すように命じられたのはもっと別、母の命を脅かしかねない()()()である。

だというのに──

 

「それはもう効かないよッ!おりゃー!!」

 

「お返しだボケェッ!!」

 

怪物が苦し紛れ放つ咆哮を搔い潜るように、アマゾネスたる二人は怪物の頭上へと飛翔する。

ティオナは大双刃を、ティオネは一対のククリナイフを掲げ、体を降下させる勢いに合わせお互いの得物を怪物の頭上へと振り下ろす。

先ほどの蹴りにより入っていた顔のヒビに更なる直撃を許し、怪物の咆哮は強制的に口を閉じることにより中断させられる。

さらに、衝撃に瞠目する怪物に対し新たなる影が躍りかかる。

 

起動(テンペスト)──」

 

全身、そして自らの持つ細剣に黒い風を纏わせた少女は倒れ伏した怪物を睨みつける。

彼女の双眸は怨嗟で満ち溢れており、その覇気は圧倒的強者であるはずの彼を威圧するほどであった。

 

「【エアリアル】」

 

彼女がその魔法名を紡ぐとともに繰り出した剣撃は今までの借りを返すがごとく、無数の風の刃を伴いながら敵の巨躯を切り刻んでいく。

既に体勢を大きく崩し立ち上がる余裕もない怪物にはこの無数の斬撃を防ぐ手段は存在しない。今までロキファミリア繰り出す全ての攻撃を受け止めてきた鎧のような外殻はついに限界を迎え、ヒビの多い場所から順番にボロボロと音を立てて崩れていく。

息もつかせぬロキファミリア全軍の一斉攻撃により、怪物に無数の傷が与えられていく。

 

「す、すごい…」

 

レフィーヤの口から感嘆の声が漏れる。

まるでそれが一つの生命体であるかのような完璧な連携は、思わず彼女が見惚れてしまうほどに美しいものであった。

視線の先にいる彼らは確実にあの怪物を追い詰めている。それはレフィーヤでは成しえなかったことである。

単純に数の問題だというのは簡単だ。しかし、あの時自分が他の誰かに協力を仰いでいればより良い結果が得られていたのではないのか。

レフィーヤは自らの軽率さに顔をしかめながら、彼らの戦闘を呆然と見つめる。

 

「お主が何を考えているかは分かる。じゃがそう落ち込むな」

 

レフィーヤの横に立ち彼女と同じように戦闘を見ていたガレスは、腕を組みながら諭すように彼女に言葉を紡ぐ。

 

「たしかに、お主が先ほど一人で何もかも抱え込んで飛び出していったのはあまり良い行動であったとはいえん…じゃが、あの時お主がたった一人であの怪物に立ち向かったからこそ儂らはこうしてアレと戦う腹が決まった。わかるか?この光景を生み出したのは他でもない、レフィーヤじゃよ」

 

「ガレスの言う通りだよ、レフィーヤ」

 

彼女が振り返れば、そこには土で身体を汚しながら肩で軽く息をするフィンの姿があった。

その出で立ちは普段ダンジョンで目にするものとそう変わりはない。

しかし、彼がレフィーヤを見つめるその顔には普段の勇猛さを感じさせる威厳のある表情ではなく、自責の念…そしてわずかな羨望が浮かんでいた。

レフィーヤにはわからない。ロキファミリアの団長であり自分とは比べるまでもない高みにいる『勇者(ブレイバー)』が、なぜそのような感情をレフィーヤに向けるのか。

 

「団員たちから君がダンジョンへ行ったきり戻らないという話を聞いた時は肝を冷やしたものだけど…大きな怪我もないようで安心したよ」

 

「フィンさんまで…」

 

「今まで何度も助けられてきたけれど、今日ほど己の勘をありがたいと思った日はない。集められるだけ人員を集めてきて正解だった」

 

