今回はキー坊達がギャルゲをやるお話……?
「つ、ついに……」
灘神影流の継承者、宮沢熹一はわなわなと震えていた。その手元には、手のひらサイズの箱が置かれている。ゲームソフトのパッケージのようだ。
そのパッケージには、可愛らしい少女のイラストが描かれていた。『これであなたもモテモテに……!』という謳い文句が添えられて……。
「ついにギャルゲーを買ってしまったで……」
「そのゲーム、中高生に滅茶苦茶人気らしいですよ」
「へぇ、そうなんや……って龍ちゃん!?」
いつの間にか、熹一の後ろから龍星がヌッと顔を出していたのだった。
「しかし熹一さんがギャルゲーって意外ですね」
「いやほら、ワシって自慢じゃないけど滅茶苦茶モテないやん?」
「そうなんですか?」
「ワシは高校時代滅茶苦茶フラれまくったんや……その数、500億」
熹一はコホンと咳ばらいをした。
「で、この恋愛シミュレーションゲーをすれば現実でもモテるって噂やから、藁にも縋る思いで買ってみたんや」
「そうなんですね。その気持ちは分かりません」
「……」
ニコリと笑う龍星とは対照的に、熹一の顔はみるみる険しくなっていく。
「何で共感しないんだよ!」
「だって俺はモテますし!」
「と、とにかく起動や。ワシはこれで女の子の気持ちを勉強するで」
(女性の気持ちってそんな簡単じゃないと思うんだけど……それにこのゲーム作った人も、果たして女性にモテるんだろうか……)
「おっ、主人公の名前が自分で決められるタイプなんや」
『熹一』と入力すると、ゲーム画面には学校のイラストが映し出され、モノローグが表示された。
『俺は熹一。一子相伝の古武術の継承者であり、どこにでもいる普通の男子高校生だ』
「何かどっかで聞いたことのある設定ですね……」
『あっ、熹一君。おはよー』
「この子がメインヒロインですね。あっ、選択肢が出ましたよ」
1.うーっ、やらせろ
2.なめるなっ! メスブタァッ!
3.おはよう
「何やこの野蛮な選択肢はあーっ!」
「待って下さい。何かの引っ掛けかも知れません。ここは2を選択しましょう」
龍星は込み上げる笑いを必死に押し殺していた。
「ちょっと楽しんでるやろ龍星!」
「い、いや……それに、序盤の選択肢ですから即ゲーム・オーバーにはなりませんって」
仕方なしに2を選択する熹一。しかし、
「あっ、主人公がヒロインをぶん殴りましたね。どうやら昨日、このヒロインが不良と致してるのを目撃してしまったみたいです」
『大変だ―! ヒロインが……ヒロインが死んだぁっ!』
GAME OVER
「何やこのクソ展開!? ユーザーをなめてんじゃねーぞこらぁ!」
「まぁまぁ、気を取り直してリロードしましょう」
『さて、授業も終わったことだし、ヒロインを探しに行こうか』
「やっぱり放課後デートは定番ですよね」
『どうやらヒロインは校舎裏に行っているみたいだ』
「何か既に嫌な予感がするんやが……」
ヒロインの居るはずの校舎裏の茂み。そこからガサゴソと草の動く音が聞こえてきた。そして、パンパンと肉と肉のぶつかる音が……。
『お前ら何をやってるんだ?』
『なにって、見ての通りレ○プしてるんやん』
「なんでやー! 何で全年齢向けなのにこんな展開があるんやー!」
『あーあ。見られたらしゃーないな。お前も痛い目にあうで』
1.逃げる
2.レ○プに加わる
3.ハイキックで奇襲
「2の選択肢がクズ過ぎるやろがあーっ!」
熹一はノータイムで3を選択した。しかし、
『いきなりハイキックって軸足刈られたらすぐ転がされるで! やっぱり喧嘩はMMAやで!』
主人公は一瞬で制圧されてしまうのだった。いや、それどころかもっと悲惨な状況が主人公を待ち構えていた。
『俺たちタチ悪いよなぁ。根っからの不良の癖にMMAだけは真面目にやってるからメンタルもフィジカルも鍛えまくってるし……女好きだし……』
『男もいけるしなっ!』
『やめろオオ!!!』
GAME OVER
「……オラーッ! 出てこいや製作者ーッ!」
「ヴへへへ。どうも製作者のゴアです」
「お前やったんかあーっ!」
というわけで、ギャルゲー製作者のゴアに加え、静虎、鬼龍もいつの間にか集結していたのだった。
「しかし灘の当主がギャルゲーとは……立派な心掛けだな」
「嫌味な言い方すなっ!」
「それにしてもゴア博士、このゲームをプレイするとモテるようになるって本当ですか?」
「あぁ、女の心理をこれでもかと研究してきたからな。ちゃんと科学的な根拠もある」
「ホンマか! ホンマにあんなクソ展開で女の気持ちが分かるようになるんか!」
「フンッ、たかがゲームで熱くなるなよ、熹一」
「しゃあけど……」
「どれ、俺がやってみよう。女の気持ちは誰よりも理解しているからな」
一時間後。
『ヒロインよ喜べ、お前は私の子を孕むのだ。“優秀な遺伝子”を残す、これ以上の女の幸福はない』
HAPPY END
「なんでやー! 何で鬼龍はクリア出来るんや!」
「灘神影流マジックよ。ヒロインを攻略する技がいくつかある」
「なんやその技って! ワシは知らんで!」
「というかこのゲーム濡れ場多すぎるやろうがあー!」
「その方がウケると思って……」
(CEROは仕事してるのか……?)
