太陽が昇り、出勤した人々がいざ仕事を始めようかという時間に、京浜工業地帯に居を構える新住日重工を襲った四ツ首ギルギルガンは、迎え撃つボスボロットによって中和剤をしこたま食わされ、消化不良の胃もたれに襲われていた。
苛立ちをぶつけるように所かまわず光線を放ち暴れるギルギルガンと、慌てて逃げ出すボスボロット。
そこへ駆けつけたグレート・マジンガー率いるスクランブル騎士団とゲッターチーム。
今決戦の火蓋が切って落とされた。
「あいつを工場から引き離す! 手筈通りにいくぞ!!」
「「「「了解!!」」」」
ギルギルガンが再出現するまでの数日間、猛訓練に励んでいたスクランブル騎士団は、一糸乱れぬ動きで所定の位置につき、グレートを援護する。
「マジン! パワアアアアアア!!」
後ろからギルギルガンの下へ潜り込んだグレートは、溜め込まれたエネルギーを一気に開放してその巨体を持ち上げる。
すかさず騎士団各機がワイヤーアンカーを打ち込み、被害の出ない無人島へ運び出す。
グレートのスクランブルダッシュが猛然と噴射し、抱えるスクランブルタンクの上昇ロケットを推力に加えたスクランブルジェットが先導、ビューナスAとスクランブルホークが暴れようとするギルギルガンの腕を抑え込んでいる。
「なあリョウ、俺たちは手伝わなくていいのかよ?」
「俺たちは本番までは不測の事態が起きた時の控えさ」
「出しゃばってあちらさんの顔を潰すわけにもいくまい?」
予想外に重ければ加勢が必要だったが、彼らだけでも無事に運べているようなので、ゲッターチームは鉄也たちを見守りながら後をついていった。
「ようし、ワイヤーを切り離せ!」
無人島に到着し、ギルギルガンを放り出せばいよいよ決着の時だ。
「よしいくぞぉ! ――――チェェェェンジドラゴンッ! スイッチ・オン!!」
加速し、猛然と距離を詰めた三機のゲットマシンが一つに重なった。
ほんの一瞬のモーフィングじみた変幻合体の末に人型を形成、稲妻の如きゲッタースパークを迸らせて、不滅のマシンが出現する。
ゲッターロボGの空戦形態、真紅のボディのゲッタードラゴンだ。
「グレートブーメラン!」
「ダブルトマホーク! ブゥーメランッ!!」
投げ放たれたブーメランが、両刃斧のダブルトマホークが、ギルギルガンの脚を斬り落とし身動きを封じる。
「一斉攻撃だ!!」
傷口へ光子力ビームが、ミサイルが突き刺さり、腕を振り回して暴れる上半身へゲッタービームが、サンダーブレークが、熱線砲が襲い掛かる。
のたうち回るうちに横倒しになったギルギルガンだったが、意を決した表情で周囲に散らばる自らの脚を喰らい始めた。
全身を苛む苦痛に耐えながら腕を伸ばして這いまわり、切り離されたワイヤーも掴み取って口へ運ぶ。
「しまった! 中和剤の効果が切れたのか!?」
無理やり胃液を分泌して中和剤を無効化し、やっと消化が終わったGMFA1、そしてたった今貪った自らの脚と超合金繊維のワイヤーを糧に、追い詰められたギルギルガンは起死回生の成長を遂げた。
全身の古い外皮を脱ぎ捨てて、さらに巨大で完全な直立二足歩行の成体に。
だが本来赤くなるはずの表皮は、太陽を照り返す白銀の輝きを得て先鋭化する。
――――究極の姿、メカギルギルガンだ。
メカギルギルガンが翼を広げた。
鉄也たちは知っている、これは広範囲に拡散する衝撃波の前触れだ!
「何だあの姿は――――いかん! みんな離れろ!!」
しかし予想に反して、光と共に周囲を襲ったのは衝撃波などという生易しいものではなく――――
瞬間、二大ロボットとスクランブル騎士団は
「うおおおおおっ!?」
そのまま有効範囲の外に出て、重力の向きが正常に戻ったあたりで海へと転落したグレートたち。
(この感じは覚えがある……無重力訓練、耐G訓練、反重力装置……そうか、奴は重力を操れるようになったのか!!)
