みさとの運転する車に乗せられて、純也と陽児は光子力研究所へやって来た。
みさとはボスの親戚で、始めこそ甲児たちの家政婦として雇われていたが、学んだ電子工学の腕をメキメキと上達させ、すっかりベテラン所員として腕を奮っている。
研究所では所長のさやかと娘のリサ、鉄子姉妹、シローの妻ハルナたちが、剣家の兄弟を出迎えてくれた。
「さあみんな、お父さんたちが頑張って戦ってる間、別の悪者が攻めてくるかも知れないんですからね? その時はすぐに言うことを聞いて避難するように!」
「ちゃんと言いつけを守っていれば、絶対にマジンガーZや兵隊さんたちが守ってくれますからね」
「は~い!!」
さやかとハルナの指示に、子供たちの元気な声が唱和する。
純也と陽児はさっそくリサたちの手を引いて、のっそり博士とせわし博士のところへ駆け出してその後をみさとたちがついてゆく。
さやか似で直毛のリサと甲児似で癖っ毛の鉄子。彼女たちが産まれて以来、剣兄弟がお兄さんぶりたがるのは相変わらずだ。
こんなご時世じゃなければ、微笑ましい光景なのだけれど……とこれから起こることを予想して、さやかはため息をついた。
あの卑劣なパリアッチョ──あしゅらの事だ、きっと甲児たちが戦ってる間に人質でもとろうと、こちらへ仕掛けてくるに違いない。
やるべき準備は可能な限りやった。
あとはそれが通用するのだと信じてやり抜くだけだ。
本音を言うならさやかとて、ダイアナンAを駆って戦いたい。
しかし今、子供たちを側で守ってやれるのは自分だけだと理解しているからこそ指揮官に徹しているのだ。
「センサーに反応!」
所員の声が上がる────周囲に張り巡らせたセンサーが、空間の歪みをキャッチし、肉眼でも太陽が黒く染まるのを確認した。
遂にその時がやって来たか……
「さーて出てくるのは機械獣か戦闘獣か……」
すぐさまバリアを張って待ち構えるなか、黒い太陽────亜空間ゲートから滴り落ちた雫は地面に広がり、形を成して正体を現す。
このように見えるのは、空間の歪みが人間の脳では認識しきれないからであって、本当に液体が落ちてきたわけではない。
だいぶ小さい……人間と同じくらいだろうか?
おびただしい数の人影が、研究所を包囲せんと進撃を開始した。
陽光に煌めく金髪の眩しい、全く同じ顔をした美少女の軍団────殺人アンドロイド・ガミアQだ。
かつて兜甲児暗殺に差し向けられ、さやかも未来世界で同類に襲われた記憶が生々しく残っている。
ツインテールに結わえられ、自在に動いて獲物を切り裂く金属製の頭髪は、生身で相対するには極めて危険な凶器だ。
即座に警報を発令、装置を起動。マジンガーZやスクランダー、重戦車Zを見学していた子供たちはみさととハルナに連れられて、エレベーターで地下シェルターに避難させられた。
金色の津波となって襲い来るガミアQの大群。
周囲に配備されたロケットランチャーや、光子砲を始めとする迎撃設備が火を噴いた。
吹き飛び、砕け散る殺人アンドロイドたちだったが、弾幕の隙間を縫って一体、また一体と火線を越えて研究所への距離を縮めてゆくものが出始める。
あちら側からの攻撃で武装を潰され始めたこともあり、遂にバリアに接触する個体が現れた。
あたり前のようにスパークを起こして爆発するが、それが繰り返され始めると楽観もしていられなくなる。
(おそらくこれは陽動のはず……次は何を出してくるの? 機械獣? それとも戦闘獣……?)