「次はワシがやってみよう」
静虎が、大きく分厚い手でコントローラーを握った。彼の手元にあると、ゲーム機も小さく見えてしまう。
「……」
「どうしたんや、親父?」
「……操作方法を教えてくれ」
思わず赤面する静虎なのだった。
一時間後。
「どうやら順調に攻略しているようだな。お前は弱っている女を堕とすのが上手いからな」
「そんな言い方やめろ」
そんなこんなで進めていくと、物語はヒロインの過去……核心へと迫っていった。
「ヒロインは昔海外で絵の勉強をしてたんですね」
「おぉっ! ヒロインが拉致されて闇のオークションにかけられとる!」
「そして助けに来たのは主人公……じゃなくてポッと出の男キャラ……ううん? どういうことだ?」
「おぉっ! ヒロインと男が良い感じの雰囲気になっとる!」
「あッ……一発でヤリ捨てられた!」
「そしてポッと出の男は子供を認知するのが嫌で逃走……こいつクソですね」
『ヒロインさん、私はあなたを愛しています。あなたのお腹の子も……』
『静虎さん……』
そうして静虎は、お腹の子を目一杯の愛を持って育てようと決心したのだった。
HAPPY END
「う、ウソやろ……! こ、こんなことが……こんなエンドが許されていいのか!」
エンドロールが流れるゲーム機を、静虎はただただ見つめていた。その大きな肩は、ワナワナと小刻みに震えている。それは怒りだろうか、それとも……。
「静虎さん……流石にこんなエンドじゃ納得しないでしょうね」
「……いや、あれは泣いとるんや!」
(美しい物語に感動しております……)
静虎はその強面に一杯の涙と鼻水を流していた。
「確かに感動出来る……だけどこれそんなに良い話かな? いや感動出来るけど……ん? あれ? これただ托卵されただけじゃないか?」
「まぁ親父がええならええやろ」
────
「くっそー! 結局クリア出来てへんのはワシだけか……」
熹一は再びコントローラーを握った。自分は灘の当主。ここで諦めるのは熹一の誇りが許さないのだ。
『わ、私は……レ〇プされた過去があるんだッ!』
「ヒロインに悲しき過去……」
「もうこのくらいじゃ驚かんで! ワシの選択肢はこれや!」
『心が苦しくて悲しくて、暴れたいとか泣きたいとか、そんなん思ったらいつでも俺にぶつけてくれ。この大胸筋で何回でも受け止めてやる。俺めっちゃタフだし』
「カッコいいぜ熹一よ。俺が女なら股を濡らすね」
「もっと普通に褒めんかい!」
何やかんやでゲームはハッピーエンドを迎えた。ホッと肩を撫で下ろす熹一。しかしその時であった。
「ん? 何かヒロインの身体が……」
ゲーム機の中から、バキバキと骨が軋むような音が聞こえてきた。同時に、ヒロインの身体も変形していく。
「こ、こんなシステム作ってないぞ!」
『“S”だ! “S”が正体を現すぞ!』
(ヒロインが“S”?)
最早少女の面影の無いレベルまで変形し、そこに現れたのは……
『我が名は尊鷹』
「「「「うああああ! そ、尊鷹がギャルゲに練り出演してる!」」」」
『ギャルゲヒロインになりたいという衝動に駆られてな』
「どうやって入ったんやあー!」
『それより、大胸筋で受け止めてくれるんだろう、熹一クン♡』
「うげっ」
熹一は吐いた。胃の中のモノを、それはもうありったけ。
「も、もうギャルゲはこりごりや……」
毎回オチ担当にされる鷹兄……
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。