高校日常伝タフ   作:イッチー団長

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しばらく投稿出来ずに申し訳ないことをしたと恥じている
その苦しみは今も心の奥底で澱のようにたまっている

今回はNEO坊のお話です


NEO宮沢熹一 ─遅れてきた中二病─

 宮沢熹一。TDK準優勝、ハイパー・バトル優勝、並みいる強敵達を打ち倒してきた、正真正銘最強の武道家である。

 そんな彼は今、ガルシアを救うために“闇”に堕ちようとしていた。

「闇堕ち言うてもなぁ……」

 勿論、これは関係者を欺くための演技である。

 しかし熹一は地上最強のモラリスト・静虎に育てられた人間。悪とは無縁の正しき道を歩んできた男だ。

 そんな男が演技とは言え闇に堕ちるには、並々ならぬ努力が必要なのだった。

 

「闇……悪……と言えば“あの男”やな」

 熹一の脳裏にはある男の姿が浮かんできた。それは悪魔を超えた悪魔。かつて自分の父、静虎を廃人にした男。

 その男の名は……鬼龍!

 

 

 

「俺は甥っ子の相談に来た気の良いおじさんじゃねぇよ」

「とか何とか言いつつ来とるやんけ」

「熹一よ、お前が望むのなら、俺はお前に“悪の英才教育”を施してやろう」

「悪の……英才教育!?」

 熹一は全身がゾクリと震えるような感覚を味わっていた。

(不思議やな……悪の道に進んではいけないのに、その言葉を聞くと身体がゾワゾワする……何でや)

 

「先ずは静虎に教えられたことを思い出すんだ」

「? 親父が教えてくれたことは悪とは真逆やで?」

「フン……確かに静虎は偽善者だからな」

「こらぁ! 親父を馬鹿にすなっ!」

「だからこそ意味がある。この世にある道徳や倫理を深く理解し、それを踏みにじることが出来る者だけが“悪”になれるんだ!」

 

 熹一は必死に悪になろうとした。静虎の教えに背反し、鬼龍を模倣していく。

「あー、この髪鬱陶しいのぉ……」

「いいじゃないか。立派な悪人面になってるぞ」

「第一、髪を掴まれたらどうするんや。弱点晒してるようなもんやないかい」

「だからいいんじゃないか。獅子だって立派な鬣を持ってるんだ。強者の余裕って奴だ」

 

「欺瞞や……すべてが欺瞞に満ちている」

 言動や立ち振る舞い、とにかく全てを鬼龍から教わっていく。

 全てはガルシアのため。そう思って良心の呵責に苦しんでいた熹一だったが、今となっては……

「ワシはあらゆる神を冒涜する……」

「おい熹一。何か最近楽しんでないか?」

「そ、そんなわけあるかい! 何で悪になるのが楽しいんや!」

 という言葉とは裏腹に、熹一の胸は高鳴っていた。

 

 完全に清廉潔白な人間などいない。人間とは倫理や道徳を重んじながらも、それを敢えて破壊することに快楽を見出す種族である。

 例えば特撮ヒーローもので悪役が好きになってしまう子供や、不良に憧れる学生など……勿論それは恥ずべき事ではない。誰しも胸の奥にある願望と言えるだろう。

 

「ふむ……今日のニューヨーク株式市場は……」

(とカッコつけて見たけど、全然分からん……)

 そんな熹一の姿を見て、鬼龍は満足したように微笑んだ。そしてその熹一の肩に、自分のジャケットを掛けたのだった。

「おめでとう! お前は立派な“悪”になった。新しい宮沢熹一の誕生だ」

「新しい宮沢熹一の誕生……!?」

(何でオウム返ししたんだ……?)

 

「そうか……新しいワシ……New宮沢……いや、アルティメット……ハイパー……」

 熹一はとにかく自分の知っている格好いい(と本人は思ってる)単語を当てはめていた。ちなみに熹一の得意科目は英語であった。

「あの……熹一……別に二つ名を考えろとは言ってないんだが……」

 

「……NEO! NEO宮沢熹一……!」

 熹一の中で、何かがゾクリと震えた。強敵と対峙したような、あの甘美な感覚にも似ていた。

「ご……合格や……」

 かくして、悪に堕ちた最強の男、“NEO宮沢熹一”が誕生したのだった。

 

 

 

────

「変わった……? 進化したと言うてくれや」

 NEO熹一は静虎と対峙していた。勿論、感動の親子の再会……となるはずはない。静虎は熹一が闇に堕ち、金に目がくらんで鬼龍を殺したのだと思っているのだから。

 

「人間的にはかなり劣化しとるわ。自分の顔を見てみい。立派な悪人面になっとるわ」

「親父、強さの追求に善悪はないんや」

「第一その髪は何や? そんな不良みたいな髪型……ワシは認めんぞ」

「えっ……」

(この髪型、似合ってないんか……?)