さやかの疑念をよそに、ガミアQの群れが二つに割れた。
犠牲もいとわずバリアに挑みかかっている側と、後方で一塊になり様子を伺っている側だ。
もはや何度目か数えるのも億劫だが、金属髪が針となって撃ち出され、特攻をかけているグループへ届く最後の火器が無力化された。
そこで後方グループに動きが起きる。
組体操のように、ガミアQたちが重なり始めたのだ。
変化はそれだけで終わらない。翻った金属髪がその身体を包み込み、黄金の装甲に変わる。
合体だ……無数のアンドロイドたちは一体となり、ガミアQをそのまま巨大化したような黄金の巨人、機械獣ガミアQ0が誕生した。
「これは予想外ね」
巨大になってもなお形状を維持しているツインテールが砲塔のように角度を変える。
紫電が走り、電磁加速されたニードルがレールガンの弾体となって飛ぶ。
ニードルは一点集中で負荷がかかっている部分に突き刺さり、たちまちバリアを打ち砕いた。
破孔から続々と、ガミアQの群れが侵入を開始する────かと思いきや、先んじて歩み寄った巨大ガミアが雌豹のように低く這いつくばり、突き入れられた髪が広がり電撃を発する。
バリア内側の敷地が薙ぎ払われ、次いで連鎖的に爆発が起きた。
埋設されていた地雷原が見抜かれ、啓開されてしまったのだ。
罠の無くなった進路を悠然と進む殺人人形の姿に、さやかは舌打ちして次の指示を出す。
すぐさま待機していたマジンガーZが飛び出し、ルストハリケーンでガミアQたちを薙ぎ払った。
だが全滅させるより先に、機械獣が邪魔をする。
分離してバリア内に侵入し再合体、しなやかに駆け出した巨大ガミアのニードルがマジンガーの肩を打ち、体勢が崩れた隙に生き残った個体が方々へ散った。
もうこうなっては動きの妨げになるだけだとバリアは解除され、カタパルトからジェットスクランダーが発進する。
「見てなさい! スクランダーカット!!」
コントロールタワーでスクリーンを見据えるさやかが操縦桿を握り、遠隔操作されるスクランダーをガミアの一団へ突っ込ませた。
狙い通り真っ二つにされるもの、衝撃波で吹き飛ばされ研究所の壁に激突し砕け散るもの、残った地雷原へ落下し爆散するものと、それなりに数を減らすことはできた。
勢いづいたさやかはサザンクロスナイフを撃ち出しつつ、他のガミアたちへも突っ込ませようとしたが、髪を腕のように振るってマジンガーと打ち合いをしていた巨大ガミアの妨害で阻まれる。
飛び退いて間合いを開けるや、ブワリと広がる金髪がスパークを生じ、強烈な電磁波を発したのだ。
コントロールを失ったスクランダーは横倒しとなって、翼の先端で地面を抉りながら墜落し、突き立てられた剣のように動きを止めた。
「こんな技があるんじゃロケットパンチも使えそうにないな……」
誘導兵器を封じられ、シローは唇を嚙んだ。
機械獣とはいえ現代ミケーネの科学で生み出されているため、今のマジンガーでもなかなかにてこずる相手だ。
身のこなしは等身大の時と変わらないようで、ブレストファイヤーも、ルストハリケーンもヒラリヒラリと躱されてしまう。
早く片付けなければ研究所が危ないと、焦りだけが募ってゆく。
「レーダーに反応!」
担当所員の叫び――――間に合わなかった。
空駆ける獣が、歯車の集合体が、それを指揮する浮遊サークルが、研究所とマジンガーを見下ろしている。
「妙な真似をしおって――――だが時間稼ぎには失敗したようね弓さやか」
サークル上に張られた円筒形の風防の中から、赤黒衣装の道化師が嘲笑う。
顔面の左右を白黒に塗り分けた女の名はパリアッチョ。
闇の帝王によって再生されたあしゅら男爵だ。
初手を確認したさやかは、増援を防ぐため亜空間ゲート展開阻害装置を起動していた。
だがガミアにてこずるうちに、影響範囲外から転移して自力で移動してきた奴らとの合流を許してしまった。
研究所の内部から絶え間ない銃声が轟いた。侵入したガミアQと守備についていた国防軍兵士たちの戦いが始まったのだ。
「やれ! スフィンクスθⅢ、バレンバンU10!!」
「出番よボス!!」
「よしきたよしきたホイサッサ! ボロット様のお出ましだあ〜〜〜〜!!」
格納庫のシャッターが開き、勇ましくもコミカルに、笑いの王者が現れる。
マジンガーZはガミアQに釘付けにされており、頼れるのはボロットだけだ。
「そんなガラクタが何になる? バレンバン、片付けてしまえ!!」
宙を舞う歯車が、円筒が、箱が、けたたましい音を立てて合体し、腹部に顔を持つ機械獣となった。
突き出された左手の有刺鉄球が、チェーンフレイルとなって飛ぶ。
あわやボロットは哀れにもスクラップと化すかと思えたが、その両手はしっかりと鉄球を受け止めていた。
「今度はこっちから行くわよ!!」
チェーンを手繰り寄せ、自慢の怪力で機械獣を振り回して見せるボロットの姿に、パリアッチョは驚愕する。
「ええい! 変形だバレンバンU10!!」
掴まれたチェーンを切り離し、再びバラバラとなったバレンバンは、組み合わせを変えて巨大なモーニングスターと化した。
先端に鉄球を備える空飛ぶ棍棒が、ボスボロットへ迫る!
