リアス=グレモリーは一誠を眷属にした。
しかし、一誠に多くを望むことはなかった。
一般的には下級悪魔の眷属は悪魔の契約のビラ配りをすることを仕事としている。
その仕事を免除の上、放課後は気が向いたら来ればいいとまで言った。
――――ずいぶん気前がいいじゃないか。
――――そうね、あなたはもうすでに私たちの実力を越えてる。
――――だけど、油断しちゃダメ。だって貴方は堕天使に殺されたの。
――――ということは、貴方が生きていると知ればすぐさま向かってくるでしょう。
――――そのときは、この私の下僕だと言いなさい。
――――そうすればその肩書きが守ってくれるわ。
――――……本当は貴方を本当に主だと認めさせたかったけど……まだそれは叶わなそうだから。
――――へぇ……わかった。じゃあ、一つだけ約束しとこう。
――――あんたが俺の命の恩人であることは変わりない。
――――あんたがピンチになったら、俺を呼べ。どこだろうと助けにいくぜ?
「くさいセリフ吐いちまったかな……?」
リアス=グレモリーは一誠にとって、命の恩人である。
最強になる夢をあきらめて絶命したその時。
何よりも悔しかったその絶望から引き揚げてくれたのはあのリアスである。
回復のためとはいえ、起きたときに全裸で寄り添って寝ていたのには相当驚いたが。
「恩は返す。
それに、夕麻も見つけなくちゃならんしな……」
手のひらに刻まれたグレモリー家の刻印を見ながら呟く。
天野夕麻。
一誠に告白し、一誠の心の隅に住み着いた女性。
その夕麻は、どこにいるのかもわからない。
それも、クラスの奴に聞いても、そんな奴はみたことがないというのだ。
覚えていないというレベルではない。まるで記憶を消されたかのように、彼女の影や形すらもすべてが消滅していた。
一体夕麻はどこに行ってしまったのだろうか。
「俺の神器には探索能力なんてねーからな……」
自分の左腕を見る。
先日覚醒した一誠の神器。
そもそも神器とは何なのか、一誠は知らなかったわけであるが、それは朱乃による説明で理解している。
その能力は、自分の力を二倍にすること。
その使い方を、一誠は本能で理解し、そして己の力としていた。
「どこにいる……お前に会わないと、ちょっと寂しいぞ……夕麻」
旧校舎オカルト部部室。
昼だというのに暗く、怪しげな雰囲気を漂わせる部室に、一人の女性がその身を椅子へと沈ませていた。
「……圧倒的でしたわね」
「……ええ」
朱乃は椅子に座るリアスへと声をかける。
リアスはグレモリー公爵家の悪魔であった。
母方のバアル家の滅びの魔力を受け継ぎ、強力な眷属を従え、その紅い髪から
兄や義姉には届かずとも、自分でも相当強い悪魔であると思っていた。
現に眷属にも恵まれ、リアスは決して弱くない。
しかし、一人の眷属の登場によってすべてが変わる。
「兵藤君の神器。
あれはよくあるただの
ただ所有者の力をただ二倍にするだけの力……シンプル故に軽視されやすい神器」
「でも……強いです。
私より強く、祐斗先輩より速い……!」
兵藤一誠。
リアス=グレモリーの
駒王学園最強の不良。
バイサー戦にて力を見せつけた、転生悪魔兵藤一誠。
魔力はほぼ無い。しかし、それを感じさせないパワー。
一撃で屋敷を倒壊させ、下級のはぐれ悪魔とはいえ、悪魔になったばかりの元人間がそれを手玉に取ったばかりか、触れることさえ許されない天と地ほどの差を見せつけ、消滅させてしまった。
戦車よりも強靭、騎士よりも高速。
それが、兵藤一誠という男であった。
「おそらくは、本来
いえ、もしかしたらそれでも不可能だったかもしれないですね。
彼が命を落としていなければ彼はそのまま帰らぬ人でしたわ」
「えぇ。
本当に良かったわ……私がもっと強ければ、彼も文句なしに眷属となってくれたのでしょうけど……」
「それについては仕方ないです。
部長が弱いんじゃない。彼が強すぎるんですよ」
「それを言い訳にしてちゃ、ダメよ。
もしこの先イッセーでも勝てない相手と戦うことになったら?