フィンはそこまで言い終えると、階層全体を俯瞰していたその視線を再びレフィーヤへ戻す。

そして彼は、彼女に頭を下げたのだ。一端の団員であるはずのレフィーヤに、その長であるフィンがである。

 

「すまなかった、そしてありがとう。君の勇気ある行動のおかげで僕たちは今こうして生きながらえている」

 

「そ、そんな、顔を上げてください!私はただ自分にできることをしただけです。それに、私がいなくても皆さんはあの怪物をどうにかできているじゃないですか!」

 

「それは違う…異常事態(イレギュラー)に対応が遅れてしまった、そう理由付けするのは簡単だ。けれどここに居た僕たちはあの瞬間、恐怖に飲み込まれていた。まったく、『勇者(ブレイバー)』の名が聞いて呆れるよ」

 

無力感と自らへの怒りに表情を歪ませながらも、フィンは続ける。

 

「でも君はその恐怖に打ち勝ち、あの怪物と渡り合った。そんな姿を見せられたら──立ち向かわないわけにはいかないじゃないか」

 

彼は槍を握り直し、それを地面へと突き立てる。

地面と彼の得物であるフォルテイア・スピアの接触により生じた金属音に彼らの注目が集まる。

それは例えるなら演説直前の共振(ハウリング)、または咳払いと同義である。どちらにせよ共通しているのは、それが衆目を集める合図であるということだ。

 

「聞け!我らがロキファミリア、その背に道化師の威光(トリックスター)を背負いし精鋭たちよ!武器を握れ、杖を構え、矢をつがえよ!この未曾有の異常事態(イレギュラー)に終止符を打つのは我々だ!

武勇は彼女が示した!一つの刃では届かなくとも、ここに集う者たちの勇気によって練り上げられた幾億もの刃は、必ずやあれを打ち破る必殺の一撃となりうる!

そして問おう、我らが精鋭たちよ!──君たちは何のために冒険者となった?地位・名声・金・愛・夢…明日を切り開く新たな希望のために、その一歩を踏み出したはずだ!」

 

『『『『!!!』』』』

 

勇者(ブレイバー)の一言に、その場にいたすべての者が目を見開く。

 

「死の恐怖に震え、うずくまり目を塞ぐのが冒険者か?絶望に打ちひしがれ、涙を流すのが冒険者か!断じて違う!あの怪物を、絶望の象徴に鉄槌を下すのは僕達だ!僕達でなければならない!そうでなければ、僕達はもう二度と冒険者を名乗れなくなってしまう!

──己が胸中に夢を抱き、奴の喉笛に食らいつけッ!!」

 

『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』』』』

 

瞬間、爆発を思わせるほどの咆哮が階層内を反響する。

 

「そうだ…こんなところで終わってたまるか!」

 

「もともと迷宮(ダンジョン)なんて命がけなんだ、死ぬことになんていちいちビビッてられねぇ!」

 

「クソッ、やってやる!やってやるぞ畜生!足掻けるだけ足掻いてやろうじゃねぇか!」

 

「こっちは結婚の約束までした婚約者(フィアンセ)がいるんだ!死んでたまるかよ!」

 

「「「「やめろ死亡フラグだそれは!あと詳しく!!」」」」

 

空気が変わる。オラリオ最大派閥、その一角を担うファミリアの長から放たれる言霊は彼らを恐怖に震える哀れな犠牲者から、誇り高き戦士へと塗り替えた…若干何名か違う気がしないでもないが。

フィンが彼らの心に灯した火は、寄り集まることで消えることのない大火となり怪物へと襲い掛かる。至る所から行われる剣撃、魔法による縦断爆撃によって怪物は数え切れないほどの傷を負い、苦し紛れに振るう爪や尾は幾度とない攻撃によってボロボロと音を立てて崩れていき、次第にその効力を失っていく。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』

 

