今回はテーマパークでバイトをする龍星達のお話
ここ日本の東京都……ではなく千葉県に、夢のテーマパークが開園された。その名は『東京モンキー・ランド』。漫画家、猿〇哲也氏が多額の資金をつぎ込んで創設した遊園地である。その額……500億。
モンキー・ランドでは、今日も愛とか平和には無縁の野蛮な親子連れが、アトラクションを練り歩いている。
「で、その遊園地でバイトしてくるってか?」
「はい。たまには社会経験も必要かなと思って」
龍星が見つけてきたのは、モンキー・ランドのマスコット・キャラクター、“モンキーくん”の着ぐるみに入るバイトである。
「ちなみに時給は5,000円だそうです」
「なんやと!? ……ワシもやる」
そういうことになった。
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そして午前8時。着ぐるみを着た熹一と龍星は、開園を待っていた。
「モンキー・ランドの門を開けろ! 新たなるお客様の入場だ!」
そのアナウンスと共に、地獄の門は開かれた。人間というより獣に近い輩が、波のように押し寄せてくる。
品行方正とはまるで無縁の危険なオーラを放ちながら続々と入場。金鉱を掘り当てた“ゴールド・ラッシュ”ならぬ、アトラクションに群がる“モンキー・ラッシュ”。
「多勢に無勢だ! いっけぇー!」
「何やこの野蛮な客どもは!」
「モンキーくんだ! モンキーくん!」
熹一は着ぐるみを着て子供達と触れ合っていた。
(流石、モンキーくんは子供に大人気やな)
自然と頬が緩む熹一。こんなほのぼのとした仕事なら、今後も続けてみたいと思った、その矢先である。
「あの……自分ファンなんスよ。握手して貰ってもいいスか?」
一人の子供がニヤリと笑いながら右手を差し出してきた。喜んで手を差し出す熹一だったが……
「なにっ!」
ガシッと手を引き込まれてしまう。そして子供の左拳が熹一の顔面目掛けて飛んできた。
「しゃあっ!」
熹一はそのパンチを弾丸滑りで受け流し、カウンターのパンチを繰り出……そうとしたが、相手が子供だと気付き、慌ててチョークスリーパーで眠らせたのだった。
「何やこの遊園地!?」
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(悪い仕事じゃないが……着ぐるみって結構暑いんだな……)
龍星は一旦日陰に入っていた休んでいた。そこに一人の子供が現れる。
「モンキーくん暑そうだね。皮を全部剥ぎ取って涼しくしてあげようか?」
その手にはナイフが握られていた。
(えぇ……)
龍星は子供を制圧し、ベンチに寝かせておいた。しかし疑念が晴れることはない。この遊園地は何なのか。何の目的で子供が自分を狙ったのか。
頭の中で疑問をぐるぐる回していると、ある男が龍星の背後に立っていることに気付いた。龍星も良く知る男であった。
「龍星くん」
「あなたは……王さん? 中国に帰ったんじゃなかったんですか?」
王剣雲。形意拳の達人で、龍星と“ドラゴン・ラッシュ”で戦った男である。
「こんなメールが届いたんです」
王が見せてきたメールの画面には、異形のマスクを被った筋骨隆々の男が映っていた。
『私はキャプテン・マッスル。このメールを見てるお客様は選ばれし者。“アトラクション一日乗り放題券”を掴むチャンスを与えられた強き者。単刀直入に言おう 園内にいるあるマスコットをぶちのめしてほしい。名はモンキーくん、もちろんめちゃくちゃ強い。さぁ腕に自信のある者は今すぐモンキー・ランドへお越し下さい。モンキーくんを失神KOさせろ! 急げっ! 乗り遅れるな! アトラクション乗り放題券を掴むんだ! "モンキー・ラッシュ"だ!』
「キャンペーン企画だそうです」
「だからモンキーくんの時給が良いんですね……でも5000円じゃ割りに合わないような……」
「私は乗り放題券が欲しい」
「あなたもですか!?」
そうして、龍星と王は戦うこととなったのだった。
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「くっそ~、なんやこの遊園地は! しかも子供が相手だと戦いづらくてしゃーないわ!」
「そうか。ならば私が相手をしてやろう」
「っ!?」
異様な存在感を放つ男が、熹一の前に立ち塞がった。
一目見ただけで分かる。強い……強過ぎる。この男は人間の範疇に収まらない強さを持っている。
“悪魔を超えた悪魔”、宮沢鬼龍であった。
「熹一よ、乗り放題券を私に譲れ。最高の遊園地は最強の人間にこそふさわしい」
「おっさんの癖にふざけんなやあーっ!」
「はぁーっ! どうした、熹一! その程度か!」
鬼龍の岩のような拳が音速で叩きつけられる。その連打に、熹一は徐々に押されていく。
「ちっ……!」
「運営がストイックに時間と労力と金と愛情をかけて築き上げてきたアトラクションが無料で乗り放題になるんだ! これはもうセックス以上の快楽だッ!」
(うるさいおっさんやのぉ……)
その時である。
「ぐぅ……!?」
鬼龍の巨体がぐらついた。蹴りである。恐ろしく速く鋭い蹴りが、鬼龍の顔面に直撃したのだった。その蹴りの主は……
「「なんだあっ!?」」
モンキーくんの前に……モンキーくんが現れたぁ!
「だ、誰やあんた……龍星じゃないよな?」
飛び蹴りから着地した第二のモンキーくんは、ゆっくりと立ち上がった。可愛らしい着ぐるみだというのに、鬼龍にも勝るとも劣らないような威圧感を放っている。
「あの凄まじい蹴り、忘れるわけがない……灘神影流・鷹鎌脚!」
「何やて!?」
鷹鎌脚……それはあの男の得意技であった。宮沢兄弟の偉大なる長兄……
「我が名は尊鷹」
「やはりお前か。何故俺の邪魔をする?」
「モンキーくんになってみたいという衝動に駆られた」
「何やその理由っ!?」
「モンキーくんとなった私は誰とでも闘える……! たとえ血の繋がりがある者でも……!」
「面白い! 今ここで決着を付けてやる!」
(まったく血の気の多い中年どもやで……)
尊鷹と鬼龍が戦っている隙に、熹一はそそくさとその場を後にしたのだった。
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「はぁ……はぁ……やりますね、王さん」
「いえ……完敗ですよ、龍星くん」
王を何とか倒した龍星。その時、中央広場にあるモニターに、筋骨隆々の男が映し出された。
『俺はキャプテン・マッスルだあっ! まだモンキーくんを倒してないなんてお前達には失望したよ。キャンペーン期間はただいまを持ちまして終了しました。ご了承下さい』
その瞬間、園内からは数多くのため息が聞こえてきたのだった。
「な、何だったんですか結局……」
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「龍星君、熹一君、今日はお疲れ様」
バイトの時間が終わり、社員から労いの言葉と共に給料が渡された。
「疲れたってレベルじゃないでホンマ……」
「予め言っておいて欲しかったですね……まぁ良い修行にはなりましたけど……」
「すまないね。お詫びに、園内のコラボ・カフェの賄いでも食べていってよ」
「ええな。何か精のつくもんでも食べようや、龍星」
しかし、
「「うあああああ! う、蛆虫がカフェを練り歩いてる!」」
その後、モンキー・ランドは倫理的衛生的その他諸々の理由で、1ヶ月足らずで閉園することとなったのだった。
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一方その頃、静虎は。
「モンキー・ランドの乗り放題券が貰えるキャンペーンがあると鷹兄から聞いたが……スマホの使い方が分からない……」
猿世界を超えた猿世界
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