というか、今の宮沢一家の家族感が凄く好きだったりします
「桜が咲いてきたな」
ピンクに染まった並木道を、静虎、熹一、龍星の三人が歩いていた。
道端では酒瓶を片手に持った男達がどんちゃん騒ぎをしている。
「花見に丁度いい時期やな」
普段闘いに身を置いている三人だが、この瞬間ばかりはのんびりとした空気に包まれている。その三人に、花見客の一人が近付いてきた。そして……
「「「な……なんだあっ!」」」
男の身体がバキバキと変形し始める。骨格レベルで変形し、姿を現したのは……
「花見なら○○公園がおすすめだぞ」
宮沢兄弟の偉大なる長兄、宮沢尊鷹であった。
(もうちょい普通に登場せぇや……)
「しかし鷹兄はオススメスポットまで知ってるのか」
「大自然と動物達とフォロワーが教えてくれたんだ」
(味方が多すぎる……)
その後、熹一達は鬼龍を誘いに来たのだが……
「花見? お前達らしい俗っぽい趣味だな」
「そうか。せっかく誘いに来たのだが、気が乗らないのなら仕方ないな……」
踵を返す尊鷹。その肩に鬼龍の手が置かれた。
「待てよ。行かないとは一言も言ってないんだぜ」
(面倒臭いおっさんやな……)
「しかしあの公園はかなりの人気らしい。場所取りも必要かも知れんな」
「場所取りかぁ……それならトダーにでもやらせとけばええんちゃう?」
「トダーハパシリジャナイヤンケ。シバクヤンケ」
「鬼龍よ、ガルシアは自ら進んで花見の場所取りをしていたぞ。君も一晩くらい場所取りをしてみせろ、鬼龍ッ!」
「ッ!!」
ゴア博士の言葉によって、ガルシア28号の死に際、そして若干の罪悪感が鬼龍の脳裏に浮かんできた。
「その前にお前を殺してやるよっ! ゴアッ!」
“悪魔を超えた悪魔”鬼龍の岩のような拳が、ゴアの顔面目掛けて飛んでいく。しかしそれが命中する寸前……
「“超音速パンチ”ヤンケ!」
「ごあァッ!」
トダ―による不意打ちが、鬼龍の後頭部に直撃したのだった。
「ひ、卑怯な……」
「卑怯? 君達武道家は“常在戦場”だろう? そんなこと言っちゃダメダメェ」
失神した鬼龍の両脇をトダーが抱え、強制的に立ち上がらせた。
「“極楽地獄部屋(出張版)”へ連行しろ!」
────
夜の青い張に、ピンクの花びらが映える。
いつもは静かな夜の公園に、その日はパラパラと人だかりが出来ていた。
シャッター音がしきりに聞こえる。その中心にいたのは……
「何だよ、花見の場所取りかよ」
「洗濯物だろ」
ボディ・サスペンションされた鬼龍の姿だった。
「見るな……殺すぞ……」
そんな無様な悪魔を見物している人だかりの中に、異様な存在感を放つ青年の姿があった。
黒い髪を坊主に刈り、青い瞳をした青年だった。額から目の辺りに掛けて、十字の傷がある。顔立ちはゾッとする程に整然としている。
その容姿は、どことなく鬼龍を想起させた。恐らく、鬼龍があと20~30歳若ければ、このような美青年だったのではないかと思われる。何より、抜き身の刀のような危うさがある。大統領を前にしても尊大な態度をとれるような傲慢さも感じさせる。
「何が花見だ。花を見ることに託けて飲酒や享楽にふけるなんて、実質は最低の行事だ」
「悪魔王子か……何しに来た……?」
「パパを見に来たんだよ。“悪魔を超えた悪魔”がどんな場所取りをするのかと思ってね……プッ」
「あっ、今お前笑ったな」
「しかし無様だよね、パパ。もういっそそのまま死んだ方がいいんじゃない?」
悪魔王子は口元をニコリと柔らかく吊り上げる。しかし、その青い瞳には軽蔑の意を感じられた。Mっ気のある女であればオマ〇コを濡らしていることだろう。それくらい、悪魔王子の一挙手一投足には人を引き付ける魅力があった。
「貴様……口の聞き方には気を付けろよ。俺を誰だと思ってるんだ」
「トダーに負けて洗濯物みたいになってるクズだよね?」
「……ククク」
鬼龍の口角が上がり、鋭い犬歯がチラリと見える。獰猛な肉食獣のような笑みであった。
「ここまで愚弄されたのは初めてだ! 久しぶりに血が滾り闘りたい衝動に駆られるっ! 駆られるから……取り敢えずコイツから下ろしてくれ……」
(何を言ってる、このバカは?)
