高校日常伝タフ   作:イッチー団長

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エイハブを読んだら自分でも動物ものが書きたくなった……それがボクです
だからって……ったく、クリスマス前になんてもん書いてんだよえーっ!


SMバーだ。ゴリラが目の前にいる

「SMバーだ。ゴリラが目の前にいる」

 突然掛けてきた電話で、鬼龍はそれだけを言い残した。

 

「何を言っているんだ? ……本当に何を言っているんだ?」

 意味不明な言葉に困惑しながら鬼龍の返答を待つ静虎であったが、電話口からは終ぞ鬼龍の言葉が聞こえてくることは無かった。

 

「(鬼龍に何かあったみたいやけど)どないする?」

「まあ(助けに行った方が)ええやろ」

「あんな人でも灘の一族ですしね……」

 そんなこんなで、熹一達三人は鬼龍の居るSMバーへ向かうのだった。

 

 

 

────

 SMバー『モンキー・アンダーグラウンド』(通称:MU)。

 その店は東京のビル街の隅っこ、昼でも日の当たらない場所にひっそりと佇んでいた。重い鉄のドアを開けると、お世辞にも陽気とは言えないジメジメとした空気が漂ってくる。

 

「SMバーって初めて来たんやけど……スケベなこととか出来るんか?」

 熹一は興奮した様子で言った。

「風俗店じゃないので性行為は……せいぜい鞭で叩かれるとかそのくらいじゃないですかね?」

「それで興奮する人間もいるんやから世間は広いでぇ……」

 

 と、そんな世間話をしていると、店員らしき男が熹一達に話しかけてくる。カウボーイハットを被った、特徴的な形の眉毛をした男だった。

「灘神影流ご一行だろ? 待ってたぜ。俺が店を案内してやるよ」

 男は「あは」と気色の悪い笑みを浮かべている。

 “死神調教師”ベンジャミン・マーフィー。

 米軍との5VS5マッチで鬼龍と戦った男であった。

 

 

 

「この店はソフトからハードまでありとあらゆるプレイが充実してるんだ。ほら、あれを見ろよ」

 マーフィーの指差した方には、太く頑強な鉄の檻がそびえ立っていた。その中に、極寒の冷気が流れ込んでいる。見ているだけでも鳥肌の立つような場所だった。

 

「あれがソフトSMプレイ“極寒地獄”だ」

「ソフト!? あれでソフトなんか!?」

「あぁ。丁度楽しんでる客もいるぜ」

 牢獄の中に、常人離れした巨躯を持つ男が拘束されている。熹一達も良く知る人物であった。

「ボリス!?」

 

(この極寒地獄が俺を強くするッ!)

 ボリスはその分厚い身体を縮こませ、身も心も凍えるような冷気に必死に耐えていた。足の指は既に何本か壊死している。

 そのボリスの元へ、ボンテージ(米軍の最新科学で造られた、冷気を遮断する特製品)を着たS嬢がやって来た。

 

「前に来た客はキンタマが重度の凍傷になって切断したよ。玉なしだよ、笑えるだろ?」

「……」

 嬢は“あの男”の写真がプリントされたマグカップを持ちながら、挑発的な態度をとっている。勿論これもまたプレイの一環である。

 

「まあスビテンでも飲めよ。あったまるぜえ」

 看守役の嬢はそう言うと、沸騰したやかんを持ち上げ、ボリスの顔の目の前まで持ってきた。そして……

「ハチミツをたっぷり入れたスビテンは体の芯まで熱くなる」

「はうっ!?」

 猿轡のハメられたボリスの口に、スビテンを直に注ぎ込んだのだった。

 

(私は屈服しない。嬲られればそれだけ私のマゾ心は激しく燃え上がる)

「こんなのボリス以外の誰が耐えられるんやあーっ!!」

 

 

 

────

「あれがソフトって……とんでもない所に来てしもうたんやないか?」

「おいおい、当店の真骨頂はこれからだぜ。これからハードプレイを見学してもらう」

 ◇何が始まる……?