臆すこと無くボロットは拳を握り、大きく振りかぶってバレンバンを迎え撃つ。
「スペシャルデラックス! ゴールデンデリシャスボロットパ〜〜〜〜ンチ!!」
超合金ニューZで固められ、光子力エネルギーを漲らせたスペシャルでデラックスかつ、ゴールデンでデリシャスな必殺の拳が炸裂し、機械獣の鉄球を打ち砕いた。
「馬鹿な!?」
間髪入れずにボロットが跳ぶ。
鉄也のバックスピンキックに触発されて励んだかつての特訓の末、編み出した必殺の技、その名も────
「ボロボロキィィィィック!!」
全体重を乗せた飛び蹴りが、棍棒の側面に配置されていたバレンバンの顔面に直撃し、中枢部を失った機械獣はバラバラのボロボロとなって爆発した。
この日この時のため、甲児とのっそり、せわし博士たちによってボスボロットに施された超合金ニューZメッキと、ガソリンの代わりにエンジンに充填された光子力燃料、そしてボスの絶え間ない努力がもたらした勝利だった。
「どんなもんだい! 続けていくわよぉ~~~~!!」
「よしやっちまえボス!!」
「その調子だぞ~~~~!!」
ヌケとムチャの声援を背にハンドルを握るボスは、レバー捌きも鮮やかに残る妖機械獣スフィンクスへと躍りかかる。
「スクラップが調子に乗りおって! ユーバリンT9やれぃ!!」
伏兵の地底機械獣が、子供たちのシェルターを襲わんとドリルを唸らせ地響きを立てて迫る────爆音、そして隆起する敷地。
こんな事もあろうかと、シェルター周囲には指向性の光子力地雷が仕掛けられていたのだ。
これにはシールドに身を隠し全身をドリルと化すユーバリンとてひとたまりもなかった。
――――そして今、地揺れに足を取られた巨大ガミアの電磁波は止まっており、奴はスクランダーとの直線上に居た。
「サザンクロスナイフ!!」
さやかの叫びと共に放たれた十字手裏剣が、金属髪を両房とも断ち切った。
この好機を逃すなとマジンガーの両目が光る。
「光子力ビーム!!」
振り下ろされた光条が巨大ガミアを真っ二つに切り裂き、追い打ちのルストハリケーンが渦を巻いて、舞い散る金髪を巻き込み輝かせながらボロボロと分離する殺人人形たちを塵にしてゆく。
「ああっ! ガミア!!」
研究所へ侵入した一団も、兵士たちの重機関銃やレーザーの餌食となり遂に一掃された。
立て続けに手駒を倒され、もはやパリアッチョの頼みはスフィンクスθⅢだけだ。
しかしいくらボロットがパワーアップしていても、妖機械獣は戦闘獣に匹敵する強敵だ。それが強化されているなら尚更苦戦するだろうと、スフィンクスと取っ組み合うボロットへ加勢するマジンガーZ。
パリアッチョの口元が笑みに歪む。
耳障りな擦過音と、金属が破断する音が地の底から響き、再びの地揺れと共に隆起した地面から、エレベーターシャフトを切断されたシェルターブロックを頭上に掲げた機械獣が現れた。
両手に鉤爪、腹部にも顔を持つ地底機械獣ホルゾンV3だ。
「ホホホホホホ……地底機械獣が一体だけだと思った?」
「これで形勢逆転だな!!」
グニャグニャとその姿を男に変えながら勝ち誇るパリアッチョ。
彼/彼女は、クローニング再生の際に異常をきたし、変身タイプへと変貌していた。
ホルゾンの頭部が花弁のように開き、中から鋭いドリルが顔を出して甲高い音を立てて回転する。
かつてマジンガーの胸板さえ貫通した強力ドリルだ。強化された今、ニューZ合金製のシェルターでも危うい。
「わああ! おかあさん!!」「大丈夫……大丈夫よ……!!」
子供たちが悲鳴を上げ、大人たちと必死に肩を寄せ合いながら恐怖から逃れようとする。
「さあ子供の命が惜しければ抵抗を止めてマジンガーを降りるのだ兜シロー! ボスも余計な真似はするなよ? そして弓さやかとのっそり博士、もりもり博士……は死んでいるのだったか、せわし博士を差し出せ!!」
こいつらならタイムリープの秘密を知っているはずだと、パリアッチョは研究所の代表的な科学者たちを指名する。
「拷問などせぬから安心しろ。口を割らずとも、貴様らの脳から直接聞きだしてやるわ!!」
優位に立った道化師は得意げに笑う。
「くそっ……!!」
唇を噛み、シローはやむなくパイルダーを分離した。
昔から世話になったみさと、妻と姪っ子、義理の甥っ子たちの命には代えられない。