奴が放ったのは重力の強さ、方向を自在に変えて、吹き飛ばすことも押しつぶすことも可能な超重力波、メガグラビトンウェーブだ。
これを喰らったのが兜甲児であれば、デュークが使うのを何度も間近で見、ギャラハンが操っていたときには我が身で受けさえしたグレンダイザーの反重力ストームを連想したことだろう。
「ダブルマジンガーブレード! ――――何っ!?」
一足先に海から上がった矢先、奴の両目が輝いた。経験から破壊光線が来ると踏んで目潰しにマジンガーブレードを二本投げるが、容易く跳ね返され無情にも迸る光条がグレートを襲う。
「うわああああああああ!!」
過去の威力を超える、超破壊光線とでも呼ぶべきものが超合金ニューZの装甲に亀裂を生じさせる。
「――――鉄也さん今助ける! ドリルアーム!!」
ゲッターチェンジして海底を掘り進み、メカギルギルガンの背後から飛び出した青い影――――陸戦形態ゲッターライガーがその背中に右手のドリルを突き立てた!
「……何だ? 手ごたえがおかしい……?」
過去のギルギルガンにはゲッター2のドリルは歯が立たなかったが、ゲッター合金から合成鋼Gにパワーアップしたライガーのドリルなら……望みを賭けて繰りだされたそれは、確かに奴の表皮に刺さっている……刺さっているように見える。
「なんだこれは!?」
「ドリルが……」
「溶けちまってる!?」
嫌な予感がして引き抜けば、ドリルは無残にも溶けて歪み使い物にならなくなっていた。
「ポセイドンにチェンジだ!」
力自慢の海戦形態、ゲッターポセイドンが指先からの投網、フィンガーネットでメカギルギルガンを絡めとり、グレートから引き離そうとする。
しかし数千トンの獲物を振り回してもびくともしないはずの、合成鋼G製の投網はあっさり引きちぎれ、ポセイドンは勢い余って倒れ込んだ。
「何だってんだよぉ!? ……ああっ!?」
見れば絡みついた投網は、沈み込むようにメカギルギルガンの体内へ飲み込まれてゆくではないか。
「まさか……奴は全身で金属を食っちまえるのか!?」
グレートへの攻撃は止めることができたが、振り向いた白銀の魔王は獰猛な笑みを浮かべてゲッターを見下ろす。
さらなるパワーアップを果たした強敵に、ゲッターチームは背筋が寒くなるのを感じた。
□□□□
四ツ首ギルギルガンが地上を目指したのと同じ頃、海底火山の熱エネルギーを心ゆくまで喰らい、ピクドロンもまた成体となった。
だが成長はそれだけにとどまらず、膨れ上がったピクドロンは分裂し二体に増えた。
増えたピクドロンはさらなる強力なエネルギーを求め、それぞれが別の場所を目指して上陸を開始する。
駿河湾から上陸した二体は枝分かれし、一方は富士山麓方面、もう一方は八ヶ岳方面へ向かった。
富士山麓には試験運用中の光子力発電プラントが、八ヶ岳の宇宙科学研究所には光量子エンジン量産化に向けた実験施設があるのだ。
通報を受け、それぞれの研究所からゴッドマジンガー、グレンダイザーとダブルスペイザー、ドリルスペイザーが発進する。
「奴らの母艦は鉄也さんが倒したって聞いたけど、まだ怪獣が残っていたのか」
紅の翼ゴッドスクランダーを広げて現場へ急行するゴッドマジンガー。
レーダーの示した方角へ進めば、すぐに肉眼でも敵の姿が見えてきた。
「――――あいつだな!」
黄色の光に包まれた輝く巨人、光波獣ピクドロンである。
「先手必勝だ! ターボスマッシャーパァンチ!!」
唸りを上げて高速回転するパンチが直撃した。
だが何ということだろう、ピクドロンはそれをはじき返したばかりか怯んですらいない。