怪物もまた、かつてないほどの苛立ちと怨嗟を込めた咆哮を顎から轟かせる。

ようやく怪物は理解した。取るに足らない弱者だと、足元を這いずる虫けらとさえ思っていた彼らに、己が殺されかかっていることを。

彼は恐れた。しかし、それは彼らの存在に対してではない。自らの敗北…突き詰めれば死に対してでもない。

ただ恐ろしかった。『母』に命じられた命令はおろか、何も成せず、失望され、見捨てられることが。

それは自らの存在の否定に他ならない。許容できない、認めることなどできるはずもない。

──ならば、もう出し惜しみはしない。全身全霊を以て眼前の『敵』を…()()

 

「なんだ…殻が壊れて…」

 

「中から…あれは、血管…だよな?」

 

目の前の怪物の変化によって、冒険者の間に困惑が広がる。

岩のような外殻の塊がすべて剥がれ、灰と化する前に地面へと落下することでいくつものクレーターを形成していく。鱗の消えた部位からは覆われていた皮下組織が露わとなり、筋組織や血管が蠢く姿を目視できるようになっていた。

 

「鱗がはがれた!ってことは、そろそろ倒せるんじゃない!?」

 

「いや、違う…野郎、鎧を外しやがった…!」

 

ベートは憎々し気に怪物を睨む。

先ほどまで、怪物はロキファミリアを敵とすら認識していなかった。この戦いは単なる前哨戦(ウォーミングアップ)、最小限のダメージで後の本命に備える必要がある。そのために固い外殻を必要としていた。

しかし、もはや出し惜しみする余裕はない。眼前の敵を殲滅するために必要なのは硬さ(ディフェンス)ではなく、(アタック)速さ(スピード)。過剰な防御力をもたらす代わりに鈍重な動きを強いられる外殻は今となっては戦いを阻害する無駄でしかない。

侮ることをやめ、無駄を排除し、貪欲に狡猾に勝利を伺う。

彼の知能は既に怪物(モンスター)から完全に逸脱していた。命を賭すほどの戦いと感情の発露が彼に急速な成長をもたらしていたのである。

文字通り殻を破った彼が背中に生えた結晶を紅く輝かせると、音を立てて砕けた爪や牙、そして尾は灰となり結晶で創り上げられたものへと次々に置換される。体表には焼け焦げた跡や切り付けられた傷が随所に目立ち、皮を削ぎ落した顔は歪みながらも落ち窪んだ目はある一転を見つめる。

怪物は動き出す。その眼に映るのは山吹色の髪を持つ森妖精(エルフ)の少女、この場において唯一自らの攻撃を無傷で防ぐ手段を持つ彼女を排除するため、先ほどとは桁違いの速さでフィンによって開かれた間合いを詰める。

 

「──防御陣形ッッッ!!!」

 

「ヌォォォォォォォォォォォォォォォァァァァアアアアアア!!!!」

 

再び怪物は爪を振るう。先ほどとは(アタック)も、速さ(スピード)も桁違いのそれは例え衝撃のみであったとしても、レフィーヤをかばうガレスが鮮血を散らすほどのダメージを与える。

 

「レフィーヤは殺させない…!」

 

「こっち向けや蜥蜴野郎ォ!!」

 

「合わせなさい、ティオナ!」

 

「わかってる!とりゃー!!」

 

アイズ達は怪物を止めるため四方から攻撃を加える。

瞬間、怪物の体にできた傷口から噴出するかのようにして赤い閃光が放たれる。それらは衝撃によって周囲の冒険者を吹き飛ばしながら飛翔し、接触した迷宮(ダンジョン)の壁を溶かしていく。

怪物が体を振るえば、閃光は階層(フロア)中へ無秩序に散布され、触れた物は例外なく断面を残し()()した。

 

「詠唱を続けろ!確実に傷は負っている!あの外殻を脱ぎ捨てた以上、奴に長時間攻撃を耐え続けられる耐久は存在しない!」

 

「「「了解!」」」

 

後方の魔導士たちはリヴェリアの命に従い、魔法を打ち続ける。

固い外殻に守られていた先ほどまでは異なり、それらは怪物へと命中することで確実なダメージを与えていた。

しかし──

 

