キー坊は何でモテないんやろなあ……
R国で行われる国威発揚型の総合格闘技大会“ホワイト・ナイト・バトル”。
熹一や龍星も出場する大会だが、その前哨戦が今、行われようとしていた。
その名も“ホワイト・ナンパ・バトル”
「いやー、ついに来たのォR国」
「ですねぇ……それにしても、R国に来て早々、格闘技じゃなくてナンパをすることになるとは……」
ナンパとはつまり男女の交わり。男女の交わりとはつまり子孫の繁栄。
つまり、ナンパが上手い男程、生物として優れていると言えよう。
そんな優れた男を決める大会が、“ホワイト・ナンパ・バトル”である。
「ちょっと無理やり過ぎませんか」
「まぁええやん。R国美女をナンパ出来るんなら」
「随分楽しそうですね、熹一さん……」
────
R国の女性は美女が多いと言われる。その要因は諸説あるが、一番は寒い地域で過ごすことで外出も少なくなり、肌が透き通るように白くなることだろう。
「ワシ、ワクワクしてきたで!」
「ワクワクするのは良いけど、この大会は一筋縄では行かないよ」
熹一達の元へ歩いてきたのは、一人の白人男性だった。
身長は熹一よりも大きく、180cmは超えるだろう。細身のように見えて、鍛え上げられた筋肉がスーツの上からでも見てとれる。
何より、真っ赤に充血した右目が人目を引いている。
「あなたはスタンプ・ハウアー!」
「このナンパ大会の主催者は“あの男”。ということは、この大会にも因果が含まれているだろう」
「八百長ってことですか?」
「そこまでは言わないが、R国の代表は選びすぐりのイケメン軍団。対する我ら西側代表は“冴えないおっさん軍団”。勝負は目に見えているだろう」
「冴えないおっさん……それは誰のことを……」
「……多分熹一さんですね」
「まぁ負けても死ぬことは無いし、気楽に行こう。心強い助っ人も呼んであるしね」
「助っ人……?」
「後で分かるよ」
────
というわけで、戦いの火蓋は切られた。
まずはR国代表の先攻。
「твои глаза - бриллианты(君の瞳はダイヤモンド)」
アイドル顔負けの金髪イケメンが、女性の顎に指を当て、そっと愛の言葉を囁いた。美女はうっとりと頬を染め、彼に身体を寄せる。
「あ……あいつたった5分でR国美女一人攻略しよった!」
「やっぱり強いスね、イケメンは」
そして後攻は西側チーム。先頭バッターはスタンプである。
「頼むで、スタンプ」
「うん? 何が?」
とぼけた様子のスタンプ。その傍らには、いつの間に捕まえてきたのか、金髪の美女の姿があった。スタンプはその美女の頬にキスをし、そっと肩を抱く。
「俺はナンパマスターにして特命捜査官スタンプ・ハウアーだ」
「ナンパマスターってなんやあーっ!」
「でもこれで1対1の同点に持ち込めましたよ」
「ハハハハ! 本当アホですねェ……女はっ! 数分後ラブホで無様に食い物にされるのに」
「ス、スタンプ……お前何言っとるんや……」
「しまっ……つい本音が……!」
しかし、気付いた時には時既に遅しだった。
「立派な紅葉やのォ」
「ハハ……」
ヒリヒリと痛む頬を擦りながら、スタンプは苦笑いをした。
「あかんやんさっきみたいなこと言ったら。変な団体に目ぇ付けられるで」
「今後気を付けるよ」
────
結局初戦はスタンプの大敗に終わり、続く二戦目。R国のイケメンは既にナンパを成功させていた。そして西側は……。
「遂にワシの出番やな」
最強の武術家、宮沢熹一が戦いのリングに上がった。
「そこの綺麗なお姉さん。ワシと茶でもしませんか?」
「извини. тебе не нравится(ごめんなさい。タイプじゃないの)」
そう言って、美女は去っていく。
「龍星、今の人なんて言ってたんや?」
「“お前みたいなブサイクが私にナンパするんじゃねぇ。思い上がるなよチンカス”って言ってました」