「ならこいつはどうだ!? 光子力ビーム!!」
打撃がだめならビームで勝負だ! 双眸から迸る光子力エネルギーの奔流が、ピクドロンを打ち据える――――
□□□□
「――――ああっ!? なんてこった!!」
出撃したグレンダイザーとダブルスペイザー、攻撃力を重視してひかるが乗ったドリルスペイザーもピクドロンへ攻撃をかけた。
ダブルミサイルが、ドリルミサイルが、腕のブレードを前方へと展開し高速回転させたスクリュークラッシャーパンチが、一斉にピクドロンを襲うも効果は無い。
当然のようにビーム攻撃が選択され、彼らはスペースサンダーを、サイクロンビームを、ドリルビームを使ってしまう――――
たちどころに異変が生じた。
ビーム攻撃を受けたピクドロンは、エネルギーを吸収して巨大化してしまったのだ。
ゴッドマジンガーと戦っていた個体も同じだ。
グレンダイザーの三、四倍はあろうかという巨体と化したピクドロンは、その身体からシャワーの如き光線を放つ。
咄嗟に回避するが、着弾時の爆発は相当なものだ。
さすがの宇宙合金グレンでも耐えられるかわからない。
「新一! 姉上! あの光線には気をつけろ!!」
打撃もビームも通じないなんて、一体どうすりゃいいんだ……?
吾郎は必死に頭を巡らせ、眼前の光る魔獣への対抗策を考える。
あの表皮はバリアーなのか? もしそうなら解く方法は?
モニターしている宇宙科学研究所の面々も、この事態に頭を悩ませている。
「ひかる君! せめて時間を稼ぐんだ、落とし穴を掘って動きを封じよう!!」
「了解しました!」
宇門博士からの指示でドリルスペイザーが地下へ潜る。
足元を徹底的に掘り返したおかげで、ピクドロンはたちまち地面へ飲み込まれ身動きが取れなくなった。
□□□□
絶望的な壁が立ちふさがるなか、海の中から放り出されるように、スクランブル騎士団各機が復帰した。
そして男連中とは対象的に、紳士ぶって最後に恭しくビューナスを着地させる蛇腹の腕……そう、ボスボロットである。
「でかしたぞボス!」
メカギルギルガンは超破壊光線で薙ぎ払いにかかるが、そう何度も当たってやるほどお人好しではない。
散開し、攻撃を躱したグレートたちに苛立ったメカギルギルガンは、両腕をロケットパンチのように飛ばして鋭い爪、アイアンクローで切り裂きにかかった。
以前は弱点だった腰の鎌は、この形態では無くなってしまっている。
「吉三! 腕を飛ばした跡がきっと弱点だ!」
「合点承知! ミサイル発射!!」
懐へ潜り込んだスクランブルホークが光子力ミサイルをピンポイントで撃ち込んだ。
爆発、しかし怯んだ様子は無い。
「なんだと? ────あっ、穴が無い!!」
確認してみれば、腰に鎌が生えていた時には昆虫の気門のように内蔵まで続く穴が開いていたが、腕の付け根はすっかり塞がれてボディと同じ硬質な輝きを放っていた。
飛来する爪から、目から放たれる光線から逃げ回りながらも、鉄也の頭脳は次の手段を絞り出そうとする。
「────菊の助! 奴の弱点を探り出せ!!」
「了解! X線レーザー!!」
ビューナスの両目から透視光線が放たれた。
弓教授がかつてミネルバXを解析した際に使われた光子力レントゲン装置の発展型、通称X線レーザーだ。
「……全身分厚い装甲で覆われてる! 穴なんて口とケツくらいのもんだよ隊長!!」
「────そうか」
それを聞いて、意を決した鉄也は分離レバーに手を掛ける。
「ボス、グレートを頼んだぞ!!」
「おい鉄也! 何やる気だよお!?」
分離したブレーンコンドルは、まっしぐらにこちらを喰らわんと大口を開けるメカギルギルガンの顔面へと突っ込んでゆく。