「駄目だ、火力が足りていない…!」

 

リヴェリアは悔しさのあまり自らの腿に拳を振り下ろす。歯嚙みした口元からは一筋の血が滴っていた。

そもそもが階層(フロア)の天井へ届きうるほどの巨体を持つ怪物(モンスター)だ。防御力は今まで相対したどのモンスターと比べても頭一つ抜けている。いくら外殻が剝がれたとはいえ、早々に落ちる相手ではない。

加えて、魔導士たちの致命的な弱点が尾を引いていた。彼らが魔法を行使するためにはそれ相応の精神力(マインドポイント)を必要とする。すでに幾人もの魔導士が精神疲弊(マインドダウン)によって戦線を離脱している。長期戦において、致命傷を与えきれない最大の要因がここだった。

このままでは、あの怪物を倒しきれない。よしんば倒せたとしても、その時に残っているのはごく僅かな団員だけだろう。

怪物によって巻き起こされた轟雷轟く嵐が、ロキファミリアの胸中に渦巻く大火を強引に押し潰す。がらんどうになった心に諦めにも似た絶望が広がっていく。

 

──その時、突如として怪物がその動きを止める。

 

「どういうことだ…何が起きている?」

 

フィンの口から思わず当惑の声が漏れ出る。

怪物にとって、この状況で攻撃を止めるメリットは何もない。むしろ、身を切るようにして攻撃を行っている以上、彼に余裕は残されていない。そしてロキファミリアの戦線が混乱により崩れている今が最大の、そして最後のチャンスだと捉えている…そうフィンは考察していた。なればこそ決死の防御陣形による持久戦を選択したのだ。

しかし怪物は依然として動かない。それどころか、先ほどからある一点を見つめ、まるで彫像であるかように固まってる。

静寂の中、フィンはゆっくりと怪物から視線を外し、彼の視線の先を追う。

そして、この領域のもっとも高く連なる結晶の先──怪物と丁度目を合わせる位置に立つ見知らぬ人影を視界に収める。

それは、黄金の装飾が散りばめられた黒衣の外套を身に纏う体格の良い男であった。

ただ、男だというのはあくまで外見的特徴による推測に過ぎない。なぜなら彼は()()()()()()()()()()()()()()()で覆っており、顔には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を身に着けているからだ。

突然の乱入者に驚いていたのはフィンだけではないらしい。彼と目を合わせる怪物もまた困惑しているのか、ロキファミリアの面々に目もくれず、目の前の男へ顔を近づけていく。

混沌とする状況の中、男は黒く装飾された手甲(ガントレット)をはめ込んだ右腕を持ち上げると怪物にかざす。

次の瞬間、轟音と同時に吹き荒れた暴風がフィンの髪と衣服を大きく揺らした。

何が起こったのかを理解することはできなかった。いや、正確に言おう。目の前の光景があまりに現実から乖離しており、それが見間違いでないことを彼の脳が否定したのだ。

目の前にいた小高い山と見紛うほどの巨体は、今やフィンの視界には存在しない。何もない空間に手をかざす男が一人立ち尽くしているだけだ。

それでは、あの怪物はどこへ行ったのか。それを認識するため階層(フロア)の壁面へと顔を動かす。

怪物は男によって遥か後方へと吹き飛ばされていた。壁へ体をめり込ませ、衝撃を与えられたのであろう腹部の結晶には大きなヒビが入っている。

そこまで認識し、フィンの脳はようやくこれが幻覚でも見間違いでもないことを肯定する。

ロキファミリアを、怪物をも見下ろす不気味な威圧感を携えた男によって引き起こされた事実なのだと、理解したのだった。




資料が足りない!ソードオラトリアとか、不死者のoh!とか買いたい!
けどお金がない!!!(クソデカボイス)

ダラダラ投稿ですが、暇な時にでも見ていただけると嬉しいです。

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