 しょんぼりと落ち込む熹一。そこに鬼龍の声が響いてきた。

『熹一、落ち込むな! 静虎は時代錯誤の人間だから長髪に悪い固定観念を持っているんだ!』

 熹一の耳元には小型のマイクが仕込まれている。これにより、熹一は鬼龍からアドバイスを受け取ることが出来るのだ。

『大丈夫! その髪型似合ってるぞ!』

(そうかな……そうよな……)

 

「死刑になっても殺る時は殺る」

 気を取り直して、NEO熹一は言葉を続けた。

「熹一……本気で言うとんのかい」

「ああっ。それが“NEO宮沢熹一”の生き方や」

「えっ……」

 今度は静虎の方が言葉に詰まってしまった。

 

(NEOって何や……熹一はおかしくなってしまったんか……?)

 思わず熹一の顔を凝視してしまうが、当のNEO熹一本人はどこか満足そうな笑みを見せている。

(あっ、そう言えば)

 静虎の脳裏に、子供の頃の記憶が蘇ってきた。

 

(小学生の頃、鬼龍も突然おかしくなった時があったな……)

 思えば、突然難しい哲学書を読み始めたのもその頃。鬼龍がやたらと“悪”について言及し始めたのもその頃。灘神影流の技にアレンジを加え、長ったらしい名前を付けていたのもその頃。そして極めつけは……

『宮沢鬼龍やない……ワシはNEO宮沢鬼龍や』

 

(アカン! このままじゃ熹一が鬼龍になってしまう!)

「熹一ッ!」

 静虎の岩のような拳が熹一の顔面に迫る。コンクリートすら軽々と砕く打撃である。常人であれば顔面骨折は免れないだろう。

 だが熹一は余裕綽々とそれを避け、カウンターパンチを静虎に放つ。

「ぐふっ!」

 一瞬、ライフルか何かで狙撃されたのかと思った。凄まじい威力とスピードを持った一撃であった。

 

「“龍”は息の根を止めてもまた息を吹き返す」

 その意味深な言葉を残し、熹一は静虎に背を向ける。

(決まった……! ワシ、今滅茶苦茶カッコ良いんやないか……?)

 

 去っていくNEO熹一を、呼吸もままならない静虎はただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

────

「ほう、お前タフやのォ……チンカス」

 その後何やかんやあって、NEO熹一は龍星と相対していた。

 

「お……俺はあんたと闘うために……」

「闘う? このワシと? 思い上がるなよチンカス」

 熹一は敢えて汚い言葉を使った。その方が龍星を奮い立たせられるし、何より悪役っぽいと思ったからだ。

 

「お前みたいなチンカス、この“NEO宮沢熹一”にとっては虫ケラみたいなもんや」

 絵に描いたようなドヤ顔で熹一が言った。

「えっ……? 今何て……?」

「いや、だからお前なんか虫ケラみたいなもんやって」

「そこじゃなくて、NEO……何だって?」

「“NEO宮沢熹一”や」

「NEO……宮沢熹一……」

 龍星は何度か復唱すると、

「ブフッ!」

 と吹き出してしまった。

 

「本気でNEOとか言ってるのか? 痛いなぁ……」

「なにっ!」

 龍星は、現時点での強さでは熹一に到底敵わないが、頭脳の方はあの鬼龍の息子。口喧嘩で熹一が太刀打ち出来るはずもなかった。

 

「……」

『き、熹一、落ち着け! 龍星はお前を煽ってるだけだ!』

「あんた良い大人だろ? そういうのはもう卒業した方がいいんじゃないか?」

「……それジョークか!? 面白いことを言うなぁこの蛆虫は!」

 熹一は完全にキレてしまったのだった。

 

「おっ、反応があった。やっぱり痛い所突かれると怒るんだな……はうっ!?」

 煽る龍星に熹一が打ち込んだ掌底打ち。それは鬼龍もよく知る技だった。

(──蠢蟹掌)

『その技はやめろーっ!』

 

「うあああああ! む、蟲が身体の中を練り歩いてる!」

 のたうち回り、脱糞する龍星。そんな龍星を後目に、熹一はその場を後にするのだった。

「こ、殺してやる……NEO宮沢熹一……」

 

 

 

────

 そして時は今。熹一は髪を切り、“NEO宮沢熹一”から普通の熹一に戻っていた。戻っていたのだが……

「うあああああ! は、恥ずかしい思い出がワシの中を練り歩いてる!」

 今日も熹一は枕に顔をうずめるのだった……。




キー坊的にはNEO坊時代のことをどう思ってるのか……気になります

ここまで読んで頂き、ありがとうございました
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