「まさか特攻か!?」
「このバカヤロー! 姐さんを未亡人にする気かよぉ~~~~!!」
菊の助の罵声を背に、鉄也は切り札の発射ボタンを押した。
放たれるミサイル。しかし普段のコンドルミサイルとは形状が違う。
口から飛び込んだミサイルの弾頭は急速に核分裂反応を開始し、胃の中で存分に光子力エネルギーを解放した。
甲児に用意してもらった光子力爆弾だ。
柔らかい内臓に痛烈な一撃を受け、絶叫を上げるメカギルギルガン。
その爆圧は一瞬腹を膨れ上がらせ、頑強な装甲に亀裂が入るほどであった。
「チャンスだ! あの亀裂めがけて総攻撃開始!!」
再びファイヤーオンした鉄也は、この勝機を逃すまいと叫んだ。
ビームが、ミサイルが傷口に殺到し、魔王然としていた大怪獣に悲鳴を上げさせる。
さすがに馬鹿ではないので奴も傷口を庇おうとするが、それを阻止するものが居た。
ゲッターポセイドンである。
フィンガーネットを奴の腕に絡めて背中へ力の限りに引っ張り、届いた指をその手で握りつぶさんばかりに掴んでいるのだ。
この腕を自由にさえしなければ、たとえアイアンクローを飛ばしたとしても傷を庇うことはできない。
ドラゴンに合体した時に切り札のシャインスパークが使えなくなる覚悟で全力を振り絞り、振り落とされないよう踏ん張る足も、キャタピラをギュラギュラと回転、逆回転を繰り返し、定位置を保っている。
「んなろぉー! 身体がバラバラになったって離さないからなぁー!!」
「頼むぞベンケイ! ポセイドンの馬鹿力が頼りだ!!」
「急いでくれ! このチャンスを逃すな!!」
当然ポセイドンの手も履帯もジワジワと溶け始めている、決死の時間稼ぎだ。
メカギルギルガンは自分の腕が邪魔で、翼も開けない――――この最大のチャンスを逃すわけにはいかない!!
「直次郎! あれを使え!!」
「応よ!!」
スクランブルタンクの主砲メカニズムが内部で切り替わった。
光子力エンジンがフル回転し、今スクランブルタンク最大の切り札が放たれる――――!!
「サンダービームロケット砲、発射ぁ!!」
かつて科学要塞研究所に備え付けられていた最強兵器が火を噴いた。
放たれた火球は狙い過たず腹部の亀裂に飛び込み、大爆発を起こして土手っ腹に大穴を開けた。
「トドメだ!!」
すかさずグレートが、マジンガーブレードを手に駆け出してゆく。
雷鳴が轟き、稲妻が剣先に降り注いだ。
遂にポセイドンの両手が溶け落ち、白銀の魔王が自由の身になるがもう遅い。
「サンダーブレーク・バスター!!」
体内へ飛び込んだグレートが全身全霊をもって振るう、必殺の電撃剣がメカギルギルガンを内部から一刀の下に斬り裂き、真っ二つになった頭部から偉大な勇者が飛びだした。
一拍遅れて、死に体となったメカギルギルガンは各部から小爆発を繰り返し、大爆発の末に消滅した。
歓声が上がり、皆が安堵の声を漏らす。
「ありがとう、ベンケイ君、ゲッターチーム。今日の勝利は君たちのおかげだよ」
「じゃあお礼になんかごちそうしてくれよ、昼飯食わずに戦いっぱなしだったもんだから腹ぁペコペコなんだよ。な? いいだろ?」
「コイツぅ!」
「まったくしまらねえ野郎だぜ」
夏の夕日が照らす海辺で、戦いを終えた戦士たちは訪れた平和に心から笑いあった。
□□□□
――――メカギルギルガンとの決着から、少し時をさかのぼる。
巨大化したピクドロンと戦うゴッドマジンガーは、光の矢を躱しながらいったい何が通じるのか知恵を巡らせていた。
打撃は効かない、ビームは逆効果、コイツには何が効くんだ……?