と、その時だった。
「……何だか大変なことになってますね」
二人の前に現れたのは、犬を連れた龍星だった。
「龍星、お前何しにきたんだ」
「いや、ちょっとデゴイチの散歩に来たらあんた達を見かけて……」
「それじゃあ、俺はお暇するよ。パパの無様な写真も撮れたしね」
「あっ、お前その写真は消せ!」
「じゃあな、龍星! 次会う時は心臓をくり抜いてやるよっ!」
コートを翻し足早に去っていく悪魔王子。その場に残された龍星は、一応鬼龍を下ろしてやることにしたのだった。
────
「しかし宮沢一家が揃ってお花見をすることになるとは……」
ブルーシートの上に座る面々を見回し、静虎はしみじみと言う。
「ふんっ、相変わらず貧しい弁当だ。キャビアはないのか?」
(昨日あんなことがあったのに、元気だなこの人は……)
一般的に、花見とは酒を盛るものだが、武道家は節制をするのが基本。優希以外の前には、プロテインのミルク割りが置かれている。
「フフ……トダーにはプロテインをシェイクする機能もあるんだ」
「へぇ、便利やん……って、げほっ! ダマになってるやんけ!」
「ヤンケ……」
「しかしどの席も盛り上がっとるなぁ……」
熹一は辺りを見回す。
花見に一発芸は付き物である。トラック解体ショー、手を使わずに金玉を自由に動かす芸、レ○プ等々……。各々が場を沸かせる芸を披露している。
「ワシも何か盛り上がる芸を身に付けたいなぁ」
「ならば私が芸を授けよう」
尊鷹がすくっと立ち上がる。
(い、嫌な予感がする……)
「ひ、久しぶりに鷹兄の芸が見られるのか……」
「お、親父、尊鷹の芸ってそんなに凄いんか?」
いかなる滑りにも決して逃げなかった男、偉大なる長兄、宮沢尊鷹。
今こそ見せよう! 一万人の観客を相手にたった一人で場を沸かせた誇り高き男、尊鷹の一発芸を!
「一万人を沸かせた……!?」
「なぁに、そんな大層なものじゃない。ただの顔芸だ」
そう言うと、尊鷹は自身の顔を拳で何度も殴りつけた。そして数分後……
「これがピカソの“泣く女”だ」
「うぁぁぁ! そ……尊鷹の顔がキュビズムみたいになってる!」
「熹一よ」
「あ……あぁ?」
「お父さんを喜ばせなさい!!!」
「ふざけんなっ! 格闘漫画のパクリやないけっ!」
────
「花見の時期は出店も出るんですね」
龍星、熹一、デゴイチの二人と一匹は、公園を散策していた。
「高タンパクなもんがあったら奢ってやるで。お前はまだまだ身体が出来てないからのぉ」
「ありがとうございます、熹一さん」
(まぁワシも昔は無理くり体重増やしとったんやけどな……)
「おぉっ! キー坊じゃねぇか!」
「ん……? 聞き覚えのある声やな」
出店の主人が熹一に声を掛けてきたようだ。その声の方に視線を向けると、
「おぉ! 革了のオッチャンやんけ! 元気してたか!」
栗須革了。かつて熹一と共にTDKに参戦した、“霊長類最強の雄”と呼ばれた男である。
髪には白いものが混じり、身体も若干緩くなっているが、その肉体の迫力はむしろ増しているようにすら思えた。
「オッチャン、こんなところで何してるんや?」
「副業だよ。最近は格闘技だけじゃ喰えなくなってきたからな」
「切実やな……」
「そっちのボウズはお前の弟子か?」
「まぁ弟分みたいなもんや」
「ども」
熹一に頭を下げさせられる龍星。革了はニカッと笑うと、店の中からとある瓶を取り出してきた。
「キー坊の弟分ならサービスするしかねぇな。こいつは俺が売ってる滋養強壮料理だ。遠慮なく喰いな」
「うっ……! これは……!?」
龍星が面食らったのも無理はない。瓶の中では、小さな何かがうねうねと蠢いていた。鼻がもぎれそうな程強烈な腐臭が立ち込めている。
「あぁ~、あれかぁ」
「おぅっ、肉を腐らせ蛆を湧かせ、特製の味噌に漬けたものだ」
(ちゃんと保健所の許可取ってるのか……?)
「まぁ男らしくバクッと行きなさい、バクッと。骨は拾ってやるで」
「き、熹一さん……他人事だからって」
(しかし、これで強くなれるんなら……)
龍星は思い出していた。自分の心臓の元の持ち主、ガルシア28号に目を抉られた時のことを。あの時程自分の弱さを痛感させられたことはない。
龍星は意を決して蛆を手に取り、そして……
「うあああああ!」
「親父、大変や! 龍星の……龍星の心臓が止まったァ!」
「なにっ!」
その後、静虎と熹一の必死の施術により、何とか事なきを得た龍星であった。
革了のオッチャン、あっさりと猿空間に送られたけど良いキャラですよね
ここまで読んで頂き、ありがとうございました