イッセー一人では無理があるし、何よりイッセーは今の私たちに従うことをよしとはしてないわ」
木場がリアスを慰めるように言葉を放つ。
しかし、リアスはそれを一蹴し、自分の不甲斐なさを恥じた。
一誠は「助ける」とは言ったが、「従う」とは言っていない。
つまり、今リアスたちに従うことはできないということであった。
先日の発言のとき、一誠の眼はしっかりと語っていた。
――――せめて俺を扱える自信ぐらいないと従わない。
と。
「自分の眷属に舐められたままでいられないわ……!」
リアスは一誠を本当の意味で眷属にするべく行動を始めた。
一方、夕麻を探して町を練り歩く一誠。
その先には不良がコンビニの前にたむろしている。
一誠が近づくと、その顔は恐怖に染まっていった。
「し、“死神”兵藤……!?」
「ちょいと聞きたいことがある。
正直に答えてくれれば手出しはしないからよ……答えて欲しい」
三人の男は立ち上がり、首を縦に振る。
「黒髪のロング。
ここらへんじゃ見たことないブレザーの制服。
結構可愛い感じのツラ。
そんな特徴の女、みなかったか?
身長は俺より少し低いくらいで、天野夕麻って名前なんだが」
ぶんぶん首を横に振る。
そうか。と一誠はため息をついてその場を去っていく。
「もうこれで五回目か……」
朝はもうとっくにすぎ、太陽は一誠の真上でさんさんと輝いている。
人に頼ること自体間違っているのではないかというくらい、一誠が話しかけると逃げて行ってしまったり、口を閉ざしてしまったり。
もうどうしたらいいのかわからない状態であった。
「はぁ……どこ行っちまったんだあいつ……」
げんなりし始める一誠。
探し始めてもうどれくらいたっただろうか。
もう二日目である。いや、まだ二日目である。
「いっぺん休憩……昼過ぎにまた捜索開始だ……」
そう言ってどこかのファーストフード店へと入っていく。
一応言っておくが、今日は学校をサボっている。
「人探しは苦手だ……」
深夜遅く。
一誠は帰路をトボトボと歩く。
結局、あれから夕麻は見つからず、一日を無駄に過ごしただけだった。
もう自分の夢だったんじゃないかとまで思えてきた。
「……ほう……」
暗い暗い夜に、一つの影。
月を背に歩いてくる女の姿があった。
「妙だな……お前は殺したはずだが……」
「とあるお優しい方が俺を生き返らせてくれてな……お久しぶりじゃねぇかクソアマ」
胸元を大きく開いたつり目の女性。
まさしく、一誠を殺した堕天使の一人であった。
「……悪魔にでもなったか」
「ご名答だな……さて、お前に聞きたいことがあったんだ……。
何故俺を殺した?」
一誠は悪魔の羽根を出しながら問う。
女性も堕天使の翼を出し、さらに光の槍を手にした。
針のような殺意と同時にである。
「お前は、この街で最強と言われる人間。
それに神器の反応があれば、少しでも計画の妨げになる可能性を排除するために、障害となるものは全て消したまでのこと」
「なるほど。
まぁ、本当ならてめーらの計画がなんだろうと潰す気は別にない……が、面白いことを聞いちまったからにはよ……手出しするしか……」
ねェよなァ?
「っ!?」
飛び上がって後ろに下がる。
女性はその身に何が起きたのか理解できなかった。
心臓がバクバクと鼓動し、汗が止まらない。
何が起きた。一体何故私は飛んでいる!?
一体何故わたしはこんなにも
「ちっ、ちょっと脅かしただけでこれか……」
一誠は舌打ちするとゆっくりと堕天使へと歩いていく。
堕天使は足が震え、そして翼が動かない。
目の前の男に怯えて、動くことすらままならないのだ。
「お前ら堕天使の計画がなんだか知らねえが、俺がいる限りその計画は破綻だと思いな。
さぁ、そろそろ俺を殺してくれやがったお返しの時間だぜ……一発で許してやるから覚悟しな」
堕天使は翼を使うことなく、頬を晴らしながら天高く舞い上がり、意識を失った。
ね?
夏休みが終わりなのでムシャクシャしてやった
反省はしている