「ギガントミサイル!」
通じない。
「ゴッドスパーク!」
電撃────これも奴を太らせるだけ。
「冷凍光線!」
低温────凍結はした、しかしすぐに活動再開したので効果なし。
当然スーパーノヴァも熱エネルギーを吸収されてアウトだろう。
許容量以上のエネルギーを与えて破裂させたデビルマジンガーを思い出すが、それはあくまで最後の手段だ。
「ならコイツはどうだ!? ゴッドハリケーン!!」
口のスリットから噴き出した強酸突風が竜巻となって光波獣を襲う────するとたちどころに効果が現れた。
物理的な皮が剥がれるように光波外皮が剥離し、中からロボット同然の姿をした灰色の正体が現れたではないか。
「化けの皮が剥がれたな! これでどうだ!?」
再び光子力ビーム、今度は焦げ跡程度だがダメージが確認出来た。
「よし! ────さやかさん、宇宙科学研究所に連絡してこのことを知らせるんだ!!」
「わかったわ!」
「それからシロー、お前も出動して研究所へ向かってくれ!」
「いいのかいアニキ?」
「グレンダイザーにもスペイザーにも、風を起こす武器は無いんだ! お前にしか出来ないことなんだよ!!」
「わかったよアニキ!!」
いざというときの備えとして戦闘服を纏って待機していたシローは、すかさずヘルメットを被りジェットパイルダーの元へ急ぐ。
青い戦闘服に黒いヘルメットの兜シローは、長年の訓練で培った淀みない手捌きでパイルダーを操り、兄から受け継いだマジンガーZにパイルダーオンした。
本物のマジンガーZは改造されてゴッドマジンガーに生まれ変わっているので、これは寸分違わぬコピーマジンガーだ。
しかし複製品とはいえ、未来世界で兜甲児と共に戦い抜いた、立派な相棒なのだ。
シローの胸に闘志が燃えた。
子供の頃は、お世辞にも強いとは言えないロボットジュニアでミケーネの強大な戦闘獣と渡り合ってきたのだ。
今更宇宙怪獣が何するものか。
発進したジェットスクランダーと
「さあタネが割れればこっちのもんだ、行くぞデカブツ!」
腕を振り、足を踏み鳴らして攻撃を仕掛けるピクドロンを軽快なステップで躱しつつ、隙を突いた甲児は翼を収納、ゴッドの全体重をかけてタックル。
そこから一気に翼を広げ、その切っ先でピクドロンを串刺しにした。
怒り狂い角から光線を放つが、そんなものがゴッドマジンガーに通じるわけがない。
翼を引き抜き、傷口へギガントミサイルの連射で追い打ちをかける。
「トドメだ! スーパーノヴァ!!」
胸の放熱板から放たれた必殺の白熱光線に全身を隈なく照らされ、ピクドロンは爆音を轟かせて光の中に消え去った。
□□□□
落とし穴から這い出ようともがくピクドロンは、苦し紛れに口から光の矢を吐き散らした。
ダブルスペイザーは難なく躱したものの、ダイザーがうっかり右脚に食らってしまった。
「な、なんだ全然効かないじゃないか……脅かしやがって!」
冷や汗をかいた吾郎は、効果が無いなりに牽制射のダブルブーメランをぶつける。
このまま先生たちがコイツをやっつける方法を見つけてくれるまで、時間を稼いでやる……
そんなことを考えているうちに、ダイザーの右脚ふくらはぎが爆発した。
「うわぁっ!?」
「吾郎!」「吾郎君!!」
「おじさま、グレンダイザーに何かあったんですか!?」
地上でそれを見ていた新一たちが、ダイザーの損傷に悲鳴を上げる。
