駒王学園。
元女子高で、後に共学となったこの学校は、現在でも女子生徒の比率が高く、入るだけで男子はハーレム気分が味わえるとの噂で有名な学校である。
実際は居心地がわるかったり、動物園の猿にでもなった気分だと言ったり。
この男女比が2対8のこの学校には、明らかに異質な存在がいた。
まずは駒王学園二大お姉様と名高い2人。
リアス・グレモリーと姫島朱乃である。
どちらも容姿端麗でさらに文武両道のゲームの中の人間のような冗談みたいな人間だ。
つぎに二大変態。
松田と元浜というこの二人は、女子生徒が多いこの駒王学園において、最も忌み嫌われている存在である。
更衣室の覗きは勿論のこと。
女子をじっと見てはボソッと「75センチ……」と呟いたり、教室で大声でアダルトビデオの貸し借りをしたり。
学園の風紀を乱しに乱す2人である。
そしてもう一つ。
曰くそれは孤高。
曰くそれは最強。
曰くそれは狂犬。
曰くそれは暴力そのもの。
最強にして最恐の不良。
兵藤一誠の存在である。
周囲の高校の不良も名前を聞いただけで震えあがるほどの強さを誇る。
だがしかし、それでいて成績は底辺というわけではなく、学校でもタバコを吸っている以外は何もしていない。
借りてきた猫のように大人しいその学園内での姿と、外との圧倒的違いに、駒王学園に飼い主がいるのではないか。などと噂されていたりする。
ついたあだ名は“死神”兵藤。
ただ貪欲に獲物を求めるその様は、まるで契約者を探す悪魔のようでもあり、死者の魂を探す死神のようでもある。
そして彼に喧嘩を売った者は、
すべからく病院送りになっていた。
その最強が、今、駒王学園の屋上にて弁当をカッ食らっている。
「…………」
ガツガツと勢いよく口に放り込み、そして茶を飲む。
卵焼きはわずかに焦げ目がついていたが、別に見た目が悪いわけではない。
むしろ多少なりと美味そうに見えた。
塩昆布のかかった白いご飯は、弁当箱のおよそ半分を占めており、温野菜に味噌とマヨネーズの合わせたものがかかっていた。
全体的に色の薄いこの弁当は、一誠自身によって作られたものである。
弁当箱はステンレス製で、箸はどうやらmy箸を使っているようだ。
なんともエコな不良がいたものである。
「ご馳走様」
シンプルな赤いバンダナに弁当箱を包むと、たちあがり、大きく背伸びをする。
教材は全てロッカー内に置いてきているため、バッグは薄っぺらい。
入ってるのは弁当箱と筆箱くらいである。
「さて、今日はどうすっかね」
ノートを開く。
ノートというか、メモ帳程度の大きさの紙の束だが。
それをペラペラとめくり、一枚を見もせずにちぎった。
そこには、“シャドー十分”と、“逆立ち”と書かれている。
「昼休みは短いし……こんなもんか」
そう呟くと、一誠はぴょんと跳ね、足を高く上に上げ、床に片手をつけた状態になる。
俗に言う、片手逆立ちである。
「よっと……」
その体勢のまま、一誠は手の力だけで飛び跳ね、前進する。
もし普通の人間が見ていたら、驚愕の一言である。
近隣で最強と言われる不良が、トップアスリートでもできるかどうかわからない正に曲芸とも言えることをし始めたら、それは驚く。
というか驚くどころではない。
腰を抜かす自信がある。
しかも、その行為をしている本人はいたって普通だという表情で、なに食わぬ顔でその曲芸を続けている。
これが異常でなくてなんだというのか。
まぁ、ここでは普通のことのようだが。
「2周でいいか……よっ」
きっちり二周。
逆立ちのまま屋上を回ると、手の力だけで跳躍し、元の体勢に戻る。
少し重力に逆らった弊害か、髪の毛が乱れているが、それは気にしない。
「シャドー十分……あ、休み時間15分しかない」
仕方ねーな……とぼやき、頭をガシガシとかく。
バッグを端におくと、シャドーボクシングを始める。
普通に速いとも思えるシャドー。
しかし、拳はさらに加速していき、その道の人間からしても、かなり上位となるだろうジャブを繰り出しながら、一誠は無言で拳を降る。
「シッ!」
十分後。
ラストといわんばかりに1発。正拳突きを虚空へと放つ。
汗は微塵もかいてはいなかった。
「はぁ……」
トレーニング。
それは、最強になるための手段の一つだった。
幼稚園の時から、少しずつトレーニングを重ねてきた。
幼稚園は幼稚園らしく、遊びの中にトレーニングをとりいれた。
小学校も同様である。
中学からは喧嘩とトレーニングを。
高校に入ってからはトレーニングがほとんどであった。
周囲の不良達が、自分を恐れてすぐに逃げ出してしまうのだ。
それでも向かってくるやつは、力の差が理解できない新米か、自分を倒して名を上げようとするよそ者だ。
勿論、1発で黙らせた。
それ以来、どうにもスランプだ。
強くなるには、それも、最強になるにはどうしたらいいのか。
それこそ、山にでも入るかと思ったのは、幾度となくあるが、空腹には耐えられない。
「もう、人間やめるでもしない限り無理か」
最強の不良の口からジョークが飛ぶ。
それを聞いている者は一人とていないが、一誠の口からジョークが出ることは、実は珍しくはない。
最強で最恐なこの不良。性格は普通に気さくである。
しかしながら、噂だけで人は、人を判断してしまうらしく。
話しかけてもらうことすら、現在ではない。
ぶっちゃけぼっちな一誠。
その背中は若干哀愁を漂わせていた。
「………………」
そのジョークを、一人の鴉が聞いていたことは、一誠すら知る由もない。