 

 そこはブラジルのスラム街を模した場所であった。古びた木造建築の家が立ち並んでいる。そんな場所で、

「ぐあっ……!」

 熹一達の前に、一人の男が転がり込んできた。長い黒髪を肩まで垂らした、顔立ちの整った男であった。しかし、その清廉な顔付きとは裏腹に、無駄無く引き締まった彫刻のような肉体を有している。

 “拳獣”リカルドであった。

 

「リ、リカルドさんっ! どうしたんですか! ボロボロじゃないですか!」

「ミスター鬼龍を助けに来たのですが……ここのS嬢さんはかなり手強いですね」

「お前程の武術家が苦戦するって……相手はどんな奴なんや……」

「き、来ましたよ! あれがS嬢さんです!」

 

 現れたのは三人組の女達だった。腕には禍々しい入れ墨を彫っていて、どう見ても堅気の人間には見えない。腕に抱えた重火器も、そんな感想を助長させる。

「何でS嬢が完全武装してるんやあーっ!」

 

「あいつがリカルドか……? ぶち殺してやるぜっ!」

「うあああああ! 嬢がためらいもなく銃をぶっ放してる!」

「熹一さん! 龍星さん! 避けて下さい!」

 

 幸い熹一と龍星は銃弾に当たることは無かった。しかしリカルドは……

『4ヵ所被弾。銃弾は皮膚を破り肉を潰し骨を粉砕し内臓を貫通……それでも生きていた』

「何でSMプレイで死にかけるしかないんやあーっ!」

 

「いいんだ……Mにはそれが許される」

「許されるかいっ!」

 

 

 

「この店ヤバ過ぎるで! もう鬼龍なんかどうでもいいから帰るで、親父! ……親父?」

 そこで熹一は気付いた、先程から静虎の姿が見えないことに。

「親父! どこや!?」

 必死になって静虎を探す熹一。そこに、

「うあああああ!」

 静虎の悲鳴がこだました。

「親父っ!!」

 

(アカン! こんな店のことや、とんでもない調教をやらされてるに決まってる! はよ助けな親父が死んでまう!)

 静虎の声がした方へ駆けつける熹一と龍星。そこで静虎は……

「熹一、龍星、助けてくれ~! 高い所は苦手なんや~~~!」

 バンジージャンプをやらされていた。

 

「ほらほら、こういうのが良いんだろう?」

「堪忍して下さ……うあああああ!」

 

「……なんか、親父には偉く優しいな、この店」

「作者が静虎さんのファンだからかも知れませんね」

 

 

 

────

「ったく、鬼龍はどこにいるんだよえーっ!」

「まぁまぁ落ち着けよ。そろそろ鬼龍のいる部屋が見えてくるぜ。ほら」

 マーフィーが指差したのは、これまた鉄の檻だった。しかし、人間用の檻というより、動物園の檻の形状に似ている。

 

「き、熹一……龍星……」

「鬼龍っ!?」

 姿を現したのは“悪魔を超えた悪魔”と呼ばれた男、宮沢鬼龍であった。しかし、今の鬼龍はそんな二つ名が嘘のように、ボロボロの格好で這いつくばっている。

「た、助けてくれ……」

 鬼龍の声は、いつになく弱々しかった。

(あの鬼龍がこんな怯えるなんて……一体何があったんや……?)

 

「あ~ら鬼龍ちゃん、こんな所に居たのね♡」

 現れたのは、どう見ても人間ではなかった。黒い体毛に分厚い肉を有した種族。霊長目ヒト科ゴリラ属、学名Gorilla Gorilla。つまりゴリラであった。

 

「うあああああ! ゴリラがSMバーを練り歩いてる!」

「うあああああ! ゴリラが人語を喋ってる!」

 

「彼女は人間のS嬢、ゴリ子ちゃんだよ。ただちょっと突然変異で毛深くて身長が3m、体重が500kgを超えちゃっただけなんだ」

「それは人間って言わんやろがあーっ!」

 

 

 

「くそ……マーフィーから誘われたSMバーなんかに行ったのが間違いだった……」

「あらあら素直じゃないわね♡ そんなんじゃモテないわよ♡」

「ぐおっ!?」

 ゴリ子に肩を抱かれる鬼龍。しかしそのあまりの力に、

「あっ……一発で脱臼したッ!」

 

 強すぎる……強さの次元が違う。確かにこの女は人間の範疇には収まらない人間……まるでゴリラだ。

「まるでも何もゴリラやないかあーっ!」

 

「あら坊や。あたしはれっきとした女よ。んちゅっ♡」

 ゴリ子のキスに熹一は、

「うげっ」

 今朝食べたものを全て吐き出してしまった。

 

「ふ、ふん……お前なんかを女と認めるわけがないだろう。お前は女というかメスゴリラだ」

「……はいっ、クズ確定! ぶっ殺すわ」

 ◇言葉で火が付く……!!