地下のひかるはレーダー操縦にかかりきりのため、声しか聞くことができない。
脚全体ではなく、ふくらはぎ部分の装甲だけが吹き飛んだのを見て、宇門博士が原因に思い至った。
「……そうか、あの光の矢はグレン合金には通じないんだ」
グレンダイザーは損傷箇所を、地球で製造できない宇宙合金グレンに代わり超合金ニューZで補修している。
デビルマジンガーに破壊されたのは両肩と首、脇腹、ハーケン。
そしてベガ星連合軍との戦いでは、左の上腕と右脚のふくらはぎを破損していたのだ。
「吾郎君、首にだけはあれを食らってはいかん! そこだけは何としても防ぐんだ!!」
首が吹き飛んだら口元の操縦席にいる吾郎も危ない。
「所長、光子力研究所から通信です」
「何だって? ――――奴の弱点と援軍が!?」
「――――畜生!」
ダブルスペイザーの新一は無力な自分に歯噛みした。
武器はどれも通じない、穴を掘って時間稼ぎもできず、逃げまわりながら友が苦戦するのを見ているしかできないのだ。
「あっ! 吾郎危ない!?」
「――――サザンクロスナイフ!!」
右脚の不調で遂に倒れ込んだグレンダイザー。
だがそこへ迫る光の矢を、飛来した十字手裏剣が搔き消した。
十字手裏剣、サザンクロスナイフの爆発と共に、ダイザーとピクドロンの間に割って入ったのは
日本で一番有名な、兜甲児のかつての愛機だ。
「いったい誰が乗ってるんだ……?」
甲児は現在ゴッドマジンガーに乗っているはずだ。吾郎たちは訝しんだ。
「俺は甲児にいちゃんの弟の兜シローってんだ! よろしくな!!」
軽い自己紹介の後、マジンガーZはその力を開放する。
「受けてみろ! ――――マジンパワー! ルストハリケーン!!」
マジンガーの特徴的な口元のスリットから酸を含んだ突風が噴き出すと、竜巻となってピクドロンを飲み込み地上まで巻き上げた。
蓄積した余剰出力のすべてを注ぎ込むマジンパワーを併用しているので、その風速はグレートタイフーンに勝るとも劣らない。
竜巻に飲まれたピクドロン自慢の光波外皮は、今までの苦労が何だったのかというくらいあっさりと剝離した。
「これでビームも通用するはずだぜ!」
キリキリと舞ったピクドロンは無防備な鋼の地肌を晒している。
状況の変化を知り、ドリルスペイザーも地上へ飛び出した――――今こそ反撃の時だ!
「今までのお返しをしてやる! サイクロンビーム!!」
「スパークボンバー!!」
「スペースサンダー!!」
ビームが、火球が、電撃がうっぷんを晴らすかのように襲い掛かり、鋼の巨人を散々に打ちのめした。
全力を振り絞ったマジンガーZは着陸してしばし休息をとっている。
苦し紛れの反撃に光線を放つピクドロンだったが、飛来したダブルカッターが角を斬り落として武器を奪う。
「くそう……図体がデカいだけあってしぶといな」
苦しんでいるので効果が無いわけではないが、いまだ倒れないピクドロンに吾郎の苛立ちが募る。
そこへひかるのアドバイスが飛ぶ。
「吾郎、ドッキングしましょう!」
「わかった姉上! ――――コンビネーションクロース!!」
ここはドリルの貫通力に賭ける! 足の負傷を押して地を蹴ったグレンダイザーは前方を飛ぶドリルスペイザーと見事ドッキングに成功した。
「ようし、俺に合わせてくれ!」
翼を畳んだマジンガーZが両腕を風車のようにグルグルと回転させ始めた。
残像すら見えるほどに高速で回るそれは、回転が最高潮に達した時解放される!