奴が約束を守るわけがないが、さりとて今すぐ殺されるわけにもいかなかった。
しばらくして研究所の正面玄関から、さやかを筆頭に博士たちが現れる。
「フハハハハハハ……素直なことだ、遂に観念したか」
三人を捕らえるべくスフィンクスθⅢが近づいてきた――――今だ。
「パイルダービーム!!」
「ぐわああああああああ!?」
ジェットパイルダーのヘッドライトから放たれた光線が浮遊サークルを破壊し、パリアッチョが宙へ投げ出される。
間髪入れずに、開けっ放しだった格納庫の中から二つの鉄拳が飛びだした。
青く塗られたその腕は、女性のように細くしなやかなデザインだ。
その側面から戦闘機のデルタ翼のような直線的な刃が飛びだす――――アイアンカッターの系譜を継ぐZカッターだ。
超音速で飛び回り、ホルゾンのドリルを、腕を立て続けに切り裂いたパンチは、格納庫へと戻ってゆく。
落下したシェルターは、飛びだしたボロットが無事にキャッチした。
「ふ~~~~ギリギリセーフ!」
それと時を同じくして、風を切って格納庫から駆け出した優美なシルエットが、さやかたちに迫っていたスフィンクスへ飛び蹴りをかまし距離を開ける。
ヒラリと軽やかに着地したその姿――――マジンガーZを女性として造ればこうなるだろうという色合いとデザインの、美しい女性型ロボット・ミネルバXが勇ましくファイティングポーズを決めた。
「ミ、ミネルバXだと!?」
地面へ叩きつけられて呻くパリアッチョが、その姿を目にして一瞬痛みを忘れる。
ミネルバXはパートナー回路でマジンガーZに同調し、適切にその補佐をする自立型ロボットだ。
かつては十蔵博士の研究所を家探ししたあしゅら男爵に設計図を奪われ、心ならずも悪の手先に成り下がった彼女だったが、今ここに超合金のボディーと光子力の心臓、新たな武器を得て、正義の使者、平和の女神として生まれ変わったのだ。
「やりなさい! ミネルバX!!」
さやかの声に応え、彼女の双眸がギラリと光ってパリアッチョを見据える。
まるで自らの運命を捻じ曲げた悪魔に怒りをたぎらせているかのようだ。
悪の命の灯火を吹き消さんと、女神の吐息が吹きかけられる。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」
ルストハリケーンがパリアッチョを容赦なく襲い、その身を跡形もなくした。
無言で頷くマジンガーとミネルバは揃って構えを取り、ひっくり返ったスフィンクスめがけて胸部放熱板から眩い白熱光線を発射する。
ダブルブレストファイヤーで焼き尽くされ、妖機械獣はたちまち融解した。
そしてこちらでも――――
「よくも子供たちを怖がらせやがったな機械獣!? 受けてみろい!! スーパーデラックスミサーイル!!」
ボロットの胸部装甲がガバリと開き、特別製の大型ミサイル、スーパーDXミサイルが発射される。
ドリルと両腕を失ったホルゾンに直撃したミサイルは、打ち上げ花火のように派手な爆花を咲かせてその機体を粉々に吹き飛ばした。
機械獣は全滅し、一体のガミアも居ない。
パリアッチョも遂にトドメを刺された。
研究所と子供たち、そして
「おかあさーん!」「みさとおばちゃーん!!」「ボスおじちゃーん!!」
「シローちゃん……!!」
シェルターから助け出された子供たちは、堪えていたものが決壊したように大人たちに縋り付いて泣きじゃくり、ハルナも愛する夫の温もりを求めた。
ハルナを力強く抱きしめ、笑顔を向けたシローはそっとその身体を離し、申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんなハルナちゃん、兄貴たちが心配だからちょっと様子を見てくるよ」
「――――行ってらっしゃい、シローちゃん!!」
他の研究所にも防衛完了の報せは届けた。もはや何も心配はいらない。
「スクランダークロ――――ス!!」
赤々と命燃やす紅の翼を背負い、兜シローとマジンガーZは大空を征く。
機械獣バレンバンU10
没デザインの機械獣でナンバリングは無かったが独自に設定(バレンバンと言えば油田=U10)
実は真マジンガーにも出てる。
妖機械獣スフィンクスθⅢ
没デザイン。
機械獣ガミアQ0
元々機械獣だったのが等身大に再設定されたものを再利用して合体ロボにした。
ナンバーは独自。