 

 

 

「な、何かゴリ子ちゃんマジモードやないか……?」

「ま、まずいな……鬼龍の奴、いつもは温厚なゴリ子ちゃんをキレさせやがった。殺されるぞ」

 

「わっ」

 ゴリ子の太く固い手が鬼龍の脚を鷲掴みにし、床に叩きつけた。

「ぐうっ!」

 ゴリ子の強靭な顎力は人間の頭蓋骨などひと噛みで砕く。その腕力は人間の腕など一瞬で引き千切る。

 

「だ、誰か……鬼龍が殺されるぞ!」

「し、仕方ない! 行くで、龍星!」

 二人が鬼龍とゴリ子の間に割って入ろうとしたその瞬間、ある男の蹴りがゴリ子の顔面に直撃した。

 鬼龍と似た雰囲気を持った青年であった。黒い髪を坊主に刈り、額にはバーコードのような模様と十字の傷。抜き身の刀のような危うさと美しさを併せ持った青年だった。

「悪魔王子!」

 

「親を助けるのは子供の役目だからね。おいメスゴリラ、俺が相手をしてや……はうっ!?」

 悪魔王子の言葉は無視し、ゴリ子は彼にストレートパンチをお見舞いした。勿論、悪魔王子はガードしたのだが、左腕は肘の上から、あり得ない方向に曲がってしまっている。

「あっ……一発で折れたッ!」

「何しに来たんやえーっ!」

 

 

 

「と、とにかく鬼龍と悪魔王子を助けなっ!」

「熹一さん……そういうことならボクも手伝います」

「リカルドさん! 傷は大丈夫ですか!?」

「お、応急処置は済ませました……」

 

「わ、ワシも手伝うぞ……うぷっ」

「親父は……大丈夫そうやな」

 

 こうして熹一、龍星、静虎、リカルドはゴリ子に対峙した。

「今のご時世差別的と批判を浴びるかもしれないが……心は女でも身体がゴリラなら私は躊躇なく反撃出来るのです」

「行くでっ、皆!」

 

 

 

────

 ◇灘神影流がまさかの淘汰……!

「つ、強すぎるやろ……」

 霊長類最強生物、ゴリ子と遊んではいけない。

 

 万事休すかと思われたその時、熹一の目に“ある生物”の姿が飛び込んできた。

 ゴリ子と同じ黒い体毛、同じ巨躯を持った生物……ゴリラであった。

(もう一匹のゴリラかい……ゴリ子の仲間か……?)

 

「ウホ(君可愛いね。この後食事でもどう?)」

「ウホッ♡(ウホッ、いい男♡)」

「ウホホ(駅前のカフェで待っててよ。ボクも後で行くからさ)」

「ウホッホ♡(はい♡ 待ってるわ、ダーリン♡)」

 

 会話が終わると、ゴリ子は熹一達を放り出して一目散にカフェへ向かっていくのだった。

「助かった……? 一体このゴリラは何者や?」

 ゴリ子の姿が見えなくなったのを確認すると、オスゴリラの身体からバキバキと音が鳴り始める。体毛が抜け落ち、骨格が変形していく。

「な……なんだあっ!?」

 

 その場の全員が驚愕し見つめる中、姿を現したのは……

「我が名は尊鷹」

「お前だったんか~い!!」

 

 

 

「鬼龍よ、危ない所だったな」

「フンッ、礼は言わんぞ」

「格好付けんなや! お前のせいで全員死ぬところだったんやぞ!」

 

「ところで尊鷹さん、この後どうするつもりですか? 本当にあのメスゴリラとデートするんですか……?」

「あっ……そういえばそうだったな……」

「何も考えてなかったんかい!」

 

 

 

 その頃、駅前のカフェでは、

「おいおい、何でゴリラが街に居るんだよ。映画の撮影かあ?」

「ユーチューブだろ」

 集まってくる野次馬を尻目に、ゴリ子は乙女の表情でコーヒーをすすっていた。

 

「あのイケメンゴリラ……早く来ないかしら♡」

 だが結局、何時間待ってもゴリラ(尊鷹)が現れることは無かった。

 

いかなる苦境にも決して逃げなかったが、デートの約束からは逃げた男。偉大なる長兄、宮沢尊鷹。

 

 その後、怒り狂ったゴリ子が街を破壊し尽くすことになるのだが、それはまた別のお話。




ちなみに最初の設定では、ゴリラは鬼龍の娘って設定だったらしいよ

ここまで読んで頂き、ありがとうございました
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