「大車輪ロケットパ――――ンチ!!」
遠心力を乗せ、威力を増した必殺パンチがピクドロンの胸板を穿つ。
「俺たちも行くぞ! グレンダイザーフルパワー!!」
「ドリル! アタァァァァァァァァァァック!!」
「スペースサンダ――――!!」
最大出力を発揮し、断熱圧縮で周囲の空気が赤熱化するほどの超加速で突っ込んだドリルダイザーは、高速回転するドリルでピクドロンの巨体を食い破りながら突き進み、内部へスペースサンダーを叩きこむ。
貫通したグレンダイザーが背中から飛び出した後、一瞬の間をおいてピクドロンは爆発を起こし粉々に砕け散った。
ピクドロン二体とメカギルギルガンが倒された直後、衛星軌道上で蠢く影があった。
戦況を監視し、本国へ連絡を取っていたダムドムの小型円盤である。
「モハヤカチメハナイ……ホンゴクニテッタイヲシンゲンシヨウ……」
地球人はグレンダイザーの再現に成功し、他のロボットも強力になっている。
ダムドム星最強のメカギルギルガンでさえ勝てなかったのだ、最早諦める他ない。
母星への通信を済ませ、帰還しようとしたダムドム円盤は、彼方から輝く何かが急接近するのを見た。
宇宙の王者グレンダイザーである。
「ゲェーッ! ホンモノノグレンダイザー!?」
「むっ? ダムドムの円盤だ、逃がすものか! スピンソーサー!!」
スペイザー主翼の先端に付いている赤い円盤が展開し、鋭い
憐れダムドム円盤は切り裂かれてあっさりと宇宙の藻屑と化した。
「ひかるさんたちが心配だ、急ごう!」
デューク・フリードは、破壊した円盤には目もくれずに日本へと降り立った。
□□□□
シローを伴って研究所に帰還し、休息をとっていた吾郎たちは話の花を咲かせていた。
話題はもちろん甲児の昔話だ。
シローの語る甲児の失敗談に、ひかるもこちらで甲児がやらかした話でお返しする。
だがそうやって笑いの種にしてはいても、根っこでは彼への尊敬と憧れがあった。
吾郎がふと窓の外を見ると、夕焼け空に輝く一番星が徐々に大きくなっている。
いや、位置が違う、あれは一番星じゃない。
『────宇宙科学研究所応答せよ、こちらはデューク・フリード……』
レーダーが捉えるより先に、誰より会いたかった相手からの声が届いた。
ひかるはハッとして、弾かれたように飛び出してゆく。
吾郎と新一も続いて走った。
吾郎のグレンダイザーがちょうど修理中で空いていた格納庫へ、懐かしい姿が滑り込む。
スペイザー天辺の操縦席から軽やかに飛び降りたのは、紛れもなくデューク・フリード、宇門大介だった。
「あ……お帰りなさい、大介さん!!」
「ただいま、ひかるさん……待たせてしまって済まない」
「ううん、いいのよ……」
まっしぐらに彼の胸に飛び込むひかる。
大介はそれを受け入れ、フェイスシールドを上げて素顔を晒し、長年胸に秘めていた気持ちを吐露した。
「ひかるさん、一緒にフリード星へ行こう……僕の妻になってほしい」
「――――喜んで!」
目に光るものが浮かび、二人の距離がゼロになる。
一緒に格納庫へやって来た二人はせめてもの礼儀で後ろを向き、見なかったことにした。
――――落ち着いてから、大介は義弟になった吾郎や、子供の頃に会って以来で手紙のやり取りだけだった新一、そして話を聞きつけて飛んできた甲児に養父の宇門博士らと散々語りあった。
「大介や、ひかるを頼んだぞい」
「任せてくださいおじさん、いやお義父さん……フリード王の名に懸けて絶対にひかるさんを幸せにして見せます!」
娘を嫁に出す牧葉団兵衛と差し向かいで秘蔵のウイスキーを酌み交わし、牧葉家で夜を明かした大介は翌朝、すっかり代変わりしてしまったがわずかに残っていた当時の牧場の動物たちにも挨拶を済ませると、ひかるを連れ立ってグレンダイザーへ乗り込んだ。
「元気でな――――!!」
「お幸せにぃ――――!!」
飛び立つグレンダイザーにかけられた祝福の声が青空に響く中、吾郎は厩舎から一頭の老馬を連れ出した。
「お前も姉上と大介さんを見送りたいよな、サンディー……」
サンディーはかつて大雪の日に外に出た際にはぐれ、地割れに落ちかけたのを吾郎と甲児が救った仔馬だ。
今やすっかりシラカバ牧場の古株となった彼に吾郎は跨ると、飛び立つグレンダイザーを追って草原を駆けた。
「姉上ぇ――――! 大介さぁ――――ん! 元気でねぇ――――!!」
「吾郎ぉ――――!!」
吾郎の叫びとサンディーの嘶きに見送られ、ひかるを乗せたグレンダイザーは空の彼方へ、星の海へと飛び去ってゆく。
吾郎は、大空で太陽にも負けずに輝く愛の星をいつまでも見上げていた。
――――完
やり切った感がすごいですがまだ終わんないんです。