「ほ……ホントにそんな酷いこと言ってたのん?」
「Я отказываюсь это делать(そういうのはお断りしてます)」
「“へっ、何がナンパや。童貞の癖に”って言ってます」
「……」
「Пожалуйста, попробуйте еще раз в другой раз(また今度ね)」
「“おとといきやがれ、ウ○コ漏らし野郎”って言ってますよ」
「ふざけんなっ! 絶対お前が脚色してるやないかっ! というかウ○コ漏らしはお前やろがあーっ!」
そうこうしている内に、R国側は三人目のナンパを成功させていた。
「こうなったら俺が何とかするしかないですね……」
猛り立つ龍星。しかし、
「許さんで、龍星!」
それを阻止するのは熹一であった。
『精髄破滅拳』
「あうっ!?」
熹一の拳が龍星の額に入り、龍星は失神。そして……
「ア゛っ!!」
龍星は脱糞した。
「вонь. Пахнет какашками(くっさ~っ。う……ウンコの臭いがするゥ~)」
────
「ど、どうしましょう……誰もナンパ出来てませんよ……」
「お困りのようですね」
三人の前に現れたのは、小柄な日本人男性だった。
細い顔にギョロリと大きな眼球。
語調こそ柔らかいが、見る人が見ればその異様な雰囲気に気が付くだろう。
「お、お前は……」
彼は、熹一も良く知る人物であった。
「んかあっ!」
「朝昇やないか!」
朝昇。本名、朝田昇。1000の技を駆使し3000本の骨を折った男と言われ、TDKでもベスト4に残る活躍をしたグラップラーだ。
熹一とは黒龍寺で修行した時からの縁である。
「久しぶりやないか。何で朝昇がR国におるんや?」
「今回の助っ人を頼まれましてね」
「助っ人? 朝昇、ナンパなんて出来るんかい?」
「ふふ……この日のために血の滲むような修行をしてきましたよ……」
(ナンパの修行ってなんやねん)
────
駅前で見かけた美女をナンパしたところ、手痛くフラれた。
その光景を目撃していた人々は、哀れむような目で私を見ていた。エリートの私を……。
死にたいくらいの屈辱だった。
(欠点は克服しなければならない……完全無欠の人間になるために……)
「ボクは女性を気遣うのとか女性に合わせるのとか嫌いなんです。それでもモテモテになれますか?」
「はい! モテモテになれますよ」
「ボクは背も低いし顔もいまいちなんです。それでもモテモテになれますか?」
「はい! モテモテになれますよ」
朝昇が跪きながら見上げたのは、ナンパ塾“シュート・ナンパリング・アカデミー”の講師、山田マナブであった。
マナブは口の端を目一杯吊り上げ、にこやかな笑みを作っている。
「あなたよりモテモテになれますか?」
マナブの大胸筋がピクピクと動く。
「はい! 一生懸命トレーニングすれば私よりモテモテになれますよ」
「わ……分かりました。入門します」
こうして朝昇は、ナンパ塾の門を潜ることになった。
しかし……
「なめてんじゃねぇぞ! こら!」
マナブの拳が、朝昇の顔面に直撃した。
「顔も身長も社会的地位も無い奴が努力せずにモテモテになりてぇだと? なれるわけねぇだろうが!!」
「あわ……わわ……」
逃げる朝昇に対しても、マナブは追撃を止めようとはしない。
「ナンパってのはなあ、フラれることから始まるんだ!! ボコボコに人格否定されてメシも喰えず一人で便所にも行けず熱にうなされ浣腸を入れるんだ! 心が折れたら溜まったストレスを抜くために鼻の穴に注射器を刺すんだ!」
「一方的に罵られると犯される女の気分になるんだ! もう“どうなってもいい……早くイって!”ってなあ!」
「てめェの非モテさを恨め!」
そうして、マナブの授業という名の暴力は終わりを告げた。
のびた朝昇を放置し、ペットボトルに口を付けるマナブ。そんな彼に、塾生の一人がニヤつきながら話し掛けた。
「マナブさん……やり過ぎじゃないスか? あいつ完全にのびてますよ」
「へっ! これでも手加減したつもりだぜ。こっちはナンパに命賭けてんだ。なめてるヤツは許さねぇ!」
しかし、その背後から、血の滴る音が聞こえてくる。
マナブがゆっくりと振り返ると、そこには……
「も……もう練習はお……終わりですか……?」
────
「というわけなんです」
「どういうわけやあーっ!」
「ナンパ塾で身に付けたナンパ・テクニック……お見せしましょう」
R国の夜は寒い。そのため、仕事を終えたサラリーマンは、道草もせずに自宅へ帰ることが多い。
ある金髪美女が、自宅への帰路に就いていた最中のことである。
「お嬢さん」
女性を引き留める声が消えてきた。しかし、女性が周囲を見回すも、人影の一つも見当たらない。
恐ろしくなった女性は、足早にその場を離れようとした。しかし、
「お待ち下さい。少しだけ話をしませんか?」
「な……何なのよ!!」
やがて、ガタガタと何かが震える音が聞こえてくる。見ると、道端に置いてある小さな箱から、その音が響いていた。
恐怖に青ざめる女性。そして、箱の蓋が開いた。
「んかあっ! プレゼントは私です……なんてね」
(ナンパに必要なのは他に埋もれない個性、サプライズ演出、そしてユーモア。この登場は、それら全てがハイレベルに噛み合った最高のナンパなのです)
これが、東大法学部卒の朝昇が考えた演出であった。
「ぎやあああ! ば、化物ォ!!」
「逃げられとるやないかあーっ!」
「並の女性はそうですよね」
「アホッ! 並の女性に合わせろや!」
結局、ナンパ・バトルは西側の全敗に終わ
「いや待て。もう一人助っ人がいるんだ」
◇誰が来る……?
『つづきまして一目絶惚の魅力を持つ達人。鉄宝流ナンパ塾最高指導者木村大観十段』
しかし次の瞬間、
「あへあへあへあへ」
「これで一人空きができたわけだ」
「鬼龍!」
「やはりナンパと言えば、女性経験に長けた俺しかいないだろう」
「せやなっ! お前は無責任に子供作りまくってるしなっ!」
「ククク……酷い言われようだな。まぁ事実だからしょうがないけど」
さて、長く続いたナンパ・バトルもいよいよクライマックスが近付いてきた。R国イケメン軍に大差を付けられている熹一達。果たして勝つための秘策はあるのか。
「こうなったら……BOSSを狙うしかない」
「BOSS?」
「あぁ。ナンパに成功すれば一気に100ポイントが獲得できるBOSSと呼ばれる人物がいるんだ」
「なんやそれ! ゲームバランス壊れるやんけ!」
「エンタメの悲哀を感じますね」
「でもそんなら最初からBOSSを狙えばよかったんちゃうか?」
「いや、そのBOSSってのがね……その……」
いつも飄々としているスタンプが、この時ばかりは冷たい汗を顔中にびっしりとかいていた。
その様子を見て、鬼龍は何かに察したのだった。
「ま、まさか……」
スタンプはコクリと頷く。
『大統領……?』
化粧に女装、ラブホテルの予約をした。いつでもナンパされる状態にある。“あの男”は本気だ。
「ボケーッ! 大統領ナンパ出来るわけないやろがあーっ!」
「でもやらないと我々の負けだよ?」
「うっ……」
「大統領さん! ワシは心からあんたが好きです! どんなに汚れてたってネタにされてたって神様には変わりはないんです! ワシの気持ちわかって下さい!」
◇果たして熹一の思いは届くか……。
「ファ~眠い」
ナ ン パ 失 敗 。
「ま、なるわな」
そして熹一達は敗北した。
ボケーッ! あんまり大統領絡めるな言うたやろが!
流石にこれ以上はマズいと思ってる